37 / 79
クインスロメン王国
第37話 古戦場へ
しおりを挟む
最初のときとムードが違う。それはそうだろう。
カエルの騎士は実在し、持っているバケツの中のカエルは元人間の王女様。気が触れているどころか一途で忠誠心の厚い男。
今までの男たちは、簡単に落ちた。今の現状を好む者さえいる。
だがこの男は違う。まばゆい男振りに見物していた女たちは潮が引くように後ずさって行った。
グレイブはそんな女たちを尻目にバケツの中のデラエア姫に楽しそうに話し掛けた。
「姫。驚きました」
「ふふん。長い年生きてるからこんなのわけないわよ」
「まさに姐さん女房は金の草鞋を履いてでも探せです」
「でも私、人間の時間はあなたより全然年下よ?」
だが二人が馬車に戻ると、そこも女、女、女の人だかり。
この国の女たちにしてみれば、男は共有の財産。
旅人でも薬を盛って気絶させ、家に閉じ込めてしまう者だって大勢いた。
男は貴重品。それが目の前に三人もいるのだ。集団の心理で理性のタガが外れかかっている。
グレイブたちの帰るのが遅かったら馬車をひっくり返されてみんな連れ去られていたかも知れない。
「どきたまえ!」
グレイブが大声で叫んだその声に、女たちは振り返り歓声が上げた。また一人増えた。しかもりりしい男振り。あるものはよだれをすすった。
だがもう一つの声が状況をガラリと変えた。
「どきたまえ!」
ピタリ。
声が止まった。それもそのはず。デラエア姫がバケツから顔をのぞかせて叫んだからだ。
カエルがなぜ叫ぶのか?
みな、恐れて数歩下がってしまった。
デラエア姫は得意顔をしてグレイブを馬車に乗せ、レイバに命令した。
「ほら。さっさと馬車を出しなさい」
「へ、へぇ」
デラエア姫の号令で、馬車は発車した。
城下町の女たちはその馬車の後ろを見続けることしかできなかった。
城下を出て、車が進んで行く。
「いや~。この国に入って女は恐ろしいと思いましたが、姫もなかなかどうして」
「は? どういうこと?」
「いえ。見事に全てをおさめました。さすがマスカト1の王女でございます」
「ふふ。追従なら結構よ」
「いえいえ。本心でございます」
みなデラエア姫の見事な外交に舌を巻き、危機を脱したことで自然と笑顔になった。
その五人が乗る馬車が向かうその先は、魔女のいる棘の塔。
かと思われたが違った。
グレイブが指示した先は、国境付近にある古戦場であった。
実は、前に聞いていた棘の魔女が恋慕した騎士が戦死した場所であった。
「その騎士とやらに話を聞いてみよう」
グレイブは、ガッツとレイバに姫をたくし、自分はハーツとともにこの古戦場で野宿をすることにした。
話によると彷徨う亡霊になっているらしい。
亡霊とは一度対峙したことがある。
水の町の近くのラディという城主の亡霊。
彼を説得して愛人とともに成仏させた経験がある。
話して分からない相手ではないかも知れない。
ハーツもそんな心強いグレイブがいるお陰で、こんな寂しい場所でも恐ろしくはなかった。
二人での初めてのキャンプ。石で囲んだ場所に火を焚き、簡易なテントを立てた。
固めのパンに二人で獲ったウサギ肉の焼いたものを挟み、ブドウ酒で喉を潤した。
ハーツはグレイブを兄貴と呼び道中の話をし、グレイブは姫が亡霊が嫌いな為にガッツとレイバに預けた旨を話した。
夜が深まる。二人とも肘枕で寝ていたが、馬蹄の響きで目を覚ました。
それは国境から聞こえてくる。
ハーツが目を凝らしてみると、果たしてそれは首無しの馬に跨がった首無しの騎士であった。いや、首は片方の手で小脇に抱えていた。
「ひぃぃぃい!」
ハーツがつい叫び声をあげる。
首無しの鎧武者。馬にも鎧を着用させている。
いわゆる重騎馬というやつだ。脇に抱えた首が悲しそうな目をしながらハーツを指差した。
「貴様の命はあと三日だ……」
「ひぃ!」
ハーツは恐ろしさの余り戦慄の声を上げた。
カエルの騎士は実在し、持っているバケツの中のカエルは元人間の王女様。気が触れているどころか一途で忠誠心の厚い男。
今までの男たちは、簡単に落ちた。今の現状を好む者さえいる。
だがこの男は違う。まばゆい男振りに見物していた女たちは潮が引くように後ずさって行った。
グレイブはそんな女たちを尻目にバケツの中のデラエア姫に楽しそうに話し掛けた。
「姫。驚きました」
「ふふん。長い年生きてるからこんなのわけないわよ」
「まさに姐さん女房は金の草鞋を履いてでも探せです」
「でも私、人間の時間はあなたより全然年下よ?」
だが二人が馬車に戻ると、そこも女、女、女の人だかり。
この国の女たちにしてみれば、男は共有の財産。
旅人でも薬を盛って気絶させ、家に閉じ込めてしまう者だって大勢いた。
男は貴重品。それが目の前に三人もいるのだ。集団の心理で理性のタガが外れかかっている。
グレイブたちの帰るのが遅かったら馬車をひっくり返されてみんな連れ去られていたかも知れない。
「どきたまえ!」
グレイブが大声で叫んだその声に、女たちは振り返り歓声が上げた。また一人増えた。しかもりりしい男振り。あるものはよだれをすすった。
だがもう一つの声が状況をガラリと変えた。
「どきたまえ!」
ピタリ。
声が止まった。それもそのはず。デラエア姫がバケツから顔をのぞかせて叫んだからだ。
カエルがなぜ叫ぶのか?
みな、恐れて数歩下がってしまった。
デラエア姫は得意顔をしてグレイブを馬車に乗せ、レイバに命令した。
「ほら。さっさと馬車を出しなさい」
「へ、へぇ」
デラエア姫の号令で、馬車は発車した。
城下町の女たちはその馬車の後ろを見続けることしかできなかった。
城下を出て、車が進んで行く。
「いや~。この国に入って女は恐ろしいと思いましたが、姫もなかなかどうして」
「は? どういうこと?」
「いえ。見事に全てをおさめました。さすがマスカト1の王女でございます」
「ふふ。追従なら結構よ」
「いえいえ。本心でございます」
みなデラエア姫の見事な外交に舌を巻き、危機を脱したことで自然と笑顔になった。
その五人が乗る馬車が向かうその先は、魔女のいる棘の塔。
かと思われたが違った。
グレイブが指示した先は、国境付近にある古戦場であった。
実は、前に聞いていた棘の魔女が恋慕した騎士が戦死した場所であった。
「その騎士とやらに話を聞いてみよう」
グレイブは、ガッツとレイバに姫をたくし、自分はハーツとともにこの古戦場で野宿をすることにした。
話によると彷徨う亡霊になっているらしい。
亡霊とは一度対峙したことがある。
水の町の近くのラディという城主の亡霊。
彼を説得して愛人とともに成仏させた経験がある。
話して分からない相手ではないかも知れない。
ハーツもそんな心強いグレイブがいるお陰で、こんな寂しい場所でも恐ろしくはなかった。
二人での初めてのキャンプ。石で囲んだ場所に火を焚き、簡易なテントを立てた。
固めのパンに二人で獲ったウサギ肉の焼いたものを挟み、ブドウ酒で喉を潤した。
ハーツはグレイブを兄貴と呼び道中の話をし、グレイブは姫が亡霊が嫌いな為にガッツとレイバに預けた旨を話した。
夜が深まる。二人とも肘枕で寝ていたが、馬蹄の響きで目を覚ました。
それは国境から聞こえてくる。
ハーツが目を凝らしてみると、果たしてそれは首無しの馬に跨がった首無しの騎士であった。いや、首は片方の手で小脇に抱えていた。
「ひぃぃぃい!」
ハーツがつい叫び声をあげる。
首無しの鎧武者。馬にも鎧を着用させている。
いわゆる重騎馬というやつだ。脇に抱えた首が悲しそうな目をしながらハーツを指差した。
「貴様の命はあと三日だ……」
「ひぃ!」
ハーツは恐ろしさの余り戦慄の声を上げた。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる