今日も今日とて生徒会は開店休業中★

神嘗 歪

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卒業パーティー待たずして、婚約破棄イベント発生です。

ギャフンッ!ギャフンッ!ギャフンッ!

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 その合図で、まるでスイッチが入ったかのように一斉に動き出す生徒たち。
 夜会なので剣などの武器を持ち込んでいる者はいないが、ハイスペックな人材を集めた学園の生徒だけあって、中には貴族であっても戦闘に長けた者も少なくない。
 各々、剣の代わりに身近にあった銀食器のフォークやナイフを持って、ロゼたち三人をとり囲んだ。
 ロゼたちを貴族たちに任せたコーラスは、瓦解しかかっている計画を立て直すため、ブツブツと一人考え込む。

(拘束後、もう一度術をかけ直してみるか…。かからなかった場合はしょうかない、ミカエル王子とリリアナは、婚約破棄されたロゼが嫉妬に狂って殺害。その後、ロゼも自害したという筋書で三人とも始末すればいい。なあに目撃証言なら操り人形の貴族たちを使って、いくらでもでっち上げられる。それよりも問題は第二王子だ…)

 その間、ロゼたちは…。

「なかなかの多勢ね。こういう場合、王子様が身を挺してお姫様を守ってくれるのよね?それとも僭越ながら手を貸しましょうか、ミカエル殿下?」

 とロゼ。

「いらん!この程度一人で十分だ」

 とミカエル。

「というかミカエル殿下。反省もかねてボコボコにやられてください」

 と可愛い顔して辛辣なリリアナ。まだ、ロゼにお酒をかけたことを根にもっているみたいだ。
 三人は互いに背を預け、四方からの攻撃に備えた。
 
「それじゃあミカ、一度も攻撃に当たらずにこの会場を出れたら、ズブ濡れにしたことは帳消しにするわ。その代わり一撃でももらったら、納豆料理フルコースを食べるっていうのはどう?」

 ロゼが人差し指を立てて提案する。

「はぁッ?納豆とは、あの腐った豆のことか?!」

 ロゼ特製の納豆で、前に「体に良いから♪」と強引に食べさせられたことがある。あの匂いとネバネバ……ミカエルはヴッと口を押さえた。
 ロゼは構うことなく話を進める。

「リリアナもそれでいいわよね?」

「はい!ロゼ様がよろしければっ」

「…おいっ、俺に拒否権は無いのか?」

 2対1。無言で笑うロゼとリリアナ。
 ミカエルは金髪の頭をガリガリと掻く。

「ああ~~~ッ、分かったッ。要は攻撃を全部かわせばいいんだろ!」

「そういうことぉ♪」

 ニコやかに小首を傾げるロゼ。
 武器も無ければ、魔法を行使する杖も無い状態。こんな絶体絶命の場面だというのに、三人はまるで遊びのルールを決めるかのようなノリだ。
 そんな和んだ空気を引き裂くように、操り人形化した貴族たちが襲いかかって来た。
 下半身の重心を低くく沈めるミカエル。一人目の貴族の令息が、ミカエルの紅の瞳めがけて鋭いフォークの先で攻撃してきた。が、フォークが届く前に一人目の令息の視界が一回転し、気がつけば天井が見えていた。
 二人目の令息と三人目の令息は、左右から攻撃する。ミカエルはそれを左右同時に片手一本づつで払い、相手の手首を掴むと中央に引き寄せる。二人の顔は、ミカエルの胸の当たりで正面衝突した。
 鼻血を吹き出しながら、床に倒れ込む二人。その間にもミカエルは、数人の攻撃を息つく暇も無く受け、相手の勢いを使って反撃し倒す。
 端から見ているとミカエルの動きはあまりに流麗で、相手が勝手に倒れていっているかのようにも見える。

「きぇェェェッッ!!」

「ぎぁァァァッッ!!」

 次に奇声を上げ、ナイフを振りかざした貴族の令嬢たちが、ドレスを振り乱して襲って来た。
 これにはミカエルも、先ほどの令息のように乱雑に扱うわけにはいかない。クルッと身を翻しナイフをかわすと、ガラ空きのうなじに手刀をポンッと振り下ろした。
 令嬢のほとんどが、これで眠るように気を失い倒れこむ。

「…………なんだコレは…ッ?!」

 目の前の光景に、口が半開きになるコーラス。
 多分、考え事を始めて一分も経ってはいないはずだ。気がつけば貴族たちは全員、床でだらしなくノビていた。

(…確かにミカエル王子は、学園でも一二を争う剣術の使い手だ。だが、目の前のこれは体術。王族が、剣と魔法以外を使うなど聞いたことがない。それにこの体術自体、見たことも無いッ)

 そんな信じられないといった顔のコーラスをよそに、同じモノを見ていたロゼは…。

「ハ~ァ。まだまだ動きが雑ね」

 と、溜め息まじりのダメ出しを呟く。

「…ッ?!」

 予想外の出来事の連続に、もうコーラスの頭はパンクしそうだ。

「コーラス、投降しろ」

 ゆっくり振り向きながらミカエルが言う。
 そこには地位の高い者特有の威圧は無く、代わりに強者の威風があった。
 コーラスの顔からどんどん血の気が引いていく。

(どうするッ?どうしたらいいッ!)

 手持ちの駒も無くなった。駒を増やそうにも、術も効かない。他の魔法も、杖がなければ発動できない。
 そんなコーラスの視線にあるモノが入った。

(こ、これだッ)

 走り出し手を伸ばす。

  ガッ!
   「なッ…!」

 後ろから細い腕を掴んで引っ張り寄せたのは、リリアナだった。
 コーラスはリリアナの首に方腕を巻き付け、もう片方の手で食器のナイフを取ると、その首筋に当てた。

「近づくなッ。近づいたら、この女を殺すッ!」

 もう逃げるしかないと思ったコーラスは、退路を確保するためにリリアナを人質に取ったのだ。

(このままじゃ終われないッ。国外に逃亡さえできれば、他国で俺の薬学の知識と実家の商売のツテでなんとかなるッ。そうすれば、いつかまた復讐する機会も訪れるッ)

 ジリジリと出口のドアに向かって後退するコーラス。ふと、ある事に気づく。

(…リリアナを人質に取られて、なぜに騒がないッ?)

 ロゼとミカエルは無言でこっちを見ているのみ。こちらを刺激しないように配慮しているのかと思ったが…。

「御愁傷様」

 ミカエルが哀れみを含んだ声で言った。
 リリアナに?いや、視線はコーラスに向いている。
 すると、すごく間近で低く小さな声が聞こえた。


「……そんなに私が弱く見えましたか?」

 
 直後、リリアナの体重がコーラスにググッともたれかかる。体重が軽いとはいえ、急にのし掛かれたことでコーラスの重心が揺らいだ。
 安定感が無くなったところを、すかさずリリアナは首に巻かれていた腕を掴み、今度は前に深く一礼するように…。


   バタンッ!
      「痛ッッ!」


 背負い投げしたのだ。
 尾てい骨から背中を強打し、痛みでコーラスは息が出来ない。

(投げられたッ?!こんな華奢な女にッ?!)

 見上げると腰に手を当てたリリアナが、「フン!」と鼻息荒くこちらを見下ろしていた。
 もうここまでくるとコーラスも、抵抗する気が失くなる。
 瞑った目蓋の上に腕を置く。



「………………参った。……………降参だ」




 言うと同時にコーラスの強張っていた体から、力がフッと抜けていった。
 
 






          ☆★☆
 
 
 

 
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