囚われ姫の妄想と現実

家紋武範

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第23話 君への贈り物

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三人のピクシーの戦士たちは歓声を以て迎えられていた。
しかし、誰もラースのことを口にしない。余所者の死などどうでもいいのかと哀しくなった。
私がそこに割り込んで行っても喜びのムードが治まることを知らない。
私は力の限り叫んだ。

「ラース! ラースはどこ!?」
「お、王女さま」

「一緒に行ったラースはどこにいったの? 私の大事な人なのに。あなたたちはそれを置いて来たの?」
「い、いえ。滅相もない。ラース様は王女殿下に手土産を見つけたといいまして。我々もお待ちしようと思ったのですが、先に戦勝の報告をしてくるように言われたのです」

「せ、戦勝? 勝ったの?」
「ええ、それはもう鮮やかなものでした。敵にも備えがあったのか、お尋ね者の勇者が来たと矢をつがえて打ってくるのですが、ラース様はそれをお得意の魔法で全て空中で燃やしてしまうのです。しまいにはあの盗賊たちを消し飛ばしてしまいました。お見せしたかったです」

「そ、そう。だったらいいのよ。でも心配だわ。私はしばらくここで待たせて頂きます」
「殿下。我々も同じ気持ちですので、お供をいたします」

勝ったと言うことでホッとはしたものの、ラースは部隊を離れて一人になるべきではなかった。
なにしろ一度は不覚を取った相手なのだから。
残党が背中を狙っていることを考慮すべきなのだ。
帰って来たら叱ってやらないとダメだ。

日も傾き始め、暗闇が支配する少し前、道の先から見覚えのある姿が見えた。
私はクシャが用意してくれていたイスに座っていたのだが、嬉しくなって駆け出そうと思ったが無理だった。
代わりに向こうから駆けてくる。
まぎれもないラースだった。手には手製のカゴをぶらさげて。村の灯りに照らされた顔はとても嬉しそうだった。

ラースはそのまま、私に抱きつく。そして熱烈なキス。
私もそれを受け、彼の抱擁に包まれた。
村人からワッと歓声が湧く。
人がいても恥ずかしいという思いよりも、ラースとのこの時間を大事にしたかった。

やがて、また宴が始まった。
戦勝の記念。ラースは楽しそうに酒を飲んでいたが、私は疲れてしまい背もたれに寄りかかって眠ってしまわないことだけに集中していた。
そんな様子に気付いたラースは昨日と同じように宴を中座し私を抱きかかえて部屋へと向かう。

身長140cmの逞しい腕が20cmも大きい私をものともしない。
そればかりは一度は空中に放り投げたっけ。私はラースの首に手を回しながら思い出して一人で笑っていた。

「ルビー、なにがおかしいんだい?」
「いいえ。なーんにも。今日出かける理由を秘密にしてたラースになんか教えてあげないよーだ」

「ごめん。心配すると思って」
「したもの。一度は負けた敵なのに」

「え? そ、そうなの? あの矢を打って来たヤツ?」
「そうよ。ああ、ラースは背中を向けてたから気付いてなかったのね」

「うん……。でもあの時とは違って鎧も着てるし」
「鎧……。立派よねぇ。普通の鎧と違うのかしら」

「うん。先祖がつけていたやつなんだけど、神々から与えられたって伝説があるんだ。虹の鎧は魔物を近寄らせない効果があるのです。強い魔物はその効果を押し切れますが弱い魔物ですと動きが鈍くなるという感じです」
「そ、そうなの? じゃぁ、あの時は脱いだから?」

「そうなんです。スイマセン。敵には負ける気がしませんがルビーの魅力には負けてしまって」

ラースはそういいながら照れ笑いをした。

「もう。心配かけて、ラースなんて嫌いよ!」
「まぁまぁ、お姫様。そんなこといわないで。姫にはお土産を持って来ましたから」

「そう。それで遅くなったのよね。私は世界の財宝、珍品なんてたくさん見て来たんだから。ちょっとやそっとじゃ驚かないからね?」
「うっ。それは手強いなぁ……」

ラースの苦笑。ちょっと意地悪だったかしら。
でも心配かけたんだからそのくらい当然よ。
ラースは部屋に戻ると、私を優しくベッドに降ろす。
そして部屋へピクシーを一人呼び、宴の場所に置いて来たお土産を持って来たのだ。
手製のカゴに入ったそれを私に見せてくる。

「実はこれがたくさんなっていて、摘んで来たんだ。『雪割り木イチゴ』という珍しい木イチゴだよ」
「雪割り木イチゴ!」

私はそれを見て、塔にいた狼獣人ウオルフを思い出してしまった。
彼が任務から離れて塔を出て私のために雪割り木イチゴを取って来てくれた。
あの時、恋心を伝えられた獣人を。しかし今は目の前にラースがいる。
私にとっては塔での思い出深い一品だ。

「どうしたの? 急に遠い目をしちゃって。これには魔力を回復する力が少しだけあるんだ。だからと思って」
「え、そ、そうなんだ。へー」

ラースがつまんで渡すそれを一つだけ口に入れる。
体の底が熱くなるのを感じる。

「あ。ホントだ。なんか効果がありそう」
「本当? 好きなだけ食べていいよ。余ったらドライフルーツにしよう」

「うふふ。たしかに珍品ばかり見て来た私だけど、素敵な贈り物だわ」
「ああ、よかった。嬉しいや。あとこれ」

それは小さな宝箱。装飾も何もない、革張りの宝箱だ。ラースの両手のひらに乗るほどの大きさ。
ラースがそれを開けると、中には杖の先端につける装飾部分が出て来た。それを長い棒にさせば杖の飾りとなるのだ。

「これは杖の装飾?」
「そう。歩く際には突きながら進めば楽だよ。それにこれは魔法の装飾具だ。念じればボルと同じ効果があるんだよ」

「え! ホント!?」
「魔力を一切使わないでボルが使える。ルビーはこれから杖に頼ればいいんだよ」

そういうラースだが、それには抵抗があった。
自分で魔法を使うからよいのだ。まぁ、火急な敵にはいいかもしれないが。

「嬉しいわラース。今まで見た宝物よりも嬉しい。でも魔法を使わないっていうのはなにか抵抗があるわね。せっかく使えるようになったのに」
「そう? じゃぁ、ルビーが自分の身を守れるようにもっと上級の魔法を教えておくよ。ただし今のルビーには一回だけしか使えないよ。使ったら、必ず雪割り木イチゴのドライフルーツを食べて魔力を回復すること。いいね」

「ホント? ボルよりも上級の? やった! うれしい! それこそ素晴らしい贈り物だわ!」

ラースは新しい契約の言葉を教えてくれた。それはボルを知っていれば誰でも簡単に覚えられるものだ。ボルガという、ボルの10倍強い魔法の伝授だった。
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