右手に剣、左手にカエル姫

家紋武範

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クインスロメン王国

第50話 偽デュラハン

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粗末な服を与えられ牢屋に入れられると、グレイブは口汚く女王をののしった。

「やいやい売女! オレはこの国の為に力を尽くしたのにこの扱いはヒドいぞ! お前の夫をこのような目にあわせるならばろくな死に方をせんぞ!」

とまぁ、吹くわ吹く。
女王も自ら申し出た結婚だったので、すぐにいたたまれなくなり、直情とも言える判決を下した。

グレイブを死刑に!

というものであった。
昨日は英雄。今日は死刑囚である。
この国では死刑の刑具にギロチンを採用していた。
見た目は残虐だが、罪人は苦痛を味あわずに一瞬で死ねる。

英雄は女王に無礼を働き死刑になると言うことで、城下町のものたちはこぞってそれを見物に来ていた。

「私は妻を諦めて女王の婿となったのにこの扱いはあんまりだ。死んでも死に切れん。女王に伝えよ。このようなことばかりすれば、また国に呪いが降りかかるとな!」

首を木の枷に繋がれ、大きな包丁を落とされるとグレイブの首と胴体はキレイに二つになってしまった。
無情にも死刑執行人は胴体を刑場に掘られた穴に捨て、首を刑場の門に設けられた首台に置いて見せしめとした。


それから数日が経った。
王宮の城下にある刑場のグレイブの首には誰も興味を示さなくなったが、グレイブは生きていた。
ただ目を閉じていただけ。
そろそろ仲間たちが国境付近に着いたであろうと計算した夜に目を開けた。

「やれやれ。遅くなったがそろそろ出立するか」

一人ごつと、首のないグレイブの体が刑場よりやってきて頭を抱えた。

「おお。まるでデュラハンのようだな。そうだ!」

グレイブは首を小脇に抱えたまま、城内にある馬止めまでやってきた。
月夜に銀色の毛をなびかせて、褒美に与えられた馬はまだそのままで、ちょうど係のものが月明かりを頼りに馬の体を磨いていた。

「やれやれ、お前の主人となる英雄グレイブさまは死刑になっちまうし、上からはお前をどうするか言われてこない。いったいどうすればいいのやら」

などと独り言を行っているそのものは初老の女であった。

「それが私の馬か。お役目ご苦労であったな」
「え?」

振り向き様に驚いた。なんと首を抱えたグレイブがそこにいたのだ。

「私は死してデュラハンとなった。もしも私を追おうとするならばそのものに災難がやってくるだろうと女王に伝えたまえ」
「ひぃ! ひいいいい!」

「では馬は貰って行く」

グレイブは自分の首をポンと放り投げ、その間に馬に跨がると、馬上で自分の首をキャッチした。
そして左手で手綱を握り、まだ修復されていない右腕に首を抱えた。

「はっはっは。追おうとしないのならば私は国を呪おうとは思わん。これからは男児が生まれるであろうから無闇な戦争は控えるようにせよ。ではさらばだ!」

グレイブは馬を駆り、城門を抜け出した。
闇夜でも出来るだけ姫の一行に追いつきたい一心で昼夜を問わず駆け抜けた。

「おお。噂に違わぬ名馬だな。お前の名前を決めてやらねばならん。そうだ。オレの前の愛馬であったアボガドゥルの名をやろう」

アボガドゥル号は、グレイブの思うままに風のように疾駆した。


一週間もすると、国境付近の町にやって来た。
宿を探すと打ち合わせ通りにマスカトの国章を付けた馬車が停車していた。
グレイブもそこの馬止めに馬をとめ、仲間たちとの再会を喜んだ。

「アニキの計略通りでやしたね」
「ああ。さっさとこの国を出てしまおう。次はパイヤパ王国か。小国だが賞金首の魔物がいるらしい。レモーネの武に期待するぞ」

「任せといて下さい」
「おいおい。アニキ。あっしは?」

「えーと、君はハーツとか言ったか?」
「これだ。歴戦の付き合いも忘れちまってやがる」

「はっはっは。冗談だ」

デラエア王女とグレイブ。その仲間たちは安全に国境を越え、小国パイヤパ王国に向かって行った。
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