しあわせのあしどり

伊澄(ism)

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「先生、お風呂湧いたよ?」

「うん……。」

眠ってしまったみたいだ。こんな中途半端に寝たら、夜眠れないのに。でも、とても気持ち良い眠りだった気がする。

「起きれる?」

「起きられるよ。」

この家のいい所は風呂がユニットタイプじゃなく、ちゃんとトイレと風呂で別れているところだ。そこだけは、部屋選びの時贅沢をした。
脱衣所に向かい、服を脱ぐ。
たしかに貧相な身体付きだ。でもふくよかになったことがないから、ふっくらした自分を想像できない。このまま、高橋理人の飯で毎日満腹になっていたらぷくぷく太るのかな……。
……っちょっと待て。高橋理人が毎日いること前提で考えてる、おれやばくないか?
今まで一人でやってきたのに、一気に何もかもが崩れてきている。
バスタブのお湯に浸かる、熱くもなくぬるくもない、ちょうどいい湯加減。
きもちいい。

「ふぅ……、きもち良い……。」

思わず声が出る。

しっかりしなきゃ。
高校生なんて移り気な生き物なんだから。
おれのことだって、マイブームみたいなものだろう。期待したら、駄目だ。
今までどおり一人で生きていく、何も変わらない。

頭と体を洗って、もう一度湯船に浸かって温まって、風呂を出る。
少しののぼせていた頭の中がスッキリした気がした。
優しくされたり、慣れないことが多すぎて少し調子を狂わされていた。

「しっかりしなきゃ。」

パジャマ代わりのスウェットを着た。

「上がったぞ~?」

あらまあ。
ねてやんの。しかもベッドで座ったまま横に倒れた状態で寝ていた。

「どうしよう……。明日学校だから起こさないわけにはいかないよな。」

でもまだ時間は19時前、少しくらいねむらせても……良いかな。きっと今日も朝早くから看病してくれてたんだろうし。
アイスクリームを食べながらベッドの空いたスペースに座る。ねむる高橋理人を見下ろし、じっと見つめてみた。

「手、大きいな……。」

こいつが起こしてくれなかったら今でもずっと眠ってたのかな。
あの何も無い暗いところで。
がんばらせちゃったな。おれみたいなののために、がんばってくれたんだな。
やだなぁ。期待しちゃうじゃん。もっとずっと優しくしてもらえるかもなんて、期待しちゃうじゃん。
さっき、一人で生きてくって決意をあらたにしたのに、もう揺らいでる。
自分の優柔不断さに、吐きそうだ。
勝手に期待して、勝手に傷ついて、そんな馬鹿みたいなことはしたくない。表面張力で保ってる心が、溢れちゃうから。
手の中でアイスがとけそうだった。
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