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セイバー
第52話 壊れる玩具
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かろうじて逃げ果せられたグランドスミスの兵士は10人に満たなかった。
国境を越え、自分たちが駐屯する場所は遠い。馬を停めた場所はかろうじて近い場所にあったが、そこに行くにも暗い山中を駆けねばならなかった。
火をつければ、自分たちのいる場所を知らせるようなもの。
クインスロメン側の兵士がすでに入り込んでいるかも知れない。
風で動く木々すらも恐ろしく感じられた。
馬を停めた場所までもう少しと言うところで火が見えた。
恐る恐る目を凝らしてみると、老人一人と若い女が一人たき火をしてキャンプをしているようだった。
グランドスミスの兵士はようやくここで人心地ついた。
「スイマセン。我々も少し火に当たらせて下さいませんか?」
そう言って近づくと、老人と女は兵士達を招き入れ、自分たちの食料まで分け与えた。
「敗戦して着の身着のまま逃げて来たので、こんな場所で馳走とはありがたい。世話になります」
彼らは二人の持つ食料と水を平らげ、安心し一息ついた。
見ると二人は神父と修道女のようだ。なるほど。このような歓待はうなずける。
「お国のために働いて下さる皆さんに光りあれ」
と二人は兵士たちのために祈りを捧げた。
しかし兵士たちは腹も膨らみ、もうすぐ陣にたどり着けると言うところで安心し、悪い欲望が頭をよぎった。
見ればこの修道女は、女の美の才能を持ち合わせていた。
顔立ちはもちろん、僧侶の服の下にくっきりと女性らしい線。
死地を切り抜けた兵士に子孫を残したい反応が出る。
一人の兵士が手を掴むと、他の者たちも同じ気持ちだったのか立ち上がった。
戦の狂気なのであろう。
もやは同国人であろうと関係がなくなっていた。
普段は規律規律で固められている兵士たち。国のためを思えばこそ、この職業についたはずなのに老人は邪魔とばかり道に転ばせ、修道女の手足を押さえつけ、自分たちも重い鎧を外し始めていた。
「へっへっへ。兵隊さんを今日ばかり慰めておくれよ」
「な、なにをなさいます。お、お父様は」
「あの神父はアンタのおとっつぁんかよ。おとっつぁんの前では恥ずかしかろう。あっちの木の影にいこう」
兵士たちは修道女を抱え、大木の影に運ぼうとしたがその大木の上から一つの影が降りて来た。
大きな鎌の柄を背中に斜めに構え、黒いマントがはためいている。
体は細くて青い顔。それはまさに暗殺者セイバーであった。
「なんだお前は?」
兵士たちの言葉が終わらないうちにセイバーは自慢の大鎌を振り回すと、そこら中に兵士の首が散らばって行った。
修道女が叫び声を上げる。セイバーをそれを楽しむようだった。
兵士を全て殺し、修道女がしゃがみこみ震えながら小さく声を上げている。
ようやく神父が立ち上がり、セイバーの元に近づいた。
「た、助かりましたが、何も殺さなくとも……」
神父は最後まで言葉を言えなかった。
すでに胴体と首が離れてしまっていたからだ。
セイバーには人間の生き死になど関係ない。
余計な説教は無用。その首をつかみ上げ泣き叫ぶ修道女の前でしたたる血をすすった。
途端、修道女はまたも叫び声を上げた。
「はははは。いいな貴様の泣き叫ぶ声は。もっとだ。もっと叫べ!」
突然目の前に現れた残虐魔。
兵士を皆殺しにし、肉親までも殺されてしまった。
突然のことにその場に気絶してしまった。
「ん? なんだ。気絶してしまったのか。だが面白い。もっともっと叫ばせてやる。はははははは」
なんの気紛れか?
セイバーは修道女の髪をつかみ上げたところで腕に抱きかかえると、笑いながら闇夜に跳び上がった。
日が出る前に、日の当たらない場所を探さなくてはならない。
それにしばらくは退屈しなくて済みそうだと思った。
国境を越え、自分たちが駐屯する場所は遠い。馬を停めた場所はかろうじて近い場所にあったが、そこに行くにも暗い山中を駆けねばならなかった。
火をつければ、自分たちのいる場所を知らせるようなもの。
クインスロメン側の兵士がすでに入り込んでいるかも知れない。
風で動く木々すらも恐ろしく感じられた。
馬を停めた場所までもう少しと言うところで火が見えた。
恐る恐る目を凝らしてみると、老人一人と若い女が一人たき火をしてキャンプをしているようだった。
グランドスミスの兵士はようやくここで人心地ついた。
「スイマセン。我々も少し火に当たらせて下さいませんか?」
そう言って近づくと、老人と女は兵士達を招き入れ、自分たちの食料まで分け与えた。
「敗戦して着の身着のまま逃げて来たので、こんな場所で馳走とはありがたい。世話になります」
彼らは二人の持つ食料と水を平らげ、安心し一息ついた。
見ると二人は神父と修道女のようだ。なるほど。このような歓待はうなずける。
「お国のために働いて下さる皆さんに光りあれ」
と二人は兵士たちのために祈りを捧げた。
しかし兵士たちは腹も膨らみ、もうすぐ陣にたどり着けると言うところで安心し、悪い欲望が頭をよぎった。
見ればこの修道女は、女の美の才能を持ち合わせていた。
顔立ちはもちろん、僧侶の服の下にくっきりと女性らしい線。
死地を切り抜けた兵士に子孫を残したい反応が出る。
一人の兵士が手を掴むと、他の者たちも同じ気持ちだったのか立ち上がった。
戦の狂気なのであろう。
もやは同国人であろうと関係がなくなっていた。
普段は規律規律で固められている兵士たち。国のためを思えばこそ、この職業についたはずなのに老人は邪魔とばかり道に転ばせ、修道女の手足を押さえつけ、自分たちも重い鎧を外し始めていた。
「へっへっへ。兵隊さんを今日ばかり慰めておくれよ」
「な、なにをなさいます。お、お父様は」
「あの神父はアンタのおとっつぁんかよ。おとっつぁんの前では恥ずかしかろう。あっちの木の影にいこう」
兵士たちは修道女を抱え、大木の影に運ぼうとしたがその大木の上から一つの影が降りて来た。
大きな鎌の柄を背中に斜めに構え、黒いマントがはためいている。
体は細くて青い顔。それはまさに暗殺者セイバーであった。
「なんだお前は?」
兵士たちの言葉が終わらないうちにセイバーは自慢の大鎌を振り回すと、そこら中に兵士の首が散らばって行った。
修道女が叫び声を上げる。セイバーをそれを楽しむようだった。
兵士を全て殺し、修道女がしゃがみこみ震えながら小さく声を上げている。
ようやく神父が立ち上がり、セイバーの元に近づいた。
「た、助かりましたが、何も殺さなくとも……」
神父は最後まで言葉を言えなかった。
すでに胴体と首が離れてしまっていたからだ。
セイバーには人間の生き死になど関係ない。
余計な説教は無用。その首をつかみ上げ泣き叫ぶ修道女の前でしたたる血をすすった。
途端、修道女はまたも叫び声を上げた。
「はははは。いいな貴様の泣き叫ぶ声は。もっとだ。もっと叫べ!」
突然目の前に現れた残虐魔。
兵士を皆殺しにし、肉親までも殺されてしまった。
突然のことにその場に気絶してしまった。
「ん? なんだ。気絶してしまったのか。だが面白い。もっともっと叫ばせてやる。はははははは」
なんの気紛れか?
セイバーは修道女の髪をつかみ上げたところで腕に抱きかかえると、笑いながら闇夜に跳び上がった。
日が出る前に、日の当たらない場所を探さなくてはならない。
それにしばらくは退屈しなくて済みそうだと思った。
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