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第1章
その空に憧れる-2
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思えば今日はホワイトデー。
一ヶ月前に義理チョコを渡した記憶は、何となくある。わざわざ、そのお返しを用意してくれたなんて。
「ありがとうございます。嬉しいです」
そっと受け取った私は笑顔でお礼を伝えた。先輩からもらった物なら、何でも嬉しいと思えてくる。
「――良かった。断られるかと思った」
ホッとしたように先輩が小さく息をつく。
(え……?)
先輩からのプレゼントを断るはずなんてないのに、と私は首を傾げた。
「白坂さん、今日は何を描くの?」
「私は……、今は特に描きたいものがなくて。悩んでいるところです」
「それなら、今度一緒に題材を探しに行こうか」
柏木先輩はおっとりとした口調で提案する。
「題材、ですか?」
「そう。いろんな場所に行けば、刺激を受けて良い絵が描けるかもしれない」
「いいですね、私も探しに行ってみたいです」
「春休みでも良ければ、行ってみようか」
「はい。楽しみにしてます」
頷いた私に向けて、嬉しそうに目を細め甘く微笑むものだから、頬がさらに熱を持つ。
光の加減でセピア色に見える、サラサラとした癖のない髪。ゆっくりと瞬きをする、涼しげな切れ長の瞳。
見つめれば見つめるほど、心音が速まっていく。
(でも、先輩は彼女がいるはずなのに、いいのかな……?)
甘い空気を、そんな小さな疑問が破る。
二人きりで、という意味ではなかったのかもしれない。他にも部員はいるのだし。
「白坂さん……」
私の頬の辺りへ手を伸ばし、先輩が何かを言いかける。
指先が頬へ届きそうになったとき――。
「こんな所でイチャつくなよ」
刺々しい声で美術室に入ってきたのは、凝ったデザインのシルバーフレームの眼鏡をかけ、冷たい目をした千尋先輩だった。
私は慌てて柏木先輩から距離を置く。
けれど柏木先輩は焦った様子は見せず、微笑みながら千尋先輩を振り返った。
「千尋、羨ましいって正直に言っていいんだよ?」
「阿呆か。こっちは彼女と別れたばっかりだっていうのに、見せつけるな」
「また別れたんですか?」
呆れた私は思わず口を挟む。
一ヶ月前に義理チョコを渡した記憶は、何となくある。わざわざ、そのお返しを用意してくれたなんて。
「ありがとうございます。嬉しいです」
そっと受け取った私は笑顔でお礼を伝えた。先輩からもらった物なら、何でも嬉しいと思えてくる。
「――良かった。断られるかと思った」
ホッとしたように先輩が小さく息をつく。
(え……?)
先輩からのプレゼントを断るはずなんてないのに、と私は首を傾げた。
「白坂さん、今日は何を描くの?」
「私は……、今は特に描きたいものがなくて。悩んでいるところです」
「それなら、今度一緒に題材を探しに行こうか」
柏木先輩はおっとりとした口調で提案する。
「題材、ですか?」
「そう。いろんな場所に行けば、刺激を受けて良い絵が描けるかもしれない」
「いいですね、私も探しに行ってみたいです」
「春休みでも良ければ、行ってみようか」
「はい。楽しみにしてます」
頷いた私に向けて、嬉しそうに目を細め甘く微笑むものだから、頬がさらに熱を持つ。
光の加減でセピア色に見える、サラサラとした癖のない髪。ゆっくりと瞬きをする、涼しげな切れ長の瞳。
見つめれば見つめるほど、心音が速まっていく。
(でも、先輩は彼女がいるはずなのに、いいのかな……?)
甘い空気を、そんな小さな疑問が破る。
二人きりで、という意味ではなかったのかもしれない。他にも部員はいるのだし。
「白坂さん……」
私の頬の辺りへ手を伸ばし、先輩が何かを言いかける。
指先が頬へ届きそうになったとき――。
「こんな所でイチャつくなよ」
刺々しい声で美術室に入ってきたのは、凝ったデザインのシルバーフレームの眼鏡をかけ、冷たい目をした千尋先輩だった。
私は慌てて柏木先輩から距離を置く。
けれど柏木先輩は焦った様子は見せず、微笑みながら千尋先輩を振り返った。
「千尋、羨ましいって正直に言っていいんだよ?」
「阿呆か。こっちは彼女と別れたばっかりだっていうのに、見せつけるな」
「また別れたんですか?」
呆れた私は思わず口を挟む。
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