夏の城

k.ii

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灰色世界Ⅱ ~夏休みの向こう側~

22.ヨドミ

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 ぼくとカケラは、その町を歩いてみた。
 
 ほとんど、ぼくらの町と変わるところはなかった。工場と、同じ形の家が続くばかり。見あげれば、灰色の空。
 
「ここが、ぼくらの世界の、いちばん外側だっていうのか……」
 
 カケラは、なにも言わなかった。
 
 雲が、ぼくらの住む町より、もっと厚いようにさえ思える。
 
 時間はまだ、昼間だったけど、人のすがたが見えなかった。もう夏休みに入っているだろうから、子どものすがたも見えてもいいはずだ。そう言えば、この町には鉄塔校舎らしき建てものは見あたらない。
 
 町のはずれに近づいてきたのだろうか。家も工場も、まばらになってきた。そして少しひらけたおおきな通りに出て、ぼくははっとした。
 
 通りの、反対側の歩道が、視界から消え入るあたりに、ぼうやりと一つだけ伸びている、あれは……ただの棒じゃない、その先っぽに、おおきくひらいた、あれは……花。花だ。
 
 ぼくがそこへかけだそうとすると、カケラがぼくの肩をつかんだ。
 
「カケラ? 見て、あれ、花だ。あの花がぼくが夢で見た……」
 
「待って。ほら、あちらを」
 
 ぼくが行こうとした通りの向こうから、ざっ、ざっ、と、音が聞こえてきた。すぐ、それはとても大勢の人たちが、こちらへ向かって歩いてきているのだとわかった。
 
「どうしよう、あの人たちになにか……」
 
 いや、なにも聞くことなんて、ない。海はどこにあるのですか? ひまわりのある原っぱはどこに、なんて……ああ、でも。あそこに一本だけ立っている、あれは、そう、ひまわりじゃないの……?
 
 大勢の人たちは、通りにはっきりとすがたを現し、こちらへ向かって歩いてくる。だれも、脇にあるそれに目を向ける者はいない。そのうちに、人々の群れに隠れて見えなくなってしまった。
 
 ざっ、ざっ、と、段々近づいてくる人たちの顔は、皆同じように、下を向き、ほとんど表情がなく、どんよりとして見えた。表情のない人の群れが、通りいっぱいを埋めつくし、次々に押し寄せてくる。
 
 ぼくは、なんだかそらおそろしい気持ちになって、今度はカケラの肩をぼくが叩いた。カケラもうなずいて、ぼくらは通りの隅っこに沿って、もときた道を引き返そうとした。すると……
 
 ぼくらがやってきた方向からも、ざっ、ざっ、という、同じ足音がきこえてくる。こちらも、どうやらすごい数だ。
 
 ぼくらは、人の群れにはさまれてしまった。
 
 人々は、この広い通りに集まってなにを始めるというのだろう?
 
 カケラも、どうすればいいのかわからないといった顔をして、ぼくを見ている。
 
 そのとき。
 
「こっち」
 
 ぼくらのうしろの塀の向こうから、確かに声がした。
 
「こっち。ほら、この塀くらい、越えられるでしょう?」
 
 女の人、いや、ぼくらと変わらないくらいの、女の子くらいの声だ。
 
「イキ。おれにつかまれ」
 
 カケラが、ぼくを肩ぐるまする形になった。ぼくはカケラの肩に乗って、持ち上げられた。なんとか、塀の上に手をかけ、よじ上る。塀の向こうは、工場だ。今度はぼくが、まだ下にいるカケラを引き上げようと手を伸ばすけど、もう少し……届かない。と、ぼくのとなりに、さっきの声の主だろう、やっぱりぼくらと同じ年くらいの女の子が、塀の上にひょいと飛び乗って現れた。黒い服の、短い髪の子。
 
「ほら。わたしが押さえているから」
 
 ぼくは女の子にうながされて、半身を塀から投げ出し、両手を伸ばして、カケラの手をつかんだ。ぼくはそれだけで精一杯になってしまったけど、女の子がぼくの体を引き上げてくれた。すごい、ぼくよりずっと強い力……
 
 カケラが上りきる頃に、通りをやって来た人々がぼくらの前の道をと通っていった。そして、反対側からやってきた人々と、言葉もなく、すれ違うのだった。しばらく行列が続き、それぞれが、やって来たのと反対の方向へと去っていった。
 
 驚いたことに、ぼくがさっきかけて行こうとした通りの向こう側は、そのまま幾らも進むと、もうもうとした煙におおわれているのだった。人々は、ぞろぞろと、その煙のなかへ入っていく。
 
 ぼくらは言葉もなく、その光景を塀の上から眺めていたわけだけど、人の群れは皆ぼんやりと下を向いて歩いて、ぼくらに気づく者は一人もなかった。
 
「あの人たちは……」
 
「星になりにいくのよ。交代で」
 
「星、に? きみは……」
 
「わたし、ヨドミ」
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