しあわせのあしどり

伊澄(ism)

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高橋理人はあろう事かそのままおれを横抱きにすると軽々立ち上がった。
どうやら1階の保健室に向かうつもりらしい。

「やめろ。やめろって!ほかの先生方に見られたら、どうす……」

「喋らないで。」

おれはその一言で抵抗できなくなってしまった。
彼は気づいていないのだろうけれど、きっと俺と高橋理人はとても相性がいいのだろう。
第二の性はトップシークレット扱いなので生徒とはいえ知らないが、高橋理人は間違いなくDomだ。それも優性のDom。そう理解した。

保健室に入ると保健医の石崎先生がビックリしてぱたぱたと駆け寄ってきた。
それはそうだろう。
生徒が教師を抱いて持ってきたのだから。

「大したことないんです、ちょっと目が回って……。」

「大したことなくない!顔色、見てくださいよ。こんな白いの俺のノートみたいだ!」

それは威張る所じゃないぞ高橋理人……。
石崎先生がとりあえずベッドへ、とカーテンを開けてくれた。
石崎しづ子先生。
この学校の頼れる保健医だ。
そして唯一おれの自傷癖のことを知っている人。

熱はなさそう、とか、石崎先生が色々と俺の脈を測ったりしてから「疲労かな。」と、一言言った。

「さぁ、高橋くん、だっけ?は、授業に戻って~あとはしづ子先生にお任せあれだよ~」

しづ子先生のこういう茶目っ気のあるところが、好きだなぁ……。
ベッドで横になりながらきいていた。

「でも」とか「まだ」とか言いながらも保健室から追い出された高橋理人。

「さぁて、左腕見せてご覧?」

布団の隙間からそっと、腕を出す。
優しくサポーターを外される。
固まった血液がぺりぺりと少し剥がれる感覚があった。

「痛かったねぇ、つらかったね。」

いい大人が、こんなこと言われて……、情けなくて、みっともなくて、涙が止まらなかった。
恥ずかしいから布団を顔の上まで引っ張りあげた。
しづ子先生はあとは淡々と消毒、軟膏を塗り、包帯を巻いてからサポーターをはめ直してくれた。

「きみにも、良いひとが出来ればいいんだけれどね。」

「しづ子先生がいいです。」

照れ隠しにふざけて言ってみる。

「あはは!ざんねん、わたしゃ、既婚者だ!」

知ってるし。
でも心の底から残念だと思った。

「ところで、最近はどうしているの?」

Subの本能的な欲求解消のことだとわかった。
このことを知っているのも、しづ子先生だけ。

「薬を飲んで……。」

「薬は吐くんじゃなかった?」

沈黙。
ウリをやってることだけは知られたくなかった。
しづ子先生にも。誰にも。
これ以上、惨めな人間だって認識されたくなかった。

「少し寝なさい。」

しづ子先生はそっとカーテンを閉じた。
授業をほっぽり出して寝ている訳にはいかない、と思ったのに、身体が動かなかった。
そのまま久しぶりに、薬なしで眠った。
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