魔都★妖刀夜行 ~現代にて最強最悪の陰陽師がVRゲームを創っちゃった!~

神嘗 歪

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魔都★妖刀夜行

Ⅶ プレー

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ーー…空月たちが去った後の琵琶海岸。



 「海ちゃーーん!
    海ちゃーーん!!

        海御前ちゃーーんっ!!」


 夜の暗闇に響く呼び声。
 男とも女とも判断がつかないその声は、浜辺……ではなく、海の上から聞こえた。
 海上から10メートル上空で停止しているように浮いている人物は、口に片手を当て、もう一度叫ぶ。

「実は「十二単より魔法少女のような、ヒラヒラ、ピラピラな洋服が良かったなー」とか思っている、海御z…」
 
     「うわ~~~~ぁッ!!」

 どこからともなく現れた光の粒子が、声の主の前で一つに収束して弾け、中から飛び出したのは、空月に倒されたはずの海御前だった。
 このゲームの敵キャラは、力の強弱関係無く、倒されて一定時間経過でリポップするキャラと、しないキャラがいる。これは、によって変わる。海御前はというと、契約をしているのでリポップできていた。

「それは内緒にしろと、前にも言ったであろう!」

「お勤め、ご苦労様ぁ。ところで今回の二人はどうだった?」

「人の話を聞けッ!」

 真っ赤な顔でガなる海御前。
 でも目の前の人物は、こちらの意見など聞く耳を持ち合わせてはいないらしく、平然としていた。
 その人物の服装は、白のランニングウェア上下に黒のタイツといった出で立ちで、長い黒髪はポニーテールにしている。そして顔には、角と牙が長く伸びた、上顎から上の骸骨の面が張り付いていた。
 海御前は腕組みをして、大きく溜め息をつく。

「は~あ。まったく。………そうじゃのう。始めに一人で向かって来た犬コロ。アレはダメじゃ」

「ん? なんで?」

「感情が強すぎて思考が浅い。戦い方にもムラがある。それにコレが一番の理由じゃが、あやつの職業ジョブは『鍛冶師』であろう?」

 それを聞いたて、骸骨の面に隠れていない口元がニパッと笑った。

「そうっ、その通りなんだよ! 戦闘職よりレアな生産職、それも妖刀が打てる『鍛冶師』は、こちらの陰では、たった一人。 逸材だよねー!」

 嬉しそうに手を叩く骸骨の面。
 この「魔都★妖怪刀夜行」というゲーム、陰と陽で職業選択がまったく異なっている。
 陽の方では、戦闘職も生産職も自由に選び放題だが、陰の方では、システムがプレイヤーの適性を見極めて勝手に決める。一度決まってしまった職業は、リセットマラソンしたとしても変更できない。

「鍛冶師なら尚更、ソロで挑むなど馬鹿の極みじゃ。後方支援に回るか、高いHPと頑丈さを生かして、パーティの中で敵の攻撃を引きつけるタンクに徹するのが定石じゃろう」

 武器を作る鍛冶屋は、陰・陽とも、どの街にもある。素材とお金(ゼン)さえあれば、そこそこの妖刀は手に入る。だが、職業の鍛冶職を極めた者の打つ妖刀は性能が段違いで、このゲームを本気で取り組んでいる者ならば、喉から手が出るほど欲しがる。
 なので陽のほうでは、鍛冶師は生産職のなかで一番人気であり、パーティやクランで新規の鍛冶職を勧誘し、専属鍛冶師として仲間の武器や防具を作らせ腕を磨かせる、青田買いのようなことをするところもあるぐらいだ。

「そうなんだけどねーぇ。ワンちゃんは、強い武器を作るより、自分の手で怪異を倒すことに執着しているからね」

 骸骨の面の口元が、苦笑いを浮かべる。
 骸骨の面の言う通り、白にとって他のプレイヤーなど知ったこっちゃない。あくまでも自分が最強になるために、このゲームに挑んでいる。なので、ゲームを始めて1ヶ月経とうとしているが、白の鍛冶師のステータスは1ミリも変化していない。最たる適性があっても、本人がその気にならなければ宝の持ち腐れというわけだ。
 そして、鍛冶師が己の力だけで強くなるのは無謀と言っていい。
 理由としては、生産職は元々のステータスが高く設定されているものの、戦闘職から比べるとレベルアップは亀の歩みほどに鈍い。
 一番致命的なのが、怪異を倒すための妖刀を装備することができないこと。なので生産職は、戦うことはできても、妖刀から繰り出される必殺技や広範囲攻撃ができない。
 今回の河童討伐のクエストでも分かるように、一撃の威力が強くても決定打が無いと、大量の敵に取り囲まれただけで押し負かされてしまう。
 白がゲームの初歩で足踏みしている理由はこれだ。

「それより、もう一人のほうじゃ」

 そう言った海御前の表情が変わる。

「………アレは?」

「アレって、空月クンのこと? 数日前にこのゲーム始めた新規プレイヤーで、中の人はピチピチの男子高校生だよ?」

 小首を傾げる骸骨の面。

「なッ…数日前に始めたばかりじゃとッ!? 嘘じゃッ、いくらなんでもあり得ぬッ! 」

「いやいや、嘘はついてないよ」

 骸骨の面は、笑いながら片手を胸の前で左右に振る。

「妾を倒したは、トッププレイヤーたちと同格……いや、それ以上ッ」

 そう言った海御前の脳裏に、空月に倒されたときのシーンがフラッシュバックする。
 あの時、白の一声に空月の殺気が一気にこちらに向いた。空月が手にかけていた刀を引き抜いたそのとき、海御前の目の前が薄紅色に染まり…。
 

           ゾワッッ…


 身震いするほどの死の感覚。
 今まで多くのプレイヤーと戦い、ある程度の基準に達したと判断したところで
 でもあれは………海御前が、本気で戦っていたとしても負けていただろう。
 あれこそ本当の死の恐怖だった。
 青ざめる海御前を見て、満足げに口角を上げる骸骨の面。

「…何じゃその笑みはッ」

 ムくれる海御前。

「あはっ。ゴメン、コメン。順調に事が進んでいて何よりだと思ってね」

「そうじゃろうのう! このゲームは、お前が考案した『リアル陰陽師育成ゲーム』じゃからのう。良き人材が増えて喜ばしことだ!」

 更にムくれる海御前。

「正確には、陰陽師限定ではなく、『怪異を倒せる人間の育成』だけどねっ♪」

 そう、明星の代わりに怪異を倒せるなら、陰陽師だろうと武士だろうと………中身が一般の高校生でもかまわない。これこそ明星が、あの会議室で思いついた案だ。
 この育成ゲームの仕組みを、順を追って説明しよう。
 まず始めに、赤城 菖蒲に幅広い年齢層が楽しめるスマホアプリ『ソウルウォーク★幻顕現島』を作らせ、それを人気が出るように広めた。
 意図としては、怪異の情報を集めるためと、現代人に怪異という存在をもっと強く認識させるためだ。
 怪異は基本、掴みどころの無いとても儚いものだ。人に恐れや畏れとして語られなければ、存在すら危うい。なので怪異は、人の認識によってハッキリした輪郭を得ることができる。
 それなら何故、怪異が有利になりそうな認識させるのか?
 それは「怪異はゲームの敵キャラ」、「自分たちでもゲーム内なら倒すことができる」という認識も植え付けるためだ。
 怪異はこう言った人の認識にも大きく影響される。ゲームキャラクターという認識が定着すれば、リアルで被害を出している怪異でもゲームという結界内に取り込むことができ、敵として倒すことができる。
 ここにいる海御前がいい例だ。
 海御前は、リアルで河童たちを使い水害を起こしていた。
 人を海に引きずり込んで溺れさせたり、護岸工事の現場を高波で重機ごと駄目にしたり。死者までは出なかったものの、その規模は大きく、被害にあった地域では海御前の呪いとして噂が広まっていた。
 『ソウルウォーク★幻顕現島』内でもその噂が多く上げられ、それがきっかけとなって、このゲームの敵キャラとして実装されゲームという結界に取り込まれることとなる。
 取り込まれた怪異には写し身として、現代人にウけるような奇抜なキャラクターデザインを用いる。海御前のスクール水着もそれで、人に注目されればされるほど、それがその怪異の姿だと認識されるからだ。
 そして次に、その怪異との戦う場として、菖蒲にVRゲーム『魔都★妖刀夜行』を作らせ発売した。そこで用いる新型VRゴーグル【Hypnos(ヒュプノス)】には、人の潜在能力を計測し、怪異を倒せるだけの能力の持ち主を選定することができる。
 これで人材不足も解決というわけだ。
 一応言っておくが、人権と人命はしっかり守っているつもりだ。
 ゲーム内を陰と陽に分け、一般人には陽で普通のゲームとして遊んでもらい、能力がある者たちには、これは怪異と戦う人材を育成するためのモノだと理解してもらった上で参加有無を本人に委ねている。
 拒否した者は、関係している情報を記憶から消去し、一切の干渉はしない。
 快諾した者は、怪異との戦いでリアルで怪我や、ましてや本当に死ぬことは絶対に無い「陰」という特設コロッセオで戦ってもらう。
 そのゲーム内では、ずぶの素人でも怪異を倒せるように、武器も術もゲームシステムがアシストしてくれる。なので、リアルで時間と労力をかけた血が滲むような特別な修行もしなくてもいい。
 といった感じで、ここまで完璧な環境はそうはないだろう。
 骸骨の面は、満足げにほくそ笑む。

「上手くいっているのは良いが、忘れおらんじゃろうのう?」

 海御前がジロリと骸骨の面を見た。

「何を?」

「何をではないッ。妾との契約じゃッ」

 「契約」という言葉に、微かだがピクリッと反応する骸骨の面。

「ああっ、忘れてはいないよっ。プレイヤーの育成を手伝ってくれる代わりに、私が死んだらこのゲームから解き放ち自由にすると」

「もう一つあろう」

 海御前の眼光が鋭くなる。

「私の亡骸の一部を譲渡する……だったよね」

 怪異にとって霊力の強い人間は、何にも代えがたいご馳走だ。それが明星ほどの陰陽師となれば、長い時のなかで存在し続ける怪異でも、一生に一度もありえない。髪の毛一束でも骨の一欠片でも、怪異とっては膨大な力の源となりえる代物だ。
 ニタ~リと怪異らしい歪んだ笑みの海御前。
 人間の寿命など、怪異にとっては数日程度。少し我慢するだけで、至極なご褒美が貰えるのだから、ゲームという結界に捕らえられたとしても契約を結ぶ怪異は多い。
 ただ、人間と馴れ合うことをよしとしない者、意志疎通ができない怪異に関しては契約は結ばず、ゲーム内でプレイヤーに倒されれば、リポップされることなく消滅する。

「この契約のこと、国を仕切っている者たちは、知っておるのか?」

「んっ? ん一っ、知らないじゃないかなー」

「……そうじゃろうのう。そうでなければこの計画は、国の荷担でここまで進めることは出来なかったであろうからのう」

 面白そうに目を細め海御前。
 この契約、よく考えれば「諸刃の剣」なのだ。
 ゲームが機能している間はいい。でも明星が死んだ後、ゲームから怪異たちが解き放たれれば…それも、最強の明星の力を得たとなれば…この国はどうなるか。

「私ね、自分が死んだ後まで、この国の面倒みる気は無いだよ」

 骸骨の面の口元が、三日月のように細くつり上がる。

「後は、これから育つ若人次第だねっ」

 そう言うと、前のヘラとした顔にすぐに戻った。
 それを見た海御前は、底知れぬ深淵を覗いたような気持ちになり、背筋に冷や汗が流れる。

「…おお、怖い。怖い」


「ははっ。そうだよ、私は怖い怖いこのゲームの『ラスボス』だからねっ♪」





         ★☆★
 
 
 
 
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