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セイバー
第61話 身を灼く懺悔
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セイバーは改めてロイムにアヒル小屋を見せた。
小さな池は、畑を囲む水路と繋がっており、すでに小魚やドジョウが入り込んでいた。
それが二人の前の浅瀬でピチピチを音を立てて泳いでいた。
「あ。ロイム。見てご覧。ドジョウだよ」
「まぁどこ?」
「そこさ。でも土の中に入ってしまったかも」
「本当?」
ロイムは興味深そうに池の中に手を入れた。
「でも、ひょっとしたら蛭かも」
「キャ!」
ロイムは驚いてセイバーにしがみつき、敷地内の畑の外れに倒れ込んだ。
セイバーはロイムのそんな様子を楽しそうに笑う。
「もう! ヒドいわ。セイバーったら」
「ゴメン。ゴメン」
二人の中にいつ確執があったのだろう?
そう思うほどの優しいやりとりだ。
ロイムはセイバーに回した手を離そうとしなかったし、セイバーも腰を抱いたまま、離さなかった。
「アヒルはタマゴを産むんだろ? それから生まれるヒヨコはきっとカワイイだろうなぁ。ロイム」
楽しそうに笑うセイバーはまるで別人だ。
殺人鬼のかけらも無い。
そんな優しいセイバーにロイムも微笑みかけた。
「ええ。きっと畑に悪さをする虫も食べてくれるわ」
「……そうか。虫も難儀だな。ただ神様にそう命を受け取っただけなのに」
途端にセイバーは哀しそうな顔をする。
ロイムが礼拝で語る説教の中にも似たようなものがあったことを思い出したのだ。
「オレたちが食べることも大変罪深い。食事とはたくさんの生き物から命をいただくことなのだな」
そう言ってまた落涙する。
セイバーは生き物の生き死にに敏感になっていた。
「そうよ。私たちは生きてるのでは無い。生かされているのよ。誰かの命をたくさん背負って。だから命を疎かには出来ないのだわ」
「……まさしくその通りだ。オレは君の父親の命を背負った罪深きものなのだ……。それは今では辛く哀しい。この家の奥から君の父親が『やぁセイバー。屋根の修繕は終わったか?』と出て来てくれたらなんと嬉しいことだろう。そしたらオレも君の父親に『やぁ義父さん。終わりましたよ』と答えたい。でも、それは出来ない。出来ないんだよロイム……」
セイバーは地面に膝を付いて手を合わせ、泣きながらロイムの父と神に許しを乞うた。
その時、曇天の雲の中から、太陽が少しだけ顔を出し、セイバーの合わせている剥き出しの手を焼いた。
たちまち真っ赤に染まり、音を立てて煙を上げたがセイバーは祈りを途中でやめることはしなかった。
ロイムは驚いて自分の羽織り物を脱ぎ、セイバーにかけて急いで家の中に連れ込んだ。
「セイバー! 無理をしないで!」
「……ロイム。いいんだ。太陽がオレの身を焼いてこの地上から消してくれと願ったのはオレの方なんだ。神様が俺の願いを叶えてくれようとしたんだ」
ロイムはその言葉を聞いて彼にすがりながらその胸を強く叩いた。
「バカ! 何でそんなことを祈るの!」
「な、なんでって、神は自殺をお許しにならない。だからこそオレは……」
「やめて! そんなことを言わないで!」
「ろ、ロイム……」
ロイムは泣いていた。
目の前にいる父の仇のために。
「ロイム。悲しませたのならゴメン。だけどオレは……」
「約束して。もう死のうとなんてしないと」
「する。するよ。キミが悲しまないのなら」
「ねぇセイバー。私、あなたを愛してる」
「え?」
「愛してるのよ。あなたも言って」
「あ、ああ! ロイム! 愛してる!」
「うれしいわ。セイバー」
二人が抱きつき、キスをしているところに鼻歌交じりで道具屋の主人がアヒルを抱えて入ってきた。
「おや。お邪魔だったな」
そう言って、家の外に出た。
二人は一時中止したキスをもう一度再開した。
小さな池は、畑を囲む水路と繋がっており、すでに小魚やドジョウが入り込んでいた。
それが二人の前の浅瀬でピチピチを音を立てて泳いでいた。
「あ。ロイム。見てご覧。ドジョウだよ」
「まぁどこ?」
「そこさ。でも土の中に入ってしまったかも」
「本当?」
ロイムは興味深そうに池の中に手を入れた。
「でも、ひょっとしたら蛭かも」
「キャ!」
ロイムは驚いてセイバーにしがみつき、敷地内の畑の外れに倒れ込んだ。
セイバーはロイムのそんな様子を楽しそうに笑う。
「もう! ヒドいわ。セイバーったら」
「ゴメン。ゴメン」
二人の中にいつ確執があったのだろう?
そう思うほどの優しいやりとりだ。
ロイムはセイバーに回した手を離そうとしなかったし、セイバーも腰を抱いたまま、離さなかった。
「アヒルはタマゴを産むんだろ? それから生まれるヒヨコはきっとカワイイだろうなぁ。ロイム」
楽しそうに笑うセイバーはまるで別人だ。
殺人鬼のかけらも無い。
そんな優しいセイバーにロイムも微笑みかけた。
「ええ。きっと畑に悪さをする虫も食べてくれるわ」
「……そうか。虫も難儀だな。ただ神様にそう命を受け取っただけなのに」
途端にセイバーは哀しそうな顔をする。
ロイムが礼拝で語る説教の中にも似たようなものがあったことを思い出したのだ。
「オレたちが食べることも大変罪深い。食事とはたくさんの生き物から命をいただくことなのだな」
そう言ってまた落涙する。
セイバーは生き物の生き死にに敏感になっていた。
「そうよ。私たちは生きてるのでは無い。生かされているのよ。誰かの命をたくさん背負って。だから命を疎かには出来ないのだわ」
「……まさしくその通りだ。オレは君の父親の命を背負った罪深きものなのだ……。それは今では辛く哀しい。この家の奥から君の父親が『やぁセイバー。屋根の修繕は終わったか?』と出て来てくれたらなんと嬉しいことだろう。そしたらオレも君の父親に『やぁ義父さん。終わりましたよ』と答えたい。でも、それは出来ない。出来ないんだよロイム……」
セイバーは地面に膝を付いて手を合わせ、泣きながらロイムの父と神に許しを乞うた。
その時、曇天の雲の中から、太陽が少しだけ顔を出し、セイバーの合わせている剥き出しの手を焼いた。
たちまち真っ赤に染まり、音を立てて煙を上げたがセイバーは祈りを途中でやめることはしなかった。
ロイムは驚いて自分の羽織り物を脱ぎ、セイバーにかけて急いで家の中に連れ込んだ。
「セイバー! 無理をしないで!」
「……ロイム。いいんだ。太陽がオレの身を焼いてこの地上から消してくれと願ったのはオレの方なんだ。神様が俺の願いを叶えてくれようとしたんだ」
ロイムはその言葉を聞いて彼にすがりながらその胸を強く叩いた。
「バカ! 何でそんなことを祈るの!」
「な、なんでって、神は自殺をお許しにならない。だからこそオレは……」
「やめて! そんなことを言わないで!」
「ろ、ロイム……」
ロイムは泣いていた。
目の前にいる父の仇のために。
「ロイム。悲しませたのならゴメン。だけどオレは……」
「約束して。もう死のうとなんてしないと」
「する。するよ。キミが悲しまないのなら」
「ねぇセイバー。私、あなたを愛してる」
「え?」
「愛してるのよ。あなたも言って」
「あ、ああ! ロイム! 愛してる!」
「うれしいわ。セイバー」
二人が抱きつき、キスをしているところに鼻歌交じりで道具屋の主人がアヒルを抱えて入ってきた。
「おや。お邪魔だったな」
そう言って、家の外に出た。
二人は一時中止したキスをもう一度再開した。
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