今日も今日とて生徒会は開店休業中★

神嘗 歪

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卒業パーティー待たずして、婚約破棄イベント発生です。

ギャフンッ!

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「あはははっ。やった!やってやったぞッ!!」

 静まりかえった会場に響く大きな声。
 指が鳴らされた後、あんなに煩かった拍手と歓声が不気味なほどにピタッと止む。同時に会場にいる人は、不自然に動作の途中で止まっていた。
 まるで、空間を一時停止したようだが……違う。

  …ポタリ。

 ロゼの顎から、赤い酒の雫が床に落ちる。窓から外を見れば、遠くの夜空に夜鷹も飛んでいる。
 このことからも分かるように、止まっているのはの会場内の人間だけだ。そしてあの声の主だけは、この空間の中を自由に動いていた。

「どうだッ、 自分たちが見下した者に操られる気分はッ!ここまで苦労した甲斐があるというものだッ」

 マネキンのように固まった人の間を、人影はロゼとミカエルに向かって進む。

「特にお前だよッ、バカ王子! お前のせいで、俺の家の資産のほとんどが、この計画に消えちまったじゃないかッ!」


       スパーーーンッッ!!


 人影はミカエルの真後ろに立つと、王子の金髪の後頭部を思いっきり引っぱ叩いた。
 が、そんなことをされても、やはりミカエルに動く気配は無い。

「まあいいさ。未来のキングとクイーンの駒は手に入れた。もうこの国は俺のモノ同然だ。あとはこの二つの駒を使って、あの憎き第二王子を消せば…」


         …プッ。


 話の途中で、何処からか空気が抜けるような音が聞こえた。

 「ッ?!誰かいるのかッ!?」

 こんなに人がいて「誰かいるのか?」と聞くのもおかしな話だが、音の出どころを慌てて探す。見回しながら開けた所まで出てくると、人影の顔がハッキリした。
 それは、さっきミカエルに耳打ちした鳶色の髪の取り巻きの青年だった。
 名前をコーラス・カラという。
 コーラスの父親は製薬で財を成し、男爵の息女と結婚したことで爵位を手に入れた。
 コーラス本人も、豊富な薬学の知識と希少な闇属性持ちということから、推薦で王族も通うモーリル学園に入学した。
 けれどコーラスは、かねてより地位の高い者に対して反感を持っていた。
 彼の家は男爵と言っても、周りの扱いは商人と変わらない。
 人命を救う仕事と富の両方を一代で成した優秀な父が、生まれが貴族というだけの無能なヤツらから不当な扱いを受け頭を下げることもあった。
 そんな場面を、小さい頃から何度となく見て来たコーラス。成長するにつれ、「こんなの不公平だ!」という気持ちがドンドンと肥大していく。
 そして、三年前のある出来事が決定打となり「いつか地位の高いヤツらに、一泡吹かせてやりたい!」と思うようになった。
 そのコーラスの悲願が一つ果たされようとしているこの場に、若い女性の声。

「ふつっっあははははっ!ごめんねー、言い終わるまで我慢するつもりだったんだけど…ぷっくくく。あまりに頭を叩いた音が、いい音だったものだから」

 それはコーラスにとって聞き覚えのある声だった。

「お前、何で動ける!」

 コーラスの震える指で指し示す先。
 自らの腹を抱えて笑っていたのは、意識を喪失したはずのロゼだった。
 それにも驚いたが、ミカエルに意見していた時とはまったく違う。今のロゼは公爵令嬢とは思えないほど、砕けた口調と仕草だった。
 コーラスは、ワナワナ震える口で続ける。

「か、か、完璧に術にかかっていたはずだ!自力で正気に戻るなんてあり得ない!」

 「術」とは、この静止している状況のことを言っているのだろう。もっと正確に言えば、術者により対象者が精神支配され、操り人形化されていることをいう。
 例えばコーラスが術にかかっている生徒たちに「踊れ」と命令すれば、「止まれ」と指示するか、手足がおかしくなるまで踊るだろ。
 例えばコーラスが「死ね」と命令すれば、各々の死のイメージで自死を始めることだろう。
 ロゼは人差し指を頬に当てる。

「んー、確かに危なかったわ。術が不完全じゃなかったら、こんなに早く戻れなかったでしょうね」

「術の不完全だとッ?!そんなはずはないッ!この術は私が三年間、多くの検体で実験し、100%の効果を立証しているッ」

 コーラスの「多くの検体」というところで、ロゼの目が鋭くなる。…が、すぐにニコッと微笑んだ。

「どうかしら?こんなに難しい魔法ですもの、発動条件が一つでも満たしてなければ、当然成功するパーセンテージも下がるもんじゃない?」

「満たして…ない…だと?」

「そうよ。それよりこの状況と、ここまで喋った内容で、事件の首謀者としての自白と取っていいのかしら?」

「ハッ!この場で動けるのはお前一人、何を喋ろうがどうとでもなるッ」

 コーラスは引きつるような黒い笑みを浮かべ、ロゼに向かって手を伸ばした。
 二人は同学年だが、男女の体格差がある。術が効かなくとも、ひ弱な貴族令嬢なら力で押さえつけるのは容易とコーラスは考えたのだろう。


「ねぇ、術が解けた理由を知りたくない?」


 ロゼのその言葉に、頭上まで近づいていたコーラスの手がピタッと止まる。
 おもむろに立ち上がるロゼ。驚いたコーラスは、思わず伸ばしていた手を引っ込めた。

「そりゃあ、知りたいわよね。何せ、青春を謳歌するはずだった大事な三年間を、この研究に費やしたのですもの。「不発でした」だけじゃ、納得いかないでしょ?」

「…………」

 眉をひそめるコーラス。……だが、先ほどの強行な手段にはでない。
 コーラスは根っからの研究者だ。自分の研究した術を否定されたくはないが、事実目の前で術が失敗した以上、理由も研究者としては追究したいのだ。

「それじゃあ、答え合わせをしましょう。間違っていたら、「間違っている」と嘲笑ってちょうだい」

「…………」

 やはり返事はない。でも、それが返事だと取るロゼ。その視線が外れ、コーラスの背後にある窓の外を見た。
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