建築学科日誌

パウレタ

文字の大きさ
2 / 9

建築作品のパクリ

しおりを挟む
「おい、パクんじゃねえよ」
ぼくは隣で図面を描いていたトモユキに言った。うしろではホノカさんがぼくらのやりとりを見て笑っている。

 そのときぼくらは半日で設計作品を完成させるという、即日設計課題というものに取り組んでいた。

 お題はとある公園内にある公衆トイレ。ぼくは有機的な植物が生い茂る公園のなかで、ピラミッド型のトイレを設計していた。

「べつにさ、描く人の手が違えば同じかたちでも似てなくみえるよ」
ホノカさんが言った。トモユキがへらへらしながらぼくを見る。ほら、ホノカさんもそうおっしゃってますし、みたいな表情で。

 まあ、ホノカさんの言葉にぼくもどこか納得してしまう部分はあった。どんなに有名な作品をパクったとしても、その人が引いた線でその作品に個性というものがあらわれてくるはずだ。実際に現在第一線で活躍している建築家も、見方によれば古典として有名な巨匠建築家の作品をパクっているような気もする。オマージュといえばゆるされるのだろうか。

 ホノカさんはさらに言った。
「そういえば、ある建築家がこんなことを言っていたわよ。知ってて似せるのはOK。知らないで似てしまっているのは最悪」
う~ん、そうなのか。それでもぼくはできるだけパクりたくない。

 トモユキが追い打ちをかける
「おまえさあ、じゃあさあ、自分のがオリジナルってどう証明すんだよ。三角の建物なんてよお、どこにでもあんじゃねえか。しかもお前の作品だってピラミッドのパクリじゃねえか。けっきょく最初はなんでも真似から入るんだよ。おれが尊敬する藤子不二雄先生が言ってたぜ。けっきょく人が創造するもとは記憶の蓄積でつくられるってさあ。そうじゃねえの?」

 ホノカさんがくすくす笑う。ホノカさんとトモユキが同じ方向を向いているのが気に入らない。

「ホノカさんにかぶせて論破しようとすんじゃねえよ。おまえの言ってることはわかる。でも隣にいる、しかも友人のアイデアをそのままパクるのはちがうだろう」
トモユキはぼくに尊敬の念をこめて真似ているわけではない。ただ、さっさと課題を終わらせたくて身近にパクれるものがないか探していた。そういうことにすぎない。このあいだの学校の設計課題だってそうだ。どっかのプランをそのままもってきて、そこでプランをくみ換えていた。教室が多目的ホールになっていて、多目的ホールが教室になっている。まあ、今の時代ならそういう考え方もありなような気もしたが、トモユキは先生にばれて怒られていた。

「たしかにねえ」
ホノカさんが口をおさえて笑いながらぼくを見た。小さな口をおさえている様子がかわいい。

 とはいいながらホノカさんもよく人の作品をパクる。でもなんだろう、パクるのがうまいのだ。今回も有名建築家の作品のいいとこどりを組み合わせながら提出課題を仕上げていた。トモユキとは全然違う。上手に組み合わせて、かつ自分もそれを理解しているからだろう、だからぱっと見、パクっているような気にさせないのだ。この差はなんだろう。センス?

「んだよ。真面目ちゃん。でもさあ、もうつくりはじめちゃってるからさあ。ああそうだ、じゃあこうするわ」
トモユキはトライアングル型の建物のとなりに、ライオンのかたちをした建物を描きはじめた。
「なんだよ。それ」
「え?ああ、ピラミッドといえば、スフィンクスじゃね?」
あきれたぼくはホノカさんを見た。彼女は口でなくお腹をおさえて笑っていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪意には悪意で

12時のトキノカネ
恋愛
私の不幸はあの女の所為?今まで穏やかだった日常。それを壊す自称ヒロイン女。そしてそのいかれた女に悪役令嬢に指定されたミリ。ありがちな悪役令嬢ものです。 私を悪意を持って貶めようとするならば、私もあなたに同じ悪意を向けましょう。 ぶち切れ気味の公爵令嬢の一幕です。

幸せになれると思っていた

里見知美
恋愛
18歳になったら結婚しよう、と約束をしていたのに。 ある事故から目を覚ますと、誰もが私をいないものとして扱った。

姉の引き立て役の私は

ぴぴみ
恋愛
 アリアには完璧な姉がいる。姉は美人で頭も良くてみんなに好かれてる。 「どうしたら、お姉様のようになれるの?」 「ならなくていいのよ。あなたは、そのままでいいの」  姉は優しい。でもあるとき気づいて─

嫌われたと思って離れたのに

ラム猫
恋愛
 私は、婚約者のカイルに嫌われたと思った。冷たくそっけなく、近づくたびに避けられる日々。  距離を置くことを選び、留学の準備も進めて心を落ち着かせようとするけれど——。

悪役令嬢だったので、身の振り方を考えたい。

しぎ
恋愛
カーティア・メラーニはある日、自分が悪役令嬢であることに気づいた。 断罪イベントまではあと数ヶ月、ヒロインへのざまぁ返しを計画…せずに、カーティアは大好きな読書を楽しみながら、修道院のパンフレットを取り寄せるのだった。悪役令嬢としての日々をカーティアがのんびり過ごしていると、不仲だったはずの婚約者との距離がだんだんおかしくなってきて…。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

将来の嫁ぎ先は確保済みです……が?!

翠月 瑠々奈
恋愛
ある日階段から落ちて、とある物語を思い出した。 侯爵令息と男爵令嬢の秘密の恋…みたいな。 そしてここが、その話を基にした世界に酷似していることに気づく。 私は主人公の婚約者。話の流れからすれば破棄されることになる。 この歳で婚約破棄なんてされたら、名に傷が付く。 それでは次の結婚は望めない。 その前に、同じ前世の記憶がある男性との婚姻話を水面下で進めましょうか。

幼馴染

ざっく
恋愛
私にはすごくよくできた幼馴染がいる。格好良くて優しくて。だけど、彼らはもう一人の幼馴染の女の子に夢中なのだ。私だって、もう彼らの世話をさせられるのはうんざりした。

処理中です...