53 / 136
第一章 レント城塞
第五十二話 空中戦と地上戦
しおりを挟む
イリを含め合計七騎の竜は、それぞれの方向へ飛び、勢いよく敵に炎を放つ。
乗り手に熱を浴びせないよう、旋回する直前に横向きに炎を吐き、すぐにその場を飛び退く。
「凄いよ、イリ!」
よく訓練された竜イリに、僕は嬉しさを感じる。
燃えながら墜落していく屍食鬼達。
だが敵の数は多く、切りが無い。
敵は一斉に反撃を開始する。
竜はすぐに側を離れ、別の角度から炎を吐く。
しばらくそれを繰り返していると、屍食鬼の隊列が乱れ、切れ切れに各所で固まった状態になった。
それを見届けテオフィルスは、イリを屍食鬼の大群に向けて飛ばす。
僕の右手を掴み持ち上げ、彼が宝剣を抜くように要求する。
目の前に近づく無数の屍食鬼が、竜を覆い呑み込むように迫ってくる。
それぞれの個体から黒い渦が噴き出し、僕は恐怖に身を縮める。
怖い……。
身体にぶつかってくる様子に臆した事を知り、テオフィルスはイリを反転させた。
無理もない、あんな数の屍食鬼を目の前にすれば、大人でも恐怖に震える。
まして、初めて竜に乗ったばかり、まともに乗れている事さえ、奇跡に近い。
せっかく散った魔物の隊列が、好機を逃した事で元に戻ろうとしている。
イリが魔物から遠ざかる。
宝剣を抜かなかった僕が、テオフィルスの目論見を失敗させた事に気付き、顔を引き攣らせながら彼を見る。
意外な事に、彼は笑っていた。
風と耳栓のせいで聞こえないが、何かを言っている。
笑うと物凄く好青年に見え、国王然とした彼より好感が持てる。
……気にするなって事かな?
彼の笑顔に見とれながら、臆していた自分に言い聞かせる。
きっと「落ち着け、ヘタレ小竜!」って言われたぞ。
しっかりするんだ。ヘタレなんて呼ばせないぐらいにしっかり。
屍食鬼の大群に対しての、恐怖心は大きい。
でもレント領を守りたい気持ちは、それ以上に強かった。
宝剣の柄に手を掛け、屍食鬼の押し寄せてくる方向を見た。
あの大群の遥か先の王城に、陛下がいる。
たった一人で全てと戦いながら、僕が来るのを待っている!
そう思った途端、宝剣が薄ら輝き始めた。
テオフィルスはその動きを察知し、邪魔にならないように右手を棘状鱗から離す。
僕は《ソムレキアの宝剣》を抜いた。
突然現れた強烈な光に、屍食鬼は悲鳴を上げた。
黒い渦に包まれた身体を、鋭い光の矢が射抜くように貫く!
屍食鬼は灰塵のように、光の中で影も残らず消失する。
イリの周りにいた屍食鬼は悉く消え去り、離れていた者は醜い悲鳴を上げながら四散した。
僕はあまりの眩しさに目を開ける事が出来ず、右手で宝剣を掲げたまま何を起こしているのか判らなかった。
瞬時に兜の面頬を遮光用の細い隙間のあるものに切り替え、テオフィルスは辛うじてイリに指示を出す事が出来た。
イリは魔物の渦に向けて突進する。
自分の背に強烈な光が出現しても、竜は動じる事が無い。
後退していく魔物を追って、ブライデイン方向に突っ込んでいく。
テオフィルスは感動で鼓動が高まるのを感じた。
今まで屍食鬼と遭遇し戦い死んでいった多くの竜騎士達と、殺されたレクーマオピオンの高官達に見せてやりたいと思った。
笑いながら、誰に聞かせるとなく呟く。
「最高の武器だ! まったく、お前は凄いよ、オリアンナ・ルーネ・フィンゼル」
レント領の城塞都市は城を中心に、背の高い城壁が三重に囲み人々を守る。
第一城門内は領主と高官達の住む政治の中心、第二城門内は城下街、第三城門内は農耕、酪農などの生産拠点だ。
それらを守るのは、分厚い七十基の城門塔と、鐘楼、城の尖塔含め、計九十八基の丈高い塔。
百年前、アルマレーク共和国の竜騎士を迎え撃つための設計だが、現在それらは屍食鬼を迎え撃つため、大いに役立っている。
多くの松明が掲げられる第一城壁内は、避難してきた人々でごった返していた。
それをかき分けながら、王の近衛騎士隊は馬を進める。
第一城門を出た辺りから、エランは異様な光景を目にした。
あれは、半変化?
薄明りの第二城壁内に自警団や武器を取れる者、また消防団、桶で水を運ぶ人々等が走り抜ける中、時々黒い翼を生やした者達がいるのだ。
彼等は空を飛ばず、人々に襲いかかりもしない。
最初は見間違いかと思ったが、トキの一言がそれを現実として認識させた。
「半変化だ! 今のうちに、翼を切り取れ。飛んで凶悪化する前に、殲滅せよ!」
やはり、そうだ。
どれだけの人が、やられたんだ?
騎乗した騎士達は一斉に剣を抜き各々が目標を定め、屍食鬼に変身する者達を切り付け始める。
エランも剣を抜き参戦しようとした時、一人が彼に向って突進してくる。
醜く歪んではいるが、その顔には見覚えがあった。
「ザーリ……?」
ハラルドと一緒に悪さを繰り返していた、同じ学校で学んだ嫌いな男の一人だ。
なぜ半変化になって目の前にいるのか、エランは混乱した。
ザーリは憎しみをむき出しにして、彼の足に掴みかかり襲って来た。
「離せ!」
乗り手に熱を浴びせないよう、旋回する直前に横向きに炎を吐き、すぐにその場を飛び退く。
「凄いよ、イリ!」
よく訓練された竜イリに、僕は嬉しさを感じる。
燃えながら墜落していく屍食鬼達。
だが敵の数は多く、切りが無い。
敵は一斉に反撃を開始する。
竜はすぐに側を離れ、別の角度から炎を吐く。
しばらくそれを繰り返していると、屍食鬼の隊列が乱れ、切れ切れに各所で固まった状態になった。
それを見届けテオフィルスは、イリを屍食鬼の大群に向けて飛ばす。
僕の右手を掴み持ち上げ、彼が宝剣を抜くように要求する。
目の前に近づく無数の屍食鬼が、竜を覆い呑み込むように迫ってくる。
それぞれの個体から黒い渦が噴き出し、僕は恐怖に身を縮める。
怖い……。
身体にぶつかってくる様子に臆した事を知り、テオフィルスはイリを反転させた。
無理もない、あんな数の屍食鬼を目の前にすれば、大人でも恐怖に震える。
まして、初めて竜に乗ったばかり、まともに乗れている事さえ、奇跡に近い。
せっかく散った魔物の隊列が、好機を逃した事で元に戻ろうとしている。
イリが魔物から遠ざかる。
宝剣を抜かなかった僕が、テオフィルスの目論見を失敗させた事に気付き、顔を引き攣らせながら彼を見る。
意外な事に、彼は笑っていた。
風と耳栓のせいで聞こえないが、何かを言っている。
笑うと物凄く好青年に見え、国王然とした彼より好感が持てる。
……気にするなって事かな?
彼の笑顔に見とれながら、臆していた自分に言い聞かせる。
きっと「落ち着け、ヘタレ小竜!」って言われたぞ。
しっかりするんだ。ヘタレなんて呼ばせないぐらいにしっかり。
屍食鬼の大群に対しての、恐怖心は大きい。
でもレント領を守りたい気持ちは、それ以上に強かった。
宝剣の柄に手を掛け、屍食鬼の押し寄せてくる方向を見た。
あの大群の遥か先の王城に、陛下がいる。
たった一人で全てと戦いながら、僕が来るのを待っている!
そう思った途端、宝剣が薄ら輝き始めた。
テオフィルスはその動きを察知し、邪魔にならないように右手を棘状鱗から離す。
僕は《ソムレキアの宝剣》を抜いた。
突然現れた強烈な光に、屍食鬼は悲鳴を上げた。
黒い渦に包まれた身体を、鋭い光の矢が射抜くように貫く!
屍食鬼は灰塵のように、光の中で影も残らず消失する。
イリの周りにいた屍食鬼は悉く消え去り、離れていた者は醜い悲鳴を上げながら四散した。
僕はあまりの眩しさに目を開ける事が出来ず、右手で宝剣を掲げたまま何を起こしているのか判らなかった。
瞬時に兜の面頬を遮光用の細い隙間のあるものに切り替え、テオフィルスは辛うじてイリに指示を出す事が出来た。
イリは魔物の渦に向けて突進する。
自分の背に強烈な光が出現しても、竜は動じる事が無い。
後退していく魔物を追って、ブライデイン方向に突っ込んでいく。
テオフィルスは感動で鼓動が高まるのを感じた。
今まで屍食鬼と遭遇し戦い死んでいった多くの竜騎士達と、殺されたレクーマオピオンの高官達に見せてやりたいと思った。
笑いながら、誰に聞かせるとなく呟く。
「最高の武器だ! まったく、お前は凄いよ、オリアンナ・ルーネ・フィンゼル」
レント領の城塞都市は城を中心に、背の高い城壁が三重に囲み人々を守る。
第一城門内は領主と高官達の住む政治の中心、第二城門内は城下街、第三城門内は農耕、酪農などの生産拠点だ。
それらを守るのは、分厚い七十基の城門塔と、鐘楼、城の尖塔含め、計九十八基の丈高い塔。
百年前、アルマレーク共和国の竜騎士を迎え撃つための設計だが、現在それらは屍食鬼を迎え撃つため、大いに役立っている。
多くの松明が掲げられる第一城壁内は、避難してきた人々でごった返していた。
それをかき分けながら、王の近衛騎士隊は馬を進める。
第一城門を出た辺りから、エランは異様な光景を目にした。
あれは、半変化?
薄明りの第二城壁内に自警団や武器を取れる者、また消防団、桶で水を運ぶ人々等が走り抜ける中、時々黒い翼を生やした者達がいるのだ。
彼等は空を飛ばず、人々に襲いかかりもしない。
最初は見間違いかと思ったが、トキの一言がそれを現実として認識させた。
「半変化だ! 今のうちに、翼を切り取れ。飛んで凶悪化する前に、殲滅せよ!」
やはり、そうだ。
どれだけの人が、やられたんだ?
騎乗した騎士達は一斉に剣を抜き各々が目標を定め、屍食鬼に変身する者達を切り付け始める。
エランも剣を抜き参戦しようとした時、一人が彼に向って突進してくる。
醜く歪んではいるが、その顔には見覚えがあった。
「ザーリ……?」
ハラルドと一緒に悪さを繰り返していた、同じ学校で学んだ嫌いな男の一人だ。
なぜ半変化になって目の前にいるのか、エランは混乱した。
ザーリは憎しみをむき出しにして、彼の足に掴みかかり襲って来た。
「離せ!」
0
あなたにおすすめの小説
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
慈愛と復讐の間
レクフル
ファンタジー
とある国に二人の赤子が生まれた。
一人は慈愛の女神の生まれ変わりとされ、一人は復讐の女神の生まれ変わりとされた。
慈愛の女神の生まれ変わりがこの世に生を得た時、必ず復讐の女神の生まれ変わりは生を得る。この二人は対となっているが、決して相容れるものではない。
これは古より語り継がれている伝承であり、慈愛の女神の加護を得た者は絶大なる力を手にするのだと言う。
だが慈愛の女神の生まれ変わりとして生を亨けた娘が、別の赤子と取り換えられてしまった。
大切に育てられる筈の慈愛の女神の生まれ変わりの娘は、母親から虐げられながらも懸命に生きようとしていた。
そんな中、森で出会った迷い人の王子と娘は、互いにそれと知らずに想い合い、数奇な運命を歩んで行くこととなる。
そして、変わりに育てられた赤子は大切に育てられていたが、その暴虐ぶりは日をまして酷くなっていく。
慈愛に満ちた娘と復讐に駆られた娘に翻弄されながら、王子はあの日出会った想い人を探し続ける。
想い合う二人の運命は絡み合うことができるのか。その存在に気づくことができるのか……
三歩先行くサンタさん ~トレジャーハンターは幼女にごまをする~
杵築しゅん
ファンタジー
戦争で父を亡くしたサンタナリア2歳は、母や兄と一緒に父の家から追い出され、母の実家であるファイト子爵家に身を寄せる。でも、そこも安住の地ではなかった。
3歳の職業選別で【過去】という奇怪な職業を授かったサンタナリアは、失われた超古代高度文明紀に生きた守護霊である魔法使いの能力を受け継ぐ。
家族には内緒で魔法の練習をし、古代遺跡でトレジャーハンターとして活躍することを夢見る。
そして、新たな家門を興し母と兄を養うと決心し奮闘する。
こっそり古代遺跡に潜っては、ピンチになったトレジャーハンターを助けるサンタさん。
身分差も授かった能力の偏見も投げ飛ばし、今日も元気に三歩先を行く。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
拾われ子のスイ
蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】
記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。
幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。
老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。
――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。
スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。
出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。
清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。
これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。
※週2回(木・日)更新。
※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。
※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載)
※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発
ハーフのクロエ
ファンタジー
アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる