右手に剣、左手にカエル姫

家紋武範

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クインスロメン王国

第37話 古戦場へ

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最初のときとムードが違う。それはそうだろう。
カエルの騎士は実在し、持っているバケツの中のカエルは元人間の王女様。気が触れているどころか一途で忠誠心の厚い男。
今までの男たちは、簡単に落ちた。今の現状を好む者さえいる。

だがこの男は違う。まばゆい男振りに見物していた女たちは潮が引くように後ずさって行った。

グレイブはそんな女たちを尻目にバケツの中のデラエア姫に楽しそうに話し掛けた。

「姫。驚きました」
「ふふん。長い年生きてるからこんなのわけないわよ」

「まさに姐さん女房は金の草鞋を履いてでも探せです」
「でも私、人間の時間はあなたより全然年下よ?」

だが二人が馬車に戻ると、そこも女、女、女の人だかり。
この国の女たちにしてみれば、男は共有の財産。
旅人でも薬を盛って気絶させ、家に閉じ込めてしまう者だって大勢いた。
男は貴重品。それが目の前に三人もいるのだ。集団の心理で理性のタガが外れかかっている。
グレイブたちの帰るのが遅かったら馬車をひっくり返されてみんな連れ去られていたかも知れない。

「どきたまえ!」

グレイブが大声で叫んだその声に、女たちは振り返り歓声が上げた。また一人増えた。しかもりりしい男振り。あるものはよだれをすすった。
だがもう一つの声が状況をガラリと変えた。

「どきたまえ!」

ピタリ。
声が止まった。それもそのはず。デラエア姫がバケツから顔をのぞかせて叫んだからだ。
カエルがなぜ叫ぶのか?
みな、恐れて数歩下がってしまった。
デラエア姫は得意顔をしてグレイブを馬車に乗せ、レイバに命令した。

「ほら。さっさと馬車を出しなさい」
「へ、へぇ」

デラエア姫の号令で、馬車は発車した。
城下町の女たちはその馬車の後ろを見続けることしかできなかった。

城下を出て、車が進んで行く。

「いや~。この国に入って女は恐ろしいと思いましたが、姫もなかなかどうして」
「は? どういうこと?」

「いえ。見事に全てをおさめました。さすがマスカト1の王女でございます」
「ふふ。追従ついしょうなら結構よ」

「いえいえ。本心でございます」

みなデラエア姫の見事な外交に舌を巻き、危機を脱したことで自然と笑顔になった。

その五人が乗る馬車が向かうその先は、魔女のいる棘の塔。

かと思われたが違った。
グレイブが指示した先は、国境付近にある古戦場であった。

実は、前に聞いていた棘の魔女が恋慕した騎士が戦死した場所であった。

「その騎士とやらに話を聞いてみよう」

グレイブは、ガッツとレイバに姫をたくし、自分はハーツとともにこの古戦場で野宿をすることにした。
話によると彷徨う亡霊になっているらしい。

亡霊とは一度対峙したことがある。
水の町の近くのラディという城主の亡霊。
彼を説得して愛人とともに成仏させた経験がある。

話して分からない相手ではないかも知れない。
ハーツもそんな心強いグレイブがいるお陰で、こんな寂しい場所でも恐ろしくはなかった。

二人での初めてのキャンプ。石で囲んだ場所に火を焚き、簡易なテントを立てた。
固めのパンに二人で獲ったウサギ肉の焼いたものを挟み、ブドウ酒で喉を潤した。
ハーツはグレイブを兄貴と呼び道中の話をし、グレイブは姫が亡霊が嫌いな為にガッツとレイバに預けた旨を話した。

夜が深まる。二人とも肘枕で寝ていたが、馬蹄の響きで目を覚ました。
それは国境から聞こえてくる。
ハーツが目を凝らしてみると、果たしてそれは首無しの馬に跨がった首無しの騎士であった。いや、首は片方の手で小脇に抱えていた。

「ひぃぃぃい!」

ハーツがつい叫び声をあげる。
首無しの鎧武者。馬にも鎧を着用させている。
いわゆる重騎馬というやつだ。脇に抱えた首が悲しそうな目をしながらハーツを指差した。

「貴様の命はあと三日だ……」
「ひぃ!」

ハーツは恐ろしさの余り戦慄の声を上げた。
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