3度目に、君を好きになったとき

なつぎりあお

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第3章

隣の席-side蓮-1

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 電車に揺られながら、自分の隣で無防備に眠る結衣。
 その髪に……、頬に触れたいという気持ちが湧いてしまい、無理やり視線を引き剥がす。
 心を許している証なのだろうけれど、男の隣で眠るのはどうかと思う。

 そのうち、電車の揺れでこちらに倒れてきてしまい、結衣の頭が僕の肩にもたれかかってきた。
 一瞬、頭が真っ白になる。

 花のような甘い香りと、柔らかな感触……。

 ハッと我に返ったとき、斜め前の座席にいる千尋が意味深な笑みを浮かべて、こちらを振り返っていることに気づいた。
 からかわれていると思い、無視を決め込む。
 それでもまだ視線を感じるので、軽く睨んでやると、千尋は笑いをこらえながら前に向き直った。 


 初めて結衣を好きになったのは、中学のときだった。

 放課後の美術室。
 無意識に彼女を目で追っていたら、千尋に指摘され、自分の気持ちに気がついた。


『お前さー。見すぎ。白坂のこと』
『……え?』

 呆れた目つきの千尋にそう言われるまで、それが恋愛感情だとは全く意識していなかった。
 目が合っただけで嬉しいとか。
 彼女が何を好きなのか、とか。
 ほんの些細なことが、いちいち気になっていた。

 二度目は、結衣からバレンタインのプレゼントをもらったときに。
 一度、中学卒業前にした告白を断られてから、彼女への気持ちに蓋をしていた。
 結衣を好きだと思う気持ちを、自分の中から消していたつもりだったのに。
 彼女に笑顔を向けられ、会話をするうちに、そばにいたいと思う気持ちがまた生まれていた。

 そして今日、半日一緒に過ごして、前よりも彼女のことを好きになったと自覚させられた。


 もっと笑顔が見たい。
 もっとそばにいて支えたい。
 自分のことを見てほしい――。

 数えあげれば、キリがない欲望。

 彼女の健気で純粋な目が、赤く染まる頬が。まるで自分のことを慕っている風に見せてくる。
 つい、勘違いをしてしまいそうになるくらい……。

 でも。過去に一度振られているのだからと自分を戒める。これ以上、結衣のことを特別な存在だと想わないように。
 結衣にとって自分は、ただの部活仲間。自分の絵を好きだと言ってくれているだけなのだと……。

 残念ながら結衣は“あのこと”すら忘れているのだから。
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