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第二章 メイダール大学街
第三話 大学図書館
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「この後は、どちらへ?」
立ち寄った糖菓店を出た後、皆に知らせるようにマールが聞いてくる。
「大学図書館に行きたい。見たい装飾写本があるんだ」
「エアリス姫、もう少し姫君らしい言葉使いをした方が、そのドレスには似合うよ」
エランがわざと偽名を強調して、姫君らしさを要求してくる。
僕は少しムッとしながら、彼を睨みつけた。
「分かっておりますわ、婚約者殿。養父上からセイゲル教授宛に、お手紙を預かっていますの」
僕は舌を噛みそうになりながら、なんとか女言葉で目的を伝えた。
大学図書館管理者であるセイゲル教授に会い、希少本の閲覧の許可をもらえるよう、養父ハルビィンに頼み込んで、手紙を書いてもらった。
セイゲル教授は彼の恩師でもあり、行軍参加で後衛部隊を率いるハルビィンは、簡単に持ち場を離れる事が出来ないため、恩師への挨拶を手紙に認めた。
屍食鬼がレント領を襲撃した恐怖は、あまりにも生々しい。
レント領と近いメイダールの恩師を心配したのだ。
薄く霧が立ち込める中、案内人が目印を見失い完全に道に迷った頃、突然後ろから男の声がした。
「大学図書館に行きたいなら、真直ぐ行った角を左に曲がるとありますよ、殿下」
一同は驚き、近衛騎士は警戒して剣に手を置く。
振り返るとそこには、レント領騎士隊の黄褐色の長衣と防具を身に着けた、二十代半ばの男が訳知り顔で立っていた。
「えっ、ベルン指揮長官?」
「よお、エラン、久しぶりだ。殿下、麗しいお姿、眼福に御座います。お館様に命じられて、このロイ・ベルンが道案内を承ります」
いつの間にか紛れ込んだレント騎士に、誰一人気が付いてなかった事に、マールとトキが眉根を寄せる。
簡単に紛れる事など出来ないはずだ。
エランは大喜びで元主君に近付く。トキと近衛騎士達はまだ警戒を解かず、ベルン長官を注視している。
「皆、彼はレント騎士隊のロイ・ベルン指揮長官だよ。エランの元主君だから、心配ないよ。ベルン長官は、この大学出身? 案内は助かるよ、全員で迷子だから」
「出身ではありませんが、親族がおります。エアリス姫、言葉遣いとお姿が、ちぐはぐで面白いですよ」
にやにや笑うところは、エランそっくりだ。
僕は真っ赤になって、「助かりますわ」と言い直した。
「貴殿は国王陛下の許可を取って我々に紛れたのか? 場合によっては、この場から立ち去ってもらう」
「トキさん! 彼は大丈夫だから」
「国王陛下からは、殿下の護衛役を仰せつかっております」
ベルン長官は一礼した後、腰に提げた鞄から書類を取り出しトキに渡した。
受け取った書類を一瞥し、長官に頷きながらトキは剣から手を離した。
近衛騎士達も、それに倣う。
「彼はレント領主と国王陛下の許可を取って、この任務に加わっている。信頼して良い。親族がいるのでは、この地に詳しかろう、道案内を頼む」
「御意」
僕とエランは喜んで、ベルン長官の横に並んだ。
養父ハルビィンの配慮に嬉しくなる。
大学図書館は複雑な道の向こうにある。
丈の高い塔が付いた建物の二階部分までが、大学生に解放されているとベルン長官が教えてくれた。
マールが懐かしむように、霧に覆われた塔を見上げている。
「私も馬車で来て荷を運んだだけですから、道までは覚えていませんでした。しっかり保管されっていると良いのですが」
僕達はその古い図書館の敷地に、足を踏み入れた。
入り口に守衛が立っている、この街の自警団の服装だ。
大勢の護衛と侍女は、外で待機する事になった。
扉を開けて中に入った途端、独特の匂いが鼻に付く。
養父の書斎に入った時と、同じ本の匂いだ。
縦長の鉄格子がはまった窓がいくつもあり、多くの書架が書見台と合わせて並んでいる。
貴重な本は、どれも鎖で書架につながれている。
それを読む学生達、身形の良い年配の男達、本を管理している司書達が、静かにその場にいた。
学生達は本を読みながら、何かを書き写している。
僕は小声でエランに聞いた。
「あの書いている板は何?」
「蝋版だよ。君は使ってないの?」
「紙だよ」
「……」
「さすが《王族》」と言いたそうな視線を無視して、疑問をぶつける。
「蝋か。消えるだろ? 残すには何枚もいるし……」
「残さないよ。書きながら暗記して消すんだ。次に覚える事を、書くからね」
僕は目を見開いてエランを見た。
彼が賢いのは蝋版を使っているからだと思える。
今度、家庭教師が何と言おうと、僕も蝋版を使う!
妙な対抗意識を覚えながら、どう見ても場違いな自分の服装に、落ち着かなくなった。
ベルン長官が「静かに」と、口に指を当てる。
彼は近くにいた司書に何かを小声で話し、司書は奥の扉を指して国王軍の目立つ一団を案内した。
扉の先は塔と直結していて急に天井が高くなり、円形の壁一面が本で埋められている。
やはり縦長の大窓がいくつもあり、塔内は明るい。
窓の鉄格子は、どことなく本の牢獄を思わせた。
本の修復をしている者、背の高い書架に梯子が掛けられ、その上で大量に重そうな本を持っている男もいた。
落ちたら死にそうな高さだ。
迷う事無く長官は、塔の二階への階段を上る。
同じように本に埋もれた場所を想像していたのに、普通に部屋の扉があるだけだ。
三階へ続く階段は見当たらない。
ベルン長官は変なリズムで、部屋の扉をノックする。
「入りたまえ」
中から不機嫌そうな男のぶっきらぼうな声が聞こえ、近衛騎士隊長トキ・メリマンの指示で護衛達は部屋の外で待つ事になり、五人だけで中に入る。
五十代ぐらいの男が、一枚の書類を手に机の周りをグルグル回っていた。
「レパート君、至急カテナ写本工房にいる小遣い稼ぎの学生達を、引き揚げさせたまえ。また値上げ要求だよ、毎回足元を見おって! 別の工房に変えてやる」
「今、羊皮紙は需要が少なくなって値上がりしているから、どこに頼んでも同じですよ」
「そんな事は、解っておるわい! ああ、腹が立つ。薄っぺらな紙なんかに写本したら、本が泣くわ。誰だ、紙なんて作った奴は」
「時代の流れです。今は紙がいくぶん値下がりしていますから。レント領でも製紙場が出来そうですよ」
「……レパート君じゃない?」
セイゲル教授は変わった形の鼻眼鏡を下げながら、声の主を確認した。
あまり視力が良くないようだ。
「なんだ、ロイじゃないか! 久しぶりだな、お母さんは元気か?」
「はい、元気です。お祖父さんも、元気そうで何より」
「ベルン長官の親族って、セイゲル教授?」
長官はにやにや笑いながら頷いた。
領主が彼を指名した理由がよく解った。
「ところでお祖父さんにお客様ですよ、エアリス様、《王族》の姫君です」
教授は目を丸くして、僕を見る。
最敬礼をしようとして膝を折ったが、顔をしかめた様子から膝が悪い事と判り、僕は慌てて彼の腕を取った。
「無理しないで……下さい。私は《王族》として育っていませんから、最敬礼されても困るんです」
舌を噛みそうになりながら、何とか女言葉を通す。
教授は膝を折らずに済んだ事に感謝を述べた。
「突然の来訪で驚かれた事でしょう。これはレント領主ハルビィン殿からのお手紙です。私にはどうしても探したい物が、この図書館にあるのです。もし、許可をいただけるなら」
そう言って、マールを見た。
彼は頷き、手紙を受け取ったばかりのセイゲル教授に礼を取る。
トキは部屋の隅で、周囲の様子を窺っている。
「私はマール・サイレスと申します。国王陛下の薬師を務めております。お見知りおきを」
マールは教授に一礼した後、ベルン長官に向き直り、厳しい顔付きで告げた。
「レント騎士殿、ここまでの案内を感謝します。ここから先は極秘事項故、あなたも外へ出てもらえますか?」
「はい、構いませんよ。じゃあ、お祖父さん、後で家に行くよ」
「あ、ああ、後で」
教授は緊張した面持ちで、ベルン長官を見送った。
マールは何時になく厳しい表情を崩さない。
「失礼ですが、十六年前、セイゲル教授はこの図書館の担当教授でしたか?」
「十六年前? ブライデインの陥落前か。いや、私はその頃ディスカール公爵家の長男の家庭教師をしていたな。此処へ来たのは、ブライデイン陥落後だ」
「……では、その当時の担当教授をご存じですか?」
「そりゃ、学長だろう。ケイディス様から、ここを引き継いだから」
僕とマールは顔を見合わせた。
小柄な学長の姿が、怪しげなイメージで心に浮かぶ。
「では、ブライデインの王立図書館の避難書物類の中に、この位の大きさの綺麗な浮彫を施した、鍵付の書箱はご存じありませんか? 浮彫は確か、二つの白亜の塔が描かれています」
マールは肩の位置程に両手を広げ説明をする。
教授の表情は見る見る険しく、警戒するように彼を睨みつける。
「……薬師殿、《王族》に関する物は極秘とご存じなら、国王陛下の許可は取得済みですかな? 許可証が無ければ、あれに触れる事も叶いません!」
「……私の許可じゃダメ? 一応なんですけど」
僕が明るく聞いてみたが、教授は首を横に振るだけだ。
「姫君、失礼ですがこれはお預かりした時の決まり事です。いくら《王族》でも、通用しません」
突然扉が開き、声がした。
「開閉を許可しよう。何が収められているか、私も興味がある」
「国王陛下!」
セルジン王が近衛騎士隊を引き連れ、全てを見透かすように立っていた。
僕達は凍り付いたように動けなくなり、トキは額に手を当てる。
陛下に絶対内緒でというマールの計画は、最初の段階で崩されたのだ。
「エアリス姫、このような場所でデートか? 言ったはずだ、デート以外でそなたが行動する時は私も付き合うと。薬師マール、何を計画している?」
王の緑の瞳が、楽しそうに笑う。
後を付けられていた事に、僕達はまったく気付いていなかったのだ。
僕は庇うように、マールの前に立つ。
「陛下を生きてお救いする方法を、探す計画です!」
セルジン王の顔から、楽しさが消えた。
立ち寄った糖菓店を出た後、皆に知らせるようにマールが聞いてくる。
「大学図書館に行きたい。見たい装飾写本があるんだ」
「エアリス姫、もう少し姫君らしい言葉使いをした方が、そのドレスには似合うよ」
エランがわざと偽名を強調して、姫君らしさを要求してくる。
僕は少しムッとしながら、彼を睨みつけた。
「分かっておりますわ、婚約者殿。養父上からセイゲル教授宛に、お手紙を預かっていますの」
僕は舌を噛みそうになりながら、なんとか女言葉で目的を伝えた。
大学図書館管理者であるセイゲル教授に会い、希少本の閲覧の許可をもらえるよう、養父ハルビィンに頼み込んで、手紙を書いてもらった。
セイゲル教授は彼の恩師でもあり、行軍参加で後衛部隊を率いるハルビィンは、簡単に持ち場を離れる事が出来ないため、恩師への挨拶を手紙に認めた。
屍食鬼がレント領を襲撃した恐怖は、あまりにも生々しい。
レント領と近いメイダールの恩師を心配したのだ。
薄く霧が立ち込める中、案内人が目印を見失い完全に道に迷った頃、突然後ろから男の声がした。
「大学図書館に行きたいなら、真直ぐ行った角を左に曲がるとありますよ、殿下」
一同は驚き、近衛騎士は警戒して剣に手を置く。
振り返るとそこには、レント領騎士隊の黄褐色の長衣と防具を身に着けた、二十代半ばの男が訳知り顔で立っていた。
「えっ、ベルン指揮長官?」
「よお、エラン、久しぶりだ。殿下、麗しいお姿、眼福に御座います。お館様に命じられて、このロイ・ベルンが道案内を承ります」
いつの間にか紛れ込んだレント騎士に、誰一人気が付いてなかった事に、マールとトキが眉根を寄せる。
簡単に紛れる事など出来ないはずだ。
エランは大喜びで元主君に近付く。トキと近衛騎士達はまだ警戒を解かず、ベルン長官を注視している。
「皆、彼はレント騎士隊のロイ・ベルン指揮長官だよ。エランの元主君だから、心配ないよ。ベルン長官は、この大学出身? 案内は助かるよ、全員で迷子だから」
「出身ではありませんが、親族がおります。エアリス姫、言葉遣いとお姿が、ちぐはぐで面白いですよ」
にやにや笑うところは、エランそっくりだ。
僕は真っ赤になって、「助かりますわ」と言い直した。
「貴殿は国王陛下の許可を取って我々に紛れたのか? 場合によっては、この場から立ち去ってもらう」
「トキさん! 彼は大丈夫だから」
「国王陛下からは、殿下の護衛役を仰せつかっております」
ベルン長官は一礼した後、腰に提げた鞄から書類を取り出しトキに渡した。
受け取った書類を一瞥し、長官に頷きながらトキは剣から手を離した。
近衛騎士達も、それに倣う。
「彼はレント領主と国王陛下の許可を取って、この任務に加わっている。信頼して良い。親族がいるのでは、この地に詳しかろう、道案内を頼む」
「御意」
僕とエランは喜んで、ベルン長官の横に並んだ。
養父ハルビィンの配慮に嬉しくなる。
大学図書館は複雑な道の向こうにある。
丈の高い塔が付いた建物の二階部分までが、大学生に解放されているとベルン長官が教えてくれた。
マールが懐かしむように、霧に覆われた塔を見上げている。
「私も馬車で来て荷を運んだだけですから、道までは覚えていませんでした。しっかり保管されっていると良いのですが」
僕達はその古い図書館の敷地に、足を踏み入れた。
入り口に守衛が立っている、この街の自警団の服装だ。
大勢の護衛と侍女は、外で待機する事になった。
扉を開けて中に入った途端、独特の匂いが鼻に付く。
養父の書斎に入った時と、同じ本の匂いだ。
縦長の鉄格子がはまった窓がいくつもあり、多くの書架が書見台と合わせて並んでいる。
貴重な本は、どれも鎖で書架につながれている。
それを読む学生達、身形の良い年配の男達、本を管理している司書達が、静かにその場にいた。
学生達は本を読みながら、何かを書き写している。
僕は小声でエランに聞いた。
「あの書いている板は何?」
「蝋版だよ。君は使ってないの?」
「紙だよ」
「……」
「さすが《王族》」と言いたそうな視線を無視して、疑問をぶつける。
「蝋か。消えるだろ? 残すには何枚もいるし……」
「残さないよ。書きながら暗記して消すんだ。次に覚える事を、書くからね」
僕は目を見開いてエランを見た。
彼が賢いのは蝋版を使っているからだと思える。
今度、家庭教師が何と言おうと、僕も蝋版を使う!
妙な対抗意識を覚えながら、どう見ても場違いな自分の服装に、落ち着かなくなった。
ベルン長官が「静かに」と、口に指を当てる。
彼は近くにいた司書に何かを小声で話し、司書は奥の扉を指して国王軍の目立つ一団を案内した。
扉の先は塔と直結していて急に天井が高くなり、円形の壁一面が本で埋められている。
やはり縦長の大窓がいくつもあり、塔内は明るい。
窓の鉄格子は、どことなく本の牢獄を思わせた。
本の修復をしている者、背の高い書架に梯子が掛けられ、その上で大量に重そうな本を持っている男もいた。
落ちたら死にそうな高さだ。
迷う事無く長官は、塔の二階への階段を上る。
同じように本に埋もれた場所を想像していたのに、普通に部屋の扉があるだけだ。
三階へ続く階段は見当たらない。
ベルン長官は変なリズムで、部屋の扉をノックする。
「入りたまえ」
中から不機嫌そうな男のぶっきらぼうな声が聞こえ、近衛騎士隊長トキ・メリマンの指示で護衛達は部屋の外で待つ事になり、五人だけで中に入る。
五十代ぐらいの男が、一枚の書類を手に机の周りをグルグル回っていた。
「レパート君、至急カテナ写本工房にいる小遣い稼ぎの学生達を、引き揚げさせたまえ。また値上げ要求だよ、毎回足元を見おって! 別の工房に変えてやる」
「今、羊皮紙は需要が少なくなって値上がりしているから、どこに頼んでも同じですよ」
「そんな事は、解っておるわい! ああ、腹が立つ。薄っぺらな紙なんかに写本したら、本が泣くわ。誰だ、紙なんて作った奴は」
「時代の流れです。今は紙がいくぶん値下がりしていますから。レント領でも製紙場が出来そうですよ」
「……レパート君じゃない?」
セイゲル教授は変わった形の鼻眼鏡を下げながら、声の主を確認した。
あまり視力が良くないようだ。
「なんだ、ロイじゃないか! 久しぶりだな、お母さんは元気か?」
「はい、元気です。お祖父さんも、元気そうで何より」
「ベルン長官の親族って、セイゲル教授?」
長官はにやにや笑いながら頷いた。
領主が彼を指名した理由がよく解った。
「ところでお祖父さんにお客様ですよ、エアリス様、《王族》の姫君です」
教授は目を丸くして、僕を見る。
最敬礼をしようとして膝を折ったが、顔をしかめた様子から膝が悪い事と判り、僕は慌てて彼の腕を取った。
「無理しないで……下さい。私は《王族》として育っていませんから、最敬礼されても困るんです」
舌を噛みそうになりながら、何とか女言葉を通す。
教授は膝を折らずに済んだ事に感謝を述べた。
「突然の来訪で驚かれた事でしょう。これはレント領主ハルビィン殿からのお手紙です。私にはどうしても探したい物が、この図書館にあるのです。もし、許可をいただけるなら」
そう言って、マールを見た。
彼は頷き、手紙を受け取ったばかりのセイゲル教授に礼を取る。
トキは部屋の隅で、周囲の様子を窺っている。
「私はマール・サイレスと申します。国王陛下の薬師を務めております。お見知りおきを」
マールは教授に一礼した後、ベルン長官に向き直り、厳しい顔付きで告げた。
「レント騎士殿、ここまでの案内を感謝します。ここから先は極秘事項故、あなたも外へ出てもらえますか?」
「はい、構いませんよ。じゃあ、お祖父さん、後で家に行くよ」
「あ、ああ、後で」
教授は緊張した面持ちで、ベルン長官を見送った。
マールは何時になく厳しい表情を崩さない。
「失礼ですが、十六年前、セイゲル教授はこの図書館の担当教授でしたか?」
「十六年前? ブライデインの陥落前か。いや、私はその頃ディスカール公爵家の長男の家庭教師をしていたな。此処へ来たのは、ブライデイン陥落後だ」
「……では、その当時の担当教授をご存じですか?」
「そりゃ、学長だろう。ケイディス様から、ここを引き継いだから」
僕とマールは顔を見合わせた。
小柄な学長の姿が、怪しげなイメージで心に浮かぶ。
「では、ブライデインの王立図書館の避難書物類の中に、この位の大きさの綺麗な浮彫を施した、鍵付の書箱はご存じありませんか? 浮彫は確か、二つの白亜の塔が描かれています」
マールは肩の位置程に両手を広げ説明をする。
教授の表情は見る見る険しく、警戒するように彼を睨みつける。
「……薬師殿、《王族》に関する物は極秘とご存じなら、国王陛下の許可は取得済みですかな? 許可証が無ければ、あれに触れる事も叶いません!」
「……私の許可じゃダメ? 一応なんですけど」
僕が明るく聞いてみたが、教授は首を横に振るだけだ。
「姫君、失礼ですがこれはお預かりした時の決まり事です。いくら《王族》でも、通用しません」
突然扉が開き、声がした。
「開閉を許可しよう。何が収められているか、私も興味がある」
「国王陛下!」
セルジン王が近衛騎士隊を引き連れ、全てを見透かすように立っていた。
僕達は凍り付いたように動けなくなり、トキは額に手を当てる。
陛下に絶対内緒でというマールの計画は、最初の段階で崩されたのだ。
「エアリス姫、このような場所でデートか? 言ったはずだ、デート以外でそなたが行動する時は私も付き合うと。薬師マール、何を計画している?」
王の緑の瞳が、楽しそうに笑う。
後を付けられていた事に、僕達はまったく気付いていなかったのだ。
僕は庇うように、マールの前に立つ。
「陛下を生きてお救いする方法を、探す計画です!」
セルジン王の顔から、楽しさが消えた。
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