天才君の恋。

エイト

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 放課後、千明が職員室から教室に戻って来ると、そこにはすでに三人が揃っていた。
「千明が準備できたら始めよ」
 机を二組向かい合わせて、勉強会がしやすいように準備がされている。

 使いそうな教科書やノートを持って、空いている席に着く。
「一応俺は数学と英語しようかなと思ってる」
 ぱらぱらと教科書をめくりながら告げ、三人に何をするのか尋ねる。
「千明、俺英語教えてほしいんだけど」
 祐介のその言葉にいいよ、と言い、隣の祐介に具体的にはどこを勉強したいのか聞き出している。
「俺は数学するけど、わからんとこ出てきたら聞く」
 聞いてもいいか、と千明と璃音に問う隆に、二人は頷く。
 そうして、四人の勉強会が始まった。



「あー、そう言うことか、理解した」
 なるほど、と声を上げる祐介。
「学年トップと二位いると心強いよな」
 前期の中間テストでは、学年トップは千明で、その次は璃音だった。
「理解するの物凄い速いんだよなー」
「まあ、授業聞いたら大体理解できるから」
 苦笑いしてそう言う千明に、
「中学の時も毎回そんなこと言ってたよな」
と遠い目をする祐介。
「うーん、でもわかっちゃうし……」
 首を傾げて呟くと、祐介は、
「まあ、そこも含めてのギフテッドなんだろうけど」
 そうだろ、と確認するように千明に言う。
 千明は、ギフテッドだ。
 ギフテッドというのは、先天的に突出した才能を持つ人のことをいう。
 千明の場合は、記憶力や理解力、学習能力が桁外れに高い。
 好奇心も強いし、一度一つの物事に集中し出したらなかなかその集中は切れない。
 苦手な事もありはするが、基本的な能力が平均して高いのだ。
 その為、時に人と分かり合えないこともある。
「まあ、そうなのかなぁ。あんまりよくわかんないけど」
 三人は、千明が苦労しているところも見ているし、そういうものだとわかって接しているが、中には千明の悩みを知らず、傷つくようなことを言ってくる人もいる。
 それがわざとにしろそうで無いにしろ、千明が傷つくことに変わりはない。
 千明はあまり気にはしないようにしているのがわかるが、三人は彼のことをかなり心配している。
 それを表立って言うわけではないが。
「こんなにわかりやすく教えられるって理解してないと難しいし、それが出来る千明は凄いよ」
 目を細めて心からそう言う隆に、千明はちょっと照れたように頬を朱に染める。
「あー、千明、照れてるー。可愛いー」
 にやにやとそう言って千明をつつく祐介。
「うるさい」
「いーじゃん。可愛いよ」
「璃音まで、ほんとやめろよ。マジで恥ずかしいって」
 千明の頬の赤みは増すばかり。
 そんな風に、ひたすら照れる千明と揶揄う三人を、傾きかけた日が照らしていた。
 放課後の勉強会は、終わりを迎えようとしている。
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