右手に剣、左手にカエル姫

家紋武範

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デスキング

第17話 食人木

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「グレイブ!」

カエル姫は落ちて行くグレイブに叫んだ。

その時、“ポン”と高い音がする。

シュルシュルと音を立てて、グレイブが竜巻に乗って崖下から現れた。

「いや~。今日の戦いは本当に危なかったです」
「よかった! 無事だったのね!」

「ええ。それよりも姫は大丈夫ですか?」
「ええ。大丈夫よ。バケツも頑丈だものね!」

崖を登って広い所にくると、風の精霊カヴェルーネはグレイブを地面に置くとボトルに入ってしまった。

「ふぅ。1日に2回もカヴェルーネを使ってしまった。力の限界もあるだろうに申し訳なかった。しばらくカヴェルーネを使うのは控えよう」
「そ、そうね。でも、グレイブ。あなたの足」

見ると両方の足首から下がない。
骨がむき出しになり、赤い血がじんわりと滲んでいるが噴き出してはいない。
それはもうすでに再生をはじめ少しずつ丸みを帯び始めていた。

「ああ。無くなってしまいましたね。ブリストの腹を割いて足を取り出せばすぐに治りますが……。崖下に落ちてしまったものを探すのも大変ですしね」
「自然に治るのも大変よ?」

「ですよね。下に降りて探しますか」

グレイブは一つのボトルを開けた。
そこからは大きな箱のような精霊が現れる。
普通の人くらいの背丈で、我々で言う冷蔵庫のような形だった。

「ステイル。水の革袋を出してくれ」

そう言うと、上部がパクリと開いた。大きな口のようだ。
大きな赤い舌に乗せて水の入った革袋が出てきた。

そう、このステイルという精霊はなんでも胃袋にしまっておける。
溶けてしまったりしない。排泄もしない。
ただ、胃袋にどっしりとした異物を置いておくのが好きな精霊なのだ。
昔、人を飲み込むという害を加えた為にグレイブにボトルに封じ込められた。
だが、グレイブは大量の荷物を胃袋に入れてくれる。
ステイルはグレイブが好きなのだ。

グレイブは水をバケツに注ぎ入れると、ステイルに革袋を返してまたボトルにしまった。

「さ。姫。水に入らないと体に障りますよ」

そう言いながら、心配するカエル、デラエア王女をバケツの中にトプンと入れた。
彼女は水面に二つの目を出してグレイブの顔を覗き込む。
グレイブはむき出しになった骨を地面について歩き出す。痛みなど感じない体だがどうにも歩き辛い。
途中にあった良い枝振りの木立を切り、杖にしてバランスをとりながら進んだ。

山を下るのは簡単な道ではなかった。
しかも、グレイブはバケツを守りながらだ。
骨むき出しの足。おぼつかない杖の足取り。
進行は遅々として進まない。

やがて日も沈みかけてくる。
グレイブは仕方なくキャンプできそうな場所を見つけてそこに革の敷物を敷いた。

たき火を熾し、フライパンを取り出して野草とベーコンを軽く炒めたもの。日持ちする乾燥パン。お得意のドライフルーツをカエル姫の前に並べた。
だが、何度となく見て来たがグレイブの痛々しい姿を見ながら食事など出来ようはずもない。デラエア姫はレーズンを二つばかり飲み込んですぐにバケツに入って眠ってしまった。
出来れば愛しい夫を看病してやりたい。だがそれは無理なのだ。自分の体では。
この呪いを受けた体を幾度となく恨んだ。

グレイブは灯りの前で患部に布を巻き付けブーツの代わりに皮の敷物の一部を割いて靴のようなものを作り足に被せて紐で結びつけた。
これならカエル姫も患部が見えずに安心するだろうと考えたのだ。
そして、姫から少し遅れて就寝した。

次の日。足場を見つけてゆっくりであるが崖を降り、ブリストの死体を探し深い森に入った。
空を見上げて位置を計る。大体ではあるがブリストの死体はこの辺に落ちたであろう場所を目指した。

森の中は暗い。グレイブは火種を取り出しランプに火を灯した。原生林の木々が赤々と照らされる。地面にはその樹木の根がむき出しになり、蛇のようにうねっていた。
歩き辛い地面だ。ましてやグレイブの足は負傷している。
這って進んだ方が早いかもしれない。だがグレイブの気持ちはデラエア姫に無様な姿は見せたくないのだ。

何でもないクールな顔をして、左手にバケツ。右手にランプ。杖は捨てた。ヨチヨチと歩きながら目的地まで進む。

「はて? この辺のハズだが……」

グレイブは辺りを見渡すがそれらしきものはない。
ブリストの巨躯、崖から落ちるスピード。それらを考えれば木の枝にひっかかるなどは考えにくい。地面に叩き付けられているはずだ。そう思った。

木々が揺れている。妖し気な雰囲気だ。
グレイブは気づいた。高い木の上にブリストの体毛がわずかながらに見えたのだ。それは、バネのように巻いた蔦の間から覗いていた。

「アラウネラだ!」

それは、食人木のアラウネラだ。食人木には様々な種類がある。甘い匂いで誘うもの。大きな葉を広げて中に入ったものを包み込んでしまうもの。これは蔦を巻き付ける種類だ。四肢を抑え、蔦で全身を絞って体液を吸い取ってしまう。長く日の光が届かない場所ではこういった種類が自生するのだ。

グレイブはすぐさま身構えようとしたが、足を踏ん張った途端グラついた。いつもと勝手が違う。バケツとランプを持ったまま地面に体を打ち付けてしまった。

そこをアラウネラが見逃すはずがなかった。
するりするりと蔦を伸ばし、グレイブを四肢を押さえ込んでしまった。

「しまった!」

続いて、何本もの蔦が伸びて来る。捕食が開始されたのだった。
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