3度目に、君を好きになったとき

なつぎりあお

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第4章

君の描く青が好き-1

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 2年に進級し、私は未琴や椎名さん、真鳥と同じクラスになった。
 本音を言えば、真鳥とは別のクラスがよかった。
 この前のことがあるから、彼とはなるべく距離を置いていたい。
 私の過去を知る人なんて……。


「おはよー、白坂さん」

 ポンと肩を叩かれ、振り向くと椎名さんが爽やかな笑顔で立っていた。


「椎名さん。おはよう」

 出席番号順なので、席が私の前だ。仲の良い子が近くで良かった。
 椎名さんみたいな人気のある子が、こんな私と仲良くしてくれるなんて……とありがたく思ってしまう。

 真鳥とは席が離れることができたので、ひとまず安心。
 でも真鳥の方が後ろの席だから、見張られている感じがして居心地が悪い。


「結衣、緋彩ひいろ。一緒のクラス、よろしくね」

 私たちの背中に触れた未琴が、笑顔で声をかける。


「うん、よろしくね」
「よろしく、未琴」

 未琴と椎名さんが同じクラスなら、きっと大丈夫だよね。
 真鳥とも仲が良いみたいだし。
 何かあっても、助けてくれるはず。

 そう前向きに考え、私は一時限目の準備を始めた。



 放課後の美術室は、いつもと変わらない日常に戻っていた。

 あのとき手を繋いでくれた蓮先輩が嘘のように、一定の距離が保たれている。
 みんなで遠方の動物園へ行くという非日常のイベントだったから、自然と親しい雰囲気になっていただけで。
 終わってみれば、普段どおりの生活。席は遠いし、目もたまにしか合わない。
 当然、蓮先輩が私に触れてくることも、必要以上に話しかけてくることもなかった。

 動物園の日の先輩は、本当に優しかったな……と机の上にスケッチブックを広げ、絵を描きながら思い出す。
 上着を肩にかけてくれたり。さりげなく私の髪を撫でたり。
 きっと女の子の扱いに慣れているんだろうな、と余計な嫉妬をしてしまう。

 窓際の席に座った私は、廊下側の席でキャンバスに向かい作業をしている蓮先輩を盗み見る。
 真剣に色を塗る、その横顔も好きだった。
 ずっと見ていたいくらいに。


「――お前さ、見すぎだから。あいつのこと」

 突然、背後から話しかけられ、ビクリと肩が揺れる。


「み、見すぎって、誰をですか?」

 慌てて蓮先輩から視線をはがし、声の主である千尋先輩を振り返る。


「お前ら、何なの? あれから全然進展ないよな」

 私の隣に座ってきた千尋先輩は、蓮先輩の方を見ていて、誰のことを指しているのか明白だった。


「進展って……」
「じれったいんだよ。あんな思わせ振りな態度取られて、白坂は何とも思わないのか?」
「……先輩は、誰か他に忘れられない人がいるみたいで。だから、仕方がないんです」
「誰だよ、忘れられない人って」

 千尋先輩は何も聞かされていないようで、訝しげに首をひねる。


「――そんなことより。お前らがあの日、手を繋いで歩いてたのは見間違いじゃないんだよな?」
「え……それ、は……」

 眼鏡の奥の鋭い瞳に見据えられ、目をそらしてしまう。
 動物園で手を引かれて歩いていた所を、千尋先輩に目撃されていたなんて、何だか気まずい。
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