50 / 79
クインスロメン王国
第50話 偽デュラハン
しおりを挟む
粗末な服を与えられ牢屋に入れられると、グレイブは口汚く女王を罵った。
「やいやい売女! オレはこの国の為に力を尽くしたのにこの扱いはヒドいぞ! お前の夫をこのような目にあわせるならばろくな死に方をせんぞ!」
とまぁ、吹くわ吹く。
女王も自ら申し出た結婚だったので、すぐにいたたまれなくなり、直情とも言える判決を下した。
グレイブを死刑に!
というものであった。
昨日は英雄。今日は死刑囚である。
この国では死刑の刑具にギロチンを採用していた。
見た目は残虐だが、罪人は苦痛を味あわずに一瞬で死ねる。
英雄は女王に無礼を働き死刑になると言うことで、城下町のものたちはこぞってそれを見物に来ていた。
「私は妻を諦めて女王の婿となったのにこの扱いはあんまりだ。死んでも死に切れん。女王に伝えよ。このようなことばかりすれば、また国に呪いが降りかかるとな!」
首を木の枷に繋がれ、大きな包丁を落とされるとグレイブの首と胴体はキレイに二つになってしまった。
無情にも死刑執行人は胴体を刑場に掘られた穴に捨て、首を刑場の門に設けられた首台に置いて見せしめとした。
それから数日が経った。
王宮の城下にある刑場のグレイブの首には誰も興味を示さなくなったが、グレイブは生きていた。
ただ目を閉じていただけ。
そろそろ仲間たちが国境付近に着いたであろうと計算した夜に目を開けた。
「やれやれ。遅くなったがそろそろ出立するか」
一人ごつと、首のないグレイブの体が刑場よりやってきて頭を抱えた。
「おお。まるでデュラハンのようだな。そうだ!」
グレイブは首を小脇に抱えたまま、城内にある馬止めまでやってきた。
月夜に銀色の毛をなびかせて、褒美に与えられた馬はまだそのままで、ちょうど係のものが月明かりを頼りに馬の体を磨いていた。
「やれやれ、お前の主人となる英雄グレイブさまは死刑になっちまうし、上からはお前をどうするか言われてこない。いったいどうすればいいのやら」
などと独り言を行っているそのものは初老の女であった。
「それが私の馬か。お役目ご苦労であったな」
「え?」
振り向き様に驚いた。なんと首を抱えたグレイブがそこにいたのだ。
「私は死してデュラハンとなった。もしも私を追おうとするならばそのものに災難がやってくるだろうと女王に伝えたまえ」
「ひぃ! ひいいいい!」
「では馬は貰って行く」
グレイブは自分の首をポンと放り投げ、その間に馬に跨がると、馬上で自分の首をキャッチした。
そして左手で手綱を握り、まだ修復されていない右腕に首を抱えた。
「はっはっは。追おうとしないのならば私は国を呪おうとは思わん。これからは男児が生まれるであろうから無闇な戦争は控えるようにせよ。ではさらばだ!」
グレイブは馬を駆り、城門を抜け出した。
闇夜でも出来るだけ姫の一行に追いつきたい一心で昼夜を問わず駆け抜けた。
「おお。噂に違わぬ名馬だな。お前の名前を決めてやらねばならん。そうだ。オレの前の愛馬であったアボガドゥルの名をやろう」
アボガドゥル号は、グレイブの思うままに風のように疾駆した。
一週間もすると、国境付近の町にやって来た。
宿を探すと打ち合わせ通りにマスカトの国章を付けた馬車が停車していた。
グレイブもそこの馬止めに馬をとめ、仲間たちとの再会を喜んだ。
「アニキの計略通りでやしたね」
「ああ。さっさとこの国を出てしまおう。次はパイヤパ王国か。小国だが賞金首の魔物がいるらしい。レモーネの武に期待するぞ」
「任せといて下さい」
「おいおい。アニキ。あっしは?」
「えーと、君はハーツとか言ったか?」
「これだ。歴戦の付き合いも忘れちまってやがる」
「はっはっは。冗談だ」
デラエア王女とグレイブ。その仲間たちは安全に国境を越え、小国パイヤパ王国に向かって行った。
「やいやい売女! オレはこの国の為に力を尽くしたのにこの扱いはヒドいぞ! お前の夫をこのような目にあわせるならばろくな死に方をせんぞ!」
とまぁ、吹くわ吹く。
女王も自ら申し出た結婚だったので、すぐにいたたまれなくなり、直情とも言える判決を下した。
グレイブを死刑に!
というものであった。
昨日は英雄。今日は死刑囚である。
この国では死刑の刑具にギロチンを採用していた。
見た目は残虐だが、罪人は苦痛を味あわずに一瞬で死ねる。
英雄は女王に無礼を働き死刑になると言うことで、城下町のものたちはこぞってそれを見物に来ていた。
「私は妻を諦めて女王の婿となったのにこの扱いはあんまりだ。死んでも死に切れん。女王に伝えよ。このようなことばかりすれば、また国に呪いが降りかかるとな!」
首を木の枷に繋がれ、大きな包丁を落とされるとグレイブの首と胴体はキレイに二つになってしまった。
無情にも死刑執行人は胴体を刑場に掘られた穴に捨て、首を刑場の門に設けられた首台に置いて見せしめとした。
それから数日が経った。
王宮の城下にある刑場のグレイブの首には誰も興味を示さなくなったが、グレイブは生きていた。
ただ目を閉じていただけ。
そろそろ仲間たちが国境付近に着いたであろうと計算した夜に目を開けた。
「やれやれ。遅くなったがそろそろ出立するか」
一人ごつと、首のないグレイブの体が刑場よりやってきて頭を抱えた。
「おお。まるでデュラハンのようだな。そうだ!」
グレイブは首を小脇に抱えたまま、城内にある馬止めまでやってきた。
月夜に銀色の毛をなびかせて、褒美に与えられた馬はまだそのままで、ちょうど係のものが月明かりを頼りに馬の体を磨いていた。
「やれやれ、お前の主人となる英雄グレイブさまは死刑になっちまうし、上からはお前をどうするか言われてこない。いったいどうすればいいのやら」
などと独り言を行っているそのものは初老の女であった。
「それが私の馬か。お役目ご苦労であったな」
「え?」
振り向き様に驚いた。なんと首を抱えたグレイブがそこにいたのだ。
「私は死してデュラハンとなった。もしも私を追おうとするならばそのものに災難がやってくるだろうと女王に伝えたまえ」
「ひぃ! ひいいいい!」
「では馬は貰って行く」
グレイブは自分の首をポンと放り投げ、その間に馬に跨がると、馬上で自分の首をキャッチした。
そして左手で手綱を握り、まだ修復されていない右腕に首を抱えた。
「はっはっは。追おうとしないのならば私は国を呪おうとは思わん。これからは男児が生まれるであろうから無闇な戦争は控えるようにせよ。ではさらばだ!」
グレイブは馬を駆り、城門を抜け出した。
闇夜でも出来るだけ姫の一行に追いつきたい一心で昼夜を問わず駆け抜けた。
「おお。噂に違わぬ名馬だな。お前の名前を決めてやらねばならん。そうだ。オレの前の愛馬であったアボガドゥルの名をやろう」
アボガドゥル号は、グレイブの思うままに風のように疾駆した。
一週間もすると、国境付近の町にやって来た。
宿を探すと打ち合わせ通りにマスカトの国章を付けた馬車が停車していた。
グレイブもそこの馬止めに馬をとめ、仲間たちとの再会を喜んだ。
「アニキの計略通りでやしたね」
「ああ。さっさとこの国を出てしまおう。次はパイヤパ王国か。小国だが賞金首の魔物がいるらしい。レモーネの武に期待するぞ」
「任せといて下さい」
「おいおい。アニキ。あっしは?」
「えーと、君はハーツとか言ったか?」
「これだ。歴戦の付き合いも忘れちまってやがる」
「はっはっは。冗談だ」
デラエア王女とグレイブ。その仲間たちは安全に国境を越え、小国パイヤパ王国に向かって行った。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる