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第28話 家畜
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トマスが領地に戻ってから二週間ほど経って。
その間、シーンとエイミーは家宰のウォールに毎日のように叱られていた。キレイなお召し物に着替えさせても山野に出ては汚して帰ってくる。そして決まって二人で湯浴みするのだ。
そのやり方はウォールが見てきた貴族とはまるで違う。だから、そちらの方向に無理に向けようとしているのだ。
しかし、シーンもエイミーも自分の生き方に沿って生きているので、ウォールの忠言などどこ吹く風。草笛を吹きながら真っ黒になって毎日遊んでいる。
どうしたらいいかと迷っているウォールの元に、ゾロゾロと商人たちがやって来た。それは肖像画描きでも、お召し物の仕立屋でもない。畜産の商人と農具の商人。
お屋敷の前にはたくさんの家畜が馬車に乗せられている。うるさいし臭い。ウォールは鼻をつまんで眉をひそめた。
「これは一体何ごとですか。いつからグラムーン家は牧場になったのです!」
と商人たちに声を荒げるが、商人たちもなぜ怒っているか分からないと言ったゼスチャーをする。
「ここのお屋敷のご主人に呼ばれたんでさぁ。良い値で家畜を買ってくれると」
「私めも、大量発注を受けてます。クワにツルハシ、カマにスコップ。大部分は木製で尖端は鉄器というご注文です」
「なんですって?」
こんなにたくさんの農具や家畜をどうするのか?
ウォールが目を白黒させていると、シーンとエイミーが領民たちをたくさん連れてやって来た。
子どもも含めてざっと50人ばかりだ。
「約束通り、私からの贈り物だ。家畜を持っていないものには与えてくれ。すぐに食べてしまわないように。牡は牝の家に持っていって種付けをしてやってくれ。牝のいる家は産まれた仔をない家に分けてやるんだ。新しく産まれて余ったのは、大事に育て増やしてくれたまえ」
「農具は仕事をきっとはかどらせるわ。道が狭いところや、川の流れが詰まるようなところは、みんなで力を合わせて大きいお休みの時に工事するといいわ。自分たちのことばかりじゃなく、みんなのことを考えてやるのよ。もちろんお休みに働くのだから、領主としてみんなに手当を配るわ。一日、銀貨一枚よ。それで、美味しいものを食べたり、お布団を買ったりするの。いいわね」
二人がこういうと、領民達は諸手を挙げて喜んだ。
なにがなんだか分からないウォールの横で、シーンは金貨の入った箱を商人の前で開けて、言われる金貨の数を支払った。たちまち一つの箱は空っぽになり、領民たちは農具や家畜を貰って喜びながら帰って行った。
シーンは見送りながら声をかける。
「おーい。ちゃんと領地の隅々まで配ってくれよー! 頼むぞー!」
「へーい。均等に配らなくちゃ、領主さまはすぐに分かるでしょうから、不満のないよう分配しやす」
シーンとエイミーはそれに手を振っていた。二人が手を下ろしたところでウォールが怒気を放つ。
「お二人に家宰としてお話があります。どうぞ応接室へ!」
シーンとエイミーはキョトンとした顔をしていたがいわれるがままウォールについて応接室に入ると、いつものように叱責だった。
「お二人とも、私は大変呆れました。大事な財産を領民に与えてしまうなんて! お二人にお金を預けてはその内にグラムーンは破綻してしまいます!」
と大変な剣幕だがシーンもエイミーも涼しい顔をしていた。それにウォールはますます声を荒げる。
「ともかく、このような散財はもうお止めくだされ」
「どうしてだい? 私が陛下から貰ったお金なんだもの好きに使っていいだろう?」
「バカらしい! 自分のお金を人に使ってしまうだなんて! 伯爵さまが聞いたらさぞお嘆きになることでしょう!」
大変な剣幕だがシーンもエイミーも怒っていることの意味が分からないようだった。ウォールは顔を真っ赤にしたが、そこに一人の男が入ってきた。
「いやー。はっはっは。素晴らしい。ご領主さま。私は感服いたしました」
笑顔で入ってきたのは、ウォールよりも少し年下で、旅備えの皮の服を着た短髪の青年。背中の背負子にはたくさんの本が積み重なっている。突然の来訪者にウォールはそちらにも怒りを向けた。
「あなたは誰です。今はご領主と大事な話をしておりますのでお引き取りいただきましょう」
するとその男は笑って答えた。
「いえいえ。私はチャーリーといいます。伯爵さまにご子息と奥方の家庭教師をするようにと言付かって参りました。しかしご子息さまにはご教育は不要ですな。見事な領地経営です」
それにウォールは眉を吊り上げる。
「見事な領地経営ですと?」
「ええそうです。領民たちにものを与え、また安価で土木工事をさせる。ですが領民たちには高額なご褒美でしょう。競って領地の整備に努めることでしょう。私は都に帰る商人たちの言葉を聞きましたが、近いうちにこちらに支店を出すとか。そしたら雇用も増えますよ。農家の溢れている次男坊、三男坊も家庭を持つことが出来ます。町が大きくなり戸数も増大することでしょう」
そう言われてウォールは黙ってしまった。
「ふむぅ……」
「領主の基本は領民に衣食住を与えることですが、ご領主さまのやったのはそれらを領民に自主的にさせること。いやはやお見事」
ウォールもなるほどと思い、シーンとエイミーのほうを見るとポカンと口を開けている。
どうやらそんな気はなく、ただ単に施しただけのようであった。
その間、シーンとエイミーは家宰のウォールに毎日のように叱られていた。キレイなお召し物に着替えさせても山野に出ては汚して帰ってくる。そして決まって二人で湯浴みするのだ。
そのやり方はウォールが見てきた貴族とはまるで違う。だから、そちらの方向に無理に向けようとしているのだ。
しかし、シーンもエイミーも自分の生き方に沿って生きているので、ウォールの忠言などどこ吹く風。草笛を吹きながら真っ黒になって毎日遊んでいる。
どうしたらいいかと迷っているウォールの元に、ゾロゾロと商人たちがやって来た。それは肖像画描きでも、お召し物の仕立屋でもない。畜産の商人と農具の商人。
お屋敷の前にはたくさんの家畜が馬車に乗せられている。うるさいし臭い。ウォールは鼻をつまんで眉をひそめた。
「これは一体何ごとですか。いつからグラムーン家は牧場になったのです!」
と商人たちに声を荒げるが、商人たちもなぜ怒っているか分からないと言ったゼスチャーをする。
「ここのお屋敷のご主人に呼ばれたんでさぁ。良い値で家畜を買ってくれると」
「私めも、大量発注を受けてます。クワにツルハシ、カマにスコップ。大部分は木製で尖端は鉄器というご注文です」
「なんですって?」
こんなにたくさんの農具や家畜をどうするのか?
ウォールが目を白黒させていると、シーンとエイミーが領民たちをたくさん連れてやって来た。
子どもも含めてざっと50人ばかりだ。
「約束通り、私からの贈り物だ。家畜を持っていないものには与えてくれ。すぐに食べてしまわないように。牡は牝の家に持っていって種付けをしてやってくれ。牝のいる家は産まれた仔をない家に分けてやるんだ。新しく産まれて余ったのは、大事に育て増やしてくれたまえ」
「農具は仕事をきっとはかどらせるわ。道が狭いところや、川の流れが詰まるようなところは、みんなで力を合わせて大きいお休みの時に工事するといいわ。自分たちのことばかりじゃなく、みんなのことを考えてやるのよ。もちろんお休みに働くのだから、領主としてみんなに手当を配るわ。一日、銀貨一枚よ。それで、美味しいものを食べたり、お布団を買ったりするの。いいわね」
二人がこういうと、領民達は諸手を挙げて喜んだ。
なにがなんだか分からないウォールの横で、シーンは金貨の入った箱を商人の前で開けて、言われる金貨の数を支払った。たちまち一つの箱は空っぽになり、領民たちは農具や家畜を貰って喜びながら帰って行った。
シーンは見送りながら声をかける。
「おーい。ちゃんと領地の隅々まで配ってくれよー! 頼むぞー!」
「へーい。均等に配らなくちゃ、領主さまはすぐに分かるでしょうから、不満のないよう分配しやす」
シーンとエイミーはそれに手を振っていた。二人が手を下ろしたところでウォールが怒気を放つ。
「お二人に家宰としてお話があります。どうぞ応接室へ!」
シーンとエイミーはキョトンとした顔をしていたがいわれるがままウォールについて応接室に入ると、いつものように叱責だった。
「お二人とも、私は大変呆れました。大事な財産を領民に与えてしまうなんて! お二人にお金を預けてはその内にグラムーンは破綻してしまいます!」
と大変な剣幕だがシーンもエイミーも涼しい顔をしていた。それにウォールはますます声を荒げる。
「ともかく、このような散財はもうお止めくだされ」
「どうしてだい? 私が陛下から貰ったお金なんだもの好きに使っていいだろう?」
「バカらしい! 自分のお金を人に使ってしまうだなんて! 伯爵さまが聞いたらさぞお嘆きになることでしょう!」
大変な剣幕だがシーンもエイミーも怒っていることの意味が分からないようだった。ウォールは顔を真っ赤にしたが、そこに一人の男が入ってきた。
「いやー。はっはっは。素晴らしい。ご領主さま。私は感服いたしました」
笑顔で入ってきたのは、ウォールよりも少し年下で、旅備えの皮の服を着た短髪の青年。背中の背負子にはたくさんの本が積み重なっている。突然の来訪者にウォールはそちらにも怒りを向けた。
「あなたは誰です。今はご領主と大事な話をしておりますのでお引き取りいただきましょう」
するとその男は笑って答えた。
「いえいえ。私はチャーリーといいます。伯爵さまにご子息と奥方の家庭教師をするようにと言付かって参りました。しかしご子息さまにはご教育は不要ですな。見事な領地経営です」
それにウォールは眉を吊り上げる。
「見事な領地経営ですと?」
「ええそうです。領民たちにものを与え、また安価で土木工事をさせる。ですが領民たちには高額なご褒美でしょう。競って領地の整備に努めることでしょう。私は都に帰る商人たちの言葉を聞きましたが、近いうちにこちらに支店を出すとか。そしたら雇用も増えますよ。農家の溢れている次男坊、三男坊も家庭を持つことが出来ます。町が大きくなり戸数も増大することでしょう」
そう言われてウォールは黙ってしまった。
「ふむぅ……」
「領主の基本は領民に衣食住を与えることですが、ご領主さまのやったのはそれらを領民に自主的にさせること。いやはやお見事」
ウォールもなるほどと思い、シーンとエイミーのほうを見るとポカンと口を開けている。
どうやらそんな気はなく、ただ単に施しただけのようであった。
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