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第一章 レント城塞
第五十一話 上空の屍食鬼
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「竜騎士の体形でないと、高い鞍から膝下が出ない。触手の触る範囲が狭くて、竜に振り落とされる」
テオフィルスの言葉に、僕の足がどの位鞍から出ているのか確認し納得する。
触手はギリギリで僕の足を捕えていた。
「膝下で触手に指示を出す。竜騎士の体型に拘るのが解るだろう?」
頷きながらも、鞍を変えれば良いのではないかとも思うが、何か変えられない理由があるのだろう。
彼は鞍と身体を結ぶ安全帯を二人の腰にある金具に取り付けながら、気掛かりな事を警告した。
「お前はリンクルやエーダ……、マシーナの竜の事だが、あの二頭からは好かれない。イリと同じと思って近づくなよ」
「なぜ?」
微笑みながら、彼は答える。
「お前の母方の血が、レクーマオピオンの流れだからだ。レクーマの竜は領内の人間しか乗せない。他の領地の人間は敵だ。リンクルとエーダは、リンクルクラン領の人間以外は敵と思っている」
敵という言葉が、竜の獰猛さを伺わせた。
それ以上に、彼の言葉が引っかかる。
オリアンナだと気付いているはずなのに、オーリンの設定で注意点を伝えてくる。
本当は母方ではなく、父方の血がレクーマオピオンの流れなのだ。
王太子としての立場を、本気で守ってくれる気なんだ。
安心出来ない相手なのに、少しホッとしている自分に不安を感じる。
気を許しちゃ駄目だ!
「僕が領内の血を引いてなかったら、イリに振り落とされるのか?」
「その時は、俺がイリに乗せるよう命じる。俺は〈七竜の王〉だ、全ての竜は俺に従う」
無表情に僕を見下ろす彼に、どことなく孤独な陰りを感じる。
生まれた時から、彼は〈七竜の王〉として存在していたのだ。
その特別さから、彼に心を許せる存在はいたのだろうか。
セルジン王とは対照的な空気を身に纏い、人々を遠ざけているように見えた。
左手を持ち上げ、彼が叫ぶ。
[リンクル、戻れ!]
巨大な竜の影は、素早く指輪に吸い込まれる。
「耳栓をし、これを被れ。ここから先は、会話は出来ない。鞍の前面の取手に掴まれ」
僕は素早く肩甲にある簡素な耳栓を耳に嵌め、渡された軽い兜を被り、面頬を下ろした。
面頬は半透明で、周りの景色が透けて見える。
そして指示通り、鞍の取手を握る。
テオフィルスが足で竜の触手を叩き、拍車をかけた。
イリは翼を大きく広げ、空に羽ばたき地上から浮き上がる。
「うわっ!」
恐怖に僕は叫びを上げる。
鞍のすぐ後ろに翼があるため、筋肉の動きが直に振動となって伝わってくる。
土煙が巻き上がり強風が上体を浮上げるが、イリの触手と安全帯のお蔭で吹き飛ばされずに済んでいる。
やっぱり、怖い!
テオフィルスが包み込むように両腕を前面に伸ばし、イリの首の一番後ろにある特に長く伸びた二本の棘状鱗の先端を、まるで手綱のように掴かむ。
恐々見下ろすとトキが馬に乗り、全員に第三城壁へ向かうよう指示しているのが見える。
エランは高く飛び立った竜を見上げていた。
「エラン!」
僕の視線に気付いたのか、彼は手で上げ大きく城門の方向を指し、その後すぐに馬に乗りトキの後を追った。
エランが指した城門の方向を見て、心が凍り付く。
第三城壁の内側に燃え上がっていた炎が、高い第二城壁の塔――騎士隊の支部の辺りに飛び火し、勢いよく燃え上がっている。
炎は丈高く、真っ赤な魔物の舌のように暗闇を舐め照らしていた。
その炎の光に浮かび上がる、羽の生えた魔物の影!
「屍食鬼だ! レント領に攻め入って来た!」
テオフィルスも気付き、すぐ竜への指示を変える。
初心者と国王軍に気遣って、緩やかに竜を上昇させていたが、すぐに急上昇させる。
慣れぬ感覚に恐怖で冷や汗が出たが、そんな事を構っている場合では無い。
木々の枝を突き破り、マシーナの竜共々レント領の上空に躍り出る。
澄み渡る月明かりの夜空に、異様な光景が目に飛び込んできた。
王都ブライデインを中心にエステラーン上空に広がる暗黒から、細長い隊列が蛇行しながらレント領に延びている。
暗黒の隊列は細い先端がようやくレント上空に辿り着いたばかりで、後方に行く程その尾は太さを増す。
それら全て屍食鬼なのだ。
あんな数の屍食鬼がレント城塞に押し寄せれば、間違いなく壊滅する。
恐怖と憤りが同時に湧き起る。
「冗談じゃない!」
鞍の取手から右手を離し宝剣を抜こうとした時、その手は後ろから掴まれた。
振り返ると、テオフィルスが首を振っている。
「まだだ!」
掴んだ右手を離し、その手で前方上空を指した。
明るい月光を背景に、何かがこちらに向けて飛んでくる。
屍食鬼と思い身構えた時、イリが不思議な声を上げた。
それに答える叫び声が、その方向から届く。
「竜騎士だ!」
援軍の到着に、嬉しくなった。
五騎の竜騎士が、こちらに全速で駈けつけている。
それぞれが挨拶のように、イリの横をすれすれに飛びかう。
テオフィルスは手を上げ、全ての挨拶に答えた。
そして前方の蛇行する屍食鬼の隊列を指差し、各竜騎士に手で各々の配列を指示し、再び屍食鬼の隊列を強く指差し、攻撃開始の合図を送る。
テオフィルスの言葉に、僕の足がどの位鞍から出ているのか確認し納得する。
触手はギリギリで僕の足を捕えていた。
「膝下で触手に指示を出す。竜騎士の体型に拘るのが解るだろう?」
頷きながらも、鞍を変えれば良いのではないかとも思うが、何か変えられない理由があるのだろう。
彼は鞍と身体を結ぶ安全帯を二人の腰にある金具に取り付けながら、気掛かりな事を警告した。
「お前はリンクルやエーダ……、マシーナの竜の事だが、あの二頭からは好かれない。イリと同じと思って近づくなよ」
「なぜ?」
微笑みながら、彼は答える。
「お前の母方の血が、レクーマオピオンの流れだからだ。レクーマの竜は領内の人間しか乗せない。他の領地の人間は敵だ。リンクルとエーダは、リンクルクラン領の人間以外は敵と思っている」
敵という言葉が、竜の獰猛さを伺わせた。
それ以上に、彼の言葉が引っかかる。
オリアンナだと気付いているはずなのに、オーリンの設定で注意点を伝えてくる。
本当は母方ではなく、父方の血がレクーマオピオンの流れなのだ。
王太子としての立場を、本気で守ってくれる気なんだ。
安心出来ない相手なのに、少しホッとしている自分に不安を感じる。
気を許しちゃ駄目だ!
「僕が領内の血を引いてなかったら、イリに振り落とされるのか?」
「その時は、俺がイリに乗せるよう命じる。俺は〈七竜の王〉だ、全ての竜は俺に従う」
無表情に僕を見下ろす彼に、どことなく孤独な陰りを感じる。
生まれた時から、彼は〈七竜の王〉として存在していたのだ。
その特別さから、彼に心を許せる存在はいたのだろうか。
セルジン王とは対照的な空気を身に纏い、人々を遠ざけているように見えた。
左手を持ち上げ、彼が叫ぶ。
[リンクル、戻れ!]
巨大な竜の影は、素早く指輪に吸い込まれる。
「耳栓をし、これを被れ。ここから先は、会話は出来ない。鞍の前面の取手に掴まれ」
僕は素早く肩甲にある簡素な耳栓を耳に嵌め、渡された軽い兜を被り、面頬を下ろした。
面頬は半透明で、周りの景色が透けて見える。
そして指示通り、鞍の取手を握る。
テオフィルスが足で竜の触手を叩き、拍車をかけた。
イリは翼を大きく広げ、空に羽ばたき地上から浮き上がる。
「うわっ!」
恐怖に僕は叫びを上げる。
鞍のすぐ後ろに翼があるため、筋肉の動きが直に振動となって伝わってくる。
土煙が巻き上がり強風が上体を浮上げるが、イリの触手と安全帯のお蔭で吹き飛ばされずに済んでいる。
やっぱり、怖い!
テオフィルスが包み込むように両腕を前面に伸ばし、イリの首の一番後ろにある特に長く伸びた二本の棘状鱗の先端を、まるで手綱のように掴かむ。
恐々見下ろすとトキが馬に乗り、全員に第三城壁へ向かうよう指示しているのが見える。
エランは高く飛び立った竜を見上げていた。
「エラン!」
僕の視線に気付いたのか、彼は手で上げ大きく城門の方向を指し、その後すぐに馬に乗りトキの後を追った。
エランが指した城門の方向を見て、心が凍り付く。
第三城壁の内側に燃え上がっていた炎が、高い第二城壁の塔――騎士隊の支部の辺りに飛び火し、勢いよく燃え上がっている。
炎は丈高く、真っ赤な魔物の舌のように暗闇を舐め照らしていた。
その炎の光に浮かび上がる、羽の生えた魔物の影!
「屍食鬼だ! レント領に攻め入って来た!」
テオフィルスも気付き、すぐ竜への指示を変える。
初心者と国王軍に気遣って、緩やかに竜を上昇させていたが、すぐに急上昇させる。
慣れぬ感覚に恐怖で冷や汗が出たが、そんな事を構っている場合では無い。
木々の枝を突き破り、マシーナの竜共々レント領の上空に躍り出る。
澄み渡る月明かりの夜空に、異様な光景が目に飛び込んできた。
王都ブライデインを中心にエステラーン上空に広がる暗黒から、細長い隊列が蛇行しながらレント領に延びている。
暗黒の隊列は細い先端がようやくレント上空に辿り着いたばかりで、後方に行く程その尾は太さを増す。
それら全て屍食鬼なのだ。
あんな数の屍食鬼がレント城塞に押し寄せれば、間違いなく壊滅する。
恐怖と憤りが同時に湧き起る。
「冗談じゃない!」
鞍の取手から右手を離し宝剣を抜こうとした時、その手は後ろから掴まれた。
振り返ると、テオフィルスが首を振っている。
「まだだ!」
掴んだ右手を離し、その手で前方上空を指した。
明るい月光を背景に、何かがこちらに向けて飛んでくる。
屍食鬼と思い身構えた時、イリが不思議な声を上げた。
それに答える叫び声が、その方向から届く。
「竜騎士だ!」
援軍の到着に、嬉しくなった。
五騎の竜騎士が、こちらに全速で駈けつけている。
それぞれが挨拶のように、イリの横をすれすれに飛びかう。
テオフィルスは手を上げ、全ての挨拶に答えた。
そして前方の蛇行する屍食鬼の隊列を指差し、各竜騎士に手で各々の配列を指示し、再び屍食鬼の隊列を強く指差し、攻撃開始の合図を送る。
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