右手に剣、左手にカエル姫

家紋武範

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カエルの騎士

第6話 二人の出会い

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グレイブは、そのまま牢の壁に叩きつけられた。
弟を殺された男は歯ぎしりをした。

「これだけじゃ、全然恨みをはらせねぇ。こいつの目に宿る光がムカつくんだよ!」

そう言って、唾を顔に吐きつけた。
男の仲間の一人が

「なぁ。あの洞窟の宝物殿にいたカエルがいたじゃねーか。将軍がバケツに入れてたやつ」
「それがどうした」

その男は弟を殺された男に耳打ちをした。

「それは面白い」
「だろ? 持ってくる」

弟を殺された男は不敵に笑う。そのうちに、仲間の一人が片手にバケツを下げてやってきた。
弟を殺された男はバケツに手を突っ込むと、出てきたのは手のひら大のカエル。
グレイブには訳が分からなかった。

「オマエの国の法律では、結婚したらもう離婚が出来ず一生添い遂げなくてはならないんだって?」
「……あ、当たり前だ……神の祝福を受けてなぜそれを裏切って離婚なぞできる?」

グレイブは自分の国に誇りを持っていたのでそう答えた。
弟を殺された男はさらに笑った。

「では、キミに妻を進呈しよう」

そう言うと、仲間の一人が結婚行進曲を口ずさむ。
もう一人が神父のまねごとをした。

「二人が正式な夫婦であることをここに認めます。二人に永久とこしえの光あれ!」

そう言って、弟を殺された男はグレイブの顔を押え、カエルと無理やり口づけさせた。

「結婚おめでとう!」

そして、グレイブを牢屋から引き出した。
外は闇夜だ。彼らはグレイブの体に縄を巻き付け馬に繋いで砂漠の中央まで引きずり、そこで繋いだ縄を放した。

「殴ったことが将軍にバレたらオレたちは罰せられてしまう。だからお前を脱走したことにする。将軍のカエルを奪ってな。砂漠の暑さなら明日の昼まで持たんだろう。干からびて死んだ後には砂がうまく隠してくれるだろ。安心しろ。一人で死ぬのは怖かろう。武士の情けだ。オマエの妻をここに置いて行ってやる」

そう言って笑ってバケツをそこに置き、陣地を指して帰って行った。

夜の砂漠は寒い。グレイブの腕は縛られ、手を使うことができない。だが無理に体を起こしてバケツに近づいた。

「……はからずも、そなたの夫になった男だ。だがスマン。もうすぐオレは死ぬ……。キミだけでもどうか生きてくれ……」

そう言って体でバケツを押してひっくり返そうとした。

その時……!
暗闇を作っていた雲が動き闇が晴れて行く……。
そこから洪水のように溢れ出す満月の光。

その満月がバケツの中に吸い込まれるように降り注いて行く……。
そこには、金髪で青い目のすらりとした女性が立っていた。

「あ……。あなたは……。あなた様は……」

女性はその美しい顔でニコリと笑いグレイブの後ろに回ってその縄をほどきながら

「私はマスカト王国のキャンベラ国王が公女デラエアです。国は滅び私は魔女の呪いを受けてカエルに姿を変えられ洞窟に住まわせられました。人にも戻れず、死ぬことも叶わぬ身でしたが、本日満月の光を受け久しぶりに人間に戻ることができ、さらにあなたという夫を得ました。なんという神の巡り合わせでしょう」

グレイブは驚いた。この絶世の美女が先ほどのカエルだという。
しかも、永遠の愛を誓った妻……。
先ほどまで死線をさまよっていたのに、なんというサプライズ!

「ま、まさか王女様とは存じませんでした」
「ですが、今は私の夫です。どうか妻として仕えさせてください」

「そ! そんな! 身分が……。身分が違いすぎます」
「いいえ。もはや神はあなたを伴侶と決めました。私では不足ですか?」

「い、いえ! そんな畏れ多いことです!」

徐々に二人は顔を近づける。
そして、満月の光の下で改めてもう一度口づけをした。

「グレイブ。あなたの顔のキズ……」

デラエア王女がそういうので顔をさすってみると、先ほどの殴られたところに痛みを感じない。
胸を開けてみると馬に引きずられた傷もなかった。

「呪いの薬は、死なない呪いだったのだわ。自分の愛する者は先に死に、永遠の安楽を求めてもそれが叶わない呪い……」
「え? え? え? では……。不老不死……」

「その通りです。ですが、ちょうどよいではありませんか」
「な、なぜです?」

「私も同じく死なない呪いを受けているからです。もうかれこれ250年ほど生きております」

グレイブは夢かと思って頬をつねってみた。

痛くない……。

それもそのはず。呪いの薬は痛みもなくしてしまうのだった。

斬られても傷はふさがり、痛みも感じない。四肢を切り分けられたとしても元の場所にくっついてしまう。永遠に死ねない呪いだ。

だがグレイブには都合がよかった。自分の体を切って不思議な奇襲をかけることができる。


二人の旅はそこから始まった。
二人の永遠の楽園を探す!

できれは大きな城を買って、マスカト王国の再建をしたい。
それには金が必要だ。
それに、姫が人間に戻れるのは満月だけだが、それもどうにかならないか?

二人はかれこれ50年も旅を続けていたのだった。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 


二人は、またベッドの上で互いの方を向き合った。

「姫。次の30日はなんと遠いことでしょう? ……もう一度お手合わせよろしいですか?」
「嫌だと言っても許さないのでしょう」

「そんなことありません」
「じゃ、イヤです」

そう言って微笑むデラエア王女。

「ダメですね……。夫の希望を聞くのは妻の務め……」

そう言ってグレイブは笑う彼女の体にのしかかり、また強く抱きしめた。
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