型録通販から始まる、追放令嬢のスローライフ

呑兵衛和尚

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第8章・海洋国家へ向かう道

332話・伝令馬車・フェイ―ル号……じゃありませんからね? 

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 エセリアルモードを発動し、超高速でトラットロードに到着した私たち。

 ええ、馬車の中では絶叫を上げたのち、意識を失ってピクピクしている魔導師の方たちが眠っています。
 それはもう、馬車の外まで響く絶叫でしたよ。
 途中で馬車から逃げようと……もとい、途中下車しようとしていた方もいらっしゃいましたけれど、止まらないと開かないのですよね、その扉。
 そして気絶したり起きたりを繰り返していまして、いい加減うるさくなってきたので柚月さんが『眠りの精霊』を召喚してスヤァと眠らせてあげたのですが。
 つい先ほど意識が戻り、そしてまた気絶しました。

「はっはっはっはっ。肝っ玉が小さいのう」
「紅っちみたいに、心臓が鋼鉄製じゃないから無理だし。それに、そろそろ到着する時間だから、起こさないとまずいし」
「そうですね。では僭越ながら私が……」

 え、どうするのかって?
 それは簡単ですよ。
 過去に購入した商品の取扱説明書、通称・取説をこう、クルクルッと丸めまして、細い方を口に当てて叫ぶだけですわ。

「起きてくださーい」

 そう叫びましたが、まったく起きる反応がありません。
 
「あ~、そんな小さな声じゃ、寝た子も起きないし。クリスっち、あ~しに任せるし」
「はい、それではよろしくお願いします」

 取説を柚月さんに手渡しますと、それをクルクルッと器用に丸めました。
 確か、メガホンっていうのですよね。
 それを口に当てて、スーッと大きく息を吸ったかと思うと。

「かっとばせーーー!ゆ!た!か!」

――ガバッ!
 あ、皆さん起きましたね。
 でも、今の叫び声に出てきたユタカとは、何なのでしょうか。
 そして布団から飛び起きた魔導師の皆さんは、頭を振りつつ窓の外を見始めました。 

「わ、私たちは一体……」
「ああ、もうトラットロードに到着するのですか、いったいどのようにして、こんなに早く到着したというのですか」
「まさか、古代魔術……もしくは、私たちの知らない秘術ですか?」
「そんなのはどうでもいいし。あなたたちは、クリスっちの馬車に乗って、走って来ただけだし」
「「「走って……来た!!」」」

 そう同時に呟いた瞬間、ガクガクと震え始めました。
 ああ、これはあれですよ、勇者語録にある『トラウマ』っていう奴です。
 強烈な恐怖体験をした場合、それが頭の中に焼き付いて離れなくなる奴ですね。
 そしてようやく忘れても、その時の体験がキーワードと同時に蘇るという。
 とりあえず落ち着かせないと、大変なことになりそうです。
 ということで三人の近くに近寄り、パンパンと自分の手を叩いて意識をこっちに向けさせてみました。

――パンパンッ
 すると、私の手の音に意識がそがれたのか、ガクガクと震えていた状態が収まり始めたようです。

「わ、私たちは一体……」
「皆さんはカネック王の命令でトラットロードに向かっただけです。魔族の侵攻から町を守るので、結界を施すのですよね?」
 
 そう話しかけると、一人の魔導師がウンウンと頷き始めました。

「そ、そうですわね。ではさっそく調査をはじめます。そののち、トラットロードを対魔族結界で包み込みますので」 
「そうですね、どうやら魔族に干渉されている人の気配も感じます、これは入り口封鎖ではなく町全体を対魔族結界で包む必要があります」

 隊長の女性がそう告げるや否や、馬車から飛び出していきました。
 そして残った二人も外に飛び出すと、互いの顔を見てから3方向に散っていきました。

「にしし。これで魔族の侵攻も阻止できると思うし」
「あとは、パルフェランの騎士たちに任せればいいのですよね、ようやく自由になりましたわぁ」

 う~んっと体を伸ばして、深呼吸を一回。
 まったく、私はこの街で露店を開いていただけなのに、どうしてこんな事に巻き込まれてしまったのでしょうね。困ったものですよ。

「それじゃあ、一応顛末を商業ギルドのギルマスに説明した方がいいと思うし」
「柚月さんの言う通りですね、では行きましょうか……」

 この報告が終われば、私たちはようやく旅を再開できます。
 そもそもですよ、私たちの力でここを狙っている魔族を同行できる筈はありませんので。
 私は商人であって、勇者ではありませんので!!

………
……


――商業ギルド
 王都から魔導師が派遣されてきたこと、彼女たちがこのトラットロードに結界を施すという説明を行ったところ、商業ギルドに居た商人やギルド関係者の皆さんも安堵の表情を浮かべています。
 ただ、ガメッツィ商会の関係者らしき人は私たちを睨みつけたのち、外に出ていきましたけれど。

「そうでしたか……パルフェランのカネック王が、この街に騎士団を派遣するのですね」
「多分だけれど、ついでに町長さんも帰ってくると思うし。渓谷の復旧はまだかかると思うけれど、東街道を騎士団がやってくるのだから、途中の魔族も討伐してくれると思うし」
「それは良かった……」

 ギルドマスターのローランドさんもほっと一安心の模様です。
 
「それでは、私たちも一休みしたら出発しますので。色々とお世話になりました」
「そうですか。今回の露店の件は、本当に申し訳ありませんでした」
「いえいえ、ルールはルールですから」

 この後はパルフェランに立ち寄って数日体を休めたのち、ガンバナニーワまで向かいましょう。
 そこからチクペン大森林を抜けてロシマカープ王国へ。
 さらに東にあるハマスタ王国へと行かなくてはなりませんから。
 エセリアルモードで駆け抜けるという手段も考えた方がいいかもと思いましたが、今回の渓谷での一件を考えると、いつどこで魔族に出会うか分かりません。
 思わぬところでエセリアルモードの弱点が露見してしまいましたし、あの逃げた魔族が報告している可能性だって否定で来ませんから。

 ということで、今日はおとなしく宿でノンビリと。
 これ以上は何も起きませんよね、ええ、そうに決まっています。
 私と柚月さん、クリムゾンさんは部屋でくつろいでいます。
 ついでなので、【型録通販のシャーリィ】の来月の新商品にでも目を通しておきますか。

――ヴン 
「んんん……クリスっち、どうやら結界が発動みたいだし。そらが薄い虹色の膜につつまれたから、もう外から魔族は来ることができないし」
「ほほう、しかも七色聖光結界ではないか」
「あの、クリムゾンさん、その七色聖光結界というのはなんでしょうか?」

 初めて聞く名前ですから、ちょっと気になります。
 私も、もう少し魔術について勉強した方が良いのかもしれませんね。

「七色聖光結界というのは、対魔族結界の中でも上位にあたるものでな。三人もしくは五人の魔導師により作り出される儀式結界なのじゃよ。魔導師が作れる結界の中でも最上位の術式でな、外部から魔族を寄せ付けないだけでなく、内部に入り込んでいた魔族から力を奪い取る効果もある。パルフェランの魔導師にしか伝えられていない秘儀じゃな」

 ほほう、ほうほう。
 それは凄いですね。

「うん、紅っちのいう通りだし。そして、広場にいたガメッツィ商会の商人たちがバタバタと倒れているし」
「はぁ、人間の悪しき心にも反応するとか?」
「いや、多分だけど、人間に化けていた魔族だし」
「なるほど~って、大丈夫なのですか、それって!!」

 そう問いかけると、柚月さんとクリムゾンさんが二人同時に腕を組んで、頭を傾げていますよ。

「倒れている魔族は大丈夫だと思うが」
「儀式を行った魔導師が狙われる可能性があるし。発動したら別に意識を集中している必要はないと思うけれど、そのあたり紅っちは何か知っている?」
「儀式を施すには、【聖光のオーブ】というものを用いるのじゃが。発動後は結界内ならば持ち歩くことができるが、それを破壊されると結界は再び力を失ってしまう」

 それは大変じゃないですか!!

「それじゃあ、急いで魔導師さんたちを保護しないと」

――バン!!
 私が叫んだ瞬間、部屋の扉が力いっぱい開かれました。
 そして魔導師さんたちが部屋に飛び込んでくると、急いで扉を閉じたじゃないですか。
 しかも、一人の魔導師さんは腕から血を流していますよ。
 そして部屋の外をどたどたと走り回る音が聞こえてきました、つまり何かに追われているということですね。

「クリムゾンさん」
「応っ」

 私の意を組んでくれたクリムゾンさんが、扉の前に立ってがっちりと扉を押さえています。
 つまり、これで外からは飛び込んでくることはありません。

「なにがあったのですか!! どなたか説明してください」
「はい。私たちがこの街を儀式により結界で保護した後の事です。報告のために村長代理である商業ギルドに向かっていた時、突然、数名の冒険者に襲われまして」
「その時に、儀式に使ったオーブが奪われそうになってですね……」

――ダンダンッ!
 そこまで話を聞いた時、扉を力いっぱい叩く音が響きます。

『この部屋だ、もっと人を集めて来い』

 扉に向かって殴るける体当たりをしているような音が響きますが、クリムゾンさんが抑えているのでびくりとも動きませんよ。

「それじゃあ、まずは守りを固めるし……4元素の精霊にとく請願するし……この部屋に結界を施しも、悪しきものから守り給え……聖光結界っ」

――ヴン
 そして魔導師さんたちの話を聞くや否や、柚月さんが素早く印を組み詠唱を行いました。
 部屋全体が結界に包まれたのですが、このままでは私たちも身動きが取れません。

「柚月さん、これからどうしましょうか!!」
「う~ん。この結界は聖光結界なので、あーしはここから動けないし。そして魔導師さんたちを連れて逃げると、街の結界も消えてしまうので、あ~したちはここから動けない。でも、一刻も早く対策しないとならないし」
「い、急ぎ王都に連絡して、騎士団の方を連れてきた方がいいです。東街道からでは時間がかかりすぎますから」

 え~、またですかぁ。
 と言いたいところですけれど、今はそんなことを言って駄々をこねている場合ではありません。

「クリムゾンさん、行きますよ!!」
「カネック王に貸し二つじゃな!! では飛ぶぞ!!」
「え? えぇっときゃぅぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 いきなりクリムゾンさんが私を肩に担ぎ上げて、窓から飛び降りました。
 そして急ぎエセリアル馬車を呼び出すと、私をその中に放り込んで……。

「はいよぉ、シルバぁぁぁぁぁぁぁじゃったか!!」
「そうですけれど、乙女を肩に担がないでくださいよぉ」

 そう叫んでいる最中にも、馬車は走り出します。
 そして馬車を見た冒険者たちが走ってきますけれど、もう遅いです、走り出したら止まりませんよ。
 すぐさまエセリアルモードを発動して、また森の中を抜けるのですね!!
 どんとこいです、怖いものはありません。
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