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第十九話……無能女(自称)の出戻りを期待しているんだが……
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「ママに確認したいことがある」
コミュ、イシス、フォルの指定重要機密スキル保持者の認定と書類作成が終わり、個室から出てきたママに、俺はすぐさま真剣な表情で言葉を投げかけた。
「ディーズは……例のパーティーの所に向かったんだろ? ママがアイツの相談に乗って」
「……その根拠は? 言っておくけど、相談の有無自体、本人の意志なくして他者に伝えてはいけない。ギルド内規程にある通りだ。もちろん知ってるだろ?」
「ディーズは、『誰よりも前へ』に入ってから、常に自信がなかったようだった。それはなぜか。ディーズは、『とある嘘』をついていたから」
「…………」
俺の声を聞いて、コミュ達も部屋の外に出てきたが、俺は部屋に戻るようにジェスチャーした。それは、ママに対してもだ。これは部屋の外で話す内容では決してないから。
俺も含めて全員が部屋に入り、ドアを閉めて立ったまま、俺は話を続けた。
「ビーズは最初、『スキルは特殊系で連携スキル』と言った。しかし、彼女達の……いや、『彼女』の……『ディーズ』のスキルは、『連携』じゃない。彼女のスキルは、おそらく『分身及び変身』だ。ビーズとシーズは、ディーズの分身体だったんだよ。
ただし、変身の練度は、今のフォルほどではない。声を変えられないからだ。その証拠に、シーズは一切喋らなかった。喋ることができなかったんだ。女がいくら低い声を出そうとも限界があるからな。
ビーズのちょっとしたハスキー声は練習したんだろう。しかし、喉に負担がかかるし、ボロが出ても困るので、最低限の時しか声を発しなかった。所々、誤魔化すところはあったが。
その証拠に、あのビーズの印象からして、洞窟の往復でほとんど喋らないなんて考えられないだろ? 俺はほとんどディーズとしか会話してなかったんだぜ? 俺とディーズの会話を邪魔したくなかったにしても、やっぱり限度があるんだよ。
同時に会話できないのも、ディーズの会話中にシーズが文字を書けないのも、一人の人間の処理能力の限界だ。並列処理ができる人間も世の中にはいるだろうが、少なくともディーズにはできなかった。それも自信がない理由の一つだろう。
そもそも、なぜそのような嘘をついたのか。それに関しては、証拠はないが、状況的に考えられるのは一つしかない。
ママ、アンタがディーズにそう指示したんだろ? ディーズが初めてこのギルドに来た時に。そうじゃなければ、彼女の虚偽申告を許すはずがない。ただ、これについては、例外として認められているから、ギルドに責任はない。
ギルド内規程では、『当ギルドへの登録を希望する冒険者が、将来的に指定重要機密スキル保持者に成長すると認められる場合は、当該冒険者の登録時に、所持スキル項目の記載内容において、当該冒険者に通知した上で、類似または関連スキルに置き換えることができる』とあるからな。
つまり、この時点ですでに、指定重要機密スキル保持者にならなければいけないというプレッシャーが、ディーズに与えられたわけだ。しかし、俺も無意識にそこに加担してしまったから、これについてもギルドのせいにする気は毛頭ない。
それに、おそらく発端はディーズから持ちかけた希望を、ママが何とかして叶えた結果だと俺は考えている。
その希望とは、『バクスのパーティーに確実に加入したい。それを叶えるにはどうすればいいか教えてほしい』だ。
俺は、普段から最低でも五人パーティーを理想としていることを周囲には漏らしていたから、そのままディーズを加えれば五人になって問題ないように思える。
しかし、ママは『誰よりも前へ』が崩壊することを事前に察知していたから、そうなると、三人減ることでパーティーランクはFまで落ちる。当然、最初からディーズを三人に分身して加入させたとしても、現在ランクは変わらないので、結局Fまで落ちて意味がない。パーティーメンバー変更届とはそういうものだからな。
そこで、『誰よりも前へ』のランクを変動させないための一番良い方法が、まずパーティーの崩壊を待ち、そのあとにすかさず、ディーズ達三人を加入させることだったんだ。そしてあの日、それを実行に移させた。
ありがとう、ママ。俺達のランクのことを考えてくれて」
「…………。ふふふっ、責められるかと腹をくくってたんだけどね」
「いや、責めるよ。それはそれ、これはこれだ」
「…………」
口角を上げていたママが、俺の言葉にピクリと反応して、真面目な表情に戻った。
「俺はこの前のママの言葉を聞いた時に違和感を覚えたんだ。通常、トリプルAランクの挑戦時に中央政府に届け出るのは一、二週間前でいいはずだ。
しかし、それはすでに行われており、さらに二ヶ月以上前という異例の早さだった。俺達への期待の現れとも言えるかもしれないが、理由はおそらく別にある。その二ヶ月は政府側の準備期間なんだよ。セントラルに攻め込むための『戦争』のな」
「…………。何をいきなり言ってるんだよ。そんなのは、アンタの勝手な想像だろ?」
「ああ、そうだ。だから、まだ勝手に言うぞ。ママは何らかの方法で、例のパーティーの存在を知った。それがスキルによるものか、どこかの情報網なのかは、この際どうでもいい。ソイツらは、この世界で絶大な力を持ち、その力を活かして世直しの旅をしつつ、セントラルに向かっているという。
ソイツらにとって、セントラルはこの世界の闇の根源とも言える場所なのだろう。もしかすると、現在の勇者システムに関係があるかもしれない。いずれにしても、ソイツらがセントラルの体制を終わらせる。
それを察知したママは、政府に報告。政府はこの機に、セントラルに『かつての復讐』という名の侵略戦争を仕掛ける決定をした。セントラルを追われ、この地に流れ着いた祖先の復讐だろう。
そのための準備の一つが、コミュ達がセントラル側に渡った経路だ。実際に問題なく行き来できることを確認もできた。コミュ達にセントラルに行くことを禁止したのは、万が一にも捕らえられて、その経路と動向を探られたら困るから。そうだろ?」
「っ……!」
ママはコミュ達を鋭い目付きで見たが、コミュ達は何も漏らしていないと言わんばかりに、両手を前に出し、首を横に振って否定した。
「俺達をトリプルAにするのは、開戦までに間に合わせ、『自分達にはお前達よりも遥かに強いトリプルAがいるんだぞ』と威圧できる抑止力が得られることに加え、実際の戦力にも使えるからだ。もちろん、俺達がそれに従えば、の話だが。
それと、ママはトリプルAになる前に妊娠を理由に引退したが、それは計画的なものだろうな。あえてトリプルAにならなかったんだ。自分が国に利用されたくなかったから」
「……それでどうするんだい? 手始めに私を殺すかい?」
「……。ママ……アンタ、この期に及んで、俺を舐めてるだろ。ギルド内規程では、情報公開に関する規定で、『当ギルドまたはその上位組織の意思決定により、当ギルドの登録冒険者が影響を受ける場合は、当該意思の機密レベルに応じて、速やかに当該冒険者に公開しなければならない』とあり、『当ギルドの登録冒険者で、当ギルドまたはその上位組織が、我が国において特別国益に資すると認めた場合、当該冒険者に対する機密情報の公開レベルを不問とする。ただし、得られる国益が当該冒険者と無関係である場合は、これを定めるところではない』とある」
「だったらどうだって言う……」
「そんな大事なことを、なんで俺達に黙ってたんだ! 俺はそれを責めてるんだよ!
念のために言っておくが、『当ギルドが行った措置に対して、当該措置の影響を受ける冒険者または当該冒険者が所属するパーティーの責任者から、三ヶ月以内に異議または公開の申し立てがあった場合は、速やかに当該申し立てに対応しなければならない』っていう規定もあるからな」
「…………。ふふふっ、私も焼きが回ったってことだね……。『神託』がなければ、そんな判断もできないってことさ」
ママは、観念したように天井を仰ぎ見た後、俯いて体を震わせた。
「怖かったんだよ……。それを伝えて……バクス達が私に愛想を尽かしていなくなって……セントラルよりも前に『私達の世界』が壊れることが……。いや、単に私の我儘だから、『私の世界』か……。本当に、ただの時間稼ぎだったのさ……」
少しだけ顔を上げたママは、俺達が今まで見たことがない、泣きそうな表情をしていた。前にディーズが言っていたようなセリフとともに……。
内なる性格がディーズと似ていたこともあって、今では外見が全く異なる二人の姿を容易に重ねることができるが、彼女の行動に関しては、神託では詳しく分からなかったのだろう。
だから、途中でディーズがパーティーから抜けることを見抜けたとしても、これまでのランクへの対応が無に帰すことは避けられなかった。
そして、相談を受けたディーズへの対応としては、三人と同じ行動を取らせてみただけだったのかもしれない。
俺からの追求も神託にはなかったはずだ。ママにとっては、先が見えない中で足掻いてはみたものの、それが裏目に出て俺から責められた。まさに、道が閉ざされた思いだろう。
ただ、今回は大丈夫だ。俺はママの本心を見抜き、その先の道も見えている。
「いや、合ってるよ。『ママと俺達の世界』で」
「バクス……」
俺の言葉に、ママが目を大きくしながら、完全に顔を上げた。
「だって、上位の判断を見越して、ちゃんと俺達のことを考えた規定になってるんだから。だから好きなんだよ、『俺達の規程』が。それが基になっている『俺達のギルド』が。それを守っている『俺達のママ』が。もし、神様から言われて作ったのなら、『俺達の神様』もな」
「ううん、そこは言われてない。私が全部考えて、修正を加えてきたから」
「やっぱりそうか。それなら……『俺達のママ』なら、俺が国のただの駒になることも回避させてくれるんじゃないかと思ってるんだが、違うか? それとも、どうしようもないのか?」
「違わない……。本当はもっと早くバクスをトリプルAにして、逃がしたかった。でも、今はどうすればいいか分からない……」
「そうか……」
「ただ……」
「ただ?」
「今ここで、バクスの意志をハッキリさせたい。そうすれば、いずれ神託が下りると思う。『あの時』からずっと、神様はバクスの味方だから……。もちろん、私もバクスの……いや、今更言えないか……」
「言ってくれよ! 言っていいんだ! 俺だってママの味方だ!」
「っ……! ああ……! 私もバクスの味方だよ! これからどんなことがあってもね!」
「それが聞きたかったんだよ。そうすれば、みんな安心できるんだ。みんな、ママの『子ども』なんだから」
「ありがとう……ありがとう、バクス!」
ママは涙を流して俺に抱き付いてきた。感謝を表すように、許しを請うように、我が子を愛するように……。
そして、俺もママを強く抱き締め返した。大切な人とずっと笑顔で一緒にいられるように……。
コミュ、イシス、フォルの指定重要機密スキル保持者の認定と書類作成が終わり、個室から出てきたママに、俺はすぐさま真剣な表情で言葉を投げかけた。
「ディーズは……例のパーティーの所に向かったんだろ? ママがアイツの相談に乗って」
「……その根拠は? 言っておくけど、相談の有無自体、本人の意志なくして他者に伝えてはいけない。ギルド内規程にある通りだ。もちろん知ってるだろ?」
「ディーズは、『誰よりも前へ』に入ってから、常に自信がなかったようだった。それはなぜか。ディーズは、『とある嘘』をついていたから」
「…………」
俺の声を聞いて、コミュ達も部屋の外に出てきたが、俺は部屋に戻るようにジェスチャーした。それは、ママに対してもだ。これは部屋の外で話す内容では決してないから。
俺も含めて全員が部屋に入り、ドアを閉めて立ったまま、俺は話を続けた。
「ビーズは最初、『スキルは特殊系で連携スキル』と言った。しかし、彼女達の……いや、『彼女』の……『ディーズ』のスキルは、『連携』じゃない。彼女のスキルは、おそらく『分身及び変身』だ。ビーズとシーズは、ディーズの分身体だったんだよ。
ただし、変身の練度は、今のフォルほどではない。声を変えられないからだ。その証拠に、シーズは一切喋らなかった。喋ることができなかったんだ。女がいくら低い声を出そうとも限界があるからな。
ビーズのちょっとしたハスキー声は練習したんだろう。しかし、喉に負担がかかるし、ボロが出ても困るので、最低限の時しか声を発しなかった。所々、誤魔化すところはあったが。
その証拠に、あのビーズの印象からして、洞窟の往復でほとんど喋らないなんて考えられないだろ? 俺はほとんどディーズとしか会話してなかったんだぜ? 俺とディーズの会話を邪魔したくなかったにしても、やっぱり限度があるんだよ。
同時に会話できないのも、ディーズの会話中にシーズが文字を書けないのも、一人の人間の処理能力の限界だ。並列処理ができる人間も世の中にはいるだろうが、少なくともディーズにはできなかった。それも自信がない理由の一つだろう。
そもそも、なぜそのような嘘をついたのか。それに関しては、証拠はないが、状況的に考えられるのは一つしかない。
ママ、アンタがディーズにそう指示したんだろ? ディーズが初めてこのギルドに来た時に。そうじゃなければ、彼女の虚偽申告を許すはずがない。ただ、これについては、例外として認められているから、ギルドに責任はない。
ギルド内規程では、『当ギルドへの登録を希望する冒険者が、将来的に指定重要機密スキル保持者に成長すると認められる場合は、当該冒険者の登録時に、所持スキル項目の記載内容において、当該冒険者に通知した上で、類似または関連スキルに置き換えることができる』とあるからな。
つまり、この時点ですでに、指定重要機密スキル保持者にならなければいけないというプレッシャーが、ディーズに与えられたわけだ。しかし、俺も無意識にそこに加担してしまったから、これについてもギルドのせいにする気は毛頭ない。
それに、おそらく発端はディーズから持ちかけた希望を、ママが何とかして叶えた結果だと俺は考えている。
その希望とは、『バクスのパーティーに確実に加入したい。それを叶えるにはどうすればいいか教えてほしい』だ。
俺は、普段から最低でも五人パーティーを理想としていることを周囲には漏らしていたから、そのままディーズを加えれば五人になって問題ないように思える。
しかし、ママは『誰よりも前へ』が崩壊することを事前に察知していたから、そうなると、三人減ることでパーティーランクはFまで落ちる。当然、最初からディーズを三人に分身して加入させたとしても、現在ランクは変わらないので、結局Fまで落ちて意味がない。パーティーメンバー変更届とはそういうものだからな。
そこで、『誰よりも前へ』のランクを変動させないための一番良い方法が、まずパーティーの崩壊を待ち、そのあとにすかさず、ディーズ達三人を加入させることだったんだ。そしてあの日、それを実行に移させた。
ありがとう、ママ。俺達のランクのことを考えてくれて」
「…………。ふふふっ、責められるかと腹をくくってたんだけどね」
「いや、責めるよ。それはそれ、これはこれだ」
「…………」
口角を上げていたママが、俺の言葉にピクリと反応して、真面目な表情に戻った。
「俺はこの前のママの言葉を聞いた時に違和感を覚えたんだ。通常、トリプルAランクの挑戦時に中央政府に届け出るのは一、二週間前でいいはずだ。
しかし、それはすでに行われており、さらに二ヶ月以上前という異例の早さだった。俺達への期待の現れとも言えるかもしれないが、理由はおそらく別にある。その二ヶ月は政府側の準備期間なんだよ。セントラルに攻め込むための『戦争』のな」
「…………。何をいきなり言ってるんだよ。そんなのは、アンタの勝手な想像だろ?」
「ああ、そうだ。だから、まだ勝手に言うぞ。ママは何らかの方法で、例のパーティーの存在を知った。それがスキルによるものか、どこかの情報網なのかは、この際どうでもいい。ソイツらは、この世界で絶大な力を持ち、その力を活かして世直しの旅をしつつ、セントラルに向かっているという。
ソイツらにとって、セントラルはこの世界の闇の根源とも言える場所なのだろう。もしかすると、現在の勇者システムに関係があるかもしれない。いずれにしても、ソイツらがセントラルの体制を終わらせる。
それを察知したママは、政府に報告。政府はこの機に、セントラルに『かつての復讐』という名の侵略戦争を仕掛ける決定をした。セントラルを追われ、この地に流れ着いた祖先の復讐だろう。
そのための準備の一つが、コミュ達がセントラル側に渡った経路だ。実際に問題なく行き来できることを確認もできた。コミュ達にセントラルに行くことを禁止したのは、万が一にも捕らえられて、その経路と動向を探られたら困るから。そうだろ?」
「っ……!」
ママはコミュ達を鋭い目付きで見たが、コミュ達は何も漏らしていないと言わんばかりに、両手を前に出し、首を横に振って否定した。
「俺達をトリプルAにするのは、開戦までに間に合わせ、『自分達にはお前達よりも遥かに強いトリプルAがいるんだぞ』と威圧できる抑止力が得られることに加え、実際の戦力にも使えるからだ。もちろん、俺達がそれに従えば、の話だが。
それと、ママはトリプルAになる前に妊娠を理由に引退したが、それは計画的なものだろうな。あえてトリプルAにならなかったんだ。自分が国に利用されたくなかったから」
「……それでどうするんだい? 手始めに私を殺すかい?」
「……。ママ……アンタ、この期に及んで、俺を舐めてるだろ。ギルド内規程では、情報公開に関する規定で、『当ギルドまたはその上位組織の意思決定により、当ギルドの登録冒険者が影響を受ける場合は、当該意思の機密レベルに応じて、速やかに当該冒険者に公開しなければならない』とあり、『当ギルドの登録冒険者で、当ギルドまたはその上位組織が、我が国において特別国益に資すると認めた場合、当該冒険者に対する機密情報の公開レベルを不問とする。ただし、得られる国益が当該冒険者と無関係である場合は、これを定めるところではない』とある」
「だったらどうだって言う……」
「そんな大事なことを、なんで俺達に黙ってたんだ! 俺はそれを責めてるんだよ!
念のために言っておくが、『当ギルドが行った措置に対して、当該措置の影響を受ける冒険者または当該冒険者が所属するパーティーの責任者から、三ヶ月以内に異議または公開の申し立てがあった場合は、速やかに当該申し立てに対応しなければならない』っていう規定もあるからな」
「…………。ふふふっ、私も焼きが回ったってことだね……。『神託』がなければ、そんな判断もできないってことさ」
ママは、観念したように天井を仰ぎ見た後、俯いて体を震わせた。
「怖かったんだよ……。それを伝えて……バクス達が私に愛想を尽かしていなくなって……セントラルよりも前に『私達の世界』が壊れることが……。いや、単に私の我儘だから、『私の世界』か……。本当に、ただの時間稼ぎだったのさ……」
少しだけ顔を上げたママは、俺達が今まで見たことがない、泣きそうな表情をしていた。前にディーズが言っていたようなセリフとともに……。
内なる性格がディーズと似ていたこともあって、今では外見が全く異なる二人の姿を容易に重ねることができるが、彼女の行動に関しては、神託では詳しく分からなかったのだろう。
だから、途中でディーズがパーティーから抜けることを見抜けたとしても、これまでのランクへの対応が無に帰すことは避けられなかった。
そして、相談を受けたディーズへの対応としては、三人と同じ行動を取らせてみただけだったのかもしれない。
俺からの追求も神託にはなかったはずだ。ママにとっては、先が見えない中で足掻いてはみたものの、それが裏目に出て俺から責められた。まさに、道が閉ざされた思いだろう。
ただ、今回は大丈夫だ。俺はママの本心を見抜き、その先の道も見えている。
「いや、合ってるよ。『ママと俺達の世界』で」
「バクス……」
俺の言葉に、ママが目を大きくしながら、完全に顔を上げた。
「だって、上位の判断を見越して、ちゃんと俺達のことを考えた規定になってるんだから。だから好きなんだよ、『俺達の規程』が。それが基になっている『俺達のギルド』が。それを守っている『俺達のママ』が。もし、神様から言われて作ったのなら、『俺達の神様』もな」
「ううん、そこは言われてない。私が全部考えて、修正を加えてきたから」
「やっぱりそうか。それなら……『俺達のママ』なら、俺が国のただの駒になることも回避させてくれるんじゃないかと思ってるんだが、違うか? それとも、どうしようもないのか?」
「違わない……。本当はもっと早くバクスをトリプルAにして、逃がしたかった。でも、今はどうすればいいか分からない……」
「そうか……」
「ただ……」
「ただ?」
「今ここで、バクスの意志をハッキリさせたい。そうすれば、いずれ神託が下りると思う。『あの時』からずっと、神様はバクスの味方だから……。もちろん、私もバクスの……いや、今更言えないか……」
「言ってくれよ! 言っていいんだ! 俺だってママの味方だ!」
「っ……! ああ……! 私もバクスの味方だよ! これからどんなことがあってもね!」
「それが聞きたかったんだよ。そうすれば、みんな安心できるんだ。みんな、ママの『子ども』なんだから」
「ありがとう……ありがとう、バクス!」
ママは涙を流して俺に抱き付いてきた。感謝を表すように、許しを請うように、我が子を愛するように……。
そして、俺もママを強く抱き締め返した。大切な人とずっと笑顔で一緒にいられるように……。
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※小説家になろうにも掲載しています。
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