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第10話 魔法伝授
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危険な山は避け、魔族に見つからないように針葉樹の森の中を進む。偵察の空飛ぶ魔物を避けられるらしい。
あのオオカミの大群以来魔物の襲撃はない。
それは喜ばしいこと。
それに、なんかなぜか、命を助けて貰ってからラースの背中がたくましく見える。
小さいくせに私よりも大きく、頼りに見えるのはなぜ?
「ねぇラース」
「はい。姫、なんでしょう」
「お腹がすいたわね」
「は。すぐさま食事の用意をいたします」
「あん。またあの固いパン? たまにはお肉が食べたいわ」
「姫。畏れながら申し上げます。ここは敵地故に家畜肉の調達は非常に困難です。野生の動物の肉ならばとることはできますが……」
「それよ。ジビエってヤツね。じゃ野生の動物の肉をお取りなさい」
「承知しました」
ラースは私に声を出さないようにとおのれの口元に指を立て、こっそりと木立に近づくと、木をユサユサと揺さぶる。するとたくさんの小鳥が飛び立った。
「あ、あ、あ、みんな逃げちゃうじゃない。やっぱりグズ」
と言いかけたところでラースの指から小さな火球が飛び出し、丁度よく真っ赤に焼けた鳥の丸焼きが二つ雪原の上に落ちた。
「やぁ、とれました。姫、早速休憩の用意をいたします」
ラースは器用に数本の枝をツタで組んでその上に毛皮を貼って簡易な椅子を作る。それはいつも私のため。自分には大きな丸石に汚れた毛皮を敷いた質素なものだ。
そして、キレイに磨いた器に先ほどとった鳥肉といつもの固いパン、木の実を置いてうやうやしく私に差し出した。
焚き火でお湯を沸かし、いつもの塩スープ。それをカップに入れて提供してくれる。
自分はその余り物だ。時間をとらずせかせかと腹の中に押し込んですぐに片付けを始める。
このラースはいつもそうだ。
いつも──。
私にはゆっくりとした時間を与え、自分は辺りを警戒する。
すぐに動けるように広げた荷物も即座にしまえるようにしている。
私と言えばそんなラースを困らせるだけ。
休憩を促して無駄に追っ手から追撃させる機会を与えるだけ。
どうしてそんな考えに至ってしまったのだろう。
なぜラースのことを考えてしまっているのだろう。
いや──。
これは恋じゃないわ。
一時、危険な目にあってドキドキしたのを恋と勘違いしているのよ。
近くにいるのはラースだけだもの。
それを無理矢理恋の対象としているどけなのだわ。
もしもラースに恋をしてしまったら、都に帰ってからきっと後悔する。
周りには貴族ばかり。家柄申し分ない、美男ばかりよ。
……タダノ カオダケノ オトコタチ。
「姫、ゆっくり味わって頂いて結構でございます。周りには追っ手の姿は見えませんし」
ラースは、身を低くして辺りを警戒したまま。
緊張感を保ったままだ。
「ねぇラース」
「は。なんでしょうか?」
「少しこっちにいらっしゃいな」
「え、は、はい」
少しばかり怯えながら私に近づいてくるラース。といってもそれでも離れているので私から近づくと、驚いて体を大きく震わせた。
「あ、あのぅ姫。わたくしめに何か不都合がございましたでしょうか……」
消え入りそうに語尾が小さくなる。
そんな恐怖を与えたのも私。
この一心に私を愛する男に。
頼もしい護衛に。
「え、えーと、ラース?」
「は。はは。ははぁ!」
「そ、そうかしこまらなくてもいいわよ。旅は長いんだから。どうせ今だって私のせいで5kmも進んでないのでしょ?」
「そ、そんな! 滅相もございません! 私です。私が遅いからなのです」
「いいわよ。そんなこと言わなくても。えーと、あーと」
何を言っていいか分からないわ。
なにかしらこの感情。
話したくても話せないなんて。
「そのー。えっと、さっきの魔法、面白いわね」
そう言うと、ラースは最初、キョトンとしていたが、すぐに笑顔になった。
「あれは火球魔法で、便利なものです。目眩ましにもなるし、薪に火をつけることも出来ます。力の弱い敵なら倒すことも出来ます」
「へ、へー。スゴいわね」
「滅相もございません!」
「わたしにも──使えるかしら」
「え!? 姫がでございますか?」
「ど、どーせ無理でしょ!? 勇者さまの魔法ですもんね。私みたいに傲慢で意地悪な君主なんかに使えるわけないわ!?」
う。私、なにパニクってるのかしら。
これじゃ逆効果じゃない。んー逆効果ってなによ。訳わかんない。
くおー! どうなってんだ私。
「姫。大丈夫です。これは勇者の魔法ではありませんし、初歩の魔法です。私が力をお貸ししますのですぐに使えるようになりますよ」
え?
そうなの?
スゴい。じゃ私、魔法使いになれるってこと?
「実際には炎の精霊を喚びだして契約をするのですが、その役は私でも大丈夫です。私の魔力を姫の中に入れて差し上げます」
ん?
まさかいやらしいことするんじゃないでしょうね?
ちょ、ちょっと待ってよ?
「指を立てて、指先に炎が灯ることをイメージしながら、契約の言葉を唱えます。これは小声でいいです。『マーレイ バーレイ 炎の精霊バリシャスよ 契約を示せ』」
そう言うと、ラースの指先に火が灯る。
「さあ姫も」
「そ、そんな簡単でいいの? 『マーレイ バーレイ……』なんだっけ?」
「マーレイとバーレイは炎の精霊バリシャスを喚び出す、魔法の言葉です」
「な、なるほど。バリシャスをね」
「『マーレイ バーレイ 炎の精霊バリシャスよ 契約を示せ』です」
「『マーレイ バーレイ 炎の精霊バリシャスよ 契約を示せ』! な、なにもおこらないけど?」
「そうです。まだ魔力を入れてませんから。畏れながら姫。その美しい指先に少し触れることをお許しください」
「ま、魔力を? 指先から? いいわよ。さぁやってみなさい」
ラースは炎が灯った指先を振って炎を消すと、その指先を私の指先へと近づける。
するとどうだろう。ラースから温かい力が流れてくることが分かる。それは全身を駆け巡り体の全てに行き渡った。
「さあ姫。もう一度、契約の言葉を」
「う、うん。『マーレイ バーレイ 炎の精霊バリシャスよ 契約を示せ』!」
すると指先が輝き、ラースと同じような火が灯った。
「こ、これをどうするのよ?」
「ではそれをあの焚き火に当たるようにイメージしながら『ボル』とご発声ください」
「わ、分かったわ。『ボル』!」
すると、炎が指先から離れ、スピードをつけて焚き火にぶつかり大きな火が燃え上がる。
私は嬉しくなって、その場で飛び上がりラースに抱き付いた。
「スゴいわ! ラース、ありがとう!」
「い、いえ。畏れ多いお言葉です」
キラキラと輝く炎。
それ以上に私は自分の中に燃える炎を感じていた。
あのオオカミの大群以来魔物の襲撃はない。
それは喜ばしいこと。
それに、なんかなぜか、命を助けて貰ってからラースの背中がたくましく見える。
小さいくせに私よりも大きく、頼りに見えるのはなぜ?
「ねぇラース」
「はい。姫、なんでしょう」
「お腹がすいたわね」
「は。すぐさま食事の用意をいたします」
「あん。またあの固いパン? たまにはお肉が食べたいわ」
「姫。畏れながら申し上げます。ここは敵地故に家畜肉の調達は非常に困難です。野生の動物の肉ならばとることはできますが……」
「それよ。ジビエってヤツね。じゃ野生の動物の肉をお取りなさい」
「承知しました」
ラースは私に声を出さないようにとおのれの口元に指を立て、こっそりと木立に近づくと、木をユサユサと揺さぶる。するとたくさんの小鳥が飛び立った。
「あ、あ、あ、みんな逃げちゃうじゃない。やっぱりグズ」
と言いかけたところでラースの指から小さな火球が飛び出し、丁度よく真っ赤に焼けた鳥の丸焼きが二つ雪原の上に落ちた。
「やぁ、とれました。姫、早速休憩の用意をいたします」
ラースは器用に数本の枝をツタで組んでその上に毛皮を貼って簡易な椅子を作る。それはいつも私のため。自分には大きな丸石に汚れた毛皮を敷いた質素なものだ。
そして、キレイに磨いた器に先ほどとった鳥肉といつもの固いパン、木の実を置いてうやうやしく私に差し出した。
焚き火でお湯を沸かし、いつもの塩スープ。それをカップに入れて提供してくれる。
自分はその余り物だ。時間をとらずせかせかと腹の中に押し込んですぐに片付けを始める。
このラースはいつもそうだ。
いつも──。
私にはゆっくりとした時間を与え、自分は辺りを警戒する。
すぐに動けるように広げた荷物も即座にしまえるようにしている。
私と言えばそんなラースを困らせるだけ。
休憩を促して無駄に追っ手から追撃させる機会を与えるだけ。
どうしてそんな考えに至ってしまったのだろう。
なぜラースのことを考えてしまっているのだろう。
いや──。
これは恋じゃないわ。
一時、危険な目にあってドキドキしたのを恋と勘違いしているのよ。
近くにいるのはラースだけだもの。
それを無理矢理恋の対象としているどけなのだわ。
もしもラースに恋をしてしまったら、都に帰ってからきっと後悔する。
周りには貴族ばかり。家柄申し分ない、美男ばかりよ。
……タダノ カオダケノ オトコタチ。
「姫、ゆっくり味わって頂いて結構でございます。周りには追っ手の姿は見えませんし」
ラースは、身を低くして辺りを警戒したまま。
緊張感を保ったままだ。
「ねぇラース」
「は。なんでしょうか?」
「少しこっちにいらっしゃいな」
「え、は、はい」
少しばかり怯えながら私に近づいてくるラース。といってもそれでも離れているので私から近づくと、驚いて体を大きく震わせた。
「あ、あのぅ姫。わたくしめに何か不都合がございましたでしょうか……」
消え入りそうに語尾が小さくなる。
そんな恐怖を与えたのも私。
この一心に私を愛する男に。
頼もしい護衛に。
「え、えーと、ラース?」
「は。はは。ははぁ!」
「そ、そうかしこまらなくてもいいわよ。旅は長いんだから。どうせ今だって私のせいで5kmも進んでないのでしょ?」
「そ、そんな! 滅相もございません! 私です。私が遅いからなのです」
「いいわよ。そんなこと言わなくても。えーと、あーと」
何を言っていいか分からないわ。
なにかしらこの感情。
話したくても話せないなんて。
「そのー。えっと、さっきの魔法、面白いわね」
そう言うと、ラースは最初、キョトンとしていたが、すぐに笑顔になった。
「あれは火球魔法で、便利なものです。目眩ましにもなるし、薪に火をつけることも出来ます。力の弱い敵なら倒すことも出来ます」
「へ、へー。スゴいわね」
「滅相もございません!」
「わたしにも──使えるかしら」
「え!? 姫がでございますか?」
「ど、どーせ無理でしょ!? 勇者さまの魔法ですもんね。私みたいに傲慢で意地悪な君主なんかに使えるわけないわ!?」
う。私、なにパニクってるのかしら。
これじゃ逆効果じゃない。んー逆効果ってなによ。訳わかんない。
くおー! どうなってんだ私。
「姫。大丈夫です。これは勇者の魔法ではありませんし、初歩の魔法です。私が力をお貸ししますのですぐに使えるようになりますよ」
え?
そうなの?
スゴい。じゃ私、魔法使いになれるってこと?
「実際には炎の精霊を喚びだして契約をするのですが、その役は私でも大丈夫です。私の魔力を姫の中に入れて差し上げます」
ん?
まさかいやらしいことするんじゃないでしょうね?
ちょ、ちょっと待ってよ?
「指を立てて、指先に炎が灯ることをイメージしながら、契約の言葉を唱えます。これは小声でいいです。『マーレイ バーレイ 炎の精霊バリシャスよ 契約を示せ』」
そう言うと、ラースの指先に火が灯る。
「さあ姫も」
「そ、そんな簡単でいいの? 『マーレイ バーレイ……』なんだっけ?」
「マーレイとバーレイは炎の精霊バリシャスを喚び出す、魔法の言葉です」
「な、なるほど。バリシャスをね」
「『マーレイ バーレイ 炎の精霊バリシャスよ 契約を示せ』です」
「『マーレイ バーレイ 炎の精霊バリシャスよ 契約を示せ』! な、なにもおこらないけど?」
「そうです。まだ魔力を入れてませんから。畏れながら姫。その美しい指先に少し触れることをお許しください」
「ま、魔力を? 指先から? いいわよ。さぁやってみなさい」
ラースは炎が灯った指先を振って炎を消すと、その指先を私の指先へと近づける。
するとどうだろう。ラースから温かい力が流れてくることが分かる。それは全身を駆け巡り体の全てに行き渡った。
「さあ姫。もう一度、契約の言葉を」
「う、うん。『マーレイ バーレイ 炎の精霊バリシャスよ 契約を示せ』!」
すると指先が輝き、ラースと同じような火が灯った。
「こ、これをどうするのよ?」
「ではそれをあの焚き火に当たるようにイメージしながら『ボル』とご発声ください」
「わ、分かったわ。『ボル』!」
すると、炎が指先から離れ、スピードをつけて焚き火にぶつかり大きな火が燃え上がる。
私は嬉しくなって、その場で飛び上がりラースに抱き付いた。
「スゴいわ! ラース、ありがとう!」
「い、いえ。畏れ多いお言葉です」
キラキラと輝く炎。
それ以上に私は自分の中に燃える炎を感じていた。
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