今日も今日とて生徒会は開店休業中★

神嘗 歪

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卒業パーティー待たずして、婚約破棄イベント発生です。

『婚約破棄宣言』事の顛末 ①

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ーーお昼休みのモーリル学園内。温室園。


 色々な色の花が咲き乱れる温室園内は、一教育機関の施設にしては一周十分な散歩距離になるぐらいの広さだ。
 上空から見た形は六角形。中央に太い支柱があり、そこから放射線状に伸びた骨組みになっている。
 天井、外壁ともにガラスで囲われていて、今は初夏の日差しが差し込む季節だが、この温室は魔法で管理されているため、植物と使用者の場所を区分けして細かく温度設定されている。
 その中央の支柱から半径20メートルほど。足元を石畳で敷き詰め、その上から赤い絨毯が敷いてある広場があった。
 広場には、ソファセットが一対。会議用テーブルとイスのセットが一対。まるで、どこぞの部屋をまんま床ごと丸く切り抜いて、温室に置いたかのようだ。

「三ヶ月は長すぎました~ぁ」

 一人掛けソファに座ってお茶を手にしみじみ言ったのは、モーリル学園一年・生徒会書記のリリアナ・クロフォール男爵令嬢。

「本当に。入学してからリリアナとは、ずっと別行動だったものね。教室が同じでも、話すことも出来なかったし」

 リリアナとテーブルを挟んで相向かいの二人掛けソファに座って応えたのは、モーリル学園一年・生徒会書記、宰相の息女のロゼ・ルビー・ダンティール公爵令嬢。

「はい。そういう設定とはいえ、授業以外の学園内では四六時中ミカエル殿下と共に居ましたから。その度、周りからそういう目で見られて、鳥肌が止まりませんでした」

 リリアナがいう「そういう目」とは、「ミカエル殿下とリリアナ様はいつも一緒ね。やっぱり付き合っているのかしら?」という、生徒たちの目のことを言っている。
 夜会での婚約破棄のときも、ミカエルに腰に手を回され引き寄せられたさい、リリアナの背筋にゾワゾワと悪寒が走っていた。
 これまでの態度で分かったと思うが、リリアナはミカエルに対して恋愛感情は一欠片も無い。それどころか、敵視している節がある。

「まあまあ。事も無事に終わったし、今期生徒会も初めて全員集まったわけだし、これからは思う存分仲良くできるんだからいいじゃないか」

 リリアナの隣。一人掛けソファに凭れかかるように座っている青年が微笑みながら言う。
 青年はミカエルによく似た容姿に背格好だが、髪は銀髪、目も紫水晶色でミカエルほどつり上がってはいない。
 名をウリエル・クー・リルアース。この国の第二王子だ。
 そして学園の二年生で、生徒会副会長でもある。
 因みにミカエルとは双子では無い。二人は10ヶ月離れた同い年。それも異母兄弟で、母親たちは父王といとこ。先代の王の二人の妹姫が別々の他国に嫁ぎ、そこで生まれた姫たちが嫁いで来たのだ。

「無事~?」

 ロゼが前のめりになって、ウリエルをジロリと睨んだ。

「ウリがもっと早く来てくれれば、怪我人が出なくて済んだと思うんだけどぉ?」

 実はあの時、術が発動し黒幕であるコーラスが現れたら、すぐにウリエルと兵隊たちが突入する手はずになっていた。なのに、突入予定の場所からはウリエルが現れず、ロゼは内心ヤキモキしていた。

「頼まれた例の実験が、面白…結果が出るまで止められなくてね。気がついたら、約束の時間を過ぎてしまったわけだよ」

 そのロゼの視線から逃げるように顔ごと目を泳がせ、言い訳をするウリエル。

「それに王族が出る夜会とはいえ、あんな湯水のように浪費する会に嬉々として出るような者たちだ、怪我しても自業自得だと思うね」

「それだけじゃないわ!他にも文句が山ほど…」

              …力タン。

 ふと、ロゼの前のテーブルに、サンドイッチが白い山脈のように盛られた皿が置かれた。
 ハムサンドにタマゴサンド、ツナサンドもある。サンドイッチの隣には、アツアツのポテトフライ。
 ロゼの顔が、ウリエルからスゴい勢いでサンドイッチに向いた。

(な、なんて美味しそうなのぉっ!!)

 一瞬にしてロゼの頭の中は、文句がどっか行き、この美味しそうなサンドイッチでいっぱいになった。

「どうでしょ。続きは昼食を取ってからにしませんか?」

 テーブルの横でそう言ったのは、軍最高位の元帥であるドゥルグ公爵の嫡男イオン・ルフ・ドゥルグ。
 元帥の子息だから、どんなに厳つい青年かと思うだろうが、本人はいたって普通の青年。
 髪は綺麗に切り揃えてあり、毛先は黄色いが全体はマッドグリーン。瞳は大きく琥珀色で、可愛いと言いたくなるほどの童顔。背も同年代男子の平均より低く、物腰、口調ともに柔らかい。
 ここにいる生徒会メンバーの中で一番高学年の三年生。前期・生徒会会長だったが、今期の生徒会では生徒会顧問と会計を兼任している。
 そしてイオンの後ろからもう一皿現れ置かれた。
 皿に乗っていたのは、見目美しいフルーツサンド。
 白い食パンに挟まれた白い生クリームが余白となり、中央で何種類ものフルーツが花を形成している。

(ハワ~ッ、これも美味しそ~~~~ぉう!!)

 ロゼの目が、更にキラキラする。
 持って来たのは、ロゼと同学年のクルツ。
 ダンティール公爵家の使用人で、ロゼの専属侍女。平民だが能力は高く、この学園にも自力で入学した。そして生徒会では会計を任されている。
 容姿は、長く濡れた鴉羽のような黒髪を、左右でユルい三編みにし。目は、大きく厚ぼったいレンズのメガネで、顔半分とともに隠れている。
 首から上だけ見ればヤボったい印象だが、体型はスレンダーで長身だ。イオンの後ろに立つと、頭一つ上に出ている。
 
「これ、もしかして、イオン様が作ったのですかっ?」

 ヨダレが垂れそうな顔で、イオンを見上げるロゼ。

「はい。前にロゼ嬢が話していた料理を、私なりに改良して作ってみました。でも、私一人じゃないですよ。クルツにも手伝ってもらったんです。ね、クルツ」

「はい」

「二人とも、スゴイわっ!」

 「貴族で元帥の嫡男が?」と思う者もいるだろうが、料理はイオンの趣味なのだ。
 それを見ていたリリアナは、すぐに「それじゃあ二人の飲みモノも用意しますね」と席を立ち、「席をもう一つ増やさなくてはね」とウリエルも動く。
 その間、ロゼはクルツを手招きして、自分が座っているソファの隣をポンポンと叩いた。

「クルツ。ここに座って、一緒に食べましょ」

「………私は使用人です。主と食事を共にすることは許されておりません」

 クルツのか細い声。ロゼは首を横に降った。

「学園内でも仕事としてクルツには色々とお世話をしてもらっているけど、貴女は私と同じモーリル学園の生徒でもあるのよ。仕事以外のことは主ではなく、同級生として接してほしいの」

 躊躇するクルツに、ロゼは手を引いて隣に座らせる。リリアナも紅茶を持って来て、クルツの前に置いた。

「私の煎れた紅茶では、クルツさんが煎れたものほど美味しく無いかもしれませんが、飲んでいただけると嬉しいです」

「いいえ、そんなことは………いただきます」

 コクリと一口。

「……美味しいです」

 クルツのメガネの下の口元が、小さく微笑んだ。
 …が、直後。






        「おいッ」
 
 
 
 
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