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転生の章 雌伏篇
第14話 獅子奮迅
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我々鬼族は、人間の砦の1.5kmほど離れた場所に陣立てをした。
歴戦の戦士たちは手慣れたものだ。
それぞれ手で持ってきた二本の杭でぐるりと周りを囲み、ロープを巻いて簡単な塀を作った。
その中に木の枝を立てかけ、動物で作った革をかけていつもの簡単なテントを作る。
コボルドの兵士全員が入れるように大きいテントだ。
中央を掘ってかまどを作った。煮炊きしたり暖をとれる。ボクたち新兵も言われるまま、木の枝を運んだり、石を運んだりして陣立てづくりを手伝い体験した。
人間の砦は砂漠の中央に立ち、周りは水が湛えられた堀で囲まれ跳ね橋が上がっている。レンガの壁の高さは10メートルほど。中の様子は分からないので何名の兵隊がいるのか全然分からない。
そこで、叔父ゴールドはボクと他の新兵3人を呼んだ。
「今から馬に乗って丘に登り、敵の偵察にいこう」
本当の部隊であるならば偵察部隊と言うのがあるのだが、我々の規模は小さい。
隊長である叔父自らが偵察にいくから付き合えと言うものだった。
親友のクロは叔父を尊敬しており、さっと飛び出して叔父の馬と自分の馬を曳いて来た。
「おいおい。オレたちの馬は?」
「チャブチは副長といえど同列だろ。自分の分は自分で曳いて来い」
叔父は笑って自分の馬に跨がった。置いて行かれては大変とオレたち三人は馬のところまで走り、焦って二人の元へ走った。
「ハァハァ。叔父上。では参りましょう」
「行く前から息が上がるものがあるか!」
「はい。スイマセン」
叔父に叱られながらも小高い丘に登り、眼下に広がる砦を眺めた。
ここからではかなり遠い。だが、チビやポチはすぐさま軍事施設や糧秣を備蓄してある建物を言い当てた。
「そうだな。その通りだ。そして兵隊は約……」
「三千ほどでしょう」
叔父と友人たちは、それを言ったボクの顔を見る。
建物規模や動きでなんとなく分かった。
叔父はニヤリと笑った。
「その通りだ。真正面からぶつかったら数は向こうの方が多い。だが人間たちは我々を恐れている。身体能力だって我々の方がある。この戦は戦いようだな。勝つよりも負ける方が易い。それを胸に置いておけ。敵を知って我が身を知れば戦の危うさから逃れられよう」
「はい!」
ボクたちは馬の腹を蹴って山を下り、陣地に戻って行った。
次の日、オーク族の命令によって、ゴブリン族、ホブゴブリン族、コボルド族は進軍した。
ゴブリン族は手にこん棒を持ち体の大きなホブゴブリン族は手に大丸太を持って正面から攻めた。
ホブゴブリン族の怪力は舌を巻く。大丸太をレンガの壁に投げつけて破壊しようとした。
まるで鐘撞き堂の撞木。ものすごい衝撃だ。
しかし、壁はグラリと動くものの崩れたりはしなかった。かなり分厚く作っているらしい。
ゴブリン達は堀を泳いで自分の爪を利用して壁を登ろうとする。
しかし、壁の上から人間が反撃を始めた。引き絞った弓から放たれた矢がゴブリンたちを襲った。ドボンドボンと音を立ててゴブリン達が堀に落ちる。
それでもひるむことなく砦を囲むゴブリンたちも石を投げつけて応戦した。
叔父のゴールド隊長は暫く様子を見ていた。
「ふふふ。苦戦しているな。チャブチ。どうしたらいいと思う?」
ボクは『ウン』とうなって暫く考えた。
「あんなに堅固だと思いませんでした。まさかホブゴブリン族の大丸太にも耐えられる城壁だとは。しかし叔父上。兵隊はこちらに集中してますよね? 我々コボルド族は裏門から攻めたらどうなんでしょう?」
そう言うと、また叔父は『ふふふ』と笑った。
「うん。まさにその通りだ。ここはゴブリンたちに任せて我々はこっそり裏門から攻めるのだ」
我々は叔父の号令で各々駆け出した。
人間たちは砦の中は異形の鬼たちに襲われ戦々恐々だ。
目立たないようパラパラと乱雑に豆を播いたように駒を進める我々20名の部隊には気付かなかったのだろう。
ボクたちは難なく裏門にたどり着き、叔父を先頭にスッと並んで整列した。
その時になってようやく人間達は『あ!』となった。
壁には数十人の兵が集まってきて、こちらに矢を射かけてくるが、届かない場所にいるし、革の盾を高く構えて防御した。
ボクは、左右に控える幼馴染たち副長として命令した。
「チビ。攻撃力アップの魔法をみんなにかけてくれ。クロも防御魔法をみんなにかけるんだ。ポチは傷ついた仲間に回復魔法をかけてやってくれ。」
その言葉で友人たちは大きくうなずいて、歴戦の強者たちに向かって魔法をかけはじめた。
ボクはそれを見ながら大声で『アムスタラグ!』と自分自身の武器に攻撃力を高める魔法をかけた。
大きな声に驚いてチビとクロが振り返って笑った。
「はぁ、もうマジックパワー使い果たした。後は休むまで無理だな。」
「うん。すぐに終わらせてしまおう。」
ボクは、中央の跳ね橋を指さした。
「あれをボクが破壊する。そして中で大暴れしますから、叔父上はホブゴブリンやゴブリンたちを呼んできてください。兵士を分散するのです。歴戦の戦士の小父さんたちは建物に火を放ってください。しかし、多勢に無勢です。無理と見たら部隊を引いてください」
叔父たちはコクリとうなずいた。
「うむ。チャブチの作戦はよいかもしれん。ワシが本陣に走り出したら、人間達はまた何かが起こると兵を分散するで有ろうからな。じっくりと引きつけてやるよ」
そう言って叔父は馬を駆ってゴブリン達の方に向かって行った。
叔父の言った通りだった。壁の上の兵士達は分散していった。
そして叔父に向かって矢を射かけたが届く距離ではない。
叔父はわざとからかうように蛇行しながら走って行った。
それを見てボクは
「うおーーーーー!」
と吠えて、馬に鞭打って走り出し矢の雨をかいくぐった。
叔父がいたら「猪!」と怒られそうだが、今はゴブリン達の方に馬を走らせていていない。
初陣の無鉄砲さと戦場の恐怖が一緒になってボクにこんな無茶をさせたのかもしれない。
そのまま一矢も受けずに、跳ね橋の前の堀に辿り着いた。ギリギリだが大こん棒の届く距離だ。
馬から下りて大地を踏みしめ、父の形見である大こん棒を振り上げて跳ね橋に殴りつけた。
『ガチャーン』と大きな音が響き渡った。
人間たちはそう簡単に跳ね橋が落ちるもんかと思った。
ところどころ鉄製で橋の前には鉄格子のシャッターもあったのだ。
しかし、ボクの大こん棒の中には鉄芯が入っていて、膨れたところには鉄の玉がうずめられている。さらに魔法で武器がパワーアップしていた。
一撃だった。
跳ね橋はグラリと揺れると、『ガタン!』と音を立てて瓦解し、斜めになりながら堀に落ちた。
それがボクたちにとって、ちょうどいい足場になった。
ボクを筆頭に、歴戦の戦士達も幼馴染の三人も砦の中になだれこみ、めいめい暴れ出した。
砦の人間たちは騒然となった。砦は落ちた。
敵がどれだけ入り込んだかわからない。だが大きめのコボルドが大こん棒をもって大暴れしている!
ひと薙ぎで建物が何軒も破壊されてしまう。
しかも、そこかしこで火事が起こっている。これは敵わない!
人間の敵なら降伏すれば許されるかもしれない。しかし相手は魔物だ。捕まったら殺される!
人間たちはパニックになり、わぁわぁと声をあげて敵のいない門をあけて逃げ出してしまった。
ボクも無理に追わせようとしなかった。女、子供もいる。それを見て見ない振りをして逃がした。
気骨のある人間の戦士たちはボクの前に立ったが『ドン!』と足踏みすると、驚いてスッ転んで逃げ出した。
あまりの滑稽さにボクは笑ってしまった。
歴戦の戦士たちは手慣れたものだ。
それぞれ手で持ってきた二本の杭でぐるりと周りを囲み、ロープを巻いて簡単な塀を作った。
その中に木の枝を立てかけ、動物で作った革をかけていつもの簡単なテントを作る。
コボルドの兵士全員が入れるように大きいテントだ。
中央を掘ってかまどを作った。煮炊きしたり暖をとれる。ボクたち新兵も言われるまま、木の枝を運んだり、石を運んだりして陣立てづくりを手伝い体験した。
人間の砦は砂漠の中央に立ち、周りは水が湛えられた堀で囲まれ跳ね橋が上がっている。レンガの壁の高さは10メートルほど。中の様子は分からないので何名の兵隊がいるのか全然分からない。
そこで、叔父ゴールドはボクと他の新兵3人を呼んだ。
「今から馬に乗って丘に登り、敵の偵察にいこう」
本当の部隊であるならば偵察部隊と言うのがあるのだが、我々の規模は小さい。
隊長である叔父自らが偵察にいくから付き合えと言うものだった。
親友のクロは叔父を尊敬しており、さっと飛び出して叔父の馬と自分の馬を曳いて来た。
「おいおい。オレたちの馬は?」
「チャブチは副長といえど同列だろ。自分の分は自分で曳いて来い」
叔父は笑って自分の馬に跨がった。置いて行かれては大変とオレたち三人は馬のところまで走り、焦って二人の元へ走った。
「ハァハァ。叔父上。では参りましょう」
「行く前から息が上がるものがあるか!」
「はい。スイマセン」
叔父に叱られながらも小高い丘に登り、眼下に広がる砦を眺めた。
ここからではかなり遠い。だが、チビやポチはすぐさま軍事施設や糧秣を備蓄してある建物を言い当てた。
「そうだな。その通りだ。そして兵隊は約……」
「三千ほどでしょう」
叔父と友人たちは、それを言ったボクの顔を見る。
建物規模や動きでなんとなく分かった。
叔父はニヤリと笑った。
「その通りだ。真正面からぶつかったら数は向こうの方が多い。だが人間たちは我々を恐れている。身体能力だって我々の方がある。この戦は戦いようだな。勝つよりも負ける方が易い。それを胸に置いておけ。敵を知って我が身を知れば戦の危うさから逃れられよう」
「はい!」
ボクたちは馬の腹を蹴って山を下り、陣地に戻って行った。
次の日、オーク族の命令によって、ゴブリン族、ホブゴブリン族、コボルド族は進軍した。
ゴブリン族は手にこん棒を持ち体の大きなホブゴブリン族は手に大丸太を持って正面から攻めた。
ホブゴブリン族の怪力は舌を巻く。大丸太をレンガの壁に投げつけて破壊しようとした。
まるで鐘撞き堂の撞木。ものすごい衝撃だ。
しかし、壁はグラリと動くものの崩れたりはしなかった。かなり分厚く作っているらしい。
ゴブリン達は堀を泳いで自分の爪を利用して壁を登ろうとする。
しかし、壁の上から人間が反撃を始めた。引き絞った弓から放たれた矢がゴブリンたちを襲った。ドボンドボンと音を立ててゴブリン達が堀に落ちる。
それでもひるむことなく砦を囲むゴブリンたちも石を投げつけて応戦した。
叔父のゴールド隊長は暫く様子を見ていた。
「ふふふ。苦戦しているな。チャブチ。どうしたらいいと思う?」
ボクは『ウン』とうなって暫く考えた。
「あんなに堅固だと思いませんでした。まさかホブゴブリン族の大丸太にも耐えられる城壁だとは。しかし叔父上。兵隊はこちらに集中してますよね? 我々コボルド族は裏門から攻めたらどうなんでしょう?」
そう言うと、また叔父は『ふふふ』と笑った。
「うん。まさにその通りだ。ここはゴブリンたちに任せて我々はこっそり裏門から攻めるのだ」
我々は叔父の号令で各々駆け出した。
人間たちは砦の中は異形の鬼たちに襲われ戦々恐々だ。
目立たないようパラパラと乱雑に豆を播いたように駒を進める我々20名の部隊には気付かなかったのだろう。
ボクたちは難なく裏門にたどり着き、叔父を先頭にスッと並んで整列した。
その時になってようやく人間達は『あ!』となった。
壁には数十人の兵が集まってきて、こちらに矢を射かけてくるが、届かない場所にいるし、革の盾を高く構えて防御した。
ボクは、左右に控える幼馴染たち副長として命令した。
「チビ。攻撃力アップの魔法をみんなにかけてくれ。クロも防御魔法をみんなにかけるんだ。ポチは傷ついた仲間に回復魔法をかけてやってくれ。」
その言葉で友人たちは大きくうなずいて、歴戦の強者たちに向かって魔法をかけはじめた。
ボクはそれを見ながら大声で『アムスタラグ!』と自分自身の武器に攻撃力を高める魔法をかけた。
大きな声に驚いてチビとクロが振り返って笑った。
「はぁ、もうマジックパワー使い果たした。後は休むまで無理だな。」
「うん。すぐに終わらせてしまおう。」
ボクは、中央の跳ね橋を指さした。
「あれをボクが破壊する。そして中で大暴れしますから、叔父上はホブゴブリンやゴブリンたちを呼んできてください。兵士を分散するのです。歴戦の戦士の小父さんたちは建物に火を放ってください。しかし、多勢に無勢です。無理と見たら部隊を引いてください」
叔父たちはコクリとうなずいた。
「うむ。チャブチの作戦はよいかもしれん。ワシが本陣に走り出したら、人間達はまた何かが起こると兵を分散するで有ろうからな。じっくりと引きつけてやるよ」
そう言って叔父は馬を駆ってゴブリン達の方に向かって行った。
叔父の言った通りだった。壁の上の兵士達は分散していった。
そして叔父に向かって矢を射かけたが届く距離ではない。
叔父はわざとからかうように蛇行しながら走って行った。
それを見てボクは
「うおーーーーー!」
と吠えて、馬に鞭打って走り出し矢の雨をかいくぐった。
叔父がいたら「猪!」と怒られそうだが、今はゴブリン達の方に馬を走らせていていない。
初陣の無鉄砲さと戦場の恐怖が一緒になってボクにこんな無茶をさせたのかもしれない。
そのまま一矢も受けずに、跳ね橋の前の堀に辿り着いた。ギリギリだが大こん棒の届く距離だ。
馬から下りて大地を踏みしめ、父の形見である大こん棒を振り上げて跳ね橋に殴りつけた。
『ガチャーン』と大きな音が響き渡った。
人間たちはそう簡単に跳ね橋が落ちるもんかと思った。
ところどころ鉄製で橋の前には鉄格子のシャッターもあったのだ。
しかし、ボクの大こん棒の中には鉄芯が入っていて、膨れたところには鉄の玉がうずめられている。さらに魔法で武器がパワーアップしていた。
一撃だった。
跳ね橋はグラリと揺れると、『ガタン!』と音を立てて瓦解し、斜めになりながら堀に落ちた。
それがボクたちにとって、ちょうどいい足場になった。
ボクを筆頭に、歴戦の戦士達も幼馴染の三人も砦の中になだれこみ、めいめい暴れ出した。
砦の人間たちは騒然となった。砦は落ちた。
敵がどれだけ入り込んだかわからない。だが大きめのコボルドが大こん棒をもって大暴れしている!
ひと薙ぎで建物が何軒も破壊されてしまう。
しかも、そこかしこで火事が起こっている。これは敵わない!
人間の敵なら降伏すれば許されるかもしれない。しかし相手は魔物だ。捕まったら殺される!
人間たちはパニックになり、わぁわぁと声をあげて敵のいない門をあけて逃げ出してしまった。
ボクも無理に追わせようとしなかった。女、子供もいる。それを見て見ない振りをして逃がした。
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