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転生の章 雌伏篇

第15話 コボルドの独立

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戦が始まって僅か2時間だった。
人間達は我勝われがちに敗走し、ボクの周りにコボルドの仲間たちが寄ってきて涙を流した。
戦功第一等はコボルド! その思いが。長い苦節の林の暮らしが。
我々は涙を流さずにはいれなかった。

ボクたちがむせび泣く中、ゴブリンやホブゴブリンの隊長も寄ってきて、ボクに握手を求めてきた。

「ひょ、ひょっとして、ブラウン将軍のご子息では」
「は、はい。セピアン・ブラウンが一子、チャブチ・ブラウンです」

それを聞くと、鬼族は総出で歓声を上げた!
わぁぁあ! わぁぁあ! と歓喜の嵐だった。
わずか20名でこの砦を落としたのだ!
それは英雄ブラウンの息子! 余りの熱気に照れくさくなってしまった。

しかし、オーク族は面白くなかった。
隊長のファッティはゴブリンたちを押しのけて輪の中に入ってくるなり、豚鼻を鳴らして叫んだ。

「これはなんの騒ぎだ!」

その途端、歓喜の渦はシーンと静まり返ってしまった。
しかし、普段は大人しいホブゴブリンの隊長が進み出てボクの肩を抱きながらファッティ隊長に紹介した。

「砦を落としたのはコボルド族のチャブチ副長です。ブラウン将軍のご子息。まさに再来です!」

そうみんなに聞こえるように叫んだ。
それを聞くとファッティ隊長は汚いものを見るような目でボクを睨み倒した。

「……ああ。あの淫乱の息子か」

バカにした目。軽蔑がボクを貫く。
武器を持つ腕がブルブルと震えた。

「はっはっはっは! ブタン将軍に抱かれるために我々の砦を来訪するユキの息子ではないか!」

怒りを抑えることが出来なかった。出来るはずがない。
母は……母は、ボクを、コボルド族の子供たちを育てるためにあえてその道を進まざるを得なかったんだ。我々をそんな風にしたのは誰だ!
お前たちオーク族じゃないか!
ボクは大こん棒を振り上げていた。

ボグン!

大きな音。
それはボクの頬に叩き込まれた、叔父の片腕の握り拳。
そのままボクは地面に倒れ込み気絶したようになってしまった。

……気付くとボクはコボルドの陣の中にいた。

「いてててて……」

殴られた頬を押さえて起き上がると叔父のゴールド隊長が頭を下げて謝って来た。

「スマン。チャブチ」
「いえ。つい挑発されて興奮してしまいました。叔父上がいなかったら、オークはボクを許さなかったでしょう。一族の悲願が水泡になるところでした。スイマセン」

叔父の顔が緩む。ボクも合わせて笑った。

「分ってくれたか。……ふふ。しかし、すぐ熱くなるところは義兄あにきそっくりだ」

と言ってくれた。

「殴られたところは、まだ痛むか?」
「さすがは歴戦のつわもの。いててて。当分ネズミのスープが食べれませんよ。まったく」

という声に、一同わはははと笑った。
ボクも笑い、辺りを見回すと友人たち三人の姿がない。

「あれ? チビとクロとポチの姿が見えませんね」

そういうと、叔父や他の戦士たちはニヤリと笑った。

「いち早く我らの戦功を伝えに集落に戻った。そこからすぐに都に使者が飛ぶだろう。そしたら、どうなると思う? 我ら一族は独立できるかもしれん!」
「え?」

「ふふふふふ。はっはっは!」

叔父の予想通りだった。オーク族よりも早く書状を送ったのが功を奏した。
彼らは自分たちの作戦で砦を落としたとウソの報告をねつ造したが、こちらの書面の方が早く都督の元に届き、さらにポチがホブゴブリンの隊長に、クロがゴブリンの隊長に証言と推薦状までとって合わせて提出した書面だったのだ。
もう鬼族にとってオークの幕府には嫌気が差していたのであろう。一丸となってブラウン将軍の再来を祈ってのボク推しの書簡だった。

結果、都の魔王軍都督から、我々がとった砦をコボルド族に与えボクを団長に任命するとの書状と印綬、そして碧柊章へきとうしょうと、白銀六星章はくぎんろくせいしょうという勲章が届いた。
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