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第10話 丸薬

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 シーンとエイミーは林の中に入る。雑木が立ち並ぶ場所だが、背の高い雑草や蔦に隠れて、外からは林の中が見える状態ではない。
 ちんまりとしている場所なので馬はすぐに見つかったが、近くに老いた小人がいて馬の手綱を引いていた。

「もし。それは私たちの探していた馬。こちらにお返し下さい」

 エイミーが老小人に話し掛けると、老小人の方ではそっぽを向いてしまった。

「これは私が見つけた馬じゃわい。勝手なことをいうない」
「まぁ」

 エイミーが声を上げるとシーンは唸り声を上げた。老小人はその唸り声に振り返る。二人を一瞥すると驚いたような顔をして、その場に跪いてひれ伏した。

「これはこれは、気付きませんで」
「どこかであったかしら?」

「姿は変わっても大恩あるお二人を忘れるわけがありません。メルボルン山の小人の集落をお守りになって下さったことをお忘れですか? あの時私はまだ子供でした」
「ああ、あの時の」

「馬ならすぐにお返しします」
「なるほど。馬はシーンさまを導いたのだわ。たしかメルボルンの小人には秘薬があるわよね。シーン様は言葉を忘れてしまったの。それを取り戻したいわ」

「お安いご用です。暫時お待ち下さい」

 老小人はそう言って地面を掴んでめくるとそこには彼の住み家があった。

「調合するのに時間がかかるかもしれません」
「わかってるわ。待つのも楽しいものよ」

 老小人が地面に消えると、エイミーは大人しくなっている馬の背の上にシーンを立たせて高い木に絡まっている青緑色の蔦を採らせた。それもかなりの量。
 エイミーはそれから繊維をほぐし、小袋から鋏やら針を取り出すとテキパキと青緑色の上着を三着ほど作ったのだ。
 ややもすると、土の中から老小人が丸薬を入れた皮袋を持って現れたが驚いた。

「やや! これは!」

 老小人は青緑色の上着に袖を通してお洒落な若者のようにそこで一回転した。

「謝礼などいいですのに。しかし、我が一族の返礼の方法を憶えていてくだすったのですね」
「ふふ。当たり前よ」

 老小人は青緑色の上着を三着受け取ると、秘薬の皮袋をうやうやしくエイミーへと受け渡した。エイミーは老小人からそれを受け取って胸に抱く。シーンはそれをただにこにこと見つめるばかりだった。

「シーン様。全ては思い通りに進んでますわ。秘薬もこの通り。ああ、これでシーン様も──」
「うほうほ」

 そこでエイミーは背伸びをしてシーンへと情熱的な口づけをした。シーンもそれを受けて彼女の身を離すまいと支え、しばらく二人は甘く蕩けるようにキスを交わした。老小人はその様を見てすぐに目を覆った。

「おお、老人には目の毒だわい。しかしあの頃と同じようになんとも仲睦まじい」

 しばらくすると、シーンは馬の手綱を引き、エイミーを伴ってエリックの元へと向かった。
 エリックはあれほど暴れた馬がすっかり大人しくなっていたのでポカンと口を開けて去って行く二人の姿を見ていた。
 するとエリックの背中から叱責の声だった。

「まったく。頼りないわね!」
「さ、サンドラ!」

「結局、あんなシーン如きにやり込められただけじゃない! それにしてもあの女。なにかおかしいわ」

 サンドラがそう言うタイミングでエイミーは振り向く。思わず目が合ってサンドラはドキリとしてしまった。
 だがエイミーは興味なさそうに一瞥しただけでシーンの方へと楽しそうに顔を向けた。

「あ、あんな冴えないバカ面のどこがいいのかしら! シーンがおかしくなったのも、あの女が側にいるからよ!」

 と息巻いた。





 この遠足をもって学校の行事は残りを卒業式のみとなった。それも数日のうちに訪れ、みんな別れを惜しんだがシーンだけは別だった。
 さっさと屋敷に帰ってエイミーと仲良く遊びたいと思っていたのだ。

 学校生活を終えて彼らは成人として認められる。各々父の仕事を手伝ったりするようになるのだ。

 そして結婚だ。貴族である彼らには政略や後継者の確保のために伴侶を娶らなくてはならない。
 社会に出ることに不安を感じながら、若者たちは学校を後にしたのだ。
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