転移先の人妻に恋をした!

家紋武範

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第二話 俺の奥さん

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 泣き濡れている奥さんの頬に手を伸ばしてその涙を優しく拭ってやった。

「大丈夫。なにも心配いらないよ。……えーと」

 な、名前! あなたのお名前なんてーの? うぉい! 神様! もっと情報を!

 そーだ。魂を入れ換えたとしても、金を持ってる、奥さんがいるしか情報がわからないぞ?
 とりあえず常夜灯の僅かな明かりで辺りを見回す。ベッドは……セミダブルか。飾り気がない。つまりここは男の部屋。ということは日之出光朗氏の部屋か。

 うぉい。日之出氏。せっかく夫婦なんだからダブルベッドに一つ寝しろよなぁ~。こんな可愛い奥さんと別部屋で寝てんの? もったいない。俺なら毎晩愛しちゃう。

 えーと他には……。いやもう泣いてる奥さんしかいない。可愛い奥さん。

 パジャマ──。

 あれ? 日之出氏は夫婦生活の上、心臓発作とかで亡くなったんじゃないの? 奥さんは服を着てる?



 その途端、全身が粟立った。奥さんの手には大きな枕があったのだ。
 日之出氏の枕は、今俺の頭の下にある。つまり彼女は自分の寝室から自身の枕をもってきて、日之出氏の顔に押し付けた──。

 俺は驚いて彼女を押しどかした。そして素早く起き上がると扉を開けて泣いている彼女を部屋の外へと押し出したのだ。



 日之出氏の……。決められた運命は妻に殺される。そういうことだったのだ……。





 寝られるわけがなかった。俺は部屋に鍵をかけて奥さんの侵入を防ぎ、スマホで情報を集めようとした。

 日之出氏のスマホは指紋認証だった。パターン認証だったら危なかった。
 電話帳を開く。“は行”の日之出のところに、日之出有希ゆきの項目がある。つまり、これが奥さんか? いや、彼のお母さんか姉妹かもしれない。

 手探り状態だ。そもそも日之出氏はなぜ殺されなくてはならないのだろう。
 あの奥さん、可愛い顔して恐ろしすぎるだろ。

 ともかくこんなところにいられないぞ? 二人の間に子どもはいるのかな? もしもいるなら放ってはおけない。

 片付いた部屋の中には観葉植物。その脇にゴルフクラブバッグがあった。日之出氏はいい生活をしていたのであろう。奥さんは可愛いし、金は持ってるしうらやましい。
 とりあえず護身用にゴルフクラブバッグの中からドライバーを引き抜き、家の中を探索しよう。
 いや彼女が出て来ても殴るつもりはない。でも威嚇や抑止にはなるだろう。



 そっと扉を開け辺りを見回す。一戸建てだ。廊下も広い。ここは二階。吹き抜けタイプで一階にはリビングとキッチンが一体型。廊下は広いけど部屋数が多いわけじゃなく、小さな家みたいだな。
 日之出氏の隣にまた扉。そっちからすすり泣く声が聞こえるってことは奥さんの部屋だな。
 ここであの奥さんと暮らしてるのかよ~。うらやましい!

 いや、うらやましがってる場合じゃない。奥さんは俺を殺そうとした。
 でも子ども部屋はないみたいだ。二階に二部屋。一階にはリビングとキッチン、お風呂、トイレの間取りか……。

 もしも子どもがいるなら、奥さんの部屋ってことだよな。くー。もしもすでに殺してたら大変だ。



 うーん。行くか。襲われたらすぐに部屋に戻ろう。そして今度は警察だ。でも情報なさ過ぎてなんて言えばいいかな……。

 とりあえず奥さんと話してみる?
 そのほうが手っ取り早いか?

 我ながら脳みそが単純だ。奥さんに対する恐怖はあるものの、このままじゃなにも進まないし奥さん自体も精神的にヤバいかも。

 うーん、そうだな。君に窒息させられて、記憶が吹っ飛んじゃった。俺なにかした? みたいに聞いてみるか? 軽! 軽過ぎ!

 うん。でも今のままはおかしい。生活もあるし、仕事とか周りの環境とか。頼りになるのは奥さんだけ。それを聞かなきゃならないしね。
 手にはドライバーもあるしな。行ってみるか。

 俺は彼女の部屋をノックした。途端に彼女のすすり泣く声は止まる。

「入ってもいいか? えーと……お前?」

 名前わかんねーから、とりあえず“お前”で逃げようとしたけど、なおさら変!
 しかし返事はなかった。ドアノブに手をかけると開いていた。入ってみるか。

「……よぉーう。夜分遅くにゴメンね」

 中に入ると、薄暗い。常夜灯の光しかないので壁にあった照明のスイッチを押す。どうやら子どもはいない。この家には完全に二人だけなんだな。しかし彼女は俺に怯えて壁に貼り付いた。
 そうか。ドライバーは怖いよな。

「あーと、これ? これはそのぉ……。さっきのこともあったから一応護身用ってことで。特に君をどうこうしようって気持ちはないから」

 うーん。我ながら意味がわからない。

「いやぁ。脳に障害があったのか、いろいろ忘れちゃって。俺なんか悪いことしたかなぁ~と。だから君に聴こうと思ってさ」

 彼女は当然のように目を丸くしていた。事態を飲み込もうと必死だ。呼吸を整えてようやく口を開いた。

「な、なんか光朗さんの話し方変です……」

 そりゃそうだよ。俺は日之出氏じゃないし。でも“光朗さん”と“です”。……か。自分の夫に丁寧な話し方だな。
 彼女は夫である日之出光朗氏と対等ではなかったと思わせる話し方だ。それが殺害の原因だろうか?
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