17 / 19
じゅうしちっ
しおりを挟む
オレは学校に復帰した。
数日休んでいたけど、そのブランクを埋めるのに必死に復習、予習をした。
気の毒なのは令だ。ちゃんと学校にいけるのだろうか。
学校が終ったら令のお見舞いに行く。
夜の20時まで面会できるのだ。親族しか許されない面会時間なのだが、受付の女の人に訳を言ったらすんなり許してくれた。まぁイケメンスキルを使わせてもらったのだが。
片手にはお土産の小さな花。しかたないだろ。小遣いの枠内なんだから。
令は一応花は喜んでいてくれるみたいだし。
病室に入ると、途端に令は視線をそらす。
「よう令。元気そうだな」
「帰って。タケルになんて会いたくない」
「今日も花持って来た。花瓶の花、差し替えておくぞ」
しばらく無言の令。
オレは初めて付き合ったカップルの男の方みたいに、とにかく話をした。
自分の話。勉強のこと。
小さかった頃の思い出。仲良かったあの頃のこと。
令は背中を向けたままそれを聞いている。まるで眠っているように。
だけどオレは時間が許す限り話を続けた。
それを数日。令の様態は安定している。
もう少しで退院なんだ。あとは心の問題なだけで。
その日もオレはただ一人で話し続けていた。
令の背中に向かって。
当然空しさはある──。
元気に毒づいてくれたのは初日だけで、あとはひたすら無視。
だがこれも怒りの感情なのだろう。
だったら続けてみたい。令の反応があるまで。
なんのとりとめも無い思い出話。
忘れていることを記憶から引っ張りだして。
石に向かって話しているようだがかまわなかった。
令の背中はいつものように何も語らない。
はずだった。
「──うるさいよ。タケル」
令の言葉。
ようやく。
ああようやく──。
オレは涙が出るほど嬉しかったがそのまま続けた。
「ああゴメン。それからあの時覚えてるか? 子どもの会で水族館に行ったろ? あの時二人で魚なんて見ないで出口のお土産屋までまっしぐら。オレはミニカー。お前はパズルを欲しがってたっけ。オレが欲しいミニカーが無くて、オレもパズルを買ってもらったよな」
「そんなの覚えてない。バカみたい」
「みたいじゃない。バカなんだ」
「くす……」
笑いに堪えて肩を震わせている。
令がもう少しで復活する。天岩戸だ。オレは完全に令の心が姿を現すまで踊り続けるだけ。
「帰りの会で女子が男子を吊るし上げにすることあったよな。あん時なんでレイまで女子の味方をするんだろうって思ってたよ」
「……はぁ?」
「男の友情を信じてたのに裏切られた感」
「私は昔から女ですけど?」
「え。そうなの?」
「棒読みウザ」
令は起き上がってオレを睨む。
オレはそれに笑顔で返した。令の表情が溶けて行くのが分かる。
「はぁ、ホントにバカ。あの時だってアイツに殴り掛かって行くし」
アイツ──。
先生って呼び方からアイツに変わった。
それだけで充分だ。オレの心が救われて行く。
「なんで私みたいのに毎日毎日お見舞いに来てるの? 私まで口説こうと思ってるの? 他の女と同じようにすぐ飽きるくせに」
「だったらこんな面倒なことしねぇよ」
「タケルのバカ」
「ああ。そうだ。そうなんだ」
「そんなことされたら。そんなことされたら」
「うん」
「──スきに……なっちゃうじゃない」
「そうか。でもな、オレの方が先に好きになってたし、オレ以上に好きにはなれないと思うぞ」
「プ」
「ふふふ」
病室が暖かくなっていく。オレたちの空気が柔らかくなっていく。
オレたちは向かい合わせになってただ微笑んでるだけ。
だけどそれでいい。充分だった。
「セイがこの前、お見舞いに来てさ」
「ああ、妹の」
「私のこと嫌いなんだってさ。タケルのこと独り占めしてるから」
「セイちゃんは可愛いんだから、オレなんかに変な思いを持たない方がいいよ」
「タケル、ウチの玄関で叫んだって?」
「ああ。レイのこと好きだってな」
「イケメンってそうやって好きとか乱用するよね。軽くない? もうタケルは“好き”禁止」
「そうか。分かった」
「物わかり早」
「だから早く元気になって退院しろよ。学校に行ってちゃんと卒業するんだ」
途端に暗くなる令の表情。
うつむいてしまいしばらく黙り込んでしまった。
「もう……行けないよ」
「どうして?」
「知ってるでしょ。先生がいるのに」
「ああアイツ、学校クビになったよ」
令の目が丸い。そんなに大きな目をしてたんだな。
「ど、ど、ど、ど」
「ドラえもん?」
「どうして?」
「いやぁ分からない。なんかいろんな女の人からアイツにオモチャにされたって電話がかかってきたらしいよ。学校としてもほっとけなかったらしく、第三者委員会を設置して調査に乗り出したみたい。そしたらでるわでるわの真っ黒。本人は否定しても、証言とかまとめてあったりしてクビ。奥さんにも愛想尽かされて、離婚。今後は養育費と慰謝料払いながら生きていかなきゃならないらしい」
「え? そうなんだ。私以外にも」
「そうだよ。そんなんで死んだって死に損だ。楽しく生きていこうぜ」
「そっか……。そうなんだ。そうなんだね……」
まぁいろいろ大変だった。人脈使って仲の良い女友達動員して学校に電話してもらった。
調査員まで探してくれたなぁ。女の人で助かったよ。少しお願いしたら記事ねつ造してくれたし。みんなイケ顔に弱いなぁ。おかげでうまく行ったけど。
数日休んでいたけど、そのブランクを埋めるのに必死に復習、予習をした。
気の毒なのは令だ。ちゃんと学校にいけるのだろうか。
学校が終ったら令のお見舞いに行く。
夜の20時まで面会できるのだ。親族しか許されない面会時間なのだが、受付の女の人に訳を言ったらすんなり許してくれた。まぁイケメンスキルを使わせてもらったのだが。
片手にはお土産の小さな花。しかたないだろ。小遣いの枠内なんだから。
令は一応花は喜んでいてくれるみたいだし。
病室に入ると、途端に令は視線をそらす。
「よう令。元気そうだな」
「帰って。タケルになんて会いたくない」
「今日も花持って来た。花瓶の花、差し替えておくぞ」
しばらく無言の令。
オレは初めて付き合ったカップルの男の方みたいに、とにかく話をした。
自分の話。勉強のこと。
小さかった頃の思い出。仲良かったあの頃のこと。
令は背中を向けたままそれを聞いている。まるで眠っているように。
だけどオレは時間が許す限り話を続けた。
それを数日。令の様態は安定している。
もう少しで退院なんだ。あとは心の問題なだけで。
その日もオレはただ一人で話し続けていた。
令の背中に向かって。
当然空しさはある──。
元気に毒づいてくれたのは初日だけで、あとはひたすら無視。
だがこれも怒りの感情なのだろう。
だったら続けてみたい。令の反応があるまで。
なんのとりとめも無い思い出話。
忘れていることを記憶から引っ張りだして。
石に向かって話しているようだがかまわなかった。
令の背中はいつものように何も語らない。
はずだった。
「──うるさいよ。タケル」
令の言葉。
ようやく。
ああようやく──。
オレは涙が出るほど嬉しかったがそのまま続けた。
「ああゴメン。それからあの時覚えてるか? 子どもの会で水族館に行ったろ? あの時二人で魚なんて見ないで出口のお土産屋までまっしぐら。オレはミニカー。お前はパズルを欲しがってたっけ。オレが欲しいミニカーが無くて、オレもパズルを買ってもらったよな」
「そんなの覚えてない。バカみたい」
「みたいじゃない。バカなんだ」
「くす……」
笑いに堪えて肩を震わせている。
令がもう少しで復活する。天岩戸だ。オレは完全に令の心が姿を現すまで踊り続けるだけ。
「帰りの会で女子が男子を吊るし上げにすることあったよな。あん時なんでレイまで女子の味方をするんだろうって思ってたよ」
「……はぁ?」
「男の友情を信じてたのに裏切られた感」
「私は昔から女ですけど?」
「え。そうなの?」
「棒読みウザ」
令は起き上がってオレを睨む。
オレはそれに笑顔で返した。令の表情が溶けて行くのが分かる。
「はぁ、ホントにバカ。あの時だってアイツに殴り掛かって行くし」
アイツ──。
先生って呼び方からアイツに変わった。
それだけで充分だ。オレの心が救われて行く。
「なんで私みたいのに毎日毎日お見舞いに来てるの? 私まで口説こうと思ってるの? 他の女と同じようにすぐ飽きるくせに」
「だったらこんな面倒なことしねぇよ」
「タケルのバカ」
「ああ。そうだ。そうなんだ」
「そんなことされたら。そんなことされたら」
「うん」
「──スきに……なっちゃうじゃない」
「そうか。でもな、オレの方が先に好きになってたし、オレ以上に好きにはなれないと思うぞ」
「プ」
「ふふふ」
病室が暖かくなっていく。オレたちの空気が柔らかくなっていく。
オレたちは向かい合わせになってただ微笑んでるだけ。
だけどそれでいい。充分だった。
「セイがこの前、お見舞いに来てさ」
「ああ、妹の」
「私のこと嫌いなんだってさ。タケルのこと独り占めしてるから」
「セイちゃんは可愛いんだから、オレなんかに変な思いを持たない方がいいよ」
「タケル、ウチの玄関で叫んだって?」
「ああ。レイのこと好きだってな」
「イケメンってそうやって好きとか乱用するよね。軽くない? もうタケルは“好き”禁止」
「そうか。分かった」
「物わかり早」
「だから早く元気になって退院しろよ。学校に行ってちゃんと卒業するんだ」
途端に暗くなる令の表情。
うつむいてしまいしばらく黙り込んでしまった。
「もう……行けないよ」
「どうして?」
「知ってるでしょ。先生がいるのに」
「ああアイツ、学校クビになったよ」
令の目が丸い。そんなに大きな目をしてたんだな。
「ど、ど、ど、ど」
「ドラえもん?」
「どうして?」
「いやぁ分からない。なんかいろんな女の人からアイツにオモチャにされたって電話がかかってきたらしいよ。学校としてもほっとけなかったらしく、第三者委員会を設置して調査に乗り出したみたい。そしたらでるわでるわの真っ黒。本人は否定しても、証言とかまとめてあったりしてクビ。奥さんにも愛想尽かされて、離婚。今後は養育費と慰謝料払いながら生きていかなきゃならないらしい」
「え? そうなんだ。私以外にも」
「そうだよ。そんなんで死んだって死に損だ。楽しく生きていこうぜ」
「そっか……。そうなんだ。そうなんだね……」
まぁいろいろ大変だった。人脈使って仲の良い女友達動員して学校に電話してもらった。
調査員まで探してくれたなぁ。女の人で助かったよ。少しお願いしたら記事ねつ造してくれたし。みんなイケ顔に弱いなぁ。おかげでうまく行ったけど。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
麗しき未亡人
石田空
現代文学
地方都市の市議の秘書の仕事は慌ただしい。市議の秘書を務めている康隆は、市民の冠婚葬祭をチェックしてはいつも市議代行として出かけている。
そんな中、葬式に参加していて光恵と毎回出会うことに気付く……。
他サイトにも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる