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転生の章 雌伏篇
第12話 幼い夫婦
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ボク、チャブチは12歳になった。
その日の夕方、母親のユキがコボルドの伝統衣装に着替え久しぶりにうれしそうな顔をしていた。
別に祭りの日でも、父母の結婚記念日でも、父の命日でもない。
「お母さんどうしました? うかれてますね?」
ボクは珍しい母の行動がかえって訝しく思えた。
オークと何かがあったのかと変に勘ぐってしまった。
しかし、母は「フフ」と笑ってボクの手を引いて集落の中央に連れて行った。
「どうしたの? お母さん。なにが起こるの?」
「いいから。いいから」
すると、夕食前だと言うのに共有の広場には人が集まっていた。
本当に祭りの日じゃないかったかどうか自分の頭で確認したが、どの日にも当たっていない。全く以て不思議な様子だった。
母にその中央に立たせられると、シルバー隊長の家から白い衣装を着たボクと同い年の娘、ピンクが出てきた。
プードル顔で桃色の体毛に頭頂部に短い角が五本。身長は150㎝ほどで小柄なカワイイ娘。昔からの遊び友達だ。
「あれ? ピンク。なんだよ。無駄に着飾って」
いつもの調子だとボクの頬に平手打ちをするのだ。
ボクはそれを受けてフフフと笑うつもりだった。
しかし、彼女はボクの前で跪いた。
「チャブチ。本日よりお側に仕えさせてください。」
「え?」
戸惑うボクをよそに集落の者たちが全員拍手し、いなかったものも家の中から出てきて彩り豊かな野の花の花びらを撒いた。
「え? え? え?」
エルフのホーリーは司祭の格好をしてボクたちの前に嬉しそうに立って結婚の見届け人だと言った。
「え? 結婚!?」
当事者のボクは何も聞かされていない。
それにボクたちは12歳なのに?
ピンクは恥ずかしそうにボクの横に立つと、シルバー隊長とゴールド隊長も拍手しながら話し始めた。
「たしかに、まだ早い。チャブチはまだ12歳だ。だがな、もう一族の長として戦場に立てる実力を持った。結婚し、たくさん子供を生し、ブラウン家を隆盛させるのだ。」
その言葉に一族が盛大に拍手をする。
ボクは恥ずかしそうにピンクの顔を見ていた。
一族はもう死に体だ。オークに汚されていない年頃の女なんていない。
ピンクがそうなる前に汚れない二人を……と言うことなのかもしれない。
結婚の儀式が始まった。
一族にしては精一杯の豪華なごちそうだった。
みんな一人一人に焼きたての柔らかい白い丸パンと、川魚のフライ、甘い豆の煮物、ネズミの羹。
ブルドッグ顔のブル小母さんが、声を大きく張り上げた。
「なんと! 罠に三羽もかかってた!」
そう。そこには野ウサギの丸焼きが出て来た。みんなで歓声を上げるほど。
ボクはこんなご馳走を一日で食べなくてもいいのにと貧乏がしみついた考えをしていた。
ブル小母さんは、肉切り包丁をふるって焼き肉をみんなに小さく切り分けて皿に盛り付けた。
ボクは伝統の通りに彼女の後ろに回って彼女の尻尾を上げ、下がらないように腰を密着させた。
肩と腰に手を添えて首筋に甘噛みした。その瞬間に一族から「わっ」と歓声と拍手が沸き起こる。
彼女はそのままの姿勢でボクの両手に触れた。
コボルド族の子孫繁栄を示す儀式様式だ。この首筋に噛みつくというのは儀式でもあるが、コボルドにとってはお互いに性的な興奮が沸き上がる行動なのだ。
結婚は成立し、宴が始まった。
ボクたちは手を取り合って用意された新居に入って行った。
新しい大きなテント。最近木を切って日当りの良い場所を作っていたのはこのためだったのか。
ボクたちは、照れながら初夜を迎え枕を共にした。
一つの寝台に横になり、二人して天井を見つめていた。
彼女が小さく睦言を呟く。
「チャブチも……大きくなったね」
そういいながら、ボクの垂れた耳を触っていた。
「まぁね。一族の重責を背負ってる身としては、父の遺伝子を引き継げてよかったよ」
「……私達これからどうなっちゃうのかな?」
彼女はひと呼吸置いて、誰しもが思っている心配事を声に出した。
ボクは、彼女までオークの慰み者にされるのが怖かった。
無言で彼女の首筋に噛みつきもう一度彼女を抱いた。
何度も何度も快楽を繰り返して不都合なことを忘れようとした。
彼女はそんな中で一粒涙を流した。
朝方、彼女は立ち上がって花嫁の持参品から二つの道具を出してきた。
「これ……。父からもらったの」
それは短刀だった。婚礼には不吉なものだ。
しかし彼女は続ける。
「もしもオークに襲われて、生まれ来る子供がチャブチの子かオークの子か分からないようなら自分の命を絶つように……って」
そして、黙って出したもう一つの持参品は薬瓶で中に透明な液体が入っていた。
「短刀で死ねない時は、この薬で死ぬようにって。ホーリーさんが作った毒薬……」
ボクは目にたくさん涙をたたえながら、彼女を抱き締めた。
「死なせない。死なせるもんか!」
「……うん。信じてるよ。チャブチのこと……。ブラウン将軍の子だもの。ね」
彼女もまた一族の重責を背負う。汚される前に死ぬのだ。
ボクはやらなくちゃならない。
将軍への道を。
その日の夕方、母親のユキがコボルドの伝統衣装に着替え久しぶりにうれしそうな顔をしていた。
別に祭りの日でも、父母の結婚記念日でも、父の命日でもない。
「お母さんどうしました? うかれてますね?」
ボクは珍しい母の行動がかえって訝しく思えた。
オークと何かがあったのかと変に勘ぐってしまった。
しかし、母は「フフ」と笑ってボクの手を引いて集落の中央に連れて行った。
「どうしたの? お母さん。なにが起こるの?」
「いいから。いいから」
すると、夕食前だと言うのに共有の広場には人が集まっていた。
本当に祭りの日じゃないかったかどうか自分の頭で確認したが、どの日にも当たっていない。全く以て不思議な様子だった。
母にその中央に立たせられると、シルバー隊長の家から白い衣装を着たボクと同い年の娘、ピンクが出てきた。
プードル顔で桃色の体毛に頭頂部に短い角が五本。身長は150㎝ほどで小柄なカワイイ娘。昔からの遊び友達だ。
「あれ? ピンク。なんだよ。無駄に着飾って」
いつもの調子だとボクの頬に平手打ちをするのだ。
ボクはそれを受けてフフフと笑うつもりだった。
しかし、彼女はボクの前で跪いた。
「チャブチ。本日よりお側に仕えさせてください。」
「え?」
戸惑うボクをよそに集落の者たちが全員拍手し、いなかったものも家の中から出てきて彩り豊かな野の花の花びらを撒いた。
「え? え? え?」
エルフのホーリーは司祭の格好をしてボクたちの前に嬉しそうに立って結婚の見届け人だと言った。
「え? 結婚!?」
当事者のボクは何も聞かされていない。
それにボクたちは12歳なのに?
ピンクは恥ずかしそうにボクの横に立つと、シルバー隊長とゴールド隊長も拍手しながら話し始めた。
「たしかに、まだ早い。チャブチはまだ12歳だ。だがな、もう一族の長として戦場に立てる実力を持った。結婚し、たくさん子供を生し、ブラウン家を隆盛させるのだ。」
その言葉に一族が盛大に拍手をする。
ボクは恥ずかしそうにピンクの顔を見ていた。
一族はもう死に体だ。オークに汚されていない年頃の女なんていない。
ピンクがそうなる前に汚れない二人を……と言うことなのかもしれない。
結婚の儀式が始まった。
一族にしては精一杯の豪華なごちそうだった。
みんな一人一人に焼きたての柔らかい白い丸パンと、川魚のフライ、甘い豆の煮物、ネズミの羹。
ブルドッグ顔のブル小母さんが、声を大きく張り上げた。
「なんと! 罠に三羽もかかってた!」
そう。そこには野ウサギの丸焼きが出て来た。みんなで歓声を上げるほど。
ボクはこんなご馳走を一日で食べなくてもいいのにと貧乏がしみついた考えをしていた。
ブル小母さんは、肉切り包丁をふるって焼き肉をみんなに小さく切り分けて皿に盛り付けた。
ボクは伝統の通りに彼女の後ろに回って彼女の尻尾を上げ、下がらないように腰を密着させた。
肩と腰に手を添えて首筋に甘噛みした。その瞬間に一族から「わっ」と歓声と拍手が沸き起こる。
彼女はそのままの姿勢でボクの両手に触れた。
コボルド族の子孫繁栄を示す儀式様式だ。この首筋に噛みつくというのは儀式でもあるが、コボルドにとってはお互いに性的な興奮が沸き上がる行動なのだ。
結婚は成立し、宴が始まった。
ボクたちは手を取り合って用意された新居に入って行った。
新しい大きなテント。最近木を切って日当りの良い場所を作っていたのはこのためだったのか。
ボクたちは、照れながら初夜を迎え枕を共にした。
一つの寝台に横になり、二人して天井を見つめていた。
彼女が小さく睦言を呟く。
「チャブチも……大きくなったね」
そういいながら、ボクの垂れた耳を触っていた。
「まぁね。一族の重責を背負ってる身としては、父の遺伝子を引き継げてよかったよ」
「……私達これからどうなっちゃうのかな?」
彼女はひと呼吸置いて、誰しもが思っている心配事を声に出した。
ボクは、彼女までオークの慰み者にされるのが怖かった。
無言で彼女の首筋に噛みつきもう一度彼女を抱いた。
何度も何度も快楽を繰り返して不都合なことを忘れようとした。
彼女はそんな中で一粒涙を流した。
朝方、彼女は立ち上がって花嫁の持参品から二つの道具を出してきた。
「これ……。父からもらったの」
それは短刀だった。婚礼には不吉なものだ。
しかし彼女は続ける。
「もしもオークに襲われて、生まれ来る子供がチャブチの子かオークの子か分からないようなら自分の命を絶つように……って」
そして、黙って出したもう一つの持参品は薬瓶で中に透明な液体が入っていた。
「短刀で死ねない時は、この薬で死ぬようにって。ホーリーさんが作った毒薬……」
ボクは目にたくさん涙をたたえながら、彼女を抱き締めた。
「死なせない。死なせるもんか!」
「……うん。信じてるよ。チャブチのこと……。ブラウン将軍の子だもの。ね」
彼女もまた一族の重責を背負う。汚される前に死ぬのだ。
ボクはやらなくちゃならない。
将軍への道を。
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