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第32話 人vs人
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ラースは聖剣へと飛び乗るとたちまちそれはドラゴン化し、大空へと舞い上がった。
その頃、ファーガスは小さい望遠鏡で戦況を見ながら片手の小旗を上げ下げして、部下の兵士や将校へと合図を送っていた。
ラースはそのファーガスの後ろに舞い降りる。それにファーガスはすぐに気付いた。
「小僧! ルビー王女殿下の引っ付き虫め! どこで殿下を拐かした!」
そう言って長槍を構えて馬をラースへと向けて走らす。ラースは鉄竿を構えた。
ファーガスの打ち下ろされる長槍を鉄竿で受ける。人対人の戦いではラースに神の加護はない。それは、熟練されたファーガス将軍と互角かそれ以下。なにしろファーガスは馬に乗っている。ラースは俊敏な動きでかわすものの、攻撃は躊躇。防戦一方だ。
「くっ! なんて膂力だ!」
「ふん。若造。戦慣れしていないお前など取るに足らん。経験が違う。経験が」
ファーガスは用兵どころか、一対一の一騎討ちも得意だったようで、ラースは後ずさった。
「それほどの力を持っているのになぜ人間を裏切り、魔王へと降った!?」
「ふん。たしかにワシはまだまだ魔王軍にひけはとらぬと思っておった。しかし魔王さまより魅力的な提案があったのでな」
「魅力的な提案?」
「それは、塔にいたルビー王女との結婚よ。そして、人間の王とすると。戦功を上げればそれを容易く叶えて下さると」
「バカな……!」
「それがために恥を忍んで敵に降れば、すでに姫は貴様に囚われておったわ! 貴様がいなければ!」
そう言ってファーガスは槍を突いてくる。ラースは防戦。鉄棒をひと薙ぎも出来ずに、堪えきれず地面に倒れ込んでしまった。
「弱い。弱すぎる」
「ひ、人でこれほどの力を持ってるものがいたなんて!」
「はっ! こんなヤツにルビー王女が惚れるなど。憎い憎い。お前が憎い!」
ファーガスの槍はラースの左肩を貫いてしまった。噴き出す鮮血。ラースは苦痛の余り叫び呻く。それでもラースは人間に対し抵抗することが出来なかった。
神に与えられた力。
それは魔物に対して無敵の力を発揮する。
攻撃力は数倍。物理攻撃はほとんど効かない。
しかし人間にはその力を振るうことが許されない。もし一度でも振るえば永遠にその力は失われるのだ。
「このまま殺してしまってはツマラン。苦痛を与えてやらねば」
ファーガスはそういうと、ラースの肩から槍を引き抜き、左腕を槍の尖端で切り裂く。剥き出しになる血まみれの筋肉。続いて右足の太股に槍を振り下ろすと、大きな穴。ラースはその度に叫び声を上げた。
「ふん。小気味いい。お前を殺して今宵、ルビー王女殿下に夜伽をさせるとしよう」
苦痛に転がるラースの動きがピタリと止まる。右手に一度放した鉄棒を握り、転がった反動を利用して飛び上がったと思うと、ファーガスの横面を思い切り叩きつける。
「そうはさせない! ルビーにお前を近づけはしない!」
思い切り打ったファーガスの頬。しかし金属と金属をぶつけたような高い音。ラースは驚きながら地面へと着地する。だが右足のダメージが大きすぎたためにそのまま倒れ込んで、ファーガスのほうに振り向いた。
ファーガスは叩かれた頬を一度さする。だがダメージはない。まるで鉄。鍛えられた鋼だ。
「そんな! まさか!」
「──そのまさかよ」
ファーガスの目は炎のように燃える。
「ワシは魔王さまより力を分けて貰ったのだ。この湧き上がる力はどうだ。まさに魔王よ。ワシは人類最強の悪魔となったのだ!」
ファーガスはラースに瞬時に近づき、右腕、左足と刺して完全に動けないようにした。
「は。これで小賢しい真似は出来まい。そうだ!」
ファーガスの姿がみるみるうちに変わる。それはラースの姿。ラースと変化したファーガスが傷付いたラースを見下ろしていた。
「この姿でルビー王女殿下の元へ行けば、殿下は簡単にワシを受け入れてくれよう。心配せずに死ぬがいい。貴様の代わりにワシが殿下を可愛がってやる」
そう言ってファーガスは笑う。それと同時に大地は揺れた。地響きもする。大気が震動し、そのうちに大地は割れ始める。
「なんだ!?」
声を上げるファーガス。状況が分からない。地震かと思ったが地震ではない。大空に鳥が飛び立つ。群れをなして。
城壁の戦闘も、余りのことに両者とも戦を忘れてしまった。
「──なぁんだ」
ゆっくりとラースが体を起こす。すでに傷が塞がっている。彼が手を開くと吸着するように聖剣が飛んできて勝手に貼り付いた。それをラースは力強く握り混む。
「だったら早く言ってくれよ。もう人間じゃなくなったってさ」
ラースの豹変をファーガスは強がりだと受け取った。何しろ今まで逃げてばかりだったのだから。
「はっ。若造。状況が分かっておらんな。もはやワシは通常の人間の数倍。いや、数十倍の力が──」
話している間にラースと鋭い横蹴りがファーガスの頬を捕らえる。
スローモーション──。
ファーガスの頬が無様に揺れて大きく曲がる。彼はそのまま落馬して地面と衝突した。
「な、な、な、なにぃーーーっ!」
「人間ではない。と言うことは魔物。我々の敵だ。貴様に剣を使っても許される」
「は、は、は、はいぃーーー!?」
瞬間、ラースの体は風のようにファーガスの横を通り過ぎる。
ファーガスはなにが起こったか分からない顔をしていたがその顔が、体が、細切れになって地面に落ちた。ラースは叫ぶ。
「敵将ファーガス! このラースが討ち取った!」
敵、味方ともなにが起こったか分からない。だが敵の兵士の一人が手に持つ武器を落とし、両手を上げた。降伏の合図だ。それに伴って敵兵が次々に降った。味方からは大歓声。戦は終わったのだ。
ルビー王女は城壁の上で、ラースの姿を見つけて微笑むと、二人の目が合った。
その頃、ファーガスは小さい望遠鏡で戦況を見ながら片手の小旗を上げ下げして、部下の兵士や将校へと合図を送っていた。
ラースはそのファーガスの後ろに舞い降りる。それにファーガスはすぐに気付いた。
「小僧! ルビー王女殿下の引っ付き虫め! どこで殿下を拐かした!」
そう言って長槍を構えて馬をラースへと向けて走らす。ラースは鉄竿を構えた。
ファーガスの打ち下ろされる長槍を鉄竿で受ける。人対人の戦いではラースに神の加護はない。それは、熟練されたファーガス将軍と互角かそれ以下。なにしろファーガスは馬に乗っている。ラースは俊敏な動きでかわすものの、攻撃は躊躇。防戦一方だ。
「くっ! なんて膂力だ!」
「ふん。若造。戦慣れしていないお前など取るに足らん。経験が違う。経験が」
ファーガスは用兵どころか、一対一の一騎討ちも得意だったようで、ラースは後ずさった。
「それほどの力を持っているのになぜ人間を裏切り、魔王へと降った!?」
「ふん。たしかにワシはまだまだ魔王軍にひけはとらぬと思っておった。しかし魔王さまより魅力的な提案があったのでな」
「魅力的な提案?」
「それは、塔にいたルビー王女との結婚よ。そして、人間の王とすると。戦功を上げればそれを容易く叶えて下さると」
「バカな……!」
「それがために恥を忍んで敵に降れば、すでに姫は貴様に囚われておったわ! 貴様がいなければ!」
そう言ってファーガスは槍を突いてくる。ラースは防戦。鉄棒をひと薙ぎも出来ずに、堪えきれず地面に倒れ込んでしまった。
「弱い。弱すぎる」
「ひ、人でこれほどの力を持ってるものがいたなんて!」
「はっ! こんなヤツにルビー王女が惚れるなど。憎い憎い。お前が憎い!」
ファーガスの槍はラースの左肩を貫いてしまった。噴き出す鮮血。ラースは苦痛の余り叫び呻く。それでもラースは人間に対し抵抗することが出来なかった。
神に与えられた力。
それは魔物に対して無敵の力を発揮する。
攻撃力は数倍。物理攻撃はほとんど効かない。
しかし人間にはその力を振るうことが許されない。もし一度でも振るえば永遠にその力は失われるのだ。
「このまま殺してしまってはツマラン。苦痛を与えてやらねば」
ファーガスはそういうと、ラースの肩から槍を引き抜き、左腕を槍の尖端で切り裂く。剥き出しになる血まみれの筋肉。続いて右足の太股に槍を振り下ろすと、大きな穴。ラースはその度に叫び声を上げた。
「ふん。小気味いい。お前を殺して今宵、ルビー王女殿下に夜伽をさせるとしよう」
苦痛に転がるラースの動きがピタリと止まる。右手に一度放した鉄棒を握り、転がった反動を利用して飛び上がったと思うと、ファーガスの横面を思い切り叩きつける。
「そうはさせない! ルビーにお前を近づけはしない!」
思い切り打ったファーガスの頬。しかし金属と金属をぶつけたような高い音。ラースは驚きながら地面へと着地する。だが右足のダメージが大きすぎたためにそのまま倒れ込んで、ファーガスのほうに振り向いた。
ファーガスは叩かれた頬を一度さする。だがダメージはない。まるで鉄。鍛えられた鋼だ。
「そんな! まさか!」
「──そのまさかよ」
ファーガスの目は炎のように燃える。
「ワシは魔王さまより力を分けて貰ったのだ。この湧き上がる力はどうだ。まさに魔王よ。ワシは人類最強の悪魔となったのだ!」
ファーガスはラースに瞬時に近づき、右腕、左足と刺して完全に動けないようにした。
「は。これで小賢しい真似は出来まい。そうだ!」
ファーガスの姿がみるみるうちに変わる。それはラースの姿。ラースと変化したファーガスが傷付いたラースを見下ろしていた。
「この姿でルビー王女殿下の元へ行けば、殿下は簡単にワシを受け入れてくれよう。心配せずに死ぬがいい。貴様の代わりにワシが殿下を可愛がってやる」
そう言ってファーガスは笑う。それと同時に大地は揺れた。地響きもする。大気が震動し、そのうちに大地は割れ始める。
「なんだ!?」
声を上げるファーガス。状況が分からない。地震かと思ったが地震ではない。大空に鳥が飛び立つ。群れをなして。
城壁の戦闘も、余りのことに両者とも戦を忘れてしまった。
「──なぁんだ」
ゆっくりとラースが体を起こす。すでに傷が塞がっている。彼が手を開くと吸着するように聖剣が飛んできて勝手に貼り付いた。それをラースは力強く握り混む。
「だったら早く言ってくれよ。もう人間じゃなくなったってさ」
ラースの豹変をファーガスは強がりだと受け取った。何しろ今まで逃げてばかりだったのだから。
「はっ。若造。状況が分かっておらんな。もはやワシは通常の人間の数倍。いや、数十倍の力が──」
話している間にラースと鋭い横蹴りがファーガスの頬を捕らえる。
スローモーション──。
ファーガスの頬が無様に揺れて大きく曲がる。彼はそのまま落馬して地面と衝突した。
「な、な、な、なにぃーーーっ!」
「人間ではない。と言うことは魔物。我々の敵だ。貴様に剣を使っても許される」
「は、は、は、はいぃーーー!?」
瞬間、ラースの体は風のようにファーガスの横を通り過ぎる。
ファーガスはなにが起こったか分からない顔をしていたがその顔が、体が、細切れになって地面に落ちた。ラースは叫ぶ。
「敵将ファーガス! このラースが討ち取った!」
敵、味方ともなにが起こったか分からない。だが敵の兵士の一人が手に持つ武器を落とし、両手を上げた。降伏の合図だ。それに伴って敵兵が次々に降った。味方からは大歓声。戦は終わったのだ。
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