シーン・グラムーンがハンデを乗り越えて幸せになる

家紋武範

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第30話 もう一人の運命の人

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 ギリアム王子は仕事を終え、執務室でしばらくぼうっとしていた。自分の従妹であるサンドラのことを考えてしまう。まさか自分が恋に落ちるとは思ってもいなかった。
 王家のものとして、決められた結婚をし国のために尽くすことが自分の人生だと思っていただけに、初めての恋にただ戸惑いときめいていた。

 しかし、サンドラは宰相で公爵の娘で血縁だ。結婚相手に不足ない。
 ギリアムは宮廷に帰ると、すぐさまお抱えの絵師と書記官を呼んだ。
 絵師に肖像画を描かせ、書記官に自己紹介の書状を書かせる。それと同時にエリック・ハリドに至急来るよう命じた。

 エリックは王子のお召しということで夜にも関わらず、王宮へと急ぐと、係のものに王子の部屋へと案内された。

 エリックの目には王子は軍服に数々の勲章をぶら下げた姿でポーズをとり、その絵を描かせていたのでどうしたものかと、直立不動の姿勢で立ち尽くしているとギリアムからの声だった。

「来たかエリック」
「は、はい」

「君に聞きたいことがある」
「なんでしょうか?」

「私の従妹のサンドラのことだが」
「は、はい」

「彼女には心に決めた人はいるのかな?」

 これはギリアム王子はサンドラに惚れたから、障害はないものかと聞いているのであろうとエリックは気付いた。
 エリックはサンドラに気があるものの、王子からの質問に抗うことはできずに冷や汗をかきながら答える。

「恐れながら、サンドラ嬢には心に決めた人がおります……」
「ふーん。しかし王命には逆らえまい」

 ギリアム王子は元々、王家の力をもってサンドラを強引に娶ろうという気持ちがあるようだ。それにエリックは答える。

「老婆心ながら殿下に申し上げますと、彼女の父である宰相閣下はそのような手段はお嫌いなのでは。誠心誠意、彼女が欲しいと伝えるべきかと」
「無論そうするつもりだ。ムガルとて私の意向に逆らいはすまい」

「それからもう一つ──」
「む? 申せ」

「サンドラ嬢は昔占い師に言われた、他愛もない運命を信じております。それが故に愛するものに妻がいても諦められないのです」

 それにギリアムは驚いた。

「なに妻帯者に横恋慕しているのかね? まったく不毛だな。そんなもの運命でもなんでもない。いったいどんな運命だというのだ」
「さ、さすれば、サンドラの運命の人は長身で金髪、英雄称号を持つものでございます……」

 ギリアムの肩がピクリと揺れ、眉を吊り上げてエリックを一瞥した。

「英雄称号? それは先のトロル討伐をしたシーンとかいう伯爵家の息子であるな」
「さ、さようで」

「私もトロル討伐凱旋の出迎えに出たが、陛下に自分の妻を正式に認めて欲しいと願った者だな? いったいなんの話かと思ってはいたが……。それほど愛するものいるならサンドラのことなど気にかけまい」
「そ、そうらしいのです」

「では話は簡単だ。私も長身の金髪。ないのは英雄称号だけだ。それも父に言えばすぐさま叶えてくれるだろう」
「そ、それはその通りで……」

「うむ。よい話を聞いた。下がってよい」
「は、ははあー!」

 その日、ギリアムはエリックを帰らせた。

 そして次の日、父である国王に会いに行き、自分の今までの功績を並べ立て、たとえ王族といえども、これで英雄称号を得られないのはおかしいとこんこんと演説し、それに納得した国王よりその場で『勇士』の英雄称号を賜ったのだ。この国で歴代26人目の勇士であった。

 ギリアムはそれを紹介状にしたため、自身の肖像画とともにサンドラの屋敷へと送ったのであった。





 サンドラの父であるムガル宰相は、最近のサンドラが思いつめた表情をするので、気が気ではなかった。
 その理由は分かっていた。サンドラは性格が強情ではあるものの、シーンへの恋心は少女のようであるとため息をつき、父親としてなにかしてやりたいとは常々思っていた。
 グラムーン伯爵を憎らしく思うものの、娘がシーンの元へと嫁ぎたいのであれば叶えてやりたい。毎日城門へ向かうなどよっぽどのことだと考えたのだ。

 そんな中でギリアムからの紹介状である。かなり熱のこもっている内容で、ムガルは自身の姉の子で未来の国王であろうギリアムの気持ちはわかった。

 しかし娘サンドラはどうであろう。どちらを選ぶのであろう。
 ギリアムを選ぶのであればなんの問題もない。順風満帆な王妃への道を歩むだけであろう。
 しかしシーンを選ぶのはいばらの道だ。彼には愛する妻がいるし、公爵家としても伯爵家の側室など許せるわけがない。もしそうなら素性を隠して生きてもらわなくてはならないだろう。

 ムガルはそんな思いを抱きながらサンドラの部屋へと向かった。


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