コボルド将軍の息子 ──チャブチ

家紋武範

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転生の章 雌伏篇

第13話 初陣

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結婚式が終わって数日が立った。

また共有の広場には人だかりが出来ている。
中央にはボクが立っている。
そこへ叔父のゴールド隊長が装飾された見事な革の盾を持ってボクの前に立っていた。
ボクの腰には義父のシルバー隊長が跪いて鉄の大剣の鞘をベルトに装着している。
そして、歴戦の戦士が二人がかりで父が使っていた大こん棒をボクに渡した。
ボクはそれを軽々と手に取って、風車のように回して柄を地面にドンとつけ格好をつけた。
その瞬間、一族から歓声が上がる。
族長であるシルバー隊長も口の端を上げて微笑んでいた。

「うむ。偉丈夫。よい男ぶりだ」

だが叔父ゴールドは一人残念そうな顔をした。

「鉄の盾を用意したかったが……。我が一族にそれだけの蓄えはない。スマン」

そう言って、我が集落の中で一番新品で出来の良い革の盾を渡してきた。

「いいんだ。ありがとう。これには職人の小父さん達の真心が入ってるもの。鉄の盾なんてそれにくらべりゃ弱い弱い」
「こいつ……」

ボクたちは一族総出でその場で笑い合った。


先日、オーク族の砦より使者が来て、人間の砦を落とすので出陣せよと高飛車な命令書を持ってきたのだ。
そこで、ボクの初陣ということになった。
ブタン将軍が砦に入ってよりそれなりに人間の集落は壊滅させたものの、砦とか関所とか城とか落とすという大功はなかったのだ。それがための大号令。
鬼族が一丸となって人間の要衝である砦を陥落させるというものだった。
はっきり言って、父ブラウンに比べれば見劣りする将軍だ。だが、魔王軍としては反乱も起こさせない政治力のある優秀な将軍という見方が強かった。ホントは恐怖で服従させるだけの癖して。

だがここで、我々コボルド族が戦功をあげれば魔王軍にも聞こえがいいだろう。
オーク族から独立できるかもしれない。そんな思いをこめ、王都に向かって使者を飛ばした。

「此度の戦は亡きブラウン将軍のご子息が出陣いたします。これによって戦功をあげしときには我々コボルド族が独立できますよう取り計らいをお願いいたします」

との文面だった。それを見た軍事の最高位である都督は、コボルド族の使者を待たせ、その場で返書をしたためたらしい。都督より預かった返書をシルバー隊長が開いてみると「善処する」との内容だった。みんな一様に喜んだ。でも、ボクの心の中は緊張していた。

重責だ。初めての戦だっていうのに。うかれてはいられない。
コボルドの独立がかかっている。
それに相手は人間だ。昔はボクも転生前は人間だった。
そんなボクが人間相手に戦えるのか?
感情的になってしまうのではないか?
それが心配だ。

やがて叔父のゴールドを隊長としたコボルドの一隊が出陣した。
母ユキや若妻のピンクは集落の入り口でいつまでも手を振っていた。
ボクも何度も振り返って手を振った。

ふと見るとボクたちの部隊は、貧相な貧乏部隊だった。
ホントに精一杯の部隊だ。もうこれ以上の部隊は編制できない。
片腕しかない叔父のゴールドを先頭に、副長のボク。チャブチ・ブラウン副長。
そして、歴戦の戦士が15名。昔から遊んでいる友人の新兵が3名。計20名。

それに比べてゴブリン族は500名の大部隊。
ゴブリンの亜種で体の大きなホブゴブリンの軍勢が300名。
鬼族の中では優遇されたオークの軍勢が300名。
しかし、ゴールド隊長の話しではオーク軍は後ろに控えて動くことはないだろうとのことだった。

なるほど。しかし他に比べれば我々の規模は全然小さい。
独立した軍と認められるのが唯一の温情かも知れない。

「たしかに、我々の軍は小さい。しかし、チャブチの魔法もあるからな」

叔父ゴールドはそう言いながらニヤリと笑った。

そうだ。たしかに、ボクには魔法がある。いや、ボクたちと言った方がいいかもしれない。
ボクの友人の三名もエルフのホーリーに一緒にならったのでボクほどではないけどそれなりに使えるのだ。
防御魔法が使えるクロ。攻撃力を高める魔法を使えるチビ。回復魔法を使えるポチ。
ボクは全部使える。コボルド軍は20名だけだ。叔父なんて腕がないものだから戦えなくて戦略だけ。
でも魔法を使えることによってみんな10人力になれる。200名くらいの力があるんだ!
……と思いたい。

そして、コボルド族は他の鬼族と違って騎馬戦が出来る。体型が人間に近いので馬に乗れるのだ。
まぁ、ボクの体は普通のコボルドより大きいけど、まだ馬に乗って戦える。いざとなったら下りるまでだ。

「一人も死ぬなよ。たった一人の死はコボルドの破滅だ。みんな進むばかりが勇気じゃない。知恵をもって戦い、危なくなったら一族のために逃げるんだ!」

叔父ゴールドがみんなを鼓舞するその言葉は、まだ若い新兵であるボクたちの心を少しばかり安心させてくれた。
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