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呪いのダイヤモンド
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それは、「天上の宝玉」と呼ばれていた。
決して大げさな話ではない。
ローズカットが施された美しいダイヤモンド。
この薄暗い小部屋でもその輝きは異様を放っていた。
その歴史は古く、17世紀のインドの寺院から発見されたらしい。
当時の大きさは157カラット。
それがヨーロッパに渡り、カットされ小粒になっていった。
今私の目の前にあるのがそれだ。
思わず息を飲んだ。
「効果は本当なんだろうな?」
聞くと、怪しき老宝石商はふふんと笑った。
「そもそも、最初の所持者である寺院の僧侶は略奪して行った探検家たちに呪いの言葉を吐きながら屋根から身を投げてその命を亡くしました。ぶんどっていった探検家も売り払った後に事故で全員が死亡。それを買い取った王家も戦争で負けて滅亡。フランスの王妃がその後の所有者となったが革命にあって生涯を閉じました」
「しかし、それだけでは。ただの偶然と……」
「思われても仕方がないとおっしゃられるんでしょう?」
そう言って黄ばんだ歯をのぞかせながら二ィッと笑った。
「フランス王家からその宝石は消えた。本当に呪いのダイヤ『天上の宝玉』などあったのでしょうか? しかしその後、ナポレオンが現れるまでフランスには粛清の嵐が吹き荒れました。国に呪いをかけ続けたのではないでしょうか。そしてある本にこうあります。革命後、どさくさ紛れに貴族の宝物殿に入り込んだ盗賊が自警団に手を切り落とされ殺された」
「ふむ」
「それから小さなニュースではあるものの、ヨーロッパで同じようなニュースが点々。盗みを働いたものが殺され、その付近でまた、その付近でまた……」
「なるほど」
「こちらはロシアにある美術館にあったものを、あるルートで手に入れたものです。その説明書きにはしっかりと『天上の宝玉』と」
「ほう……」
「文献にある通り、ローズカットされた透明度の高いダイヤモンド。そしてカラット数もその通りだったようで。最後にはロシアに流れる小さい川の中で骸骨とともに見つかったそうです」
「……つまり、最後の持ち主を呪い殺したまま、川の中にうずまったんだな」
「その通り。だが今このように目を覚ましました」
話を聞いていた私はうなった。
こんな呪いの宝石が本当に現存するなんて。
しかし、ありがたい。
自分の計画にはそれが必要だったのだ。
私は愛していない女と結婚する。
富豪の娘。むこうは私にぞっこんだ。
資産は何百億あることやら。
本当は貧乏だが同棲している女がいるのだ。
愛しているのはこちらの方だ。
どちらを取るのか?
金か?
愛か?
どちらも選べなかった。
方法がないものか考えた。
金を持っている女は嫉妬深い。
愛する女を外に囲って会いに行って見つかったら裸で追い出されてしまうだろう。
目的は金なのに、よけいなオマケ。
このオマケをどうにかしたい。
だが殺すわけになど行かない。いずれ発見されて逮捕されては元も子もない。
そこでこの方法を見つけた。
呪いの宝石。
所持者を呪い殺す。
これをオマケに婚約指輪だと渡してやれば、きっと感激するだろう。
大事に大事に持つことだろう。
所持することで発動するんだ。
これでオマケが死ねばしめたものだ。
財産は手中に収めることができ、ほとぼりがさめれば愛人を迎え入れればいい。
夢のような生活がすぐにやってくる。
自分の計画の良さに笑いを漏らした。
「よし、買おう」
「へへへ。毎度ありぃ」
「いくらだ」
「一億。それでダンナの計画がなれば安いものです」
足元を見やがる。
だが、一億はオマケから小遣いとしてもらっている。
婚約指輪を買うと言ったらポーンとくれた。
オマケにしてみりゃ一億動かすなんてなんてこたぁないんだろう。
金は後払いということで、宝石をケースに入れてもらい外に出た。
これをアイツの指につけてやろう。
もう一度ケースを開けて中を見てみると、大粒の宝石が太陽の光を受けて燃えるように光った。
「まぶし!」
思わず目をつぶる。
その時だった。
目をくらんだのは私だけではなかった。
道路を走っていた大型トレーラーの運転手も光の被害者であった。
ガオーンと音を立てて宝石店に突っ込んだ。
◇
富豪の娘は新聞を見ていた。
そして涙を流す。
宝石店に突っ込んだトレーラーからは火が吹き出し、店を全焼させた。
後からは遺体が二つ。
運転手は奇跡的に無事。
おそらく、店主と客ということだった。
富豪の娘の婚約者が店から出るところを見ていた者がいた。
その手には大きな宝石がついたリングがあったらしい。
その宝石がまばゆい光を放ち、運転手は目がくらんだろうという話であった。
彼女の手にはそのリングがある。
だが宝石はない。
ダイヤモンドの元素記号は『C』。
すなわち炭素だ。
火災により宝石の部分は燃え尽きてしまった。
呪いのダイヤモンド『天上の宝玉』は永遠にこの世から失われてしまったのである。
決して大げさな話ではない。
ローズカットが施された美しいダイヤモンド。
この薄暗い小部屋でもその輝きは異様を放っていた。
その歴史は古く、17世紀のインドの寺院から発見されたらしい。
当時の大きさは157カラット。
それがヨーロッパに渡り、カットされ小粒になっていった。
今私の目の前にあるのがそれだ。
思わず息を飲んだ。
「効果は本当なんだろうな?」
聞くと、怪しき老宝石商はふふんと笑った。
「そもそも、最初の所持者である寺院の僧侶は略奪して行った探検家たちに呪いの言葉を吐きながら屋根から身を投げてその命を亡くしました。ぶんどっていった探検家も売り払った後に事故で全員が死亡。それを買い取った王家も戦争で負けて滅亡。フランスの王妃がその後の所有者となったが革命にあって生涯を閉じました」
「しかし、それだけでは。ただの偶然と……」
「思われても仕方がないとおっしゃられるんでしょう?」
そう言って黄ばんだ歯をのぞかせながら二ィッと笑った。
「フランス王家からその宝石は消えた。本当に呪いのダイヤ『天上の宝玉』などあったのでしょうか? しかしその後、ナポレオンが現れるまでフランスには粛清の嵐が吹き荒れました。国に呪いをかけ続けたのではないでしょうか。そしてある本にこうあります。革命後、どさくさ紛れに貴族の宝物殿に入り込んだ盗賊が自警団に手を切り落とされ殺された」
「ふむ」
「それから小さなニュースではあるものの、ヨーロッパで同じようなニュースが点々。盗みを働いたものが殺され、その付近でまた、その付近でまた……」
「なるほど」
「こちらはロシアにある美術館にあったものを、あるルートで手に入れたものです。その説明書きにはしっかりと『天上の宝玉』と」
「ほう……」
「文献にある通り、ローズカットされた透明度の高いダイヤモンド。そしてカラット数もその通りだったようで。最後にはロシアに流れる小さい川の中で骸骨とともに見つかったそうです」
「……つまり、最後の持ち主を呪い殺したまま、川の中にうずまったんだな」
「その通り。だが今このように目を覚ましました」
話を聞いていた私はうなった。
こんな呪いの宝石が本当に現存するなんて。
しかし、ありがたい。
自分の計画にはそれが必要だったのだ。
私は愛していない女と結婚する。
富豪の娘。むこうは私にぞっこんだ。
資産は何百億あることやら。
本当は貧乏だが同棲している女がいるのだ。
愛しているのはこちらの方だ。
どちらを取るのか?
金か?
愛か?
どちらも選べなかった。
方法がないものか考えた。
金を持っている女は嫉妬深い。
愛する女を外に囲って会いに行って見つかったら裸で追い出されてしまうだろう。
目的は金なのに、よけいなオマケ。
このオマケをどうにかしたい。
だが殺すわけになど行かない。いずれ発見されて逮捕されては元も子もない。
そこでこの方法を見つけた。
呪いの宝石。
所持者を呪い殺す。
これをオマケに婚約指輪だと渡してやれば、きっと感激するだろう。
大事に大事に持つことだろう。
所持することで発動するんだ。
これでオマケが死ねばしめたものだ。
財産は手中に収めることができ、ほとぼりがさめれば愛人を迎え入れればいい。
夢のような生活がすぐにやってくる。
自分の計画の良さに笑いを漏らした。
「よし、買おう」
「へへへ。毎度ありぃ」
「いくらだ」
「一億。それでダンナの計画がなれば安いものです」
足元を見やがる。
だが、一億はオマケから小遣いとしてもらっている。
婚約指輪を買うと言ったらポーンとくれた。
オマケにしてみりゃ一億動かすなんてなんてこたぁないんだろう。
金は後払いということで、宝石をケースに入れてもらい外に出た。
これをアイツの指につけてやろう。
もう一度ケースを開けて中を見てみると、大粒の宝石が太陽の光を受けて燃えるように光った。
「まぶし!」
思わず目をつぶる。
その時だった。
目をくらんだのは私だけではなかった。
道路を走っていた大型トレーラーの運転手も光の被害者であった。
ガオーンと音を立てて宝石店に突っ込んだ。
◇
富豪の娘は新聞を見ていた。
そして涙を流す。
宝石店に突っ込んだトレーラーからは火が吹き出し、店を全焼させた。
後からは遺体が二つ。
運転手は奇跡的に無事。
おそらく、店主と客ということだった。
富豪の娘の婚約者が店から出るところを見ていた者がいた。
その手には大きな宝石がついたリングがあったらしい。
その宝石がまばゆい光を放ち、運転手は目がくらんだろうという話であった。
彼女の手にはそのリングがある。
だが宝石はない。
ダイヤモンドの元素記号は『C』。
すなわち炭素だ。
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