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第5話 危機
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ハリソン様は王太子に命じられて席に座り直し、食事を軽くとるとすぐに席を立った。
「それでは殿下。私はこれにて退散します」
「なんだ、おいおい。泊まっていけばよいではないか」
「まさか。お妃様との蜜夜を邪魔などできますまい」
「おいおい。何を考えておる。そんなことはせん。神から祝福を受けねばならん」
「ではおやすみなさいませ」
そういうとハリソン様はさっさと出て行ってしまった。
み、蜜夜!?
クソ王太子がこちらを見て顔を伏せる。
うおい! か、か、勘弁してくれー!
神とかよりも、同意がなければ許されない行為だぞ畜生!
「では私はベッドのシーツを変えて参ります」
「おいマギー。お前も何を考えている」
「連れて来られてお妃様も不安でいっぱいでしょう。安心させてお上げなさい」
マギーはそういって私の部屋に行ってしまった。
私は顔を青くして固まる。クソ王太子はガラにもなく恥じらって頬を赤らめていた。
「そのぅ……。まぁなんだ。安心するなら……お前の部屋で寝る? か?」
「お断りいたします」
「……そうか」
なにが「そうか」だよ。アンタに無理矢理つれてこられて、一緒に寝るとかあり得ない。どうにかこの状況から逃げなくては!
そうこうしていると、マギーが準備が整ったということで、私達の背中を押して私の部屋に。なんでだよ!
小さい部屋にクソ王太子と二人きり。ルイス様とならこの上ないシチュエーションなのに、なんでこんなガサツな男と。
王太子の手が私の肩に掛けられたので、すぐさまそれを振り払った。
「舌を噛みます!」
「おいおい。そう嫌うな」
「無理をおっしゃらないで。ルイス様との仲を引き裂いて強制的に連れて来られて妻にするなんて! やることも装いも山賊と同じですわ!」
「ま、まぁ、そう思われても仕方がないが……」
「軽はずみな気まぐれでこんなことをなさるのでしょう。こんなふうに何人の女性を手籠めにしましたの!?」
「いやそれは……、お前が初めてだ」
「は、初めて!?」
なにぃ! てっきりこうして女性をかどわかして連れてくるのかと思ったら。いや油断は出来ない。本人が言ってることなんて信用できないわ。
だいたいにして目的が分からない。ルイス様から求婚されたといった途端に豹変したのよね? ルイス様に対する競争心かしら?
「ひとつ昔話をしてもよいか?」
なに言い出すんだコイツ。昔話?
「むかしむかし、あるところに王子さまがおりました──」
はぁ!!? 本当に昔話! ふたりきりの男女がすることかよ、オイ!
「王子さまは国民から慕われ、高貴な婚約者もいて幸せに暮らしておりました」
なんだこの時間。無駄話聞こう大会になっちゃってるよ。そんでその王子さまとやらはアンタとは正反対だな。
「しかし王子さまは心から喜べませんでした。なぜなら王子さまが愛していたのは、幼い頃からそばにいた侍女だったのです」
そ れ で?
なんの話だよ。私達になんの関連性もない話だぞ?
「王子さまは、国民も婚約者も王位継承権も全てを捨てて侍女と逃げました。そして幸せに暮らしたのです」
はい。分かりました~。
「──どうだ。今の話は」
「はぁ……。良い話だとは思いますが」
「うむ。私もそう思う」
「はぁ……」
「なにか思うところがあったか?」
ねーわ! なんなんだよ、その話はよぉ。
「ありませんわ。王子と侍女の話だったとしても、私と王太子さまとは全然違う話ですもの」
「うむ。そうであろうな」
クソ王太子は、後ろ手を組んで部屋の中をグルグルと回り出した。気持ち悪い。なんなのこの人。
「うん。お前を妻としたいが、お前の心を射止める方法が分からん。なにか贈り物をしたいが、なにか欲しいものはないか?」
「それは──」
「うむ」
「解放か自由」
「いかん」
いかんのかよ。じゃあテメーに叶えて欲しい願いはねぇよ!
ん? いやちょっと待てよ?
「実は元々私はアドリー侯爵家の農奴でして」
「うむ。聞いておる」
「父母の亡き後、私は人買いに拐かされ、不安な毎日を送ってはいたものの侯爵の目にとまって幼い頃から農奴として侯爵家に入りました」
「なるほどのう」
「私の持ち物と言えば父母の形見であった指輪でした。高価なものではなさそうですが、その持ち物を侯爵は欲しがり、強引に奪われそうになったので、農地に落としたことにして、馬小屋の梁の窪みに隠しておいたのです」
「ふむふむ」
「隠した後で、なぜか養女として王宮に奉公に出されましたが、侯爵家に帰ることも叶わず、未だに形見はそのままとなっております」
「ということは、私の力をもってして、その指輪を持ってきて欲しいというわけだな」
とたんに王太子の顔は明るくなった。しかしこれは難しかろう。アドリー侯爵さまは、王太子嫌いな上、エイン大公爵派の人だわ。正面から入るのは難く、忍び込むなど高貴なお方には無理でしょう。
つまり、王太子には私へのプレゼントは出来ないということよ。
しかし王太子はきびすを返して階段を駆け下りて出て行ってしまった。こんな夜中に?
やっぱり変な人だわ……。
「それでは殿下。私はこれにて退散します」
「なんだ、おいおい。泊まっていけばよいではないか」
「まさか。お妃様との蜜夜を邪魔などできますまい」
「おいおい。何を考えておる。そんなことはせん。神から祝福を受けねばならん」
「ではおやすみなさいませ」
そういうとハリソン様はさっさと出て行ってしまった。
み、蜜夜!?
クソ王太子がこちらを見て顔を伏せる。
うおい! か、か、勘弁してくれー!
神とかよりも、同意がなければ許されない行為だぞ畜生!
「では私はベッドのシーツを変えて参ります」
「おいマギー。お前も何を考えている」
「連れて来られてお妃様も不安でいっぱいでしょう。安心させてお上げなさい」
マギーはそういって私の部屋に行ってしまった。
私は顔を青くして固まる。クソ王太子はガラにもなく恥じらって頬を赤らめていた。
「そのぅ……。まぁなんだ。安心するなら……お前の部屋で寝る? か?」
「お断りいたします」
「……そうか」
なにが「そうか」だよ。アンタに無理矢理つれてこられて、一緒に寝るとかあり得ない。どうにかこの状況から逃げなくては!
そうこうしていると、マギーが準備が整ったということで、私達の背中を押して私の部屋に。なんでだよ!
小さい部屋にクソ王太子と二人きり。ルイス様とならこの上ないシチュエーションなのに、なんでこんなガサツな男と。
王太子の手が私の肩に掛けられたので、すぐさまそれを振り払った。
「舌を噛みます!」
「おいおい。そう嫌うな」
「無理をおっしゃらないで。ルイス様との仲を引き裂いて強制的に連れて来られて妻にするなんて! やることも装いも山賊と同じですわ!」
「ま、まぁ、そう思われても仕方がないが……」
「軽はずみな気まぐれでこんなことをなさるのでしょう。こんなふうに何人の女性を手籠めにしましたの!?」
「いやそれは……、お前が初めてだ」
「は、初めて!?」
なにぃ! てっきりこうして女性をかどわかして連れてくるのかと思ったら。いや油断は出来ない。本人が言ってることなんて信用できないわ。
だいたいにして目的が分からない。ルイス様から求婚されたといった途端に豹変したのよね? ルイス様に対する競争心かしら?
「ひとつ昔話をしてもよいか?」
なに言い出すんだコイツ。昔話?
「むかしむかし、あるところに王子さまがおりました──」
はぁ!!? 本当に昔話! ふたりきりの男女がすることかよ、オイ!
「王子さまは国民から慕われ、高貴な婚約者もいて幸せに暮らしておりました」
なんだこの時間。無駄話聞こう大会になっちゃってるよ。そんでその王子さまとやらはアンタとは正反対だな。
「しかし王子さまは心から喜べませんでした。なぜなら王子さまが愛していたのは、幼い頃からそばにいた侍女だったのです」
そ れ で?
なんの話だよ。私達になんの関連性もない話だぞ?
「王子さまは、国民も婚約者も王位継承権も全てを捨てて侍女と逃げました。そして幸せに暮らしたのです」
はい。分かりました~。
「──どうだ。今の話は」
「はぁ……。良い話だとは思いますが」
「うむ。私もそう思う」
「はぁ……」
「なにか思うところがあったか?」
ねーわ! なんなんだよ、その話はよぉ。
「ありませんわ。王子と侍女の話だったとしても、私と王太子さまとは全然違う話ですもの」
「うむ。そうであろうな」
クソ王太子は、後ろ手を組んで部屋の中をグルグルと回り出した。気持ち悪い。なんなのこの人。
「うん。お前を妻としたいが、お前の心を射止める方法が分からん。なにか贈り物をしたいが、なにか欲しいものはないか?」
「それは──」
「うむ」
「解放か自由」
「いかん」
いかんのかよ。じゃあテメーに叶えて欲しい願いはねぇよ!
ん? いやちょっと待てよ?
「実は元々私はアドリー侯爵家の農奴でして」
「うむ。聞いておる」
「父母の亡き後、私は人買いに拐かされ、不安な毎日を送ってはいたものの侯爵の目にとまって幼い頃から農奴として侯爵家に入りました」
「なるほどのう」
「私の持ち物と言えば父母の形見であった指輪でした。高価なものではなさそうですが、その持ち物を侯爵は欲しがり、強引に奪われそうになったので、農地に落としたことにして、馬小屋の梁の窪みに隠しておいたのです」
「ふむふむ」
「隠した後で、なぜか養女として王宮に奉公に出されましたが、侯爵家に帰ることも叶わず、未だに形見はそのままとなっております」
「ということは、私の力をもってして、その指輪を持ってきて欲しいというわけだな」
とたんに王太子の顔は明るくなった。しかしこれは難しかろう。アドリー侯爵さまは、王太子嫌いな上、エイン大公爵派の人だわ。正面から入るのは難く、忍び込むなど高貴なお方には無理でしょう。
つまり、王太子には私へのプレゼントは出来ないということよ。
しかし王太子はきびすを返して階段を駆け下りて出て行ってしまった。こんな夜中に?
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