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第1章
その空に憧れる-1
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美術室は校舎の北側にあり、窓からグラウンドを見渡せる位置にあった。
重いドアを開けて中に入っても何の気配もなく、まだ誰も来ていないようだった。
いつもの自分の席へ向かおうとしたとき、窓際に立て掛けられたキャンバスに気がついた。
そこには途中まで描かれた絵があった。
それを見て、すぐに誰の絵なのか私にはわかった。
柏木先輩の、空の絵だ。
水彩で描かれた、淡い水色と薄紫の繊細なグラデーション。
中学のときに美術部に入ってから、柏木先輩の描く絵がずっと好きだった。それは高校に入った今も変わらない。
「――白坂さん?」
優しく背後から呼びかける声にハッと我に返る。
「……あ。柏木先輩」
先輩に声をかけられて、振り向いた私は自然と笑顔になっていた。
「この絵、もうすぐ完成ですか?」
「うん。あと少しかな」
ベージュのブレザーを脱ぎ、椅子の背もたれに掛けた先輩は、絵の具やパレットの準備を始める。
白シャツにオリーブグリーンのニットを重ねたその姿もよく似合っていた。
私は空の絵だけでなく、目の前にいる先輩にも憧れを持っていた。
別に彼女になりたいとか、そこまでの想いではなくて。ただ時々一緒に絵を描き、話ができればという程度。
先輩にはファンの子がたくさんいるけど、私はそこには混ざれない。
気軽に話しかけに行けるその子たちみたいに、自分に自信があるわけではないし。先輩と並んでつり合いの取れるような見た目でもないから。
「最近、一緒にいる人……白坂さんの彼氏?」
思いがけないことを言われ、画材の準備をしていた手が止まる。
先輩の顔をちらりと見れば、いつもは涼しげな瞳が不安そうな色を宿して揺れていた。
「彼氏じゃないですよ、ちょっとした知り合いです」
「そっか……。じゃあ、これを渡しても怒られないかな」
先輩が渡してきたのは、綺麗にラッピングされた箱。
リボンには有名なケーキショップの名前がアルファベットで刻まれている。
重いドアを開けて中に入っても何の気配もなく、まだ誰も来ていないようだった。
いつもの自分の席へ向かおうとしたとき、窓際に立て掛けられたキャンバスに気がついた。
そこには途中まで描かれた絵があった。
それを見て、すぐに誰の絵なのか私にはわかった。
柏木先輩の、空の絵だ。
水彩で描かれた、淡い水色と薄紫の繊細なグラデーション。
中学のときに美術部に入ってから、柏木先輩の描く絵がずっと好きだった。それは高校に入った今も変わらない。
「――白坂さん?」
優しく背後から呼びかける声にハッと我に返る。
「……あ。柏木先輩」
先輩に声をかけられて、振り向いた私は自然と笑顔になっていた。
「この絵、もうすぐ完成ですか?」
「うん。あと少しかな」
ベージュのブレザーを脱ぎ、椅子の背もたれに掛けた先輩は、絵の具やパレットの準備を始める。
白シャツにオリーブグリーンのニットを重ねたその姿もよく似合っていた。
私は空の絵だけでなく、目の前にいる先輩にも憧れを持っていた。
別に彼女になりたいとか、そこまでの想いではなくて。ただ時々一緒に絵を描き、話ができればという程度。
先輩にはファンの子がたくさんいるけど、私はそこには混ざれない。
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リボンには有名なケーキショップの名前がアルファベットで刻まれている。
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