3 / 7
第三話 デートしよう
しおりを挟む
「そんなに泣くなって。現に俺は無事だったんだから。忘れよう。それにまだ殺したいかい?」
彼女は大きく首を横に振って顔を伏せた。
「ごめんなさい。光朗さん。ごめんなさいぃぃぃ」
どうやら、悪いと思ってるみたいだな。細腕の奥さんだし、今は武器も持ってない。何かあっても反撃は出来るぞ。
俺は彼女の隣へと腰を下ろした。少しだけ体が密着する。
「もう泣かなくてもいいよ。何もなかった。何もなかったんだ」
「でも、でも、でも──」
泣きじゃくる彼女を抱き締めた。もうこうするしかない。
「大丈夫だよ。大丈夫──」
しばらくそのまま。
そのうちに彼女はすがるように抱き返してきた。彼女の温もりが伝わる。押し倒したい。いやダメだろ。
俺は彼女に微笑んで見せた。すると彼女も僅かだが口角をあげる。俺は彼女の口角を人差し指でさらに押し上げた。
「ほら。もっと笑って笑って」
「ぷっ」
彼女は吹き出して僅かに笑った。ようやく落ち着いたようでよかった。
「光朗さんがそんな冗談するなんて……」
「おいおい。お前の中で俺はどんなイメージなんだよ」
彼女はぴたっと笑いを留めて、暗い表情を見せる。
うーん、どうやら彼は家庭の中では暴君だったのかもしれないぞ。それで彼女は思い詰めて彼を殺害したのかもしれないな。
「よし!」
「え?」
「明日は予定なんてキャンセルして思い切ってデートしよう。二人でどこかに出掛けるんだ」
「で、でも光朗さんは明日ゴルフなんじゃ……」
「ゴルフぅ? そんなのお前に比べりゃ全然優先度低いに決まってるっしょ」
彼女はまたまた吹き出す。俺もようやく楽しくなってきた。
「今日の光朗さんはホントに楽しいです」
「そうかー? こんなの全然普通ですよ。じゃ明日の七時半。リビングで待ち合わせな」
「待ち合わせ? うふふ。おかしい」
「デートなんだから、待ち合わせするに決まってるっしょ~」
おお。雰囲気いいぞ。ゴルフってことは会社も休みなんだよな。よし。明日が楽しみだ。
◇
次の日。僅かばかりの睡眠をとって起き上がり、日之出氏のクローゼットを開ける。
高そうな服がいっぱいだ。おしゃれさんだな。これとこれを合わせればカジュアルっしょ。
髪を整えて、リビングの階段を降りるとそこには白いワンピース姿の奥さん。可愛い。思わずニヤける。
「よぉーう。おはようー」
そう言うと彼女は微笑んだ。
「やっぱり。光朗さん、昨日のままだわ。今日はやはりゴルフにするぞって言ったらどうしようかと……」
「なーに言っちゃってんの~。約束はちゃんと守りますよ。じゃあどこ行く?」
「どこって……?」
「そうだなー、海を見に行ったり、水族館に行ったり。映画を見たり、ショッピングモールで買い物したり。どこでもいいよ。お前の好きなところ」
「すごい──」
「どうして?」
「結婚して四年、そんなデートしたことなかった。有希は有希で好きにしろっていつも仰有ってたし……」
日之出氏よ。どうなってるんだ。四年の結婚生活が冷め切ってる。
つか、やっぱり有希っていうんだ~。有希ちゃあん。
「いや、そのぅ。反省したんだ。有希に寂しい思いさせてるんじゃないかと思って。昨日のはある意味きっかけだな。でもいろいろ忘れてしまって。ちょっとおかしなことを聞くことがあるだろうけどいいかな?」
有希は不思議そうな顔をしていたがすぐに笑顔になって頷いた。
「じゃ行こうかぁ」
俺は玄関に向けて歩き出す。
「光朗さん」
「なに?」
「玄関はこっち……」
しまった。自分のアパートの部屋はキッチンのほうだったのでそっちに体を向けてた。
「じょ、冗談だろぉ~。でもいいぞ有希ィ~。ナイス突っ込みィ~」
彼女の額をコツンと突くと、有希はまたまた笑顔になった。
今度こそ玄関に向かう。日之出氏の部屋に車の鍵とサイフがあった。サイフには五万円とカード。さすが宝くじを当てただけのことはある。それを持って外に出た。
ガレージには、高級なハイブリッドカー。一千万はするやつだ。このガレージ付きの家といい、高級車といい。宝くじの三億円は神様の話だと残ってるんだよな。てことは、日之出氏は元々が稼ぎのいいヤツなんだ。
俺は金持ちらしく、気取ってキーホルダーを指でクルクル回しながら車に近付くと、それは勢い余って手から飛び出し、車にカツリと当たってしまった。
「あ!」
「だ、大丈夫ですか?」
俺と有希は車をチェック。うっすらキズがついてる。青い顔をする有希だが俺は彼女の肩を叩いた。
「なーに。かすり傷だよ。後で修理して貰おう」
「え。いいんですか?」
「いーよー。それよりまだ店も開いてないから海までドライブでもするか」
「は、はい!」
いいぞ。楽しくなってきた。
車に乗り込んでナビを立ち上げる。知ってる土地ならいいけどと思い、現在地を見て驚いた。
ここは、元の自分が生活してい場所とほぼ近い。住所も前は六丁目だったが、ここは二丁目。そんなに近い場所だったのか。
彼女は大きく首を横に振って顔を伏せた。
「ごめんなさい。光朗さん。ごめんなさいぃぃぃ」
どうやら、悪いと思ってるみたいだな。細腕の奥さんだし、今は武器も持ってない。何かあっても反撃は出来るぞ。
俺は彼女の隣へと腰を下ろした。少しだけ体が密着する。
「もう泣かなくてもいいよ。何もなかった。何もなかったんだ」
「でも、でも、でも──」
泣きじゃくる彼女を抱き締めた。もうこうするしかない。
「大丈夫だよ。大丈夫──」
しばらくそのまま。
そのうちに彼女はすがるように抱き返してきた。彼女の温もりが伝わる。押し倒したい。いやダメだろ。
俺は彼女に微笑んで見せた。すると彼女も僅かだが口角をあげる。俺は彼女の口角を人差し指でさらに押し上げた。
「ほら。もっと笑って笑って」
「ぷっ」
彼女は吹き出して僅かに笑った。ようやく落ち着いたようでよかった。
「光朗さんがそんな冗談するなんて……」
「おいおい。お前の中で俺はどんなイメージなんだよ」
彼女はぴたっと笑いを留めて、暗い表情を見せる。
うーん、どうやら彼は家庭の中では暴君だったのかもしれないぞ。それで彼女は思い詰めて彼を殺害したのかもしれないな。
「よし!」
「え?」
「明日は予定なんてキャンセルして思い切ってデートしよう。二人でどこかに出掛けるんだ」
「で、でも光朗さんは明日ゴルフなんじゃ……」
「ゴルフぅ? そんなのお前に比べりゃ全然優先度低いに決まってるっしょ」
彼女はまたまた吹き出す。俺もようやく楽しくなってきた。
「今日の光朗さんはホントに楽しいです」
「そうかー? こんなの全然普通ですよ。じゃ明日の七時半。リビングで待ち合わせな」
「待ち合わせ? うふふ。おかしい」
「デートなんだから、待ち合わせするに決まってるっしょ~」
おお。雰囲気いいぞ。ゴルフってことは会社も休みなんだよな。よし。明日が楽しみだ。
◇
次の日。僅かばかりの睡眠をとって起き上がり、日之出氏のクローゼットを開ける。
高そうな服がいっぱいだ。おしゃれさんだな。これとこれを合わせればカジュアルっしょ。
髪を整えて、リビングの階段を降りるとそこには白いワンピース姿の奥さん。可愛い。思わずニヤける。
「よぉーう。おはようー」
そう言うと彼女は微笑んだ。
「やっぱり。光朗さん、昨日のままだわ。今日はやはりゴルフにするぞって言ったらどうしようかと……」
「なーに言っちゃってんの~。約束はちゃんと守りますよ。じゃあどこ行く?」
「どこって……?」
「そうだなー、海を見に行ったり、水族館に行ったり。映画を見たり、ショッピングモールで買い物したり。どこでもいいよ。お前の好きなところ」
「すごい──」
「どうして?」
「結婚して四年、そんなデートしたことなかった。有希は有希で好きにしろっていつも仰有ってたし……」
日之出氏よ。どうなってるんだ。四年の結婚生活が冷め切ってる。
つか、やっぱり有希っていうんだ~。有希ちゃあん。
「いや、そのぅ。反省したんだ。有希に寂しい思いさせてるんじゃないかと思って。昨日のはある意味きっかけだな。でもいろいろ忘れてしまって。ちょっとおかしなことを聞くことがあるだろうけどいいかな?」
有希は不思議そうな顔をしていたがすぐに笑顔になって頷いた。
「じゃ行こうかぁ」
俺は玄関に向けて歩き出す。
「光朗さん」
「なに?」
「玄関はこっち……」
しまった。自分のアパートの部屋はキッチンのほうだったのでそっちに体を向けてた。
「じょ、冗談だろぉ~。でもいいぞ有希ィ~。ナイス突っ込みィ~」
彼女の額をコツンと突くと、有希はまたまた笑顔になった。
今度こそ玄関に向かう。日之出氏の部屋に車の鍵とサイフがあった。サイフには五万円とカード。さすが宝くじを当てただけのことはある。それを持って外に出た。
ガレージには、高級なハイブリッドカー。一千万はするやつだ。このガレージ付きの家といい、高級車といい。宝くじの三億円は神様の話だと残ってるんだよな。てことは、日之出氏は元々が稼ぎのいいヤツなんだ。
俺は金持ちらしく、気取ってキーホルダーを指でクルクル回しながら車に近付くと、それは勢い余って手から飛び出し、車にカツリと当たってしまった。
「あ!」
「だ、大丈夫ですか?」
俺と有希は車をチェック。うっすらキズがついてる。青い顔をする有希だが俺は彼女の肩を叩いた。
「なーに。かすり傷だよ。後で修理して貰おう」
「え。いいんですか?」
「いーよー。それよりまだ店も開いてないから海までドライブでもするか」
「は、はい!」
いいぞ。楽しくなってきた。
車に乗り込んでナビを立ち上げる。知ってる土地ならいいけどと思い、現在地を見て驚いた。
ここは、元の自分が生活してい場所とほぼ近い。住所も前は六丁目だったが、ここは二丁目。そんなに近い場所だったのか。
1
あなたにおすすめの小説
地獄の業火に焚べるのは……
緑谷めい
恋愛
伯爵家令嬢アネットは、17歳の時に2つ年上のボルテール侯爵家の長男ジェルマンに嫁いだ。親の決めた政略結婚ではあったが、小さい頃から婚約者だった二人は仲の良い幼馴染だった。表面上は何の問題もなく穏やかな結婚生活が始まる――けれど、ジェルマンには秘密の愛人がいた。学生時代からの平民の恋人サラとの関係が続いていたのである。
やがてアネットは男女の双子を出産した。「ディオン」と名付けられた男児はジェルマンそっくりで、「マドレーヌ」と名付けられた女児はアネットによく似ていた。
※ 全5話完結予定
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
侯爵様の懺悔
宇野 肇
恋愛
女好きの侯爵様は一年ごとにうら若き貴族の女性を妻に迎えている。
そのどれもが困窮した家へ援助する条件で迫るという手法で、実際に縁づいてから領地経営も上手く回っていくため誰も苦言を呈せない。
侯爵様は一年ごとにとっかえひっかえするだけで、侯爵様は決して貴族法に違反する行為はしていないからだ。
その上、離縁をする際にも夫人となった女性の希望を可能な限り聞いたうえで、新たな縁を取り持ったり、寄付金とともに修道院へ出家させたりするそうなのだ。
おかげで不気味がっているのは娘を差し出さねばならない困窮した貴族の家々ばかりで、平民たちは呑気にも次に来る奥さんは何を希望して次の場所へ行くのか賭けるほどだった。
――では、侯爵様の次の奥様は一体誰になるのだろうか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる