型録通販から始まる、追放令嬢のスローライフ

呑兵衛和尚

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第7章・王位継承と、狙われた魔導書

第282話・フェイールの血筋、フェリシモの血筋

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 ガタンゴトンと馬車に揺られ。
 私たちは交易都市メルカバリーへとやってきました。

 港町サライを出発して、一週間の長閑な旅。
 そして交易都市メルカバリーにてクレアさんの護衛であるカーリー・ファインズさんとラリー・パワードさんと実に3年ぶりの合流。
 涙無くては語れない再会のシーンののち、私たちはシャトレーゼ伯爵と謁見を許されました。
 そこで、私たちがハーバリオスを離れていた3年間の間、なにか変わったことがないか尋ねたところ。
 私たちが行方不明になってから、魔族の国であるバルバロッサ帝国が周辺諸国に対して進軍を開始。
 幸いなことにハーバリオスを始めとした西方諸国への進軍については、激戦区であったメメント大森林のルートが聖域となっているため進軍不可能。
 
 結果として西方諸国は魔族の脅威に晒されることはなかったのですが、東方諸国から戦火を逃れるために多くの人々がハーバリオスにやって来たそうです。
 同時に、西方周辺諸国からはハーバリオスに対して騎士団が派遣され、万が一にも聖域の結界が破壊された時の対処のためにメメント大森林に駐留しているそうです。
 その駐留している各国の騎士団へと送り届けるため、今のメルカバリーには様々な国の大商会が集まっているそうです。

 なるほど、この賑やかさはそういう理由でしたか。

「……ということだ。本来なら、ハーバリオスの商家であったアーレスト商会にもここまで物資を届けてもらう予定であったのだが、アーレスト商会代表であるグラントリ・アーレストは北方地域の各村や町を訪れ、物資を王都へと輸送してもらう仕事を国王から仰せつかったらしくてね。だからこのメルカバリーには滞在していない」
「なるほど。そうですか、お兄様は頑張っているのですね……」

 今現在の国内事情を聴いているうちに、アーレスト家の状況も教えて貰いました。

「ああ。幸いなことに仕事自体は順調らしくてね、この調子で成果を上げていけば、王都に再びアーレスト商会を立ち上げることもやぶさかではないそうだ……と、それで、ここからが本題だが」

――ドキッ
 ここまでの説明から一転して、シャトレーゼ伯爵の表情が硬くなりました。
 うん、これは嫌な予感しかありません。

「フェイール商店に一つ、頼みたいことがある。本来なら、この手の依頼は大商会などを通す必要があるのだが、フェイ―ル商店は以前、私の無理な願いを叶えてくれたという実績があるから……ぜひとも、頼みたい」
「あ、あの、伯爵さま……もったいぶらないで、ズバッと言っていただけると助かります。その方が私としても気が楽になりますので」
「そうか。では、カマンベール王国に向かって貰いたいのだが」
「え、カマンベールって……」

 そう。
 シャトレーゼ伯爵の息子さんの奥様の故郷がカマンベール王国。
 そして、クレアさんを陥れた悪役令嬢の故郷。
 はあ、この依頼は、嫌な予感しかしませんよ。

「ここ最近、メメント大森林を中心としたハーバリオス南東地域が、どうもきな臭くなっている。霊峰周りでハーバリオスを訪れている商人や冒険者曰く、山岳ルートからこのハーバリオスに向けて魔族が侵攻を始めようとしている節があるとか」
「あの、それは辺境騎士団とかの領分では? それと私たちがカマンベール王国に向かう理由が……」
「ガトーの妻である、エリーを覚えているかね?」

 ドキッ。
 ここでその名前が出てくるとは思っていませんでしたよ。
 チラッと横に座っているクレアさんの顔を見てみますと、先ほどまでの穏やかな表情が鉄面皮に変わってしまいました。まあ、エラーさんとクレアさんの確執は、そう簡単には覆せないということなのでしょう。

「はい。ガトーさまの奥方でいらっしゃる方ですね。その方が何か?」
「カマンベール王国のマクガイア家から、ハーバリオスが戦火にまみえる可能性があるということで、一時的に故郷であるカマンベール王国へ戻ってきなさいという手紙が届いてな。さらに彼女の祖父も病で倒れてしまい、もうあまり長くはいないということらしい。それで、エリーがひと月だけでもいいので、カマンベール王国の実家に顔を出したいといってだな。ガトーもそれを承諾したのだが、何分、今の情勢ではカマンベール王国へ向かう交易馬車が少なくてな。流石に国境を越えるので乗合馬車は使えないのと、我が家の所有している馬車も、私が普段使いしているもの以外は出払ってしまっていてね」
「つまり、私にエリー嬢をカマンベール王国まで連れて行ってほしいということですか……」

 これは参りました。
 そもそも、私たちが海を越えた理由の一つが、闇ギルドに狙われていたから。
 その逃走中に魔族の襲撃にあい、海のかなたへと強制転移させられたのですからね。
 闇ギルドの依頼主は、カマンベール王国の侯爵家。以前、クレアさんから説明を聞いた時、私は絶対にカマンベール王国にだけはいかないと心に決めたものです。
 てだすが、ここにきてシャトレーゼ伯爵から、まさかのカマンベール王国行きを頼まれるだなんて予定外ですよ。

「幸いなことに、バルバロッサ帝国とは真逆の方角に向かうことになる。それほど危険なことはないと思うので、どうかね? ついでにメルカバリーで仕入れでもし、向こうの国で商売をするというのもありだとは思うが」
「う~ん。ちょっと待ってください」

 これは困りました。
 ぶっちゃけますと、カマンベール王国には向かいたくはありません。
 その理由をシャトレーゼ伯爵に伝えてよいものかどうか、実に悩ましいのです。
 そう思ってノワールさんをチラリと見ますと、私の気持ちを理解したのか、コクリと頷いてくれました。
 
「シャトレーゼ伯爵、実はですね、私たちがこのハーバリオスを離れて海の向こう、諸島連合まで逃げた理由がですね……とあるカマンベール王国の侯爵家が、私を狙っていたからなのです」
「カマンベール王国の侯爵家が……ふむ、それはちょっと気になる話だな。詳しく聞いていいかな?」
「はい。実はですね……」

 私としても理由についてはあまり詳しくはありません。
 ですので、事情を知っているクレアさんに補則説明をお願いしました。
 すると、シャトレーゼ伯爵も腕を組んで考え込んでしまいます。

「つまり、カマンベール王国の貴族が、フェイールさんの所有している黒真珠とそれに関する情報を狙っていると。しかも、闇ギルドも動かしている……。うん、その説明を聞く限りでは、確かにカマンベール王国に向かうのは危険かもしれない……しかし、それだけの目的で闇ギルドを動かすというのはなかなかあり得ない。他にも何か、別の目的があってフェイールさんを狙っているという可能性も考えられるが……何か心当たりはないかね?」
「こころあたり……ですか……」

 はい。あります。
 それは私の血筋と、【シャーリィの魔導書】。
 以前ノワールさんたちと話していたこと、私がカマンベール王家であるセシール・フェリシモア・ベルーナ家とつながりがある可能性があるということ。
 そして王家に代々伝えられている【精霊女王の魔導書】が、私の持っている【シャーリィの魔導書】であること。
 これらの案件だけでも、私が狙われているという可能性は十分にあります。
 
「ふぅ。その様子だと、心当たりはあるということか」
「え、いや、あのですね」

 やばい、顔に出ていました。
 
「いや、詳しくは語らなくて構わない。しかし、そうなるとフェイールさんにこの件を頼むのは無理だな。いや、事情は理解した、すまなかったね」
「こちらこそ、お役に立てなくて申し訳ありません」
「いやいや、そもそもダメもとで頼む予定であったから、これは仕方がない。しかし、カマンベール王国の侯爵家か……。ちょっと私の方でも、調べてみるとしよう。それで、フェイールさんはこのあとは、何処に向かう予定だったかな?

 この後ですか。
 ここに来た目的は、カーリーさんとラリーさんの二人と合流するため。
 そのあとのことについては、まだ何も考えていませんでしたので。

「いえ、まだこの次の目的については決まっていませんでしたけれど……そうですね、ちょっと調べたいことが出来ましたので、数日中には、この地を離れることになりますので」
「そうか。まあ、それなら仕方がない……それじゃあ、今日は色々とすまなかったね」
「いえ、こちらこそご希望に添えられなくて申し訳ありません」

 挨拶を終えて、伯爵邸を後にします。
 移動はエセリアル馬車、同然エセリアル化しています。

「それで、クリスティナさまは、このあとはどこに向かうのでしょうか?」
「そうですね……一度、おばあ様の元に向かいます。私の血筋のこと、この【シャーリィの魔導書】のこと、それらについて真実を教えていただきたいのです」

 それを知って何か変わるのかというと……そうですね、特に何も変わらないとは思います。
 ただ、私自身、このもやもやとした気持では楽しく旅を出来そうにありませんから。
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