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第11話 聞き取り
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シーンが学校を卒業してから3か月ほど経ち季節は夏である。しかしシーンはエイミーと遊ぶ毎日だ。エイミーもシーンに合わせた子どもの遊び。泥あそびに、水あそび。庭園の池に入って魚釣りにエビ掴み。虫取り、木登り、追いかけっこ。エイミーから帰りたいなどと不平は言ってこない。
アルベルトとジュノンには子どもの二人に男女というものは感じられなかったが、活気のあるシーンとエイミーにアルベルト夫妻は微笑みを浮かべた。
あるとき、アルベルトは中庭が見えるテラスで一人紅茶を楽しんでいた。その目の前で二人が遊んでいるのでアルベルトは声をかけた。
「これエイミーや」
「あ、はい。グラムーン司令」
「ちょっと話がしたい。こちらへおいで」
「はい。さあシーン様」
シーンもエイミーに続いてこちらに来るので、アルベルトはそれを止めた。
「シーン。キミはいい。エイミーと二人で話をしたい」
「うお……」
父に言われては仕方がない。シーンは寂しそうな顔をして下がっていった。エイミーはシーンが物陰に隠れるまでそれを見つめていたが、アルベルトに声をかけられ驚いて身を震わせた。
「エイミーや」
「は、はい!?」
「そんなに驚かなくても良い。キミはシーンをどう思うかね?」
「え、そのぉ。やだぁ。グラムーン司令ったらぁ」
と、もじもじ赤い顔。これは惚れている顔だとは思うものの、普通のうら若き女子がシーンに惚れるだろうか? 我が子ながらそんな要素はない。母性というものだろうか? なにか他に目的が? とアルベルトの方では考えてしまった。
「故郷のノートストには仲の良い男性はいなかったのかね? ボーイフレンドや恋人、婚約者は?」
「そんな! 私、男性はシーン様しか知りません!」
そう言われて、アルベルトはポカンとしてしまった。
「いや、父君のパイソーン卿だって男だし、私だって男だよ」
「……あっ!」
エイミーは突然リンゴのように赤くなって顔を抑えてしまった。アルベルトは最初意味が分からなかったが、だんだんと意味が分かって顔を青くしてしばらく絶句してしまった。
「……つまり、シーンはキミに手を付けたとこういうことかね?」
「あのぅ、そのぅ、グラムーン司令、嫁入り前ではしたないと思われるかも知れませんが……はい」
「いやエイミー。これではキミの父君に申し訳がたたん。しかし婚約者となれば別だよ。キミにその意思があるかい? シーンと添い遂げる気持ちはあるかい?」
「あのぅ、私、シーン様しか考えられません。毎日シーン様を思いながら生きております」
アルベルトは喜んだ。最初の目的通り。これでエイミーは我が家の嫁になる。いわゆる既成事実というやつだ。
しかし喜んだものの、すぐにハッと我に返った。
「そうかね。それは喜ばしいことだ。キミもシーンが気になるようだし、遊んできたまえ」
「はい! ありがとうございます!」
アルベルトはエイミーには喜んだフリをしつつ、シーンの元にいかせたが、訝しげに思った。
なぜなら、いくら仲良くてもシーンに、そんな閨の機能があるとは思えなかったのだ。
彼女はシーンと仲の良いふりをして、どこかに間男を隠し、シーンに抱かれたといい結婚して、この伯爵家を乗っ取るつもりなのかも知れないと思ったのだ。
そう思うと得心がいく。シーンは息子であるから可愛いものの、世間一般の目で見れば間抜けなウスノロだ。それを騙すなどわけないだろう。彼女はゆっくりと計画を練り、この伯爵家の住人の警戒心を解き、闇に乗じて男を引き入れ、その男の胤をシーンの子と言って、子供を産む。やがて時を見てシーンを遠ざけ、間男を変わりに主人に据えるかもしれない。
猜疑の心が敏感に訴えたのだ。これは追求する必要があると、アルベルトはまずエイミー付きの侍女ベスを呼んだ。
「お呼びですか? 旦那さま」
「おおベス。君に聞きたいことがある」
「なんなりと」
「実はエイミーのことだが、彼女はどういう人間かね」
ベスはしばらく考えてから答えた。
「エイミー様は見ての通り気立ても良くお優しいかたです。毎日シーンさまのことばかり気にかけております。ですが天真爛漫で貴族らしからぬところもございます」
「なるほどそうだな。それよりも私が知らないことはないか? 毎日そばにいる君なら強いていえば何かというものはないのだろうか」
ベスは戸惑いながら答える。
「……これは誹謗や中傷と取って欲しくはないのですが──」
「ふむふむ」
アルベルトは前のめりぎみになってその話を聞こうとする。ベスはためらいながら話し始めた。
「時折怖いというか、薄気味悪いときがあります」
「怖いとき?」
ベスは辺りを見回し、そこにアルベルトと自分しかいないことを確認した。
「ええ。あのように少女のようですが、時に大人というよりは、人とも知れぬ感じのときがあるのです」
それにアルベルトは首をかしげる。
「人とも知れぬとは? よく分からないな」
「はい。私もよく分かりません。しかし、そんな『分からない』なにかを感じさせるのがエイミー様なのです。まあ私の感覚的なものなのですが」
「ふむぅ」
アルベルトは唸った。たしかにエイミーにはそんなふうに感じさせるなにかがあった。しかし北都ノートストのほうはよく知らない。そういう風土なのかもしれないと思っていた。ベスもそんな風に感じていたのだと思った。
そんなエイミーは本当にシーンを好きなのかを調べなくてはならないと思ったのだ。
アルベルトとジュノンには子どもの二人に男女というものは感じられなかったが、活気のあるシーンとエイミーにアルベルト夫妻は微笑みを浮かべた。
あるとき、アルベルトは中庭が見えるテラスで一人紅茶を楽しんでいた。その目の前で二人が遊んでいるのでアルベルトは声をかけた。
「これエイミーや」
「あ、はい。グラムーン司令」
「ちょっと話がしたい。こちらへおいで」
「はい。さあシーン様」
シーンもエイミーに続いてこちらに来るので、アルベルトはそれを止めた。
「シーン。キミはいい。エイミーと二人で話をしたい」
「うお……」
父に言われては仕方がない。シーンは寂しそうな顔をして下がっていった。エイミーはシーンが物陰に隠れるまでそれを見つめていたが、アルベルトに声をかけられ驚いて身を震わせた。
「エイミーや」
「は、はい!?」
「そんなに驚かなくても良い。キミはシーンをどう思うかね?」
「え、そのぉ。やだぁ。グラムーン司令ったらぁ」
と、もじもじ赤い顔。これは惚れている顔だとは思うものの、普通のうら若き女子がシーンに惚れるだろうか? 我が子ながらそんな要素はない。母性というものだろうか? なにか他に目的が? とアルベルトの方では考えてしまった。
「故郷のノートストには仲の良い男性はいなかったのかね? ボーイフレンドや恋人、婚約者は?」
「そんな! 私、男性はシーン様しか知りません!」
そう言われて、アルベルトはポカンとしてしまった。
「いや、父君のパイソーン卿だって男だし、私だって男だよ」
「……あっ!」
エイミーは突然リンゴのように赤くなって顔を抑えてしまった。アルベルトは最初意味が分からなかったが、だんだんと意味が分かって顔を青くしてしばらく絶句してしまった。
「……つまり、シーンはキミに手を付けたとこういうことかね?」
「あのぅ、そのぅ、グラムーン司令、嫁入り前ではしたないと思われるかも知れませんが……はい」
「いやエイミー。これではキミの父君に申し訳がたたん。しかし婚約者となれば別だよ。キミにその意思があるかい? シーンと添い遂げる気持ちはあるかい?」
「あのぅ、私、シーン様しか考えられません。毎日シーン様を思いながら生きております」
アルベルトは喜んだ。最初の目的通り。これでエイミーは我が家の嫁になる。いわゆる既成事実というやつだ。
しかし喜んだものの、すぐにハッと我に返った。
「そうかね。それは喜ばしいことだ。キミもシーンが気になるようだし、遊んできたまえ」
「はい! ありがとうございます!」
アルベルトはエイミーには喜んだフリをしつつ、シーンの元にいかせたが、訝しげに思った。
なぜなら、いくら仲良くてもシーンに、そんな閨の機能があるとは思えなかったのだ。
彼女はシーンと仲の良いふりをして、どこかに間男を隠し、シーンに抱かれたといい結婚して、この伯爵家を乗っ取るつもりなのかも知れないと思ったのだ。
そう思うと得心がいく。シーンは息子であるから可愛いものの、世間一般の目で見れば間抜けなウスノロだ。それを騙すなどわけないだろう。彼女はゆっくりと計画を練り、この伯爵家の住人の警戒心を解き、闇に乗じて男を引き入れ、その男の胤をシーンの子と言って、子供を産む。やがて時を見てシーンを遠ざけ、間男を変わりに主人に据えるかもしれない。
猜疑の心が敏感に訴えたのだ。これは追求する必要があると、アルベルトはまずエイミー付きの侍女ベスを呼んだ。
「お呼びですか? 旦那さま」
「おおベス。君に聞きたいことがある」
「なんなりと」
「実はエイミーのことだが、彼女はどういう人間かね」
ベスはしばらく考えてから答えた。
「エイミー様は見ての通り気立ても良くお優しいかたです。毎日シーンさまのことばかり気にかけております。ですが天真爛漫で貴族らしからぬところもございます」
「なるほどそうだな。それよりも私が知らないことはないか? 毎日そばにいる君なら強いていえば何かというものはないのだろうか」
ベスは戸惑いながら答える。
「……これは誹謗や中傷と取って欲しくはないのですが──」
「ふむふむ」
アルベルトは前のめりぎみになってその話を聞こうとする。ベスはためらいながら話し始めた。
「時折怖いというか、薄気味悪いときがあります」
「怖いとき?」
ベスは辺りを見回し、そこにアルベルトと自分しかいないことを確認した。
「ええ。あのように少女のようですが、時に大人というよりは、人とも知れぬ感じのときがあるのです」
それにアルベルトは首をかしげる。
「人とも知れぬとは? よく分からないな」
「はい。私もよく分かりません。しかし、そんな『分からない』なにかを感じさせるのがエイミー様なのです。まあ私の感覚的なものなのですが」
「ふむぅ」
アルベルトは唸った。たしかにエイミーにはそんなふうに感じさせるなにかがあった。しかし北都ノートストのほうはよく知らない。そういう風土なのかもしれないと思っていた。ベスもそんな風に感じていたのだと思った。
そんなエイミーは本当にシーンを好きなのかを調べなくてはならないと思ったのだ。
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