44 / 58
第44話 葬列
しおりを挟む
さて、熊吉と几帳の次なる逢瀬である。熊吉が三浦屋に来ると、すでに几帳は座敷に出ているということだった。それに三浦屋の主人は頭を下げる。
「すいません。紀九万の旦那」
「なんの。よいよい。几帳の部屋で待たせてもらって構わんか?」
「もちろんでございます。禿を酌婦につけましょう」
「結構だ。几帳が嫉妬する」
「そんな。禿ですぜ?」
「いらん。酒とつまみだけくれ」
「おお。お熱いことで」
主人はもみ手して、使用人に部屋へと案内させた。熊吉はいつもの場所に座って煙草盆を片手で引き寄せ、キセルを出してタバコふかし始めた。燗酒をちびちび飲んでいると、駆け込むように几帳がやって来た。
そして打掛を脱ぎ捨てて襦袢だけになると、あぐらをかいている熊吉の膝にちょこんと座って、熊吉の腕を取って腰に回させ、その熊吉からキセルを奪うとぷかぁりぷかり。その間に簪も抜いて、いつものラフな姿となった。
「なんだ。忙しそうだな」
熊吉は膝の上に几帳を乗せたまま、お猪口を取って酒を一口。今度は几帳がそのお猪口を取り返してちびり。熊吉はキセルを受け取ってぷかり。一つのキセルと一つのお猪口をそれぞれがやり取りして几帳がようやく一息ついた。
「あ~。やっと帰れた」
「やな座敷だったようだな」
「そう。奈良屋の親父」
「なんだ。奈良茂か」
「九万ちゃんに対抗意識燃やしちゃって大変よ。その癖ケチなの。座敷には男何人もいるのに、遊女は私だけよ。あとは禿だけ。初見だから話さないで微笑みだけ浮かべてたけど、嫌らしくこっちをチラチラ見ちゃって。気持ち悪い!」
「クックック」
「笑い事じゃないよ。紀伊国屋さんなら禿に二分の心づけ渡してくるのに、心づけなし。禿たちガッカリしてたわよ」
「まぁ本来は渡さなくてもいいしな」
「粋な大尽遊びはそうじゃないでしょ──」
几帳は熊吉に背中を預けたまま、キセルをぷかぷか。熊吉はその温もりを感じながら酒を飲んでいた。
「奈良茂はどうだった?」
「どうもこうもない。九万ちゃんからあちきを奪おうって魂胆は見え見え。だから初めてあちきを座敷に呼んだんでしょ?」
「それで?」
「一発であちきに惚れた顔になってた」
「ぷ。はっはっはっは!」
「笑い事じゃない。これからも呼ばれるじゃない!」
「まぁ几帳を見れば誰でもそうなる」
「はっ。肝心な人は気がないみたいだけど?」
几帳は座る熊吉の膝へと当て付けに体重をかける。
「そんなわけない」
「どうだか」
几帳の唇から白い煙──。熊吉はお猪口を置いて几帳の体に手を回して肩に顔を埋める。そのままの姿勢で几帳の体を揺さぶった。几帳は強く抱きしめられたことで嬉しくなり、熊吉の頭を撫でる。
「どうしたの? 今日は殊勝だね」
「お前を誰にも取られないように自分の一部にしようとしてるんだ」
「ま……」
しばらくそのまま。熊吉は几帳を放さなかった。几帳は赤い顔をして熊吉の頭やら膝やらを優しく撫でていた。
「どう? 一部になりそう?」
「……いいや。でもお前はいい匂いがするな」
「あ、そうだ!」
几帳は熊吉の腕を解くと、立ち上がって部屋の引き出しから香炉と小さい木片を取り出した。
「おう。まだあったか」
「うん。九万ちゃんから買って貰った伽羅の香木。火をつけるよゥ」
「特別な日に使うんじゃなかったか?」
「今日は特別」
几帳は香木に火をつけて香炉に落とす。途端に透き通る薫りが部屋に充満した。二人は抱き合いながらその薫りをかいでいたのだ。
しばらくして熊吉が口を開く。
「いつか一緒になろう几帳──」
その言葉に几帳は黙ってうつむいてしまった。そのうちに肩が揺れる。その揺れが抱いている熊吉にも伝わっていった。
「やっと、言って、くれたね……」
「……誰にもお前のことは渡さんぞ」
二人は固く固く誓い合う。しかしそれには障害があった。義兄の文吉だ。女を……遊女を強く憎んでいる。それは几帳もよく知っていた。だから、文吉は反対するだろうと分かっていた。
ことが終わり、二人は寝転びながらキセルのやり取りをする。
「お千代ちゃんはどうだった?」
「あ、そうそう。お千代にこっそり聞いてみたんだ。そしたら、お前の勘通りだよ。アイツは文左衛門の兄貴にいつの間にか恋心を寄せてやがったんだ。拾われた当初から優しいお兄さんくらいにしか思ってなかったみたいだなぁ。それがいつしか歳を越えて恋心に変わった。顔は兄貴が昔好きだったおミツに瓜二つ。まるで芝居だ。出雲の神の引き合わせだよ」
そういって熊吉は起き上がり、エアギターならぬ、エア三味線だ。芝居のように感動する調子の曲を口でチントンといいながら几帳に聞かせた。几帳も飛び起きて膝を叩く。
「それよ! 紀文の大旦那とお千代ちゃんをくっつけちゃえば、大旦那だって女というものを憎まなくなるわ。そしたら九万ちゃんだって、几帳と結婚したいって言えるんじゃない?」
「おお、そうだ。お前は頭がいいね」
「ふふん! それでやってみましょうよ」
「そうだそうだ」
作戦がまとまって、いつものように一晩中愛し合った後、熊吉が鼻歌交じりに屋敷へと帰ると、葬列である。
家のまわりには幕が張られ提灯が構えられている。
これはどうしたことかと思い、屋敷に駆け込むと、文吉が息も絶え絶えといった体で泣いていた。それを千代が膝に抱えていたのだ。
「どうした! どうした! 何があったィ?」
叫ぶ熊吉に顔を上げた文吉は、今度は熊吉の襟を掴んで胸に泣き崩れてしまった。
「どうしたィ、義兄!」
「──定吉が死んだ」
「なに、定吉が?」
聞くと、定吉と小春は文吉から貰った千両を荷車に乗せて従者に引かせ、小春の故郷である磐城(福島県)に行く途中、山中で賊に襲われ定吉と従者は殺されそこに打ち棄てられた。小春と千両はそのまま奪われてしまったらしい。
「おお九万。定吉が死んだのは、俺だ。俺のせいなんだァ。俺が小春を身請けしなければこんなことに。ああ定吉ィ」
余りにも泣きじゃくる文吉は哀れでしかなかった。
「義兄。悲しんでも定吉は戻ってこねぇ。これ、お清。義兄に床を作ってやってくれ。しばらく休ませるんだ。葬式は俺がやる」
熊吉が喪主として葬式は無事に終わったが、文吉の哀しみはひどく、三日三晩起き上がれなかった。
息子としてこれから日の本に羽ばたく定吉の未来を想像していただけに、その哀しみは大きかったのである。
文吉にとっては二度目の身請け。どちらも事態は大凶に終わってしまった。これには熊吉もなかなか験の悪い身請けの言葉をさらに言い出せなくなった。
「すいません。紀九万の旦那」
「なんの。よいよい。几帳の部屋で待たせてもらって構わんか?」
「もちろんでございます。禿を酌婦につけましょう」
「結構だ。几帳が嫉妬する」
「そんな。禿ですぜ?」
「いらん。酒とつまみだけくれ」
「おお。お熱いことで」
主人はもみ手して、使用人に部屋へと案内させた。熊吉はいつもの場所に座って煙草盆を片手で引き寄せ、キセルを出してタバコふかし始めた。燗酒をちびちび飲んでいると、駆け込むように几帳がやって来た。
そして打掛を脱ぎ捨てて襦袢だけになると、あぐらをかいている熊吉の膝にちょこんと座って、熊吉の腕を取って腰に回させ、その熊吉からキセルを奪うとぷかぁりぷかり。その間に簪も抜いて、いつものラフな姿となった。
「なんだ。忙しそうだな」
熊吉は膝の上に几帳を乗せたまま、お猪口を取って酒を一口。今度は几帳がそのお猪口を取り返してちびり。熊吉はキセルを受け取ってぷかり。一つのキセルと一つのお猪口をそれぞれがやり取りして几帳がようやく一息ついた。
「あ~。やっと帰れた」
「やな座敷だったようだな」
「そう。奈良屋の親父」
「なんだ。奈良茂か」
「九万ちゃんに対抗意識燃やしちゃって大変よ。その癖ケチなの。座敷には男何人もいるのに、遊女は私だけよ。あとは禿だけ。初見だから話さないで微笑みだけ浮かべてたけど、嫌らしくこっちをチラチラ見ちゃって。気持ち悪い!」
「クックック」
「笑い事じゃないよ。紀伊国屋さんなら禿に二分の心づけ渡してくるのに、心づけなし。禿たちガッカリしてたわよ」
「まぁ本来は渡さなくてもいいしな」
「粋な大尽遊びはそうじゃないでしょ──」
几帳は熊吉に背中を預けたまま、キセルをぷかぷか。熊吉はその温もりを感じながら酒を飲んでいた。
「奈良茂はどうだった?」
「どうもこうもない。九万ちゃんからあちきを奪おうって魂胆は見え見え。だから初めてあちきを座敷に呼んだんでしょ?」
「それで?」
「一発であちきに惚れた顔になってた」
「ぷ。はっはっはっは!」
「笑い事じゃない。これからも呼ばれるじゃない!」
「まぁ几帳を見れば誰でもそうなる」
「はっ。肝心な人は気がないみたいだけど?」
几帳は座る熊吉の膝へと当て付けに体重をかける。
「そんなわけない」
「どうだか」
几帳の唇から白い煙──。熊吉はお猪口を置いて几帳の体に手を回して肩に顔を埋める。そのままの姿勢で几帳の体を揺さぶった。几帳は強く抱きしめられたことで嬉しくなり、熊吉の頭を撫でる。
「どうしたの? 今日は殊勝だね」
「お前を誰にも取られないように自分の一部にしようとしてるんだ」
「ま……」
しばらくそのまま。熊吉は几帳を放さなかった。几帳は赤い顔をして熊吉の頭やら膝やらを優しく撫でていた。
「どう? 一部になりそう?」
「……いいや。でもお前はいい匂いがするな」
「あ、そうだ!」
几帳は熊吉の腕を解くと、立ち上がって部屋の引き出しから香炉と小さい木片を取り出した。
「おう。まだあったか」
「うん。九万ちゃんから買って貰った伽羅の香木。火をつけるよゥ」
「特別な日に使うんじゃなかったか?」
「今日は特別」
几帳は香木に火をつけて香炉に落とす。途端に透き通る薫りが部屋に充満した。二人は抱き合いながらその薫りをかいでいたのだ。
しばらくして熊吉が口を開く。
「いつか一緒になろう几帳──」
その言葉に几帳は黙ってうつむいてしまった。そのうちに肩が揺れる。その揺れが抱いている熊吉にも伝わっていった。
「やっと、言って、くれたね……」
「……誰にもお前のことは渡さんぞ」
二人は固く固く誓い合う。しかしそれには障害があった。義兄の文吉だ。女を……遊女を強く憎んでいる。それは几帳もよく知っていた。だから、文吉は反対するだろうと分かっていた。
ことが終わり、二人は寝転びながらキセルのやり取りをする。
「お千代ちゃんはどうだった?」
「あ、そうそう。お千代にこっそり聞いてみたんだ。そしたら、お前の勘通りだよ。アイツは文左衛門の兄貴にいつの間にか恋心を寄せてやがったんだ。拾われた当初から優しいお兄さんくらいにしか思ってなかったみたいだなぁ。それがいつしか歳を越えて恋心に変わった。顔は兄貴が昔好きだったおミツに瓜二つ。まるで芝居だ。出雲の神の引き合わせだよ」
そういって熊吉は起き上がり、エアギターならぬ、エア三味線だ。芝居のように感動する調子の曲を口でチントンといいながら几帳に聞かせた。几帳も飛び起きて膝を叩く。
「それよ! 紀文の大旦那とお千代ちゃんをくっつけちゃえば、大旦那だって女というものを憎まなくなるわ。そしたら九万ちゃんだって、几帳と結婚したいって言えるんじゃない?」
「おお、そうだ。お前は頭がいいね」
「ふふん! それでやってみましょうよ」
「そうだそうだ」
作戦がまとまって、いつものように一晩中愛し合った後、熊吉が鼻歌交じりに屋敷へと帰ると、葬列である。
家のまわりには幕が張られ提灯が構えられている。
これはどうしたことかと思い、屋敷に駆け込むと、文吉が息も絶え絶えといった体で泣いていた。それを千代が膝に抱えていたのだ。
「どうした! どうした! 何があったィ?」
叫ぶ熊吉に顔を上げた文吉は、今度は熊吉の襟を掴んで胸に泣き崩れてしまった。
「どうしたィ、義兄!」
「──定吉が死んだ」
「なに、定吉が?」
聞くと、定吉と小春は文吉から貰った千両を荷車に乗せて従者に引かせ、小春の故郷である磐城(福島県)に行く途中、山中で賊に襲われ定吉と従者は殺されそこに打ち棄てられた。小春と千両はそのまま奪われてしまったらしい。
「おお九万。定吉が死んだのは、俺だ。俺のせいなんだァ。俺が小春を身請けしなければこんなことに。ああ定吉ィ」
余りにも泣きじゃくる文吉は哀れでしかなかった。
「義兄。悲しんでも定吉は戻ってこねぇ。これ、お清。義兄に床を作ってやってくれ。しばらく休ませるんだ。葬式は俺がやる」
熊吉が喪主として葬式は無事に終わったが、文吉の哀しみはひどく、三日三晩起き上がれなかった。
息子としてこれから日の本に羽ばたく定吉の未来を想像していただけに、その哀しみは大きかったのである。
文吉にとっては二度目の身請け。どちらも事態は大凶に終わってしまった。これには熊吉もなかなか験の悪い身請けの言葉をさらに言い出せなくなった。
0
あなたにおすすめの小説
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
【時代小説】 黄昏夫婦
蔵屋
歴史・時代
江戸時代、東北地方の秋田藩は貧かった。
そんな中、真面目なひとりの武士がいた。同僚からは馬鹿にされていたが真面目な男であった。俸禄は低く貧しい。娘二人と実母との4人暮らし。
秋田藩での仕事は勘定方である。
仕事が終わると真っ直ぐ帰宅する。
ただひたすら日中は城中では勘定方の仕事をまじめにして、帰宅すれば論語を読んで知識を習得する。
そんな毎日であった。彼の名前は立花清左衛門。年齢は35歳。
娘は二人いて、一人はとめ15歳。もう一人は梅、8歳。
さて|黄昏《たそがれ》は、一日のうち日没直後、雲のない西の空に夕焼けの名残りの「赤さ」が残る時間帯のことを言う。「|黄昏時《たそがれどき)」。 「黄昏れる《たそがれる》」という動詞形もある。
「たそがれ」は、江戸時代になるまでは「たそかれ」といい、「たそかれどき」の略でよく知られていた。夕暮れの人の顔の識別がつかない暗さになると誰かれとなく、「そこにいるのは誰ですか」「誰そ彼(誰ですかあなたは)」とたずねる頃合いという意味で日常会話でよく使われた。
今回の私の小説のテーマはこの黄昏である。
この風習は広く日本で行われている。
「おはようさんです」「これからですか」「お晩でございます。いまお帰りですか」と尋ねられれば相手も答えざるを得ず、互いに誰であるかチェックすることでヨソ者を排除する意図があったとされている。
「たそかれ」という言葉は『万葉集』に
誰そ彼と われをな問ひそ 九月の 露に濡れつつ 君待つわれそ」
— 『万葉集』第10巻2240番
と登場するが、これは文字通り「誰ですかあなたは」という意味である。
「平安時代には『うつほ物語』に「たそかれどき」の用例が現れ、さらに『源氏物語』に
「寄りてこそ それかとも見め たそかれに ほのぼの見つる 夕顔の花」
— 『源氏物語』「夕顔」光源氏
と、現在のように「たそかれ」で時間帯を表す用例が現れる。
なおこの歌は、帖と登場人物の名「夕顔」の由来になった夕顔の歌への返歌である。
またこの言葉の比喩として、「最盛期は過ぎたが、多少は余力があり、滅亡するにはまだ早い状態」をという語句の用い方をする。
漢語「|黄昏《コウコン》」は日没後のまだ完全に暗くなっていない時刻を指す。「初昏」とも呼んでいた。十二時辰では「戌時」(午後7時から9時)に相当する。
「たそがれ」の動詞化の用法。日暮れの薄暗くなり始めるころを指して「空が黄昏れる」や、人生の盛りを過ぎ衰えるさまを表現して「黄昏た人」などのように使用されることがある。
この物語はフィクションです。登場人物、団体等実際に同じであっても一切関係ありません。
それでは、小説「黄昏夫婦」をお楽しみ下さい。
読者の皆様の何かにお役に立てれば幸いです。
作家 蔵屋日唱
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
アブナイお殿様-月野家江戸屋敷騒動顛末-(R15版)
三矢由巳
歴史・時代
時は江戸、老中水野忠邦が失脚した頃のこと。
佳穂(かほ)は江戸の望月藩月野家上屋敷の奥方様に仕える中臈。
幼い頃に会った千代という少女に憧れ、奥での一生奉公を望んでいた。
ところが、若殿様が急死し事態は一変、分家から養子に入った慶温(よしはる)こと又四郎に侍ることに。
又四郎はずっと前にも会ったことがあると言うが、佳穂には心当たりがない。
海外の事情や英吉利語を教える又四郎に翻弄されるも、惹かれていく佳穂。
一方、二人の周辺では次々に不可解な事件が起きる。
事件の真相を追うのは又四郎や屋敷の人々、そしてスタンダードプードルのシロ。
果たして、佳穂は又四郎と結ばれるのか。
シロの鼻が真実を追い詰める!
別サイトで発表した作品のR15版です。
裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する
克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる