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Prologue
忘れられない-4
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――緊張がほどけないまま美術室を出たとき。
廊下で柏木先輩の元彼女である、三井先輩とすれ違った。
美術室に用があるらしく、片手に小さめの紙袋を持っていた。
「蓮、ちょっと来てもらえる?」
廊下に柏木先輩を呼び出したようで、少しして彼が現れる。
私は慌てて曲り角に隠れて様子を窺った。
聞こえてきたのは、三井先輩の切ない想いだった。
「やっぱり私、離れたくない。蓮のことが好きなの」
涙混じりの声音で、彼に抱きつく三井先輩の姿に息を呑む。
柏木先輩の方は彼女の肩に触れているだけで、抱きしめ返していたわけではないのに。
二人があまりにも親密で、お似合いで。私は知らず肩を落としていた。
(なんだ……。やっぱり二人はまだ想い合っていたんだ)
柏木先輩はあの人のことが一番大切ということ……。
ほんの少しの期待が、あっさりと溶けていく。
二人の親密な姿を見ていたら、微かに存在していた自信が消え失せてしまった。
中学と高校で離れていた空白の一年間、先輩がどうやって高校生活を過ごしていたのかわからない。
私とは違う場所で生活している間、先輩は彼女ができていた。
すごく綺麗な人で優等生で。絵になるほど先輩とお似合いだった。
別れても、またよりを戻すくらいお互いになくてはならない存在なのだろう。
復活したばかりの私の恋心は、叶うことなく呆気なく散っていった。
「結衣? こんな所で何やってんの」
背後から声をかけられ、ビクリと肩を揺らす。
振り返った先には隣のクラスの永野未琴がいて、私の涙を見て怪訝そうに眉をひそめている。
曲り角の向こうを覗いた未琴は「ああ……」と呟き、納得していた。
「柏木先輩、彼女とまだ続いてたんだね」
未琴の登場で先輩達の様子をそれ以上覗き見ることはできず、今日はこのまま部活を休むことにした。
「ね、結衣。そんなに落ち込むくらいならさ、他の男を紹介してあげようか」
自分の教室へ荷物を取りに戻った私は、未琴の励ましに顔を上げる。
「ありがとう。でも、いいよ私は。当分、誰のことも好きになれないと思うから」
後ろ向きな発言にも関わらず、未琴はめげなかった。
「じゃあ、まずは友達として紹介するよ。失恋のときは誰かと遊んで美味しいもの食べて、紛らわせるのが一番じゃない?」
サバサバと言った未琴は机の上に座るとメイクを直し始めた。
背中の真ん中ほどに伸ばした明るいブラウンの髪は、緩く波打っている。私と違って癖毛ではなく、巻いているのだと思う。
「そうかな。いつか、忘れられるのかな……」
こんなことなら、チョコに忍ばせた手紙に本当の気持ちを書けば良かった。
遠回しに『絵が好き』などと伝えずに、玉砕覚悟で『先輩が好き』と書くべきだった。
小心者の私は、先輩と部活が一緒だから、振られて気まずくなるのが怖くて想いを伝えられなかったんだ。
それが後々、後悔することになるなんて。
廊下で柏木先輩の元彼女である、三井先輩とすれ違った。
美術室に用があるらしく、片手に小さめの紙袋を持っていた。
「蓮、ちょっと来てもらえる?」
廊下に柏木先輩を呼び出したようで、少しして彼が現れる。
私は慌てて曲り角に隠れて様子を窺った。
聞こえてきたのは、三井先輩の切ない想いだった。
「やっぱり私、離れたくない。蓮のことが好きなの」
涙混じりの声音で、彼に抱きつく三井先輩の姿に息を呑む。
柏木先輩の方は彼女の肩に触れているだけで、抱きしめ返していたわけではないのに。
二人があまりにも親密で、お似合いで。私は知らず肩を落としていた。
(なんだ……。やっぱり二人はまだ想い合っていたんだ)
柏木先輩はあの人のことが一番大切ということ……。
ほんの少しの期待が、あっさりと溶けていく。
二人の親密な姿を見ていたら、微かに存在していた自信が消え失せてしまった。
中学と高校で離れていた空白の一年間、先輩がどうやって高校生活を過ごしていたのかわからない。
私とは違う場所で生活している間、先輩は彼女ができていた。
すごく綺麗な人で優等生で。絵になるほど先輩とお似合いだった。
別れても、またよりを戻すくらいお互いになくてはならない存在なのだろう。
復活したばかりの私の恋心は、叶うことなく呆気なく散っていった。
「結衣? こんな所で何やってんの」
背後から声をかけられ、ビクリと肩を揺らす。
振り返った先には隣のクラスの永野未琴がいて、私の涙を見て怪訝そうに眉をひそめている。
曲り角の向こうを覗いた未琴は「ああ……」と呟き、納得していた。
「柏木先輩、彼女とまだ続いてたんだね」
未琴の登場で先輩達の様子をそれ以上覗き見ることはできず、今日はこのまま部活を休むことにした。
「ね、結衣。そんなに落ち込むくらいならさ、他の男を紹介してあげようか」
自分の教室へ荷物を取りに戻った私は、未琴の励ましに顔を上げる。
「ありがとう。でも、いいよ私は。当分、誰のことも好きになれないと思うから」
後ろ向きな発言にも関わらず、未琴はめげなかった。
「じゃあ、まずは友達として紹介するよ。失恋のときは誰かと遊んで美味しいもの食べて、紛らわせるのが一番じゃない?」
サバサバと言った未琴は机の上に座るとメイクを直し始めた。
背中の真ん中ほどに伸ばした明るいブラウンの髪は、緩く波打っている。私と違って癖毛ではなく、巻いているのだと思う。
「そうかな。いつか、忘れられるのかな……」
こんなことなら、チョコに忍ばせた手紙に本当の気持ちを書けば良かった。
遠回しに『絵が好き』などと伝えずに、玉砕覚悟で『先輩が好き』と書くべきだった。
小心者の私は、先輩と部活が一緒だから、振られて気まずくなるのが怖くて想いを伝えられなかったんだ。
それが後々、後悔することになるなんて。
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