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第五話 夏の夜
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日之出氏は、有希に幸せを与えなかったのだろう。会ったことがない彼に嫌悪感を抱いた。あんな羽良美和子にこんな食事をさせるくらいなら、有希と食パンをかじったって楽しいだろうに。
俺は椀物をすする。
「うん。旨いな。出汁の取り方が絶妙だ」
「わ。光朗さんすごい」
「まぁね。昔取った杵柄さ」
「杵柄……? 光朗さん、大学で料理も勉強してたんですか?」
「え? あー。うん」
「へー。すごい! 知らなかったです」
「今度作ろうか?」
「えー! なにがいいだろ?」
「ラーメンは?」
「ラーメン? 家でラーメンが食べられるんですか?」
「もちろん。貝から出汁を取った塩ラーメンなんてうまいぞぉ」
「わー! すごく食べたい」
そんな会話をして食事を楽しんだ後店を出た。
「今日はホントに楽しかったぁ」
有希の言葉を遮る。
「何言ってんの? 夜はこれから」
「え?」
「ホテル取ってるんだ。今日はそっちで寝よう」
「え、ええーーー!!!」
有希の戸惑い。驚き、顔を真っ赤にして足を止めてしまった。湯気が出そうだ。
「どうした?」
「だ、だ、だって、だって、光朗さんと一緒に寝るのは結婚する前に一度だけで──」
ひィ~のォ~でェ~!
お前はなんてヤツだったんだ。この結婚に意味はあったのかよぉ。こんな可愛い有希をほったらかしなんて。
クソ! 絶対有希を幸せにする!
三笠プリンストンホテルの最上階にあるスイートルーム。そこで俺たちは夜景を見ながら話をした。
聞けば、日之出氏と有希の出会いは四年前の合コンだったらしい。そこで二人は一夜を明かし、有希は再会を望んだがそれきり。
しかし、それで妊娠してしまったらしく、有希の父の力で捜索され結婚をさせられた。有希の父親は日之出氏の取引先の社長だったのだ。
降って湧いたような社長令嬢との結婚。有希の父親のバックアップで日之出氏は出世。家や車も買い与えられ、新婚生活が始まったが、日之出氏は勝手に妊娠した女と有希を毛嫌いして部屋も別にした。
そんな環境に置かれて有希は流産してしまい、ますます日之出氏は冷たくなったが有希の実家とは良好な関係だったらしい。
俺はそれを聞いて、深くため息をついて頭を抱えた。今の日之出氏があるのも有希のお陰じゃないか。有希が妊娠したのも流産したのも日之出氏の身勝手さからだ。
そんな有希をないがしろにするなんて。有希はこんなにも健気に愛してくれているというのに。
「有希ごめん」
「ううん。そんなこと──。そんなことないです。光朗さん、優しい」
「優しいもんか」
俺は有希を抱き寄せた。
その時だった。夜空に大輪の花。どこか近くで花火大会をやっているのであろう。あまりのことに、俺はテンションが上がった。
「わぁすげえ! 有希、見て見ろよ! でっけぇ花火」
俺は次々上がる花火に嬉しくなってクルクル回っていた。そんな俺を見て有希は笑う。
「可笑しい。今日の光朗さん、とっても可笑しいわ」
「なんで? 有希も一緒に踊ろうよ」
「えー。恥ずかしい」
「いいじゃん。誰も見てないよ」
「えー。じゃあ」
有希もはしゃぎだした。スイートルームの大きな窓の前ではしゃぐ二人。手を繋ぎ合ってダブルベッドへとダイブ。
足をバタバタさせて、スプリングに弾んでいたが、有希はベッドの下に落ちてしまった。
「痛ぁい」
「ドジだなぁ」
「ごめんなさい……」
「さぁ、この手に掴まれ! 助けるぞ!」
難破船から海に落ちたゴッコ。有希は笑って手を掴む。彼女を引っ張り上げてそのうちにもつれ合う。俺たちは花火の中、愛し合ったのだ。
◇
次の日。俺たちはダブルベッドを買いに行った。夫婦なんだから一つの部屋に寝て、有希の部屋は将来子ども部屋にしようというと有希はとても喜んでいた。
日之出氏は給料から月々十万円を有希に生活費と渡して残りは自分で使っているようだったがそれもやめた。
有希に給料を管理して貰い、俺は小遣いを貰う。そのほうが、この夫婦にとってはいいだろうと考えたのだ。
月曜日。有希に聞いて俺は会社へと向かった。俺にとっては初出社だ。知らない会社。かなり大きいビル。俺のオフィスは12階。職責は課長。自分の席に座ってドギマギ。どうすりゃいいんだろう。
仕事もわからず、社内を歩くと、いろんな女が話し掛けてくる。メモを渡してくる女も。そこには時間と場所が書かれていた。日之出氏は美和子だけじゃなく、いろんな女に手を出しているようだな。サイテー。
俺はその一人一人に、もう終わりにすることを告げ清算していった。なじるものもいたがすんなり受け入れてくれるものもいた。殴ってくるのもいた。なんで俺が……。
でもこれでいいんだ。
仕事は最悪だ。なにも出来ない。部長に散々叱られた。日之出氏は大抵の人に嫌われているらしい。
つか、俺だって日之出氏みたいなヤツは嫌いだわ。
そんなこんなで一週間。精神的に大きく疲れたが休日がくる。俺の天使である有希と温泉にでも行こうかと考えていた。しかし──。
「えー。予定があるのォー?」
「ええ……。光朗さん、前から土曜日はゴルフだって言っていたので……」
「うーん。そうか。じゃあいいや。明日は日曜のダブルベッド搬入のために片づけでもしようかな?」
「え? 家にいるんですか?」
「いけない?」
「家に……人を呼ぼうと思っていたので」
「あ、そう。じゃ出て行く?」
「ううん! いいの。光朗さんは家にいて。私は別なところにいくから」
「……オーケー」
なんかおかしいぞ。でも有希に限って浮気とかないよな……。でも日之出氏だからなァ。うーん。
俺は椀物をすする。
「うん。旨いな。出汁の取り方が絶妙だ」
「わ。光朗さんすごい」
「まぁね。昔取った杵柄さ」
「杵柄……? 光朗さん、大学で料理も勉強してたんですか?」
「え? あー。うん」
「へー。すごい! 知らなかったです」
「今度作ろうか?」
「えー! なにがいいだろ?」
「ラーメンは?」
「ラーメン? 家でラーメンが食べられるんですか?」
「もちろん。貝から出汁を取った塩ラーメンなんてうまいぞぉ」
「わー! すごく食べたい」
そんな会話をして食事を楽しんだ後店を出た。
「今日はホントに楽しかったぁ」
有希の言葉を遮る。
「何言ってんの? 夜はこれから」
「え?」
「ホテル取ってるんだ。今日はそっちで寝よう」
「え、ええーーー!!!」
有希の戸惑い。驚き、顔を真っ赤にして足を止めてしまった。湯気が出そうだ。
「どうした?」
「だ、だ、だって、だって、光朗さんと一緒に寝るのは結婚する前に一度だけで──」
ひィ~のォ~でェ~!
お前はなんてヤツだったんだ。この結婚に意味はあったのかよぉ。こんな可愛い有希をほったらかしなんて。
クソ! 絶対有希を幸せにする!
三笠プリンストンホテルの最上階にあるスイートルーム。そこで俺たちは夜景を見ながら話をした。
聞けば、日之出氏と有希の出会いは四年前の合コンだったらしい。そこで二人は一夜を明かし、有希は再会を望んだがそれきり。
しかし、それで妊娠してしまったらしく、有希の父の力で捜索され結婚をさせられた。有希の父親は日之出氏の取引先の社長だったのだ。
降って湧いたような社長令嬢との結婚。有希の父親のバックアップで日之出氏は出世。家や車も買い与えられ、新婚生活が始まったが、日之出氏は勝手に妊娠した女と有希を毛嫌いして部屋も別にした。
そんな環境に置かれて有希は流産してしまい、ますます日之出氏は冷たくなったが有希の実家とは良好な関係だったらしい。
俺はそれを聞いて、深くため息をついて頭を抱えた。今の日之出氏があるのも有希のお陰じゃないか。有希が妊娠したのも流産したのも日之出氏の身勝手さからだ。
そんな有希をないがしろにするなんて。有希はこんなにも健気に愛してくれているというのに。
「有希ごめん」
「ううん。そんなこと──。そんなことないです。光朗さん、優しい」
「優しいもんか」
俺は有希を抱き寄せた。
その時だった。夜空に大輪の花。どこか近くで花火大会をやっているのであろう。あまりのことに、俺はテンションが上がった。
「わぁすげえ! 有希、見て見ろよ! でっけぇ花火」
俺は次々上がる花火に嬉しくなってクルクル回っていた。そんな俺を見て有希は笑う。
「可笑しい。今日の光朗さん、とっても可笑しいわ」
「なんで? 有希も一緒に踊ろうよ」
「えー。恥ずかしい」
「いいじゃん。誰も見てないよ」
「えー。じゃあ」
有希もはしゃぎだした。スイートルームの大きな窓の前ではしゃぐ二人。手を繋ぎ合ってダブルベッドへとダイブ。
足をバタバタさせて、スプリングに弾んでいたが、有希はベッドの下に落ちてしまった。
「痛ぁい」
「ドジだなぁ」
「ごめんなさい……」
「さぁ、この手に掴まれ! 助けるぞ!」
難破船から海に落ちたゴッコ。有希は笑って手を掴む。彼女を引っ張り上げてそのうちにもつれ合う。俺たちは花火の中、愛し合ったのだ。
◇
次の日。俺たちはダブルベッドを買いに行った。夫婦なんだから一つの部屋に寝て、有希の部屋は将来子ども部屋にしようというと有希はとても喜んでいた。
日之出氏は給料から月々十万円を有希に生活費と渡して残りは自分で使っているようだったがそれもやめた。
有希に給料を管理して貰い、俺は小遣いを貰う。そのほうが、この夫婦にとってはいいだろうと考えたのだ。
月曜日。有希に聞いて俺は会社へと向かった。俺にとっては初出社だ。知らない会社。かなり大きいビル。俺のオフィスは12階。職責は課長。自分の席に座ってドギマギ。どうすりゃいいんだろう。
仕事もわからず、社内を歩くと、いろんな女が話し掛けてくる。メモを渡してくる女も。そこには時間と場所が書かれていた。日之出氏は美和子だけじゃなく、いろんな女に手を出しているようだな。サイテー。
俺はその一人一人に、もう終わりにすることを告げ清算していった。なじるものもいたがすんなり受け入れてくれるものもいた。殴ってくるのもいた。なんで俺が……。
でもこれでいいんだ。
仕事は最悪だ。なにも出来ない。部長に散々叱られた。日之出氏は大抵の人に嫌われているらしい。
つか、俺だって日之出氏みたいなヤツは嫌いだわ。
そんなこんなで一週間。精神的に大きく疲れたが休日がくる。俺の天使である有希と温泉にでも行こうかと考えていた。しかし──。
「えー。予定があるのォー?」
「ええ……。光朗さん、前から土曜日はゴルフだって言っていたので……」
「うーん。そうか。じゃあいいや。明日は日曜のダブルベッド搬入のために片づけでもしようかな?」
「え? 家にいるんですか?」
「いけない?」
「家に……人を呼ぼうと思っていたので」
「あ、そう。じゃ出て行く?」
「ううん! いいの。光朗さんは家にいて。私は別なところにいくから」
「……オーケー」
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