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クインスロメン王国
第36話 王女の外交
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やがて馬車は王都へ到着し、石畳がある道を進んで行った。
城塞都市に入った途端、黄色い悲鳴だ。
あの馬車には男しか乗っていない。
祭のように街道に女子が飛び出し、凛々しい四人の男たちに歓声を浴びせた。
「こうされるのは悪い気がしないでやす」
「気を抜くな。道中を見て来たであろう。小屋に押し込まれて女の慰み者にされるぞ」
「……そうでやした」
最初ニヤついていたレイバではあったが、グレイブに諭されて顔を青くした。
その城下町を抜け、やがて白い壁に囲まれた城へ。
入り口には警備の女兵士が立っており、馬車では侵入出来ぬと通達された。
「よし。ハーツ。私と姫とで女王に謁見し、通行許可と魔女討伐を進言してまいる。ここで馬車とレイバとガッツを守っていよ。腰のものから手を放すなよ?」
「へぇ! かしこまってございやす!」
その返答にグレイブはニヤリと笑い寝台の部屋に入って着替えをした。
大剣と胸当てを外し、貴族の服を着用して簡素な細身の剣、レイピアのみを帯刀。
左手には姫の入ったバケツを握りしめ、王城の中に入って行った。
城の中でも女の笑い声。りりしい男が入って来たと珍しいものを見るように、みな仕事の手を止めて見物に来たがグレイブは気にもしないで玉座の間へ進んで行った。
女王の前に跪いて挨拶をすると、女王アンディスは身を乗り出してグレイブを観察した。
女王の歳は30前半の中年増。高貴な身であるから諸外国より王子をめとりたいがなかなか婿の来手がなく、この歳になってしまったようだった。
だからこそ、この高名なカエルの騎士を気に入って自分の婿にしたいと思いながら話を聞くことにした。
「私はグレイブ・ブラック・バアブル・ビートと申す旅のものでございます」
グレイブが名乗ると、途端にバケツの中から『長』との姫のお言葉。
グレイブは恐縮してしまったが続けた。
「国境を出る為には女王陛下よりご許可が必要とのことでしたので、こうして卑賤の身でありながらまかり越した次第。どうぞご許可賜りますようお願い申し上げます」
そのように願い出たが、女王は返事にしぶり世間話と旅の話を聞いて来た。
「足下は高名なカエルの騎士であるらしいな。今まで討ち取って来た魔物や賞金首は数えきれぬと聞いた」
「陛下のお耳に入れたことを光栄に思います。ところでご許可は……」
「騎士と言うからには領主がおるのか? 足下の主人の名はなんと言う」
「ははあ。さすればマスカト王国はキャンベラ国王陛下が公女、デラエア王女殿下にございます」
女王は首を傾げた。マスカトと言えば古い王朝だ。
このクインスロメン王国すら領内に含んでいた大王朝。
キャンベラ国王の名も聞いたことがあるが、それの姫の名までは知らなかった。
「これ。すぐに調べよ」
周りのものがざわつき、文献を探しに走って行った。
虚言であろう。誰しもがそう思った。今から何百年も前に分裂した王朝の王女が主人などと、少しばかり頭がおかしいのかも知れないと思った。
女王も誘惑すれば簡単に落ちるのではないのかと内心思っていた。
しばらく待つと、大きな歴史書を手に持った大臣が小走りに女王の前に進み出た。
女王はその大臣が指差したところを読んでハッとした。
「魔女の呪いでカエルにされた王女……」
そうつぶやいて、グレイブの傍らにあるバケツに目をやると縁に手をかけてデラエア姫が顔をだした。
「その通り。私はマスカト国の王女デラエアである。このものは私の夫。系図をたどればクインスロメンは我が国の田舎都市であり初代王はマスカトの侯爵であったはず。本来であれば私はこんな下座にいるはずもない。急ぐ旅であるから、卿はすぐに国外に出る許可を出したまえ」
デラエア姫はわざと自分が上の立場だと、上から侯爵を呼ぶように『卿』と言った。
カエルがものを言ったのも驚いたが、言うことがまさに王女の風格であった。
女王アンディスは恐れて玉座に背をつけてしまった。
女王のそばにいた大臣が、耳打ちをする。それに女王はうなずいた。
「騎士殿と姫に申し上げる。実は我が国には困りごとがありまして、それを高名な騎士殿に是非共解決していただきたい。それがなればお供を含めた全員分の許可を出しましょう」
デラエア姫はフッと笑った。条件付きは分かっていた。
カエルのこの身は舐められても仕方がない。
「その困りごととは」
デラエア姫が尋ねる度に、女王の方では恐縮してしまった。
それほど声に重みがあるのだ。
「されば、我が国にかけられた呪い。棘の魔女を打ち倒して頂きたい」
「ふーん。今まで誰も帰ったことがない魔女と戦えと。それと許可では釣り合いがとれません。その条件は飲めません」
「いえ、当然それだけと考えているわけではない。共通通貨の1000万ケラマンをお支払い致しましょう」
姫の交渉上手にグレイブは驚いてしまった。
向こうから金まで出してくるとは。しかし、デラエアはそれも突っぱねた。
「この国一番の名馬を頂きたい。銀色の名駒がいると聞き及んでおります」
「と、当然、その志はこちらにもございました」
「ならば結構。我が良夫の働きにご期待願いたい」
グレイブは女王に一礼して立ち去った。
女王は緊張から解放されたように大きくため息をついた。
城塞都市に入った途端、黄色い悲鳴だ。
あの馬車には男しか乗っていない。
祭のように街道に女子が飛び出し、凛々しい四人の男たちに歓声を浴びせた。
「こうされるのは悪い気がしないでやす」
「気を抜くな。道中を見て来たであろう。小屋に押し込まれて女の慰み者にされるぞ」
「……そうでやした」
最初ニヤついていたレイバではあったが、グレイブに諭されて顔を青くした。
その城下町を抜け、やがて白い壁に囲まれた城へ。
入り口には警備の女兵士が立っており、馬車では侵入出来ぬと通達された。
「よし。ハーツ。私と姫とで女王に謁見し、通行許可と魔女討伐を進言してまいる。ここで馬車とレイバとガッツを守っていよ。腰のものから手を放すなよ?」
「へぇ! かしこまってございやす!」
その返答にグレイブはニヤリと笑い寝台の部屋に入って着替えをした。
大剣と胸当てを外し、貴族の服を着用して簡素な細身の剣、レイピアのみを帯刀。
左手には姫の入ったバケツを握りしめ、王城の中に入って行った。
城の中でも女の笑い声。りりしい男が入って来たと珍しいものを見るように、みな仕事の手を止めて見物に来たがグレイブは気にもしないで玉座の間へ進んで行った。
女王の前に跪いて挨拶をすると、女王アンディスは身を乗り出してグレイブを観察した。
女王の歳は30前半の中年増。高貴な身であるから諸外国より王子をめとりたいがなかなか婿の来手がなく、この歳になってしまったようだった。
だからこそ、この高名なカエルの騎士を気に入って自分の婿にしたいと思いながら話を聞くことにした。
「私はグレイブ・ブラック・バアブル・ビートと申す旅のものでございます」
グレイブが名乗ると、途端にバケツの中から『長』との姫のお言葉。
グレイブは恐縮してしまったが続けた。
「国境を出る為には女王陛下よりご許可が必要とのことでしたので、こうして卑賤の身でありながらまかり越した次第。どうぞご許可賜りますようお願い申し上げます」
そのように願い出たが、女王は返事にしぶり世間話と旅の話を聞いて来た。
「足下は高名なカエルの騎士であるらしいな。今まで討ち取って来た魔物や賞金首は数えきれぬと聞いた」
「陛下のお耳に入れたことを光栄に思います。ところでご許可は……」
「騎士と言うからには領主がおるのか? 足下の主人の名はなんと言う」
「ははあ。さすればマスカト王国はキャンベラ国王陛下が公女、デラエア王女殿下にございます」
女王は首を傾げた。マスカトと言えば古い王朝だ。
このクインスロメン王国すら領内に含んでいた大王朝。
キャンベラ国王の名も聞いたことがあるが、それの姫の名までは知らなかった。
「これ。すぐに調べよ」
周りのものがざわつき、文献を探しに走って行った。
虚言であろう。誰しもがそう思った。今から何百年も前に分裂した王朝の王女が主人などと、少しばかり頭がおかしいのかも知れないと思った。
女王も誘惑すれば簡単に落ちるのではないのかと内心思っていた。
しばらく待つと、大きな歴史書を手に持った大臣が小走りに女王の前に進み出た。
女王はその大臣が指差したところを読んでハッとした。
「魔女の呪いでカエルにされた王女……」
そうつぶやいて、グレイブの傍らにあるバケツに目をやると縁に手をかけてデラエア姫が顔をだした。
「その通り。私はマスカト国の王女デラエアである。このものは私の夫。系図をたどればクインスロメンは我が国の田舎都市であり初代王はマスカトの侯爵であったはず。本来であれば私はこんな下座にいるはずもない。急ぐ旅であるから、卿はすぐに国外に出る許可を出したまえ」
デラエア姫はわざと自分が上の立場だと、上から侯爵を呼ぶように『卿』と言った。
カエルがものを言ったのも驚いたが、言うことがまさに王女の風格であった。
女王アンディスは恐れて玉座に背をつけてしまった。
女王のそばにいた大臣が、耳打ちをする。それに女王はうなずいた。
「騎士殿と姫に申し上げる。実は我が国には困りごとがありまして、それを高名な騎士殿に是非共解決していただきたい。それがなればお供を含めた全員分の許可を出しましょう」
デラエア姫はフッと笑った。条件付きは分かっていた。
カエルのこの身は舐められても仕方がない。
「その困りごととは」
デラエア姫が尋ねる度に、女王の方では恐縮してしまった。
それほど声に重みがあるのだ。
「されば、我が国にかけられた呪い。棘の魔女を打ち倒して頂きたい」
「ふーん。今まで誰も帰ったことがない魔女と戦えと。それと許可では釣り合いがとれません。その条件は飲めません」
「いえ、当然それだけと考えているわけではない。共通通貨の1000万ケラマンをお支払い致しましょう」
姫の交渉上手にグレイブは驚いてしまった。
向こうから金まで出してくるとは。しかし、デラエアはそれも突っぱねた。
「この国一番の名馬を頂きたい。銀色の名駒がいると聞き及んでおります」
「と、当然、その志はこちらにもございました」
「ならば結構。我が良夫の働きにご期待願いたい」
グレイブは女王に一礼して立ち去った。
女王は緊張から解放されたように大きくため息をついた。
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