しあわせのあしどり

伊澄(ism)

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プリントを作らなくてはならないと謂う主張により、粥を食べた後、帰宅が許された。
先輩は「もう一晩くらいゆっくり休んだ方がいい。」と最後まで反対そうだったが、おれが言い出したら聞かないのを知っているので渋々了承してくれた。
家まで電車で一駅、正直元気なら歩けない距離じゃなかったが先輩が車を出してくれた。
ぴかぴかに光るいかにも洗車したてと言った感じのベンツのセダン。
なんかムカつく。カーポートに擦らないかな。

「わー!ベンツじゃん!すげー。」

素直ないい子だ高橋理人。おれみたいにひねくれるなよ。

「親父のお下がりだから特に俺がすごいわけじゃない。」

後部座席に乗り込む。かがみこんだ時少しよろけたが高橋理人が腕を持って支えてくれた。ジェントルマンかよ……。
車はおれたちを乗せ、スムーズに発進した。まず駅前で高橋理人を降ろす予定だったのだが直前になって「やっぱり先生の家まで一緒に行きます。」と、言い、きかなくなったので、仕方なく家まで一緒に行くことになった。

「うち来て何する気だよ。」

「いまの状態の先生をひとりにできないじゃん。」

いやいや、大人なのでちょっと体調悪いくらい何とかしますけど。と思ったが、微妙に目眩が残る頭のせいか、流されることに慣れてきているのか、拒否しきれなかった。
空木先輩は何度か訪問したことのある我が家の位置を的確に覚えており、アパートの前まで最短ルートで送り届けてくれた。
別れ際、車のウィンドウを下げて空木先輩が高橋理人を呼び止めた。

「理人、なんかあったらクリニックじゃなくてさっき教えた携帯の方に掛けろ。」

「はい!ありがとう、空木さん!」

いつの間にか仲良くなってる……。
やだな、先輩と高橋理人が仲良くなるの。なんかすごく厄介な組み合わせな気がする。嫉妬とかじゃなく、純粋に、イヤだ。
そんなこと考えながら、去りゆくベンツの後ろ姿を見送った。

高橋理人が持ってきてくれたカバンから鍵を取りだし鍵を開けドアを開ける。
靴を脱ぎ部屋に入る。
疲れた。
ほんの3日程度の留守だったが、何ヶ月も帰っていないような気がした。

「よっと、おじゃましまーす。」

「どうぞ。」

「悪いけど、またベッドに掛けててくれる?うち椅子一脚しかないんだ。」

その一脚に座ってこれからプリントを作るので。お客さん応対してるひまはない。
机の上にパソコンを置き、早速立ち上げる。

「ああ、いいよいいよ、先生俺のことは気にしないで。これから夕飯の買い物行ってくるし。」

夕飯の、買い物?

「いらない。さっきお粥食べたから。」

「あのねぇ、先生は栄養が足りてないの!タラバガニみたいになっちゃうよ?」

微妙に高級そうな例えをありがとう。
食ったことないわ。

「うそ、冷蔵庫、薬しか入ってないじゃん……!」

薬は暗所に保管て書いてあるからな。
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