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頼介

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「あれ?」
人の気配がしたような気がして、目が覚めた。
パタパタと、その場を去る足音が聞こえたのだ。
俺は裸足のまま、急いでベッドを下りて、廊下に顔を出した。
すると、小走りに誰かを追いかける将太の後ろ姿が目に入った。
将太が追いかけているのは…。
「兄ちゃん?」
一瞬でよくわからなかったけれど、多分、そうだ。
2人の後を追って、俺は外に駆け出した。
すると、2人が言い争うように話す声が聞こえた。

「待ってください!なんで、会ってやってくれないんですか!?アイツ、絶対に会いたがっていますよ!」
将太の声。
やっぱり、将太と一緒にいるのは、兄ちゃんだ。
「俺がアイツの実のアニキだからか?」
「そうです!」
「じゃあ、君は自分の実の父親に会いたいと思っていたか?」
「あ…。」
将太は会いたいとは思っていなかったかも。
一緒に生活してきた俺ならわかる。
将太は意外とそういう点はドライで、ただ血が繋がっているというだけの理由で、実の父親に会いたいとは思わないと思う。
反対に恨んでいるとか憎んでいるとか、負の感情もないだろうけれど。

「特別会いたかったわけじゃないだろう?」
兄ちゃんが、確認するように、将太に訊く。
「正直に言えば、そうです。今回、たまたま会う事になりましたが、今だって、まるで実感はなくて。別に恨んでいるって、わけではないんです。ただ、なんか展開が早すぎて飲み込めないっていうか…。」
やっぱりね。
多分、それが本心だろう。
「だろう?アイツだって、それは同じだ。イヤ、アイツは多分、恨んでいると思う。無責任かもしれないが、アイツに会う資格は俺にはない。」
俺はそんな事ないんだけど。
兄ちゃん、将太の事はわかっても、俺の事はわからないんだな。
ちょっと悲しくなってきた。
俺は今すぐにでも、駆け出して、兄ちゃんにしがみつきたい気持ちなんだ。

兄ちゃんはそのまま去って行き、将太が取り残された。
俺は将太に声をかけようとした。

だけど、その途端、急に胸が苦しくなった。
そうだ!
俺、まだ歩いたり走ったりしちゃいけなかったんだ。

目の前が暗転する。
マズイ。
だけど、声すら出せない。
俺はそのまま意識をなくしてしまった。
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