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カエルの騎士
第7話 黒の森の魔女
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勇士グレイブとデラエア王女。
偶然が引き寄せ、夫婦となった二人である。
グレイブはカエルのデラエア王女の従者のようにつとめている。
彼女を守る騎士の生活を50年も続けていた。
50年と言ってもデラエア王女が人間の姿になれるのは、満月の光を浴びた時のみ。
30日に一度。月に1度だ。
だが、いつも月が最高のコンディションで現れるわけではない。
雨の日は光が地上に届かない。
雲の多い日も。
年に10日会えるかどうかだ。
そして、夜だけ。
それを50年。
50年いつも一緒にいて、まだまだ過ごす時間は短いのだ。
二人が仲睦まじい理由はうなづけるところである。
不老不死。
二人は死ぬことも老いることもない。
だが、二人の不老不死のパターンは少し違う。
グレイブは、斬られても突かれても潰されても、痛みもなく元に戻ることができる。
だが、状況によっては時間がかかる。
デラエア王女の場合は、カエルの状態で体が乾くと仮死の状態に陥ってしまう。
復活まで時間がかかる。敵に襲われ、炎の魔法をかけられたときに全身が大やけどになり、8年間復活できなかった。
グレイブは自分の剣の腕の未熟さを呪ったものだ。
彼とて最初から大剣豪だったわけではない。
不死でなければ何十回死んだことだろう。
彼らにとって50年は長くて短い。
その年月がグレイブという剣を磨き鍛え、全国に知れ渡る“カエルの騎士”となったのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
少し昔語りをしたい。
グレイブは今から70年前に産まれた。
だが、デラエア王女は遥か昔だ。今より320年前。
当時、隆盛を誇ったマスカト王国の王女だった。
マスカト王国は広大な領地を有す、大王朝だった。
今現在、そのマスカト王国の跡地には10の大小国が存在することを考えれば、その大きさを伺える。
その領主であるキャンベラ国王は善政をしく良い王だった。
娘であるデラエアも何不自由ない生活を送った。
だが、良い王であるから敵はいない。というものではない。
内外に憂いがあった。
外には20を越える異民族。これがよく国の境を侵した。
内には国王の異母兄であるイアガラ伯爵と叔父のキヨホ公爵が、その地位を狙っていたのだった。
ある時、異民族が大挙をなして国の境を侵したことがあった。
国王が軍勢を国境に差し向けた。
その間を狙って、イアガラ伯爵とキヨホ公爵は手を組み、兵を挙げて城を囲んだ。
しかし、国王にも備えがないわけではなかった。
仲の良い弟のシャインに有事の際には兵を起こして助けてくれるよう頼んでいたのだ。
シャインはすぐに城を囲む軍勢をさらに囲んだ。
こうなると、謀反の二人は参ってしまった。物資も食料も届かない。
だが、二人は奥の手を持っていた。
黒の森に住まうピケロスという魔女に国王の暗殺を頼んでいたのだ。
報酬にデラエアの心臓を渡すという契約で……。
魔法使い……。
魔法を使う、魔法使いや魔女なぞはそんなにカジュアルな存在ではない。
魔法には負のエネルギーが必要だ。
怒り、妬み、恨み、苦しみ。
そんな思いを産まれつき抱えている者でなくては大魔導士になどはなれない。
簡単に言えば、付き合いづらい嫌な奴。
そんなのが魔法使いや魔女の素質をもったものなのだ。
暗闇の心を持つピケロスが城中に忍び込み、キャンベラ国王を暗殺するなどいともたやすいことだった。
気付いたときには国王の胸には短刀が突き刺さっていた。
そこには、国王を支える王妃や王子、王女が居並んでいた。
その目の前での出来事だった。
父の仇である魔女を切りつけようと、王子たちが剣を抜いて襲い掛かるも魔法でそばにも近づけない。
そうこうしているうちに、魔女はデラエア王女の前に近づいてくる。
「依頼主は報酬にオマエの心臓をくれるのだとさ」
そう言って、彼女の胸に手を伸ばしたが彼女の美しさに驚いた。
「くぬぅ……。なんと神の祝福を受けたような美貌……。……あたしはねぇ、あんたみたいなのが大嫌いなんだよ。心臓を奪い取ることはたやすい。だがあんたにイジワルした方がもっと面白そうだ。いっひっひっひ」
そう言うと、しわだらけの指をデラエアに向けた。
「カエルになって永遠に生き続けるがいい!」
そう呪いの言葉を叫ぶと、デラエアはみるみる醜いカエルの姿に!
さらにピケロスは光の当たらない、洞窟の中にデラエアを吹き飛ばしてしまった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
それから250年。デラエアは誰にも会うことなく一人寂しく洞窟の中でカエルとして暮らした。
外ではマスカト王国は滅び、そこには新しい王朝が建国されては潰れ、建国されては潰れた。
代わりに国はたくさんに分かれてしまった。
デラエアが洞窟をさまよっていると、宝物殿を見つけた。
いつのものかはわからない。ひょっとしたらマスカトよりももっと古い時代の王朝のものなのかもしれない。
しかし、宝は人を引き付ける。
ここにいれば、いつかは人に会えるかもしれない。光あふれる場所に連れて行ってくれるのかも。
そう思って彼女はそこを根城にした。
その願いは叶い、ある国の将軍が宝物殿を見つけ、そこにいた王女を見つけ
「これは無事に国に戻れるという瑞祥だ!」
と言って、バケツに入れて連れて来たのだ。
彼の国では“カエル”は縁起のいいものとされていたためだった。
そして、紆余曲折あったがグレイブと夫婦となれた。
デラエアはこの巡り合わせに感謝していたのであった。
偶然が引き寄せ、夫婦となった二人である。
グレイブはカエルのデラエア王女の従者のようにつとめている。
彼女を守る騎士の生活を50年も続けていた。
50年と言ってもデラエア王女が人間の姿になれるのは、満月の光を浴びた時のみ。
30日に一度。月に1度だ。
だが、いつも月が最高のコンディションで現れるわけではない。
雨の日は光が地上に届かない。
雲の多い日も。
年に10日会えるかどうかだ。
そして、夜だけ。
それを50年。
50年いつも一緒にいて、まだまだ過ごす時間は短いのだ。
二人が仲睦まじい理由はうなづけるところである。
不老不死。
二人は死ぬことも老いることもない。
だが、二人の不老不死のパターンは少し違う。
グレイブは、斬られても突かれても潰されても、痛みもなく元に戻ることができる。
だが、状況によっては時間がかかる。
デラエア王女の場合は、カエルの状態で体が乾くと仮死の状態に陥ってしまう。
復活まで時間がかかる。敵に襲われ、炎の魔法をかけられたときに全身が大やけどになり、8年間復活できなかった。
グレイブは自分の剣の腕の未熟さを呪ったものだ。
彼とて最初から大剣豪だったわけではない。
不死でなければ何十回死んだことだろう。
彼らにとって50年は長くて短い。
その年月がグレイブという剣を磨き鍛え、全国に知れ渡る“カエルの騎士”となったのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
少し昔語りをしたい。
グレイブは今から70年前に産まれた。
だが、デラエア王女は遥か昔だ。今より320年前。
当時、隆盛を誇ったマスカト王国の王女だった。
マスカト王国は広大な領地を有す、大王朝だった。
今現在、そのマスカト王国の跡地には10の大小国が存在することを考えれば、その大きさを伺える。
その領主であるキャンベラ国王は善政をしく良い王だった。
娘であるデラエアも何不自由ない生活を送った。
だが、良い王であるから敵はいない。というものではない。
内外に憂いがあった。
外には20を越える異民族。これがよく国の境を侵した。
内には国王の異母兄であるイアガラ伯爵と叔父のキヨホ公爵が、その地位を狙っていたのだった。
ある時、異民族が大挙をなして国の境を侵したことがあった。
国王が軍勢を国境に差し向けた。
その間を狙って、イアガラ伯爵とキヨホ公爵は手を組み、兵を挙げて城を囲んだ。
しかし、国王にも備えがないわけではなかった。
仲の良い弟のシャインに有事の際には兵を起こして助けてくれるよう頼んでいたのだ。
シャインはすぐに城を囲む軍勢をさらに囲んだ。
こうなると、謀反の二人は参ってしまった。物資も食料も届かない。
だが、二人は奥の手を持っていた。
黒の森に住まうピケロスという魔女に国王の暗殺を頼んでいたのだ。
報酬にデラエアの心臓を渡すという契約で……。
魔法使い……。
魔法を使う、魔法使いや魔女なぞはそんなにカジュアルな存在ではない。
魔法には負のエネルギーが必要だ。
怒り、妬み、恨み、苦しみ。
そんな思いを産まれつき抱えている者でなくては大魔導士になどはなれない。
簡単に言えば、付き合いづらい嫌な奴。
そんなのが魔法使いや魔女の素質をもったものなのだ。
暗闇の心を持つピケロスが城中に忍び込み、キャンベラ国王を暗殺するなどいともたやすいことだった。
気付いたときには国王の胸には短刀が突き刺さっていた。
そこには、国王を支える王妃や王子、王女が居並んでいた。
その目の前での出来事だった。
父の仇である魔女を切りつけようと、王子たちが剣を抜いて襲い掛かるも魔法でそばにも近づけない。
そうこうしているうちに、魔女はデラエア王女の前に近づいてくる。
「依頼主は報酬にオマエの心臓をくれるのだとさ」
そう言って、彼女の胸に手を伸ばしたが彼女の美しさに驚いた。
「くぬぅ……。なんと神の祝福を受けたような美貌……。……あたしはねぇ、あんたみたいなのが大嫌いなんだよ。心臓を奪い取ることはたやすい。だがあんたにイジワルした方がもっと面白そうだ。いっひっひっひ」
そう言うと、しわだらけの指をデラエアに向けた。
「カエルになって永遠に生き続けるがいい!」
そう呪いの言葉を叫ぶと、デラエアはみるみる醜いカエルの姿に!
さらにピケロスは光の当たらない、洞窟の中にデラエアを吹き飛ばしてしまった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
それから250年。デラエアは誰にも会うことなく一人寂しく洞窟の中でカエルとして暮らした。
外ではマスカト王国は滅び、そこには新しい王朝が建国されては潰れ、建国されては潰れた。
代わりに国はたくさんに分かれてしまった。
デラエアが洞窟をさまよっていると、宝物殿を見つけた。
いつのものかはわからない。ひょっとしたらマスカトよりももっと古い時代の王朝のものなのかもしれない。
しかし、宝は人を引き付ける。
ここにいれば、いつかは人に会えるかもしれない。光あふれる場所に連れて行ってくれるのかも。
そう思って彼女はそこを根城にした。
その願いは叶い、ある国の将軍が宝物殿を見つけ、そこにいた王女を見つけ
「これは無事に国に戻れるという瑞祥だ!」
と言って、バケツに入れて連れて来たのだ。
彼の国では“カエル”は縁起のいいものとされていたためだった。
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デラエアはこの巡り合わせに感謝していたのであった。
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