コボルド将軍の息子 ──チャブチ

家紋武範

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転生の章 チャブチ篇

第42話 団長の再婚

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それからひと月、チャブチは団長としての政務が終わると大きな自宅の小さな書斎に入り、鹿の皮から余分な脂肪や肉を取り除いてなめす作業をしていた。
それに一つ一つ小さなターコイズを埋め込み、銀の装飾を付けたりしていた。

やがてそれが完成すると、団長専用の六頭立ての馬車を進ませてシルバー副団長の屋敷の前に停めた。
団長の制服に身を包んで馬車から降り立ち、彼の家に行き門を叩くとシルバーは彼を迎え入れた。

「どうしました? 団長。正装なぞをして。今、ピンクに茶を持ってこさせよう」
「は、はい」

シルバーの目にはなぜか落ち着きのない様子のチャブチ。
シルバーが話し掛けても、奥の扉ばかり見て上の空の様子にますますいぶかしく思った。
やがて呼ばれてピンクは奥から顔を出しお茶を持って来た。チャブチは立ち上がってシルバーとピンクの前にひれ伏した。

「シルバー副団長閣下。どうかお嬢さんを私めに下さいませんか? 必ず必ず幸せに致しますから!」

そう言うと、シルバーもピンクもその場で泣き出してしまった。


シルバーは声をつまらせながら机を大きく叩いた。

「ふん! キミは信用できない男だ。また娘をないがしろにするかもしれん。だが、出戻りの娘と孫六人に手を余していたところだ。すぐにでも連れて行ってくれ!」

そう言うと、目頭を押えながら奥に引っ込んでいってしまった。
チャブチは泣いているピンクの背中にそっと寄り添った。

「ピンク。迎えに来たんだ。なぁ。再婚相手が決まってないなら、もう一度ボクにチャンスをくれないか? 側室もみんな家に帰したよ。ジュンは屋敷に残っているがキミの妹になりたいそうなんだ。だからあれからひと時も会っていない。彼女も君を待っている」

彼女は振り向いて、彼の厚い胸板を叩いた。

「もう! こんな遠回しなことをして!」
「え? ……う、うん」

「今、子供たちを呼んできます」
「あ、う、うん」

彼はモジモジしながら、子供とピンクのことを待った。
子供たちは久しぶりに会う父に駆け寄り、抱きすがった。

「じゃ、みんな! お屋敷に帰りましょう!」

ピンクが言うと、子供たちは六頭立ての馬車に乗り込んだ。
ばあやまで乗り込むと車の中は満席となった。
チャブチは御者に、

「子供とばあやだけ連れて帰ってくれ。ボクは彼女と散歩しながら帰る」

と言って馬車を出させた。


そして、ピンクと手をつないで屋敷まで歩いて行くことにした。
途中、大きな時計台のある公園につくと、チャブチはピンクをベンチに座らせ、ゴブリンが経営している屋台から骨付きのホットドックを二つ買って彼女に一つ渡し、その隣に座って二人で食べた。

「団長服を汚さないでくださいよ?」
「おお、そうだな。」

と、前のめりになりながら二人して暖かい昼の日差しを浴びて昼食をとった。

「もう、これって再婚の記念すべき第一回目の食事じゃない。それが骨付きのホットドックだなんて。ホントに昔から変わらないのね」

そう言われてチャブチは慌てて、喉に骨を詰まらせ目を白黒させた。胸を叩いてどうにか難局を切り抜けた。

「あ、あ、あ、ご、ゴメン」

彼女はフッと笑い、

「もう、私がいなかったら何にもできないくせに家に帰すだなんて」

それにチャブチも笑った。

「ホントだよ。家政婦も勝手がわからず、下着やシャツがどこにあるのか? この城にきて初仕事に遅れてしまって、また義父上ちちうえに怒られたよ。」

と言うと、彼女は口をおさえてコロコロと笑った。それをチャブチは微笑みながら見つめ

「キミの食べているところが好き。笑っているところが好き。怒っているところだって」

と言うと、ピンクは目に涙を浮かべた。

「……じゃぁ、この顔は?」

と聞くと、彼は

「もちろん。大好きさ!」

すると、彼女は彼に平手打ちをした。

「まぁ! この顔が見たいからってもう泣かせないでよ?」

彼は笑って

「ふふ。うん。うん」

と答えながら立ち上がり、ポケットに手を突っ込んで何かを取り出し、彼女に見せた。

革で作った首輪だった。
一度、ボクは彼女に銀細工の首輪を送ったことがあった。
コボルドにとって女性に贈る首輪は人間でいう婚約指輪のようなものだ。
それを青年になるころに手作りの革首輪を好きな女性に贈るのが伝統なのだ。

「最初の時は突然だったし、すぐに戦地に赴いて団長就任。そこで買った銀細工だったけど、今度はちゃんと自分で作った革首輪だよ。キミがいない一か月、時間があったので自分でなめしたんだ。受け取ってくれるかい?」

彼女は喜んで

「とうとう作ってくれたのね! 憧れだったの!」

チャブチは彼女の後ろに回って細い首に革首輪を付け終わると満を持してこう言った。

「結婚してください」

彼女の言葉は決まっていた。

「お受けします。」

二人で顔を見合わせて微笑みあった。
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