コボルド将軍の息子 ──チャブチ

家紋武範

文字の大きさ
20 / 47
転生の章 雌伏篇

第19話 ピンク急変

しおりを挟む
続いて、立食による会食が始まった。新団長とその家族、都督閣下も入った。ボクは母に促されて都督閣下に忘れていた貢ぎ物の目録を手渡すと大変に喜んでくれた。

「ほお! コボルドの革製品はいいものばかりだからな。実はな、ワシの今の馬の鞍はセピアンが作ったものなのだ。お前の父がな。しかし最近は少しくたびれてしまったところだったのだ。よかった」
「え? 父がですか?」

「そうだ。あやつは戦争も得意だったが、コボルドの革づくりも大変上手だった」

ボクが母に顔を向けると、昔からしている黒い革の首輪が見えた。あれは父ブラウンが結婚の際に自分で作った革の首輪を贈ったものなのであろう。
都督が父の作った鞍を大事にしていることも、母が今でも父の革の首輪をしていることが、すごくうれしくなった。

ピンクは見たこともない料理に舌鼓を打っていた。

「ねね。ブラウン団長閣下。これってなんのお肉なのかな?」
「なんだろうな? 大蛇かなぁ? 美味しいね」

とやっていると、若い僕たちが珍しいのか他の新団長たち四人も近づいてきて話し掛けてくれた。そもそも、新団長の親睦のための会食だ。
こうして顔なじみになって連携するのが目的なのだろう。

亜人のリザードマン。二足歩行した大トカゲ。身長は2メートルほどで、いつもは二本帯刀しているらしい。
亜人のラミア。人間の目からすれば美人な顔立ちだが下半身は大蛇。精神を狂わす術が得意らしい。これはえげつない。勇者たちを同士討ちさせた功績らしい。
鎧で固められた甲冑の騎士。中身はなにが入ってるか分からない。ずっと無言だが魔王様の話には答えていた。居合抜きが得意らしい。食事はするのかなぁ?
魔族のレンボル団長。歳は一番近い。実力者であっという間に団長の地位まで上り詰めたそうだ。

一番最初に話し掛けてくれたのはリザードマンの団長だった。

「ほ、ほう。ブラウン将軍のご子息か。父君には大変お世話になりまして。私はゲッコウと申します」

続いてラミアの団長らピンクの横から話し掛けた。

「私はカミラ。へぇ! カワイイ奥さんね。でも二人とも若くない? いくつ?」
「あ。チャブチ・ブラウンです。こっちは妻のピンク。お互いまだ12の子供でして。無礼がありましたらスイマセン」

そう言うと、ゲッコウさんとカミラさんは顔を見合わせた。
   
「へぇ! すごい!」
「ふむふむ。ブラウン将軍もまだお若かったですものな。ご子息はまだ12ですか。それで団長とは異例の出世ですな」

「あ、ありがとうございます」

甲冑の騎士さんも、無言だが肩に手を乗せてくれた。

「あ、ど、どうも」
「…………ブラウン 将軍には 良くして いただいた」

「あ、そうなんですか。ボクは父の記憶が余りなくて」
「偉大な 方」

「へぇ……。皆さんそうおっしゃいます」
「ふ ふ ふ ふ」

少し不気味だった。
そして、レンボル団長。魔族であっという間に上り詰めたとは思えない気さくな方だった。

「ドラゴンの肉が気に入ったようで」
「え? これドラゴンなんですか?」

「ええ。家畜用の肉竜ですが、美味しいでしょう?」
「すごい美味しいです。我々は貧しい出身なので……」

「へぇ。普段はどんなもの食べるの?」
「ああ、妻が作る蛙の唐揚げとか、粟の粥に、虫のミルク煮とか好きですね」

「ええ!?」

みんな引いてしまった。美味しいのに。
ピンクは気にせず受け答えた。

「コボルド族は今は貧しいし、このドレスもゴブリンの隊長の家から借りたものなんですけどね、ブラウン団長がきっと導いてくれます。私はそれについていくだけです」

その凛とした態度を団長たちは讃えてくれた。

レンボル団長がボクの肩を抱いて話す様は、まるで古くからの友人のようだった。

「君とは歳も近そうだ。仲良くしようじゃないか」
「ええ。レンボル団長がそうおっしゃられるのはこちらも望むところです」

「君の将来の夢は?」
「はぁ。将軍となって、一族を導くことです」

「ほう。きっとなれるさ」
「あ、ありがとうございます」


パーティーも進み、またリザードマンのゲッコウ団長が近づいてきてボクの体を見た。

「ふむ。コボルド族は騎馬の戦もするようですが、その大きな体では騎馬戦が難しくなるでしょう」
「はい。最近は貴重な馬も乗り潰してしまって。貧乏をしているもので思案に暮れているところです」

「そうでしょう! 昔、ブラウン将軍に贈りそびれてしまいましたが我が部族が育てている巨馬を贈呈しましょう。なに。昔、父君にお世話になったお礼です」
「ほ、本当ですか? これは心強い。我々もゲッコウ団長に革製品の進物をお礼に贈らせて頂きます」

「うおー! 嬉しい! コボルドの革製品は有名ですからな。楽しみにしております」

ゲッコウ隊長は2頭の巨馬を贈る約束をしてくれた。
ボクも帰ったらコボルド族の革製品の馬具をお礼に贈ると言うととても喜んでいた。
父の築いた文化がこう喜んでもらえるのは嬉しいことだ。

式典も終わり、ボクたちは都のホテルに一晩泊まり、帰路についた。
あと砦まで一日という道程で、ピンクの容態が悪くなってしまった。
不調を訴え、馬車の床に横になったと思うと、げぇげぇと言って吐瀉としゃし、そのうち何もでなくなって、黄色い胃液まで吐き出した。めまいがするようで天も地も分からぬような感じになってしまったのだ。
彼女のピンク色の体色が徐々に青白くなってゆく。
馬車に酔ったのか?
ボクは彼女の体をさすり、ただ馬車を急がせるしかなかった。

砦の屋敷に付き、家政婦に彼女を託すとボクは走ってエルフのホーリーの屋敷に行って彼女を背負ってピンクを見てくれるよう頼んだ。彼女はピンクの脈をとり、頭や胸に手を当てて緑色の薬湯を飲ませてから、ボクの方を見てこういった。

「ピンクがこうなったのは団長閣下。あなたのせいよ?」

ボクはその意味が何が何だかさっぱりわからず、ひざまずいて彼女に直してくれるように頼んだ。

「ピンクのお腹の中で大暴れしている不埒者がおるのです」
「先生。そ、それはなんですか? ばい菌ですか? どうすれば治ります?」

彼女はたまらなくなったのかフフと声に出して笑った。

「それは、あなたの子供です。悪阻つわりですよ。時期がくれば治ります。ふふ。チャブチ。おめでとう」
「え?」

ホーリーはコクリとうなずいた。

「え? え? え? え? ウソ! やったぁ!」

ピンクは具合を悪そうにしていたが、かまわずボクは寝ている彼女に抱きすがった。
彼女は力無くだが嬉しそうに笑った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

女帝の遺志(第二部)-篠崎沙也加と女子プロレスラーたちの物語

kazu106
大衆娯楽
勢いを増す、ブレバリーズ女子部と、直美。 率いる沙也加は、自信の夢であった帝プロマット参戦を直美に託し、本格的に動き出す。 一方、不振にあえぐ男子部にあって唯一、気を吐こうとする修平。 己を見つめ直すために、女子部への入部を決意する。 が、そこでは現実を知らされ、苦難の道を歩むことになる。 志桜里らの励ましを受けつつ、ひたすら練習をつづける。 遂に直美の帝プロ参戦が、現実なものとなる。 その壮行試合、沙也加はなんと、直美の相手に修平を選んだのであった。 しかし同時に、ブレバリーズには暗い影もまた、歩み寄って来ていた。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...